サリエリの独り言日記

サリエリの独り言日記

2013.01.30
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カテゴリ: カーネーション
 話を戻します。糸子は紛れもなく「コトバの匠」たちによって語られているわけで、となれば彼女の言わんとしていることは、あるいは作り手の構えを見ていけば明らかになって来るかもしれない。しかしそれは作り手が糸子に「何をどういうふうに、語らせようとしたか」ではなく、糸子から「何をどういうふうに、聞き取ろうとしたか」という視点から考えていったほうが良さそうです。

 以前にも触れしたが、渡辺あやさんの基本的な姿勢は、自分の思いとか考えは「いったんカッコに入れて」、人物がかってに動き出すのをじっと待つ、あるいは耳を澄ませるという態度であると思うのです。それを確か「糸子が話したがっている」というような言い方をされてましたね。これってイチローが自分の願望や思念を「いったん棚に上げて」、我が身に到来した何物かをずうっと観察し続けている姿勢とよく似ているじゃないですか。
 これは何もムリに感情を排して、対象を突き放して見るということではなく、むしろ逆にその到来物を「敬意をもって」扱い対面しているということなのです。あやさんの場合なら、例えば澤田女史に端的に現れたように、主人公の敵役であるにも拘らず、その渋面の背後に何やら隠れた「物語」を想像させるでしょう。これは「この人物はこう描いてやろう」という構えからは、絶対出て来ないスタンスなのだと思う。以下同様で、出て来る登場人物のほとんどが、何やらここではほとんど「語られない別の物語」を大量に抱えていることを否応なく想像させてしまうのです。
 これは配置された人物それぞれをないがしろにせず、敬意を払って見詰めているということに他なりません。
 かといって、それが最初からそうであったかといえばそうでもない。作品から「竜が飛び出して、どうにも止められなくなった」という転換点は確かにあったようですね。

 登場人物が勝手にしゃべり出す時、作家は自分が「書いている」というよりも、今そこにいる人物が話したがっていることを、一言も聞き逃すまいと「書き留めている」という感じに近いのではないか。モーツァルトが五線譜に音符を記し始めた時には、すでに彼の頭にはその音楽全体が「ありありと舞い降りていた」とは有名な話ですが、創造の現場ではときに寝食を忘れて何物かに「憑かれた」ように、あるいは「引っ張られる」ように作品が生み出されてしまうことがあるらしいのです。
 時々それと命と引き換えにするような創作者も現れるので、私たちはそれを「神の声」だの「「悪魔の手」といった、日常から懸け離れた何やらミスティックな捉え方をしてしまいますが、たぶんそんな大層なことではない。
 あるヴァイオリニストの話ですが、自分が弾いていて一番調子の良い時には、「弾いている自分の背後(頭上)に、それを聴いているもう一人別の自分が現れる」という言い方をした人がいました。彼女(神尾真由子さん)はそれを「もう一人の自分」と理解していますが、これは言わば自分であって自分でないもの、「いつでもどこでも確かに聞いていてくれている何者か」つまり「内なる他者」に他なりません。こうした時、現にヴァイオリンを奏でている我が身空は、言わば外から「操られている」ように意識されるのかもしれませんね。
 このあたりも例の内田樹さんの「武道論」のはなはだ怪しげな受け売りですが、我が手我がバットであるにも拘らず、それを外から観ている「他者がいる」。その時我が身空は確かに「我が身」であるにも拘わらず、あたかも「操り人形」のように、自分の意志とは無関係に振るまっているように見えるということです。

 イチローのメジャーデビュー当時、向こうの新聞でHand-Eye Coordination(手と眼の連携、協調)ということが、さかんに言われました。「彼は突出してHand-Eye Coordinationが優れている」というふうに。今考えてみると、これはたんに彼の運動神経の卓越性を指摘しているだけでなく、もう一つ大事な点を突いていることが分りますね。
 あるいは向こうの新聞も気付いていなかったのかもしれませんが、この場合のHand-Eyeの関係にはダイレクトな感じがあって、脳の中枢系をいちいち経由していないというニュアンスがあるのです。間違いないのは時速160kmの球の弾道を、眼で見て脳で判断してからバットを振り出しても、絶対間に合わないだろうことは素人でも推測できる。それでも当たるはずのない球をホームランするメジャーリーガーが実際にはけっこういるわけです。では彼らはデタラメにヤマカンで振り回しているのか、と言えばそうでもない(まあ中には、そういうのもいるかもしれないけど)。
 これは私の完全な勝手想像ですが、彼らは基本的にあまり「頭で考えることをしない」んじゃないか、言い換えると「身体でだけ考える」のが得意というか、生来的にそういう在りようを知ってるんじゃないか、という気がしているのです。

― つづく ―





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Last updated  2013.01.30 16:37:19
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TNサリエリ @ Re[1]:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) ナガノさんへ  コメントいただき、ありが…
ナガノ@ Re:Kyoto Tachibana High School Green Band 10.(09/07) 2年遅れで、この文章を読んで泣けてしまっ…
TNサリエリ@ ふたたび、コメントありがとうございます。 cocolateさんへ 私自身、彼女の演奏に刺激…
cocolate@ Re:エレクトーンというガラパゴス 1.(06/17) 再びおじゃまします。 826askaさんのYouT…
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