サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.10.12
XML
 さて近代以降の戦争というものを考えるとき、内田樹さんの言われるように「国民国家」という概念を規定しないと、戦争の主体とか構造というのは語れない(「ためらいの倫理学」 ― 戦争論の構造 角川文庫)。かつての戦(いくさ)の位置づけというのが、例えば日本の戦国時代だの、絶対王政の西欧だのでも、権力者の政治目的達成のための一つの手段であったのが、近代以降の国民国家の発生にともなって、変質ないし変容を遂げたのではないか、というのがその論議であったと思うのです。
 国民国家の発生というのが、自ずから「国民軍」の創設というものを促したとき、戦争の形態は軍隊同士の戦いから、国民同士の総力戦を想定するものになったのでした。このとき戦争の概念には、相手方の国家体制を完全に打ち砕く(無条件降伏)まで戦いは終結しない、という基本的な考えかたが現れてきたのです。

 国民軍というのは、国家人民によって付託された軍隊である以上、兵士は徴兵によって国中からいわば無尽蔵に集めることができ、兵器もまた国家財政が負担できる限りにおいて、いくらでも集めてきて戦場に蕩尽することが出来る。それは同時に相手国の経済体制や生産設備を叩くという、いわゆる戦略爆撃のような戦いかたも戦争の手段として登場させ、それまでの戦線(battle line)とか戦場(battle field)という範疇をはるかに跳び超えて、相手方の市民や生産設備を直接破壊する意味合いを内包するものでした。近代以降の二度にわたる世界戦争というのは、この「総力戦」の概念の意味するところが、現実となって現れたものに他なりません。
 そういう意味でもフランス革命以後のナポレオンによる国民軍の創生というのは、近代国家を考える意味でとても重要なのですが、諸国民の解放(国民国家意識の宣撫)を謳ったフランス国民軍の士気の高さは、敵方として戦ったクラウゼヴィッツには新鮮なものとして映ったでしょう。

 しかしよく考えてみると、明治以降の日本の軍隊というものを考えた場合、上のような意味での「国民軍」という概念は、今に到るもまったく日本人には意識されたことがないのではないか(自衛隊が国防軍とは、今どきの日本人には、ここから先も規定されてないように)、ということなのです。で、それはどうやら近代日本における「国民国家」という概念が、どうも先ほどのフランスとかアメリカ合衆国とかプロシャなどとは、根本的に相反しているのではないか、という疑問に戻ってくる。
 明治国家というのが、旧体制を転覆させた一種の革命政権であったことは紛れもないとしても、当時の日本国民すべてを巻き込んでなし得た新体制であるとは、少なくとも西欧諸国群との比較においては、とても言えないでしょう。それはむしろ当時の施政者階級の権力争いという色合いが強かったので、大多数の国民はいわば蚊帳の外から、この施政者同士の内紛劇を手をつかねて、あるいは多少面白がって見物していただけというのが、正確なところだったのではないか?

 いわゆる「お上意識」というのは、体制が変ればあっという間に払拭されるということはあり得ないので、徳川三百年の間に培われた被支配者としてのマインドというのは、藩のお殿様が新政府から派遣された県知事に代わっただけで、お上に仕えるという意識においては(敬して出来るだけ波風立たないように遠ざけておく、という意味では)、たいして変わっていなかったのではないか、と思うのです(たぶん、今でも)。
 お上の無為無策に対しての異議申し立てということにかんしては、江戸時代も明治期も農民=国民の大多数は一揆とか米騒動という形でしか、上訴という発想の仕方はなかったわけで、それはあくまでお上に(命を懸けて)願い出るということではあっても、もちろん彼らは自分たち自身が国を統治する、というような考えかたはここから先もなかったのです。

 明治政府というのが国民国家であるというよりは、本質的には支配者階級=武士レベルでの多少ラディカルな政権交代劇であったということは、もう一度銘記しておく必要があるでしょう。

― つづく ―





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2010.10.12 14:44:46
コメント(0) | コメントを書く
[政治、経済、社会、歴史] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Calendar

Archives

2026.05
2026.04
2026.03
2026.02
2026.01

Profile

TNサリエリ

TNサリエリ

Comments

TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

Favorite Blog

まだ登録されていません

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: