サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.01.12
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カテゴリ: カーネーション
 その意味で糸子が「裁縫」という、きわめて地道な身体的動作が不可欠な「仕事」を、「生業」としたのには大きな理由があるのでした。

 さて、そうしたきわめてシンプルで身体感覚に直結したような二項対立の図式(内と外)を、発想の基本として振るまってきた糸子的な内面のありようを揺り動かす事態が、どうやら過去からではなく先に未来からやって来た。この先周防(綾野剛)という長崎生まれの妻子ある男との恋愛(不倫)模様が描かれようとしているのです。実話のほうでも触れられていることなので、このドラマではたして取り上げるのかしないのか、書き込みのほうでもずいぶん話題になっていたようですが、またまたこのドラマの製作者たちは、世間の「禁止空域」に大きく足を踏み入れようとしているかのようですね。
 しかし逆に考えてみると、今までさまざまに描かれて来た糸子のバイタルな生きざまの中で、本当の意味での「恋愛模様」は語られなかった、というより実際問題としてその暇がなかったわけです。

 糸子の二項対立的な発想からすると、北村(ほっしゃん)のような「分かりやすい外部=敵」に対しては、糸子のパワーは何なく全開で起動できる。なぜならその間は、何度も言うように「自身を省みる必要が、ない」からです。
 彼女が困ってしまうのは、内か外か分からない(こちらがコントロールできない)仕方で、身内に「侵入」してくるような在りようであって、勝とはまさしくそうした立ち位置だったのでしょう。したがって勝の浮気問題は、表面上「許しちゃら」になってますが、実は糸子の内部でまだ片付いてないと私は思う。「許しちゃる」でも「許しちゃれ」でもなく「許しちゃら」という言い方には、おおいに「含み」がありそうです。
 でないと、観ている側は(少なくとも私は)納得できない。何も勝についての新証言が他から出てきたり(例えば、一度だけ出てきた勝のしっかり者の弟夫婦とかね)、別の遺言が出てきたりといったことを期待しているわけではありません。それこそ死者からの証言を、今を生きる糸子にいきなり出してこられても、当事者がすでにこの世にいない以上、誰もそれに反論できないうえに、陳腐な新事実が出てくるたびに、生者は死者の書き直しを迫られる、つまり「呪われる」ということになるからです(これは何もドラマだけじゃなくて、近隣諸国が歴史認識問題で、いつもやっている手法です)。
 これでは糸子ともども、私たちは勝の在りようを腑に落とすわけにはいかない。腑に落とす唯一の道は、何度も言うように、今の糸子とそれを観ている私たちの目線のほうが、「変容」する以外にないのです。

 で、それを展開させる触媒として、今まで語られなかった糸子の恋愛模様が描かれるということなのでしょう。なぜなら恋愛とは「外」から招来するように見えて、じつは「内」の変容なのだからです。「恋に落ちる」とはまさしく「自我の溶解」=「他者への目覚め」なのですから。
 自身が自分の「完全なコントロール下にある」というのが、「自立単独主義」的生き方の前提であるとするなら、「自我の溶解」などという現象はあり得ないはずなのです。今の糸子は、まさしく生まれて初めての「自我の溶解」を経験しようとしている。
 尾野真千子さんの演技の見せ所ですね。

― つづく ―





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Last updated  2012.01.12 15:48:19
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ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
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