サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2013.01.21
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カテゴリ: カーネーション
 イチローは自身の身体が示す特異的な才能を、自前の専有物としてではなく天賦の「授かり物」として扱い、それをどうやって現実の局面で最適化していくか、ということにいちばん注力しているように見えるのです。これって「我が身に敬意を払う」ということに他ならないでしょう。彼が他人から簡単に「天才と言われると腹が立つ」というのには理由があったのでした。
 ここには何がなし、自身が有する才能を「半公共物」とは言わないまでも、一歩引いて見つめているような構えがあるじゃないですか。こうした言わば中空を移ろいながら、たまたまある個人の身体に付着するような特異的な才とか振るまいの在りようを、古代人は例えば「魂(たま)」と呼んだのではないかしらん。
 「魂」は特定個人に帰一するのではなく、フワフワと複数の身体を通り抜けるようにして「継承」されて行く。対するに「心(こころ)」とは我が手足と同様、個人に専一に付属した器官であって、それは肉体が滅ぶと同時に失われるもの。

 さてさて、イチローがまさしくそうした仕方で我が身を意識しているなどとはもちろん思いませんが、彼が自分のことを語ろうとする時、とても慎重かつ重くなることがあるのは、一つにはこうした特異的な感覚とか体験を人に「語ること」の難しさとか不可能性を、彼は常に感じているからではないのか?考えてみれば「純粋個人」の感覚とか体験などというのは、本来他人に伝えようの無いものです。語るということは「分かってもらえる(共有できる)」という信憑があって初めて成り立つものでしょう。
 でなおかつ、それをざっと「要はフィーリングですよ」とか「絶好調!」といった雑駁なワンフレーズで片付けてしまわず、あえて口重で意味不明に聞こえようと、出来るかぎり当の出来事に寄り添うようにして「語ろう」とするのは、語ろうとする当の「何か」がイチローの「純粋個人」に帰一するものではなく、何がしか「どこかから継承されたもの、他へ受け渡しすべきもの」として意識されているからだと思うのです。たまたま我が身に到来した「継承物」である以上、それを自分のところで「専有」し「退蔵」しておくのは「何やら気持が悪い」、そうした得体の知れない「居心地の悪さ」が彼をして語らずには居れなくさせているのだと思う。
 断っておきますが、それは何も「秘伝公開」のような口ぶりを指すのではないですよ。我が身の「分からなさ加減を知る」仕方を、何としても知らせようとしているのだと思う。

 とはいえ、彼は言うまでもなくアスリートであってコトバの専門家ではないわけで、「本当に語りたいこと」がなかなか正確に口から出てこないのはこれは仕方がない。でなおかつ、私たちがついつい彼の発するコトバに首を捻ったり、何やら哲学的な深読みしたりしてしまうのは、取り合えず「何を言っているのか、イマイチ分らないけれども、確かにとても大事なことを、我々に向って言おうとしているらしい」という不思議な信憑があるからです。彼自身、ベタなインタビューには韜晦してふざけたりしていますが、それは逆にこうしたことを「語ること」の困難さを意識しているからに他なりません。

 というわけで、糸子もまた同様に「あの時の私はこうだった、その処し方はどうだったのか?で、これをいつでもどこかで確かに聞いてくれている誰か(あなた)は、どう思います?」という仕方で問いかけているでしょう。イチローと違うのは糸子が「コトバの巧(たくみ)」たちによって造形された「虚構の人物」であるということです。生身の綾子さんやイチローとは違う「明晰性」を彼女が把持し得ているのは、それがコトバの専門家によって語られているからでしょう。

― つづく ―





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Last updated  2013.01.21 11:54:34
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
cocolateさんへ@ コメントありがとうございます。 三年ほど前に826asukaさんのことを知り、…

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