サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2013.01.14
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カテゴリ: カーネーション
 何度も言うように、このドラマの「語り手」には主人公との間に微妙な距離があって、それは「時制」の違いとも言えるでしょう。先の見えない現在形で頑張っている糸子と、事が確定した過去を見詰める糸子の立ち位置には当然違いがあるわけです。「カーネー」で面白いのは自身の過去を見詰める「ナレ」が、思いのほか冷静じゃなくて物語に割り込むように、「しどけなく」しゃべっていることが時々あるということでしょう。
 それはドラマに強い「倍音」を与えると同時に、別人格の糸子の存在も予感させる。同じ人物でありながら後年の糸子が若かりし「無明な自身」を振り返るのは、現在形の糸子が今もなお自分は何であったのか(あるのか)考え続けている構図に他なりません。
 という意味で、このドラマは「ナレ」じたいが全面的ではないけれど、別のドラマ性を感じさせる仕掛けになっていてホントに面白い。「ナレ」もまた一つの役を演じているのです。こういう造りの映画やドラマって、今まであったのかどうか?

 紫式部は「物語」について、光源氏に「世に経る人の有様の、見るにも飽かず、聞くにもあまることを、…心にこめがたくて、言ひおきはじめたるなり」と言わせていますが、糸子もまた「この世の人の生き様で、見るに飽かせず、聞き捨てにも出来ないことを、…どないしても心に収めておくことが出来ず、思わず言葉に発してしまった」ということだったのかどうか?
 糸子のナレには確かにそうした一種の切迫感というか「召命性」があって、糸子自身がどうしてもそれを語ることを必要としているという感じがあるのです。あの時の私はなぜああだったのか、勘助や玉枝や奈津たちは私にとって何だったのだろうと振り返る時、初めて「コトバ」による「物語」が生まれて来るのでしょう。
 たんなる嘆きや叫びなら動物の咆哮と同じで、他者との共感とか共有は生じようがない。という意味で「コトバを発する」とは優れて人間的な在りようなのだと思う。
 私たちは彼女のナレに導かれて、普通観ることの出来ない他者の「個人史」に我知らず立ち入って、自問し続ける糸子とともに内省している自分がいることに気付く。これぞ優れた「物語」だけにだけ許された「想像力のマジック」のなせる技なのです。

 さて、一種の召命性を帯びた切迫感をもって、我が身の「内なる他者」と自問自答を繰り返しているらしい糸子のナレが、なぜ私たちの耳にも尋常でない響きで語りかけて来るのか?ここの感想欄だけでなく多くの人たちが、いわば他人事でない仕方でこれを聴き取ろうとしていたでしょう。
 これは例えば自分宛への特別なメッセージを感知するのと似ている。「たかが朝ドラだけど、そこに何やら自分だけに発せられた声を聴いたような気がする」という仕方で、です。
 こうした想像力の起動を可能にしているのは、彼女のナレがたんに切迫性を帯びているからではなくて、同時に「聴き手への配慮、あるいは敬意」をもって話されているからではないか?一意的にはかつての自分に対して、二義的には「いつでもどこでも、確かに聞いていてくれている誰か」に対して。早い話、召命性が絶叫や独りよがり、あるいは自慢話に満ちたものなら、そのコトバをしかと聞こうとは誰も思わない。現にそのように聞いた方々もおられたようですが、決してそんなことはない。
 巻き舌、舌打ちに満ちて一見下品で明らかに未熟な彼女を、背後からいとおしく見詰めている糸子のナレが支えているのです。それは何も過去の自分を客観的に「突き放して語る」ということじゃなく、むしろ逆で「そうであった我が身を、軽々には扱わない」という態度であったでしょう。この場合、過去の自分とは「内なる他者」に他なりません。
 我が身を「ないがしろにしない」という意味で、糸子のナレは「他者への配慮と敬意に満ちている」のです。

― つづく ―





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Last updated  2013.01.14 10:47:09
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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