サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.03.10
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カテゴリ: カーネーション
Memento Mori (メメント・モリ)
 それにしても、「勘助は、やられたんやのうて、やったんやな」という言葉は、「心が、のうなってしもた」と自殺を図った勘助の真意を、死期を間近に控えた玉枝が、二十五、六年経った今になって悟るという、まことに重いシーンなのですが、不思議なほどの静謐感に満ちていましたね。

 これ、じつは病院の待合室でテレビ番組を観て、玉枝が「そうであったのか(もしれない)」というような語り方になっている。真相は限りなくそれに近いのでしょうが、ついにそれが「何であったか」は明かされない。感想欄では「南京虐殺だ」「婦女暴行だ」といった戦争糾弾めいた、信じられないくらい断定的な詮索が散見しますが、本編ではそんなことにはいっさい言及していません。
 「糾弾的ポーズ」でこれを解釈する、あるいは「反戦平和主義的に過ぎる」などという捉え方をしてしまっては、このドラマの主題をほとんど取り逃すことになってしまいます。

 ドラマが勘助の事実を明かさないのは、視聴者側に自分たち各々の意見感想を言う前に、まず、観る側の「構えを、変更する」ことを迫っているからでしょう。根拠のない推定を「断定的に下す」という姿勢の奥には、そういうふうに糾弾している当の自分は、それとは「関係がない(免責されたい)」という願望が暗に潜んでいるのです。
 かつてさかんに唱えられた「反戦平和主義」的言説が、なぜ今世紀になってほとんど無力化し語られなくなったのか?それは、彼らの「糾弾の姿勢」というのが、常に自分たちを当該者とは関係のない、「埒外の安全地帯」に身を置くという身ぶりで、それを言明し続けて来たからです。糾弾する相手は「日本人」という、まさしく歴史に刻印された自分たちの親、肉親ないし隣人であるにもかかわらず、心理的には、それとは関わりのない「超歴史的な立場」に我が身を置いて審判することが、「政治的に正しい」とされたのでした(ある種の独裁国家が、子どもに「実の親を糾弾することを、組織的に奨励した」仕方に似ていません?)。

 こうした「構え」の在りようが、どれだけ戦後日本の精神風土を毀損して来たか、それは今どき、何でもすぐに答えを求めようとする、社会一般に蔓延した「子ども染みた思考態度」を見れば分かる。ここには、事柄を「引き受ける」という構えはどこにもなく、糾弾した事柄に対して、ではそれを言明した自分は「どう責任を取るのか」という発想は、どこにも見当たらないのです(これだけ糾弾したのだから、「自分たちは、真っ先に免責されている」ということなのでしょう)。

 「カーネーション」は、そうした超歴史的な安全地帯に身を置いて物事を審判する、という姿勢を断固として拒否しているように見える。一意的な解釈をさせない。観る側に勘助のやったであろうことについて、自ら「想像力を起動させて、それに関与する」ことを求めている。彼が大陸でやったことを作り手側が提示すれば、その瞬間に事柄は「他人事」に転化し、視聴者は勘助という人物から心理的に「免責」されてしまうのです。
 糸子が玉枝の病床で慟哭したのは、かつて勘助の葬送シーンで、それとは説明出来ないけれど、確かに発せられていた勘助の「叫び」の意味するところを、今ここで確かに「聞き届けた」からなのでしょう。この二人は、鎮まらなかった死者の魂を、やっと真の意味で「弔う」ことが出来たのです。

 それにしても勘助、玉枝の話になると、このブログは途端に「熱く」なりますね!
 勘助がなぜ「へタレ」でなければならなかったのか?それは真っ先に罪を「引き受ける」べき者として、彼が造形されていたからです。「へタレ」であるがゆえに、まず最初に「姿を隠す」者として、彼はこの世に生まれて来たのでした。
 彼が最後に乗っていた列車に同乗していたのが、召集された兵士たちばかりだったような気がするのですが、これはまさしく事態を引き受けて、「他に先んじて」旅立った人たちの、「葬送列車」だったということになりますね。
 本編で初めて示された、玉枝の品格をたたえた静謐な死に顔には、このドラマ全体の主題の一つが込められている。たいしたものです!

 ちなみに「Memento Mori(メメント・モリ)」とは、ラテン語で「死を、忘れるな」という意味だそうですが、いろいろな解釈が出来るにせよ、要は「常に考えよ」、「ためらいはないか」、「無反省な権力的思考性に、陥っていないか」「今、死んで後悔しないか(聖書的には、「神の裁きに耐えられるか」)」という「心の構えかた」を指しているのでしょう。

― つづく ―


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Last updated  2012.03.10 10:46:23
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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