サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.02.15
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疾走する「悲哀」
とは、確か小林秀雄がモーツァルトの音楽を形容した言葉ですが、 彼の音楽 が基本的にMajor(長音階)の調整を取りながら、聴き進むうちに否応なく「悲愁」のようなニオイが立ち昇って来る、そうした気分を指しているのでしょう。それは桜が満開に咲き誇るのを待たずに、新鮮なまま惜しげもなく散っていくところに、「はかない命の、潔すぎる美」を見出してしまう日本人の感性によく合うのです(まあ、かなりメランコリックな感性ですが)。
 ここで大事なのは、その美しいメロディーラインではなく、長音階で駆け抜けていくスピード感そのものが、「悲愁」の感触を立ち上げているということでしょう。

 さてこのところ、物語の展開が早すぎて三姉妹の描き方が足りない、というような書き込みも見られますね。しかし、もともと賑々しく「だんじり」のような疾走感で、ヘタすれば置いてきぼりを食うぐらいのスピードで「走り続ける」こと、そしてその後に立ち昇って来る「生きて在ることの、潔く、他には置き換え出来ない、一回性のかけがえのなさ」の後味こそが、このドラマの「通奏低音」なので、これは「拙速」というのとは違う、と私は思うのです。
 この「疾走感」は、じつは四十を過ぎた人間だけが感じるスピードかもしれない。二十代ごろまでの「濃いィ~」期間に比べて、三十代~六十代の間というのは、人生的には中心部を成すにもかかわらず、意外なほど「語るべきことがない」、呆れるほどに、あっという間に「過ぎ去って行った」感が強いのです(私だけですかね)。

 そもそも、このドラマは「糸子の物語」であって、三姉妹は糸子という人物を語るエピソードの一つという位置付けなのでしょう。まあ何しろ世に知られた世界的デザイナーたちですから、もともと(三面記事的な中味も含めて)そちらに関心のあった人たちにとっては、少なからず欲求不満を感じさせる作りのかもしれません。しかし、そうして三姉妹や服飾デザインに、改めて興味を持った人たちは、むしろこれを機会に自らの「欲望を起動」させて、世に出ている資料をいくらでも自由に探索する楽しみが出来たわけでしょう。
 「欲望の枯渇感」こそ「知りたい・学びたい」衝動の発火点なのだとすれば、これくらいの「出し惜しみ」で留めてあるのが、ちょうど好いのかもしれませんね。

 「おい、ちょっと待ってェや!」というぐらいに、潔く立ち止まらない「疾走感」こそ、このドラマの生命線なのでしょう。

 さて、それと関係あるのかどうか、よく分からないのですが、NHKの「カーネーション」 公式ホームページ に、フィナーレへ向けての見所というか、製作側の「考え方」のようなことが、かなり詳しく載っていました。別にネタばれになるような話ではなく、どのような姿勢でこのドラマ作りに臨んで来たかという話が中心なので、今すぐ読まれたとしても大丈夫ですよ。
 そのなかに、「なるほど!」と思わせられた事柄があったので、取り上げてみたいのです。それは書き込みのほうでも、かなり騒ぎになっていた「主役交代」の件とも絡むのですが、なぜ糸子晩年の俳優を、直前(十二月)まで決めなかったのか?という話なのです。
 詳しくは本文を読んでいただくとして、そのディレクターが言うのは「あらかじめ、晩年の俳優を決めることは出来なかった」ということなのでした。

 要は、娘時代から疾走し続ける糸子を、尾野真千子さんをはじめとして、スタッフ全体が作り込んでいく過程で、自ずから立ち上がってくる人物像というのが在る。これは実はあらかじめ予期していたものとは、あるいは少しく異なったものであるかもしれない。もちろん構想はするし、現に実在モデルがいるわけですから、ある程度の枠組みは決まっているわけです。
 しかし実際には、製作がある程度進行し、尾野「糸子」像が具体的な「身体性」を持って、生き生きと現れて来てから、初めて晩年の糸子を誰が体現出来るか考えた、ということのようです。これって大枠の構想は当然あるにしても、細部をあらかじめ「決め過ぎない」という、かなり「柔らかい構え」だと思いますよ。たんにそっくりさんとか、泉州弁が上手いというような構想であれば、関西系芸人の中に候補者はかなりありそうです。

 それを「あえて、しなかった(あるいは、出来なかった)」というのは、たぶん尾野「糸子」の放つ人物像が、ローカルな大阪を飛び越えて、はるかに「普遍的な色合い」を持っていたからでしょう。

― つづく ―





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Last updated  2012.02.15 11:42:31
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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