サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.10.09
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 いわば虚構性にしがみついて、軍幹部が自己完結しようとしたとき、それに対する現場からの事実的な指摘は、すべて大言壮語によって封殺される。常套句は「気魄(きはく、はげしい気力。強い精神力)が足りん!それでも日本軍人か!」という辻政信参謀に代表されるような罵倒であり、虚構性が露わになればなるほど、こうした蛮声の大きい方が組織を牛耳る、という構図になります。
 辻政信個人あるいは辻政信的なる人物像について、わが日本ではいまだにキチンとした評価というか、精算が済んでいないのではないか?戦争犯罪人の疑いを逃れつつ、敗戦後はベストセラー作家で復活し国政選挙にも当選して、六十年ごろラオスで失踪するまで、さまざま日本という国に介在したこの人物、毀誉褒貶の激しい一種の怪物なのです。この人物の評伝はめぼしいところで杉森久英さんの「参謀・辻政信」という本があるのですが、まだ読んでいません。

 良くも悪くも、いわばいちばん日本人的なるものの底に潜む心の裸面を、露わにさせて引きずり出す。軍人としての彼の評価を敗戦後の日本がまともに誰もせず、むしろ彼のアジテーションに乗っかった数多くの有権者がいた(当選衆議院四期、参議院一期)という事実は、辻政信的なる人物に対する日本人の親和性を紛れもなく示しているわけです。
 こうした人物の評価をしようとすれば、評価する側の心の裸面も露わにせざるを得ず、それがもっぱら旧陸軍参謀というネガのイメージである場合、なまなかのライターでは無傷では済まないでしょう。自身の内部に潜む日本人的なる心の正体を見据えないことには、こういう怪物というのは手に余るのです。同じ陸軍参謀部の旧軍人たちや歴史の専門家たちからはボロクソの評価を受けながら、敗戦後日本の国民や同じ戦地で戦った兵士たちには受けが好い。というのも彼の立ち位置は常に兵士(=大衆)からの目線で、上にものを言う、盾を突くというスタイルだったので、生まれついての扇動家だったと言うべきでしょう。

 今でもこの強面と甘えた表情を使い分けて、人目を惹きつけ人心を収攬しようとする政治家その他(たとえばヤクザ)は枚挙に暇ありません。我々日本人の心に潜む、いちばん弱い部分を捉むポイントを、こういう人たちは本能的に知っているのです。で、それを評価する側は、自分がそのように他人の弱味にズケズケ入り込み、同時に我が身の弱味も曝して見せて、相手の心を性根から掴み取って離さない、というような芸当など出来っこないということを思い知るわけで、どうしても腰が引けた感じになる。
 日頃、テレビコメンテイターでずいぶん威勢の好い政治批判を行っていながら、いざ批判している当の本人を相手にしたとたん、借りてきたネコのように牙を抜かれたような顔をしている評論家というのは結構多い。面罵するくらいのそれこそ「気魄!?」がなければ、日頃さかんに視聴者に向けては行っている難詰など出来っこないのに、日本人というのは一般的にそれをようしないのです。政治家とか世のリーダー(親分?)というのは、そうした人心収攬の術では評論家の敵ではないので、勝負は実は話が始まる前からついている。
 ところで、この辻という参謀は上官に対して面罵を平然とやってのける人だったようで、だからこそ近衆の兵士たちには人気があったのでしょう。

 それが奈辺のものから来るのか?というのは簡単ではありませんが、一種の「幼児性という擬態(これを「可愛気」とも言います)」に対して日本人というのは弱いのではないか?「泣く子と地頭には勝てぬ」と言うように、光源氏や豊臣秀吉や、いわば「人誑(たら)し」の術に長けた人物というのは、外縁の人々に対しては「強面」のイメージを与えて威服させる反面、近衆の部下や女たちには「児戯めいた」痴態を演じてみせて、相手の気持を掴んで離さない。今どきの優秀といわれるリーダーにも、時々そういう人がいるようですね。

― つづく ―





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Last updated  2010.10.09 16:46:43
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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