サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2012.04.28
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カテゴリ: カーネーション
最適な物差し?
 六ヶ月間の「カーネーション」を一本の物差しでスッキリ腑に落とすには、どんな物差しをあてがったらいいのか(そもそも、そんな物差しがあるのか)?
 となると、役者や脚本家や製作スタッフ他の意図とか作品の出来映えは、いったん全部棚に上げて、表象されたヒロインの糸子だけを見詰めて、様々な物指しをあててみるしかない。三代の糸子、とりわけ尾野さんと夏木さんに造形された糸子像に、同じ物差しをあてるならどんな物指しが可能か?ということろから始めるしかないのでしょう。
 あれこれ考えてみましたが、結局以前に一度触れたことのある、糸子の反「権力思考」性という鍵語が一つのヒントになるかもしれませんね。反「権力思考」性というのは、実体的な政治的社会的「権力」を指すのではなく、自身の内部に潜む一意的な「権力思考」性に対して、常に「疑問符」を立てられるような自省的態度のことである、ということはすでに触れました。

 非常に逆説的な言い方になりますが、糸子の反「権力的身振り」が「神話伝説」となった瞬間、それは観る側から「自省」を促す構えを奪い、一瞬にして一意的な思考に「権力化」するのです。考えてみればオノマチ糸子の魅力はその数々の「世間的禁止」への挑戦によって成り立っていたわけで、三月期はあるいはその総仕上げだったのかもしれません。
 「お母ちゃんは、歳取ってから花開いた」とはコシノ三姉妹の言ですが、よく知られた綾子さんの晩年のエピソードをそのまま辿ったとしたら、結果的に彼女の「偶像化」を一段と強化することになったでしょう。それが果たして、それまでに創出された「糸子」像を締め括る形として、望ましいものだったのかどうか?
 糸子のユニークな魅力の根源が、その反「権力思考」性にもしあるのだとしたら、当の魅力そのもののを、いったんカッコに入れるような仕方で「相対化」しなければならない、という難問が待っているのです。
 夏木さんの糸子像というのは、様々な意味でオノマチ糸子を「カッコに入れる」形で描かれているので、尾野さんの職人芸的名演技に敬服して来た私たちは、当然すっかり面食らってしまうという仕儀になりますね。 

 オノマチ糸子の「カッコ書き」の描像は、たんにナツキ糸子だけに止まらず、地上げでシャッター商店街化した街、今風に改装された家、前と似て非なる従業員という形で、逆に「異和」に導くように企まれている。それ以外にも似たようなシチュエーションで、かつてのように「笑えない、泣けない」パターンは、NETの感想欄でもキリが無いほど書かれていますね。
 金ピカの不動産屋と金券ショップのお兄さん相手では、北村バージョンの「笑い」は望むべくもないのです。
 つまりそれらは「昭和オールウェイズ」風の過ぎ去った「昔話」としてしか語ることが出来ない。平成の失われた二十数年の後に、かつてと同じ「泣き、笑い」を再現するのは不可能だということ。
 綾子さんにとって本来「花開く」べき晩年のエピが、何がなし寒々とした印象を与えるのは、それが紛れもなく今の世の出来事だからです。本来ならカットされた十二年間こそ、三姉妹が世界に羽ばたき綾子さんが世間に周知され始めた時期のはずですが、そこにはあえて触れず、むしろバラバラに孤立した今日的な人間関係が強調されていますね。

 かく言う私も三月期のドラマ展開にはすっかり面食らっていた一人ですが、あれこれ考えていくと、濃密な人間関係が失われた街に、すっかりセピア色化した「笑い、涙」を再現することは不可能で、何度も言いますが、これらはまさしくオノマチ糸子で表現された世界を「相対化」するために、費やされていたとしか思えなくなって来るのです。
 明晰な否定形ではなく厳密に過去を引き摺りながらも、なおかつどうしようもない「異和」が生じるというような形で、です。

 そこには当のドラマの構造そのものにさえ「見直し」を迫っているような、一種の「不気味さ」を私など感じてしまうのです。
 端的に言えば夏木さんの泉州弁こそ「異和」の代表だったでしょう。新山さんも含めてこのお二人の泉州弁を私は大いに評価するほうです。大事なのは彼女たちの発語が巧まれれば巧まれるほど、むしろ私たちが岸和田から受ける「空気感」から、彼女たちが否応もなく乖離して行かざるを得ないという事実で、それは結果的にオノマチ糸子の作り出していた世界を「相対化」することに他ならない。

 考えてみればオノマチ糸子が「吼える」たび、彼女は世間の「権力趨向性」に異和を与え続けて来たのでした。となれば、それに喝采し続けてきた私たち自身の立ち位置も、彼女の反「権力思考」性によって「相対化」を迫られるという事態になって来るのです。

― つづく ―





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Last updated  2012.04.28 14:07:43
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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