サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.02.07
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カテゴリ: カーネーション
幼児のような「裸眼の心」
 直子の言うなれば、はなはだ「ひねくれた美意識」というのは、どこから生まれてくるものなのでしょうか?糸子が「誰に似たんやろ」と自問するとき、「そりゃあ、あなたしか、いないじゃないの」と我々は言うしかないのですが、しかしその現れ方はたんなる写し絵とは違って、かなり複雑な回路で構成されているように見える。

 直子は糸子的マインドの中に確かに潜んでいるらしい、ある一つの「極北」として自分を開示したいのです。姉の二番煎じではなく、直子そのものが代替不可能な形で外部に顕現し認識されること、これこそが彼女をして、どうしても「東京に着て行く服がない」というこだわりになって現れてくる。
 で、同じような様態が、彼女がしょっちゅう描いている抽象的なラインのスケッチ。「ナマの立体」としてのヒトの姿形からは、もっとも懸け離れた直線ラインは、まさに身体をまとう「衣装」という概念から、いちばん離れた地点まで行ってみて「衣装」そのものの本質を見直す、「衣装」の在りようを根底から剥がして行って、最後に「本当に残るもの」を見極めておこう、という身振りに他ならない。

 対象を根本から「素の眼」で見詰めなおす、という「構え」は、まさしく創作家に通有のマインドですが、一方でそれが次女直子にとっては、自身の「存在の証」そのものであるというところが、この物語の「面白味」でしょう。二番目の娘としてではなく、この世に唯一無二の「直子」として顕現するためには、どうしてもこの一見「辛気くさい」回路を辿るしかなかったのです。
 で、そうであるためには、これまた相反するような仕方ですが、姉の優子が常に見える形で側にいないと具合が悪い、ということになって来ます。姉の振る舞いかたのいちいちが、真反対の形で直子の行き方を指し示している。自身がまだ充分に唯一無二であることが出来ないあいだ、姉はまさしく反射程の形で直子の振る舞いかたを「決定」してくれるのです(優子こそ大変ですね)。
 直子が「しんどいけど、そのほうが面白い」とは、そうした彼女の「態度表明」だったのでしょう。

 ところで、画家のピカソでしたか、あたかも「幼児のような眼」で、対象を凝視する創作者。徹底した リアリズム をどんどん解体していって、最後にナマと言うしかない、残った フォルム だけを開示してみせる。そこに示された画像は、まさしく唯一ピカソの眼を通してしか見ることの出来なかったフォルムであって、他の何びとも代替出来ない世界のものです。
 それは彼が「任意に、いつでも」幼児の「裸眼」を起動出来たからでしょう。ふつうの大人は、さまざまな「経験」の滓に邪魔されて、目の前にある対象を「素のままで見る」ということが出来ない。「外界は、閉ざされている」のです。

 では、幼児の目線というのは、基本的にどのように外界に向っているのでしょうか?
 はなはだベタな例をあげますと、地下街でホームレスの人がダンボールに寝そべっていたら、大人はまず間違いなく眼を逸らすのに、幼児は逆に間違いなく「無慈悲」なまでに、まっすぐにそちらを凝視するでしょう。大人が「よしなさい」と言っても、容易に逸らそうとしない。これは人の視線というよりは、猫とか犬とか動物が「異物」を検知した時の視線に近い。
 知識のデータベースがほとんどなく、さらには僅少のデータベースを運用するOSもまだ未完成の段階では、幼児はとにかく外界の情報をもっぱら、素のままで取り込むことに費やす。その眼に映じる「対象」とは、まさしく「ナマ」のまま、そこに「在る姿」を開示しているのでしょう。

― つづく ―





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Last updated  2012.02.07 15:06:51
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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