サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2010.10.23
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 このあたりここ最近、例の「龍馬伝」その他、明治維新前後のドラマが描かれる時に、まるでそれが日本の国民国家の形成を語るような捉えかたがなされるのに、多少の反発を込めて書いています。

 あえて言うなら、これは実は司馬さんの「坂の上の雲」においてさえ、克服されてない問題だと私は思っているのです。司馬遼太郎という作家は、不思議なくらい物事をポジに描くことに秀でた人で、数多い作品の中でもネガな人物像というのはほとんどない、というか、そういう人物を扱った場合、例えば乃木将軍の「殉死」のように、あまり成功しているとはいえない。
 そしてそのほとんどの全貌を調べ上げたとされる「ノモンハン事件」は、とうとう作品化されませんでした。生前「これを書いたら、気が狂ってしまう」と述懐されていたそうですが、それはそうだろうと思いますよ。「ノモンハン」には、秋山とか龍馬とかいったポジなヒーローは誰一人いないのですから。もしこれを書こうとすれば、間違いなく司馬の名前ではなく、別名で(あるいは本名で)書かれることになったでしょう。

 しかしだからといって、司馬の小説は人間の内面の掘り下げが浅い、といったような批判は当たりません。日本の作家でこれほど人間のポジティヴな多様性を、リアルに表現した人はいないのです。たしか街道シリーズの「オランダ紀行」だったと思うのですが、その中で画家のゴッホと弟のテオを扱った部分がある。描きようによっては芸術家の内面の狂気に際限なく入り込んでしまって、やりきれなくなってしまいそうなところ、この人はその辺をサラリとかわして不思議なくらい爽やかな印象を残す。
 これは掘り下げていないのではなくて、刻苦してそのように描いているので、この人は人間に通有する狂気性のようなものを充分心得たうえで、このように描いているのです。この人の初期の評論集に「微光の中の宇宙」という珍しく美術を扱った本がありますが、そのあたりの気息を伺うのにちょうど好い。元来がドロドロネチネチになりがちな芸術論が、不思議なくらいサラッと言わば市民目線で安心して読めるようになっている。であるからこそ、サラリーマンというか、要は普通の読者が妙な身の危険を感じずに、この場合なら美術を享受できるということでしょう。これはこの人の天性というよりは、間違いなく巧まれて手中にした文章の技と言うべきです。
 しかしこのあたりは、「マジメで本格派」を任じる作家や批評家からは、相変わらず批判されるか無視され続けるのでしょうか。

 話が何だかそれました。
 司馬さんのことはさておき、要は「希望に満ちた明治国家vs国を滅ぼした昭和軍閥」といった、はなはだ図式的なものの見かたでは、たぶんこの時期の日本の全体像は見えてこないし、過度に明治維新をポジに捉えたがるマインドには、何やら戦前戦後を通じて、施政者側の意図を感じさせるところがあるのです。
 「四民平等」とは士族他すべての日本人を「天皇の臣民」として一括統治する、という含意があって、決して身分の撤廃とか差別からの開放といった(左翼好みの)ことを意味するのではなかったのです。何度も言いますが、これは藩単位の「領民」を、無理なく国家レベルの「臣民」に置き換える施策として、明治新政府が考え出した「大きな物語」であったでしょう。

 で、その大きな物語を根底的に支える装置として、「天皇」の位置づけは、それまでの日本歴史には、かつてなかったほど巨大化する必要があったのです。明治維新直後の「廃仏毀釈」ぐらいから、そのあたりの意図は顕著に現れていると思うのですが、皆さんはご存知ですか?天皇家の菩提寺というのが京都にあるのを。

― つづく ―





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Last updated  2010.10.23 12:08:51
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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