トカトントン 2.1

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カテゴリ未分類

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・ブライアン・ウィルソン
・シューベルト「ピアノソナタ第１７番ニ長調」
・スタン・ゲッツ
・ブルース・スプリングスティーン
・ゼルキンとルービンシュタイン
・ウィントン・マルサリス
・スガシカオ
・フランシス・プーランク
・ウディー・ガスリー

■えらく堪能しました。読み終わって思うことは村上春樹的帰結に辿り着くまでの音楽的素養はまだ私にはないって事ですね。この人のプライドは「ねじまき鳥クロニクル」を完成させたことよりもこれだけ多くの音楽をずっと聴いてきたんだということの方に幾分重きが置かれているかのように思える。それだけ音楽に対し（それがどんなジャンルのものであったとしても）愛情を感じるし、語りたいという「想い」に溢れているように思える。

■この人のとりあげる音楽作品を入門用としてとらえることは少しばかり危険であるように思える。たとえばシューベルトを聴く時、まっさきにニ長調ピアノソナタを聴く人が、ジャズピアノを聴こうと思った時にシダー・ウォルトンというピアニストから聴き始める人がいったい何人いるだろうかということである。ここに至るまでの村上的な取捨選択がこの作品の肝（キモ）なのでないだろうか。

■それは審美眼なんだろうな。センスと言ってしまえば簡単だけど、クラシックを聴く時は演奏者の曲に対する解釈の度合いを問題にし、ジャズを聴く時は各パートにおけるプレイヤーの役割分担とその演奏スタイルのニュアンスを重んじ、歌詞のあるロックなりフォークソングを聴く時には、その詞の必然性と恥ずかしくなさを吟味する。ここで語られるそれぞれの作品に対する文章はこの人（村上春樹）が今までどんな人生を歩んできたのか、その分かれ目分かれ目でどんな選択をしてきたのかが自然に窺い知れるような語り口になっていて、作品論であるばかりか、それを書いている当事者の人間性みたいなものが垣間見られる内容にもなっているというところが凄いんだと思う。いやはや、本当に巧い。

■様々な種類の音楽がとりあげられている。とりわけビーチボーイズのブライアン・ウィルソンについて書かれた文章は出色。ジョン・レノンやボブ・ディランにあってこの人には無いもの、その無いものを探し当てて語れば語るほどそのアーティストが浮き彫りになる。好きになるもの、のめり込むものって、最初は違和感から始まっていないか。それを延々埋めようとする作業がその人を追いかける楽しみにもなっていく。それにしても唯一日本人でとりあげられたのがスガシカオというのが春樹さんの「ねらい」なのかどうかはわからないが、なんとなく嬉しい。

■音楽は良いよ。ジャンルなんて関係ない。本当に良いものは良い。良い音楽を聴いている時は幸せだ。シンプルにそういう気分で音楽を聴いている時もある。しかし、こうして自分も毎日のように自分の好きな音楽のことを文章にして書き残してみるなんて事を始めてみて、それを語る難しさみたいなものに想いを巡らすこともある。どうしてそれが好きで、もう少し突っ込んでそれのどこが好きか、について考える。論理的に説明しようとすればそれこそ快楽へ向かう脳の構造論めいた分析に近くなってしまう。でも、それではダメなんだと思う。それを説明しようとすれば自然と自分自身と正対することが避けられなくなる。音楽について書く喜びは自分自身について知る喜びに似ている。

ＰＳ

■本書はオーディオ専門誌「ステレオサウンド」に掲載された文章をまとめたもの。ちょっとした短編くらいの分量があって読み応えは充分。そしてこの本のタイトルはデューク・エリントンの「スイングがなければ意味はない」から。実際、何かしらの「意味」がなければある種のグルーブは起こらない。じゃ、その意味ってなんだろうって考えること。その答は音楽を好んで聴く人の数だけあるのではないだろうか。

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