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★ 『 かくしごと 』 久米田康治 (2015年~)電子書籍にて、既刊10巻まで読了。祝・アニメ化!!(2020年4月~)「下ネタ」が売りの漫画家が、男手一つで育てている小学生の一人娘に職業を知られないように四苦八苦するドタバタ生活を描いた作品。久米田さんの作品は、初めて読んだはずなのに、何故か既視感があるなと思っていたら、途中で、アニメ『有頂天家族』のキャラデザを担当された方だと分かって、スッキリした。Amazonでのストーリー説明や扉絵の雰囲気から、父娘家庭の苦労や日常を描く、子育てほのぼの漫画かと予想してたら、意外に家庭内の話よりも、漫画家の内情暴露話の割合の方が多く、「漫画家あるある」漫画としての位置付けの方が正しい。あるあるネタってのは、一度読んだら、「へー、そーなんだ」と感心して終わり、ということもよくあるが、この作品の場合、キャラクター、ギャグセンス、作画、全てが私の好みに「どはまり」で、何度読み返しても飽きない。実は、セール期間などにとりあえず購入した電子書籍が山積みで、マジで同じ作品を読み返してる場合ではないのだが、一時期、気分が落ちている時、こればかり繰り返し読んでいた。何しろ(10巻までのところ)、一ミリも「感動ポイント」が無いところが却って良い。落ち込んでいる時には、悲劇や不幸話を読むのも辛いが、かといって、いい人だらけの幸せハートフルストーリーも、それはそれで、真綿で首を絞められるような憂鬱な気分に追い込まれることがある。ギャグ漫画でも、予想外にホロリとするエピソードやシビアな展開が入ることが、まま あるので油断ならないものだが、この作品には、それが殆どなかった(巻頭および巻末の書き下ろしカラーページが、若干シリアス要素を匂わせるものの、そこまでの悲劇を予感させるものではない)。ほぼコメディ一辺倒でも飽きない理由は、ボケとツッコミが一方通行ではない人間関係と、「程よい」キャラクターの魅力だ。「漫画家の奇行に振り回されるアシスタント」というベースはあれども、さらに上を行く「ヤバい」編集者やら、恋愛体質の女性モブらから 漫画家自身も振り回されるケースが多々あり、しかも、限度を超えた非常識さにイライラさせられたり、特定のキャラを疎ましく感じるほどの、しつこさがない。逆に、キャラクターに感情移入し過ぎてしまうようなこともないので、本を閉じれば、スッキリ物語世界から抜け出せる。一見、表情に乏しい作画も、独特な「間」を創り出し、「本人たちは大真面目」という可笑しさに繋がっている。また、各話の最後に入る作者自身の後書きも、漫画家としての体験談や裏話満載で面白い。10巻で、アニメ化の告知と共に「12巻で完結」との予告が出て、若干寂しくもあるが、最後まで失速することなく楽しい作品にまとめあげて欲しいと思う。 <関連日記>アニメ 『 有頂天家族 』…… いつか死ぬと分かってて生きる悲哀と美しさ東村アキコ 『 かくかくしかじか 』…… 確かな 「デッサン力」 があるから、雑の中に味がある島本和彦 『 アオイホノオ 』…… オタク気質の人には共感できるはず『 浦沢直樹の漫勉 』…… プロ漫画家 “創作の秘密” 公開暴走する読者エゴ松田奈緒子 『 重版出来! 』 ・・・ いかに嘘や夢を織り交ぜるかが 職業漫画の肝かくしごと(1) (KCデラックス) [ 久米田 康治 ]かくしごと1巻【電子書籍】[ 久米田康治 ]
2020年01月19日
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★ アニメ 『 BANANA FISH 』 原作;吉田秋生(1985~94年) フジテレビ(木曜深夜)にて放送中(第12話まで視聴)。 原作漫画(全19巻)は読了済み。(※ ストーリー後半や結末に関わるネタバレ無し) 漫画をタブレットで読むことが増え、買いためた電子書籍が山積み状態で、死ぬまでに全て読みきれるのか不安な状況ですらある昨今だが、若い頃は小遣いも限られていたので、厳選して購入した紙のコミックスを何度も繰り返し読んだものだった。 中でも、この『BANANA FISH』は、萩尾望都の『ポーの一族』、『トーマの心臓』、三原順の『はみだしっ子』等と並び、何度リピートしたか分からない位で、今でも、もっと時間さえあれば、ゆっくり読み返したいと思う作品の一つだ。 思い入れが強いだけに、アニメ化が発表された時には、なんとも言えない複雑な気持ちになった。 正直なところ、「今さら!?」…という感想が一番。 勿論、連載当時よりも、アニメーションの作画技術や声優の演技力のアベレージが上がってはいるのはよいが、当時の時代背景があってこその作品をわざわざ掘り出してきて、「原作のストーリーや雰囲気をブチ壊し」たり、「駄作のレッテルを貼られ」たり、そんな結果になる位なら、いっそ、そっとしておいて欲しかった…なんてことになりかねない。 原作ファンの間で、最も問題視されたのは、「時代設定を現代に変更する」という点だろう。 原作は、1985年、ベトナム戦争の悪夢も未だ人々の記憶に生々しい、冷戦下の合衆国を舞台としている。漫画ならではの現実離れした要素を適度に散りばめつつも、当時の社会情勢を盛り込んだ描写が、物語の根幹を支えていた。 33年前というと、“昔話” と言うほど古くもないが、民生的な技術は無視できないレベルで進化している。 インターネットどころか携帯電話も “一般には” 普及していない前提で構築されたエピソードを、齟齬なく修正できるものなのか…。 しかも、ノイタミナと言えば 基本1クール作品が多いが、『僕だけがいない街』 (2016年)のように、無残に細部をはしょったり、結末を改変したり …という前科が、ごく最近あったばかり(実際には、この『BANANA FISH』は2クールだったが…)。 さらに、連載当時とは、視聴者側の意識も変わっている。 『BANANA FISH』は「少女漫画」だ。 ゲイによる性犯罪や、単なる友情以上の男同士の絆が描かれてはいるが、主要キャラはあくまでノーマルだし、そもそも恋愛がテーマではない。 だが、BL全盛の現在、一部のシーンを捉えて「腐女子向け」と攻撃する人が 少なからずいそうだ。 誤解しないで欲しいのは、私自身は、今やBLも好きだし、この『BANANA FISH』が、後世のBL作家たちに与えた影響力も否定しない。 萩尾望都や竹宮惠子、山岸凉子、吉田秋生ら、昭和の少女漫画家が描いた少年愛や男同士の友情の世界観が、BLというジャンルを創成する土壌となったのは確かだろう。 とは言え、かの少女漫画家らが向き合ってきたテーマは、単なる個人的なラブストーリーやエロではなく、愛憎の構造や人間の存在理由までの追究だった。 BLというジャンルが確立した現在、「萌えとエロ」がテーマの作品が多いのも事実で、すべて一緒くたにされるのにはやはり抵抗がある(萌えやエロが悪いと言ってるわけではない。 それはそれで優れた作品は沢山ある)。 しかも、監督が、『Free!』(第1シーズン)の 内海紘子氏に決まったという時点で、正直、私の中で、期待値は急降下してしまった。 『Free!』は、3シーズンまで製作されている人気アニメシリーズで、BLではないのだが、同じようなルックスのイケメンたちが 不自然に干渉し合い 群れ合う内容で、私には期待外れだった。 あの調子で男性同士がベタベタするシーンを過度に強調されたら、腐向けと揶揄されても仕方なくなってしまう。 …というわけで、1クールが過ぎ、丁度、折り返しだが、現時点での評価を言わせてもらうと、不安が大きかっただけに、今のところ、「予想外に上出来」だと思っている。 当初心配した「時代設定の変更」については、ベトナム戦争をイラク戦争、冷戦を中東問題に置き換えるなど、多少のムリはあるものの、寧ろ、若い視聴者には理解しやすく、結果的には良かったかもしれない。 そう言えば、完結直後の番外編で、作者自身が「連載中に冷戦終結してしまったのはシャレにならなかった」と書いていたので、作者としても、この改変は致し方なし、というところだったのだろう。 また、スマホやネットなどのツールについても、私自身が既に「あって当然」の時代にどっぷり順応して久しいせいか、もはや余り違和感がない。 ただ、ネット草創期であった連載当時、PCによるハッキング行為そのものが、主人公少年(アッシュ)の「天才」ぶりを端的に示していたのだが、舞台が現代となって、その衝撃度がかなり弱まってしまったことは否めない。 とは言え、仮に原作通りの時代設定であっても、若い視聴者には、どのみちピンとこなかったかもしれない、とも思う。 時代を変更した割に、大まかなストーリーやエピソードに、今のところ目立った改変が見られず、なんとなく辻褄が合っているのには、逆に驚く。 戦争、裏社会の構造は、根本的に変わっていないということなのだろう。 ただ、結局、2クールでも尺が足りず、全体的に、急ぎ足過ぎるように感じるのだが、原作を知らない人にとってはどうなんだろう? 原作は完結まで9年かかり、その間、絵柄も えらく変わっているので、なんとなく、アッシュと英二の関係も じっくりと熟成されたもののように当時は感じられたが、アニメは、原作のエピソードを追うことに精一杯な感じがして、初めて観る人には、その辺、説得力に欠けるのではないかと気掛かりだ。 逆に、尺に余裕が無いお陰で、余計なオリジナルシーンが今のところ殆ど無いのは良かったとも言える。 それこそ、ヘンに腐女子向けのサービスシーンなど増やされた日には、台無しになりかねない。 作画に関しては、原作のカッコ良さ(ポーズなど)を再現しきれていないシーンもあるが、要所での アクションや主要キャラの表情など、全体的には頑張っていると思う。 キャスト(声優)については、最初は、なんつーか、地味というか、随分、ハスキー系(内田雄馬、野島健児ほか)で固めたなぁ、と思った。 ひょっとしたら、超メジャー級声優を確保できなかっただけかもしれないが、結果的には、良い人選だったかもしれない。 メジャー声優に多い「よく通る美声」や「甘い声」は、ちょっとイメージではないようにも思う。 それに、正直、アッシュについては、誰が演じても、あまりピンとはこなかったろう。 さて、ここからは蛇足だが、今シーズン、エンゼルスの大谷翔平選手の試合を毎日のように観ていた中で 『BANANA FISH』のアニメ放送が始まったので、大谷君に “英二” が重なって見えて仕方なかった。 顔や髪型だけでなく、純朴そうなところとか、東洋人の少ないベンチ内で、周囲が彼を、やたら大事に扱っている光景とか…。 作者によると、英二のモデルは 俳優の「野村宏伸」だったそうだが、そう言えば、大谷君の方がだいぶあっさりはしているものの、顔がちょっと似てるかもしれない…。 …いや、若い人は、「野村宏伸って誰だよ」とか「あんなオッサンと 大谷君を一緒にするな」とか思うだろうが、野村宏伸も30年前は、あれで相当カワイかったのだ。 そう考えると、大谷君も30年経ったら、あんな感じのオッサンになっちゃうのかな…、と複雑な気分だ。 童顔男性は、年取るとビミョーになってしまうことが多い。 つまり、30余年というのは、そういう “ビミョーな時の経過” を意味しているのだ。 従って、当時の感動を その通り再現するのも 生易しくはない、ということだ。 <関連日記>田村由美 『 BASARA 』…… キャラクターの魅力が長編漫画の命 三部けい 『 僕だけがいない街 』…… サスペンスというよりは 「生き方」 を問う作品 筒井哲也 『 予告犯 』 ・・・ 「綺麗にまとめた」 のが救い の犯罪サスペンス ※ 紙書籍(文庫版)は、早い巻の「あとがき」で盛大なネタバレがあるらしいので、注意!!BANANA FISH(1)【電子書籍】[ 吉田秋生 ]BANANA FISH(第1巻) (小学館文庫) [ 吉田秋生 ]井哲也 『 予告犯 』 ・・・ 「綺麗にまとめた」 のが救い の犯罪サスペンス
2018年10月03日
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★ 『 イロメン ー 十人十色 ー 』 田村由美 (2014年~) 電子書籍にて、既刊3巻読了。 名字に含まれる色(赤木、青木、緑川など)にこだわり、互いに張り合うサラリーマンのやりとりを描くコメディ。 田村由美さんの笑いのセンスは、『7 SEEDS』 や 『猫mix幻奇譚とらじ』 などの長編ストーリー作品でも常々認めるところだったが、この『イロメン』は、そのコメディ要素ばかりを詰め込んだ、ショート漫画だ。 ほぼ、「色にまつわる」ネタに限られることから、続けて読むと多少飽きてくるところは否めないが、私的には、元ネタの世代的にも、テンポや表現方法など 笑いのツボにも “ストライク” で、少なくとも1巻は、かなり笑えた(2巻以降は雑学ネタが増え、笑いの面では少しパワーダウンする)。 戦隊ヒーローものや古い漫画など「一切見たことがない」という人以外、誰でもある程度は笑えるに違いない…と、私は思ったのだが、Amazonのレビューには、意外に低評価のものが見られる。 賛否両論、「手放しに爆笑できる人」と、「全く笑えない人」に二分されるようだ。 「笑いのツボ」と「泣きのツボ」に関しては、本当に人それぞれなんだな、と改めて痛感した。ギャグ漫画だけは、全巻オトナ買いはしない方が良い。 私自身、『荒川アンダーザブリッジ』 や 『となりの関くん』 など、アニメ化までされた人気作品でも余り笑えないものがあったし、同じ作者(東村アキコ)でも 『海月姫』 は笑えるけど、『主に泣いてます』 は殆ど笑えない、というケースもあったので、こればかりは低評価をつける人を責められない。 そうは言っても、何故ここまで評価が割れるのか、純粋に理由は気になる。 この作品に限らず、評価が極端に割れる作品の低評価レビューは、「高評価につられて買ったけど損した」という怒りに任せて書きこむ人が多いように見受けるので、好・不評の比率や “主張の強さ” が、必ずしも潜在数に比例するとは思ってないが…。 1巻で頻出するネタが、戦隊ヒーローなど、どちらかと言うと男性オタク向けの内容であるにも関わらず、掲載誌や絵柄がモロに少女漫画…というミスマッチのせいで読む気にもならない、というなら分からなくもないのだが、「田村さんの他の作品は好きだけど」とか「元ネタは全て分かるけど」と断りながら、それでも「全く笑えない」人がいるとは、ちょっと意外だった。 「ネタどうこう以前に、ノリやテンポが肌に合わない」という人は別にして、やはり世の中、オタクと非オタクの感性の溝は深いのかな、と思う。 幼少期に漫画やアニメや特撮ヒーローものを観ても、その場かぎりで忘れ果て、思い入れを全く持てない人は一定数(もしかしたら、大多数?)いて、そういう人にとっては、「ゴレンジャー」の色別の特徴など、心底、どうでも良いのかもしれない。 とはいっても、「下の名前なら愛着持つのも分かるが、名字の色に何でそんなに執着するのか疑問」というレビュアーは、さすがに、ズレすぎてて唖然とした。 いや、それを言ったらおしまい…つうか、殆どのギャグ、パロディーが成り立たないのではないか。そのコメント自体、ギャグで言ってんのかと再三読み返したが、どうやら大真面目のようだ。 …ちなみに、敢えて、このレビューにマジレスすると、「名字よりも下の名前に愛着を持つのが普通」という考え自体が浅慮だし、そもそも、日本では社会人になれば名字で呼び合う方が一般的で、本人の愛着の有無などお構い無く、下の名前を他人に言ったり聞かれたりすることすら、激減する(マジレスおわり)。 1971~2年放送の 『天才バカボン』第1シリーズで、「父親が働かずに生活してるのはおかしい」というスポンサーからのクレームで、無理矢理 パパに植木屋という職を与えた…という有名な話があるが、このレビューは、それを遥かに凌ぐ “野暮さ” 加減だ。 『ぷりぷり県』(吉田戦車)読んで「何故、県民性にこだわるのか?」だの、『ぼのぼの』 (いがらしみきお)読んで「海のラッコが 森のリスやアライグマと交流するか?」だの、それを “本気で” 疑問に思っちゃう人は、そもそも、お笑い鑑賞には向いてない。 こういう人は、他人の趣味やこだわり全てに、いちいちケチをつけそうで、「こだわりが身上」のオタク気質の人間とは永遠に分かり合えないのではないか。 ともかく、評価が両極に割れる作品については、星の数だけで判断すべきではないな、と改めて思った。 面白さを感じるツボが人それぞれということもあるが、低評価レビューの中には、内容をよく読まずに作者や販売方法への不満をぶつけている場合もあるし、逆に、高評価レビューも、感想が具体性に欠ける場合は、「サクラ」の可能性もありそうだ。 特にBLや少女漫画など、ただですらレビュー数の少ないジャンルの作品は、一つのレビューが総合評価にモロに直結するので、内容以外のことで評価を下げるのは、本当に罪作りなことだと思う。 なんだか、大半「Amazonレビュー」のレビューみたいになってしまったが、正直なところ、自分の感性に自信が無くなってしまったので、「読む人を選ぶ作品だから、試し読みしてからどうぞ」としか言いようがない…。 <関連日記>田村由美 『 BASARA 』…… キャラクターの魅力が長編漫画の命 田村由美 『 7 SEEDS 』…… 登場人物すべてが愛おしい 東村アキコ 『 海月姫 』…… 全編 「漫才」 の恋愛漫画 森繁拓真 『 となりの関くん 』…… 姉弟で同じ道を選んだら 比較されるのも仕方ないよね 東村アキコ 『 主に泣いてます 』…… キャラクターに魅力がないと ギャグも冴えない 中村光 『 荒川アンダー ザ ブリッジ 』…… 着想が良くてもシナリオが悪いと笑えない 久保保久 『 よんでますよ、アザゼルさん。 』…… 別に 「下ネタ 好き」 なわけではありません 島本和彦 『 アオイホノオ 』…… オタク気質の人には共感できるはず 佐倉準 『 湯神くんには友達がいない 』…… 揺るがぬ 「唯我独尊」 田村由美 『 猫mix幻奇譚とらじ 』 ・・・ 「猫の愛らしさ」だけでない 子育て世代に読んでほしい冒険ファンタジーイロメンー十人十色ー(1) (マーガレットコミックス) [ 田村由美 ]イロメン ー十人十色ー 1【電子書籍】[ 田村由美 ]
2018年09月16日
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★ 『 猫mix幻奇譚とらじ 』 田村由美 (2006年~) 電子書籍にて、既刊11巻 読了。 人間とねずみが戦争する異世界で、王に忠誠を誓ってねずみと闘う勇者「パイ・ヤン」が、「魔法のねずみ」にさらわれた幼い息子を捜して、人間の言葉を話す 猫mix「とらじ」らと旅をする冒険ファンタジー。 女性漫画家は、SNS投稿などを見る限り、殆どの人が猫飼ってるんじゃないかと思うほど 猫好きな方が多い印象で、実際、大島弓子さんのように、飼い猫との生活を漫画作品にする作家さんもいる。 可愛らしい猫の表紙絵やタイトルを前面に押すこの作品も、読む前は、その類のエッセイ漫画か、或いは、猫を擬人化した ほのぼの漫画のどちらか、と予想していたが、実際は、案外シリアスな人間ドラマを主軸とした冒険ファンタジーだ。 勇者パイ・ヤンは、国を守って闘うことに掛かりきりで何年間も妻子を放置していたばかりに、誘拐された息子の顔すらハッキリ分からない。 一時は妻の信頼も失い、魔法のねずみによって 猫mixにされた飼い猫 とらじ の鼻を便りに、息子を取り戻す旅を続ける。 人の言葉は解するが見た目や習性は猫、精神的には幼児レベルの とらじ と行動を共にし、守ろうとする中で、パイ・ヤンは初めて、親として、人としての情愛に目覚めていく。 それにしても、『 7 SEEDS 』という大作と平行して連載されてきた作品だと思うと、本当に、田村由美さんという人の頭の中はどうなっているんだろうかと感心する。 冒険ファンタジーと言うと、『 ONE PIECE 』のような少年漫画ばかりが取り沙汰されるが、それぞれの面白さはあるにしても、私は、架空世界設定のアイデアの引き出しの多さ、描写の分かりやすさという点では、田村由美さんの右に出る現役作家は、そう多くないのではないかと思う。 何度も言うようだが、「キャラデザや恋愛表現が 少女漫画的だから」などという理由で毛嫌いして遠ざける人は、自分が読まないのは勝手だが、ろくに読みもしないで 少女漫画全般をバカにするのはやめて頂きたいものだ。 作品の内容に話を戻すと、設定やストーリーの奇抜さ、面白さだけでなく、相変わらず、キャラクター作りの上手さにも唸らされる。 『 BASARA 』や『 7 SEEDS 』同様、パイ・ヤンほか 大人の男性キャラは皆カッコよく魅力的だが、この作品においては、それ以上に、とらじ含め 子供や動物のキャラクターが本当に可愛らしく、癒される。 物語のテーマが案外シリアス とは言え、『 7 SEEDS 』などと比べ、そこまで緻密なストーリーというわけではなく、ご都合主義的な顛末も多いが、この作品の一番の見所は、やはり、キャラクター同士のやりとりの可笑しさ、ギャグ要素であり、(今のところ)過度に残忍なシーンや鬱展開も少ないので、気楽に楽しく読める。 パイ・ヤンは「生真面目過ぎて融通がきかず、冗談も通じない男」だが、そんな大の男が、「気ままで人の迷惑を考えない猫」の習性をそのまま持つ とらじ の一挙一動に、真顔で驚いたり、振り回されたりする姿が、一々笑える。 とらじが体現する「猫の習性あるある」は、猫好きな読者にとってはたまらんだろうし、細かい手書きの「つぶやき」のようなセリフも、無駄なく可笑しいので、読み漏らさないことをお奨めしたい。 やや欠点は、季刊誌連載の為、単行本刊行ペースが遅く、また、他の主連載作品に比べると、作画が若干、雑な感じがするところだ(この作品に限り、仕上げを全てデジタルでやっているとのこと)。 11巻現在、そろそろクライマックスが近付いているような段階ではあるが、12年掛かっていることを考えると、まだ動かし切れてないキャラクターも多く、ちょっと勿体なく感じるところはなくもない。 <関連日記>田村由美 『 BASARA 』…… キャラクターの魅力が長編漫画の命 田村由美 『 7 SEEDS 』…… 登場人物すべてが愛おしい 草川為 『 八潮と三雲 』…… 「笑いと萌え」 ~ 少女漫画の良さを再認識させてくれる作品 大須賀めぐみ 『 VANILLA FICTION 』 ・・・ 「尤もらしい設定」 など無くても良い場合もある猫mix幻奇譚とらじ(1) (フラワーコミックス) [ 田村由美 ]猫mix幻奇譚とらじ(1)【電子書籍】[ 田村由美 ]
2018年08月30日
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★ 『 世界で一番、俺が〇〇 』 水城せとな (2016年~) 電子書籍にて既刊5巻読了。 それぞれ人生に不満や葛藤を抱きつつも、居心地よく堅固な親交を続けてきた 幼馴染みの28歳青年 3人組が、「セカイ」と名乗る、超常現象を操る謎の団体のエージェントの女性から「3人の中で誰が一番不幸か」を競うゲームへの参加を持ち掛けられ…、というストーリー。 少女漫画やBL畑で人気を博してきた作者としては、初の青年誌(『イブニング』)連載作品のようだ。 もともと、人の欠点やネガティブな感情に焦点を当てて描く作家さんだが、今回もその辺はいかんなく発揮され、キャラクター全て、魅力的とは 到底言い難い。① 不幸な過去を背負い 人生を冷めた目でしか見られず 敵の多い男② 若い頃 人気者で慢心していた結果 仕事も実績も持ってないことに焦る男③ 性格の良さ以外に取り柄が無く ブラックなアニメ制作会社で酷使され 疲弊している男…リアル過ぎて、直視し難い。 30歳を目前にして、若い頃は「明るいもの」と 漠然と信じていた未来が 残酷なまでに空虚なものであることに、それぞれ気づき始めている。それでも、適度なコメディ描写を交えながらの、先が気になるストーリー展開には、毎度感心させられるところではある。 得体の知れない組織によって、「命」や「莫大な賞金」などを賭けてのゲームをさせられるサバイバルファンタジーは、少年・青年向け漫画では珍しくもないが(『 LIAR GAME 』、『 VANILLA FICTION 』など)、これまでの水城作品に馴染んだ読者なら、これが単なるバトルや競争を描くだけでは終わらないであろうことは予想がつくだろう。 そもそも、「不幸度」を数値化し、他人と比較するなどという前提自体に相当の無理がある中、絆の深い(はずの)親友同士で競争させることに、そう単純ではない、作者の意図を感じる。 5巻現在、控え目に言っても、かなり読み味は悪く、「ドロドロ」が苦手な人はイヤになってしまいそうな展開だが、このまま、「脚の引っ張り合い」や「人間性の喪失過程」を見せるだけで終わるような、或いは、「やっぱり友情って尊いよね」なんて陳腐な結論で終わるような、…そんな単純な話ではないに違いない、と期待してしまう。 つうか、値引きセールとは言え、既刊全巻 購入してしまったからには、是非そうなってくれると信じたい。 <関連日記>水城せとな 『 失恋ショコラティエ 』…… 最終的に誰と誰がくっついても、どうでもいい恋愛漫画 水城せとな 『 同棲愛 』…… 「一途さ」 がまねく 悲恋の数々 水城せとな 『 脳内ポイズンベリー 』…… 苦い記憶や加齢の不安で退行する 30女の精神世界 甲斐谷忍 『 LIAR GAME 』…… 「頭脳」 と 「清廉さ」 とのコラボが生む奇跡 大須賀めぐみ 『 VANILLA FICTION 』 ・・・ 「尤もらしい設定」 など無くても良い場合もある世界で一番、俺が〇〇(1) (イブニングKC) [ 水城 せとな ]世界で一番、俺が〇〇1巻【電子書籍】[ 水城せとな ]
2018年08月26日
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★ 『 カカフカカ 』 石田拓実 (2013年~) 電子書籍にて、既刊7巻読了。 就職の失敗や同棲相手の裏切りなどで路頭に迷ったヒロインが、急遽入居することになったシェアハウスで中学時代の元カレと再会。他の入居者含めた三角(四角)関係の渦中に…、というストーリー。 改まって粗筋書いてみてビックリするほど、色んな意味で「またか」というという言葉しか出て来ない。 〇 赤の他人の男女が、いきなり同居生活…の「またか」 私がここで感想書いただけでも、以下の通り、こんだけある。 ・ 『 娚 (おとこ) の一生 』 西炯子・ 『 きみはペット 』 小川彌生・ 『 逃げるは恥だが役に立つ 』 海野つなみ・ 『 ダメな私に恋してください 』 中原アヤ・ 『 ハコイリのムスメ 』 池谷理香子 〇 石田拓実作品のキャラ設定の「またか」 ・ 「優柔不断で自己肯定感の低い」ヒロイン・ 「地味だがやる時はやる」男①・ 「チャラいが意外に色々考えてる」男②・ 「美人だが性格エキセントリック」な女 …みたいな、いつもの構成。 しかも、たまたまではあるが、前回感想書いた 『凪のお暇』 と、ヒロインのキャラ設定が丸被り。 『凪のお暇』は3巻で挫折しながら、これは何故7巻まで読んだのかと言えば、ぶっちゃけ、電子書籍のまとめ買い値引き商法に乗っちゃったのもあるが、読み出すと(バカバカしいながらも)先が気になる石田作品の吸引力も認めざるを得ない。 両作品とも、ヒロインの「優柔不断」、「自己肯定感の低さ」という性格だけでなく、「定職に就けない(失業中)」、「家事、料理は得意」という現状までもがそっくり。 オトナ女子向けに、性的な問題含め、色々と理屈をこねてはいるが、「いい男をゲットするのが女の人生の至上命題」みたいな大前提は、どちらも旧態の少女漫画と大して変わらない。 ただ、これまでのところ『凪のお暇』の方が、キャラもストーリーも現実的ではあるし、恐らく、一般ウケするのもそちらだろう。 この『カカフカカ』は、ヒロインが若くして挫折感に苛まれ自省的な点では、読者の共感を呼びそうだが、その他のキャラクターが3人とも、余りに浮世離れしているので、より「漫画的」で、リアルとは言い難い。 こうなると、完全に読者の好みになるだろうが、私の場合は、リアル過ぎて生々しい『凪のお暇』よりも、この位、ぶっ飛んでる方が、却って物語世界に感情移入できる。 テーマは「恋愛や性欲のなんたるか」一辺倒、ヒロインは見事に恋愛のことしか頭にないし、エピソードも対話も、殆どシェアハウス内の4人の間だけで展開していく。 このヒロインみたいな女が実際に身近にいたら、「もっと、就職活動とかその為の勉強とかしろよ」と言いたくなるだろうが、大して魅力のないヒロインの社会的な活躍が見たいわけでもなし、恋愛の駆引きだけ延々見せるのも、漫画としては却って潔い。…まあ、「それだけ」で7巻(未完)は、いい加減、引き延ばし過ぎだとは思うが…。 ただ、今回に関しては、「いつもの」ボンヤリ黒髪男①よりは、「当て馬役」のチャラ男②の方が、私的には共感できる。 正直、このまま、いつものパターンでの結末なら、石田作品にもそろそろ見切りをつける頃合いかな、とは思っている。 <関連日記> 西炯子 『 娚の一生 』…… 恋に貪欲な中年男がサブい 小川彌生 『 きみはペット 』…… デッサン力、キャラクターに筋が通った 大人向け作品 海野つなみ 『 逃げるは恥だが役に立つ 』…… 結婚制度や現代社会の問題点を考えつつ ラブストーリーも楽しめる 石田拓実 『 はしたなくてごめん 』…… ジミメンに目を向ければ リア充な高校生活も夢じゃない(かも) 石田拓実 『 パラパル 』…… 科学的なテーマも、でっかいんだか ちっちゃいんだか分からない話に 中原アヤ 『 ダメな私に恋してください 』…… あり得ないストーリーだからこそ、人物設定にはリアリティが欲しい 池谷理香子 『 ハコイリのムスメ 』…… 意外に常識的なメインキャラたちが 嘘くささを払拭 志村貴子 『 こいいじ 』、 『 娘の家出 』 ・・・ 身近な恋愛模様を見せつけられているような心地悪さ 石田拓実 『 トライボロジー 』 ・・・ 理工学部の男女関係の現実 コナリミサト 『 凪のお暇 』 ・・・ ヒロインの自己憐憫体質は 変わらない カカフカカ(1) (Kissコミックス) [ 石田拓実 ]カカフカカ7巻【電子書籍】[ 石田拓実 ]
2018年08月22日
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★ 『凪のお暇』 コナリミサト(2017年~) 電子書籍にて、既刊4巻中、3巻まで読了。 1巻を無料期間に読んで、かなり迷った挙げ句、キャンペーンに負けて3巻まで購入して読んだ。 先が気にならないわけではないのだが、正直、この先、定価で買うほどのものか、読み続けるべきものなのか、その判断にすら迷っている状況だ。 何かの漫画賞を受賞したらしく、Amazonの評価も概ね好意的。 しかし、その評価のアベレージの高さには、逆に違和感を覚えた。 と言うのも、レビューの中には低評価のものも少しはあるが、殆どが特定キャラクターの性格などに対する不満で、絵柄や作画への批判が余り見られなかったのだ。 話題性の高い漫画賞を受賞したとなると、やたら作画にこだわるレビュアーが湧いて出てくるのが常。 私的には、この作者の作画は独特のセンスがあって悪くないとは思うが、ハッキリ言って、 『重版出来』 以上に、格好の標的になりそうなタイプ(一部のオタクが求めて止まない美麗さや細密さに欠けたもの)のように見えたのだ。 で、よくよく調べてみたら、受賞したというのは 「ananマンガ大賞」 ということで、やっと納得した。 いや、決して、ananの編集や読者のセンスをバカにするわけではない。 実際、過去の受賞作には、 『大奥』(よしながふみ)や 『高台家の人々』 (森本梢子)など、私の大好きな作品もかなり含まれている。 だが、「ananマンガ大賞は、「イケメンが出てくること」「ラブストーリーであること」などを審査基準に、編集部のマンガ好きが選考するマンガ賞」 とされていることからも分かる通り、かなり、読者対象を絞った(アラサー以下の独身女性)作品が選ばれることは確かだろう。 読むのが遅い私でも、この作品は、一冊30分もかからず読めてしまったので、ふだん漫画を余り読まない層にも読みやすい作風なのだと思う。 私は中高生向けのベタな少女漫画でも、「良いものは良い」と評価してきたつもりだ。 この作品も、決して面白くないわけではないし、キャラクターに共感したり同情するシーンも多々あるのだが、多分、ananの読者層にウケるというだけあって、アラサーヒロインの生態が妙に生々しく、3巻一気に読むうち、なんだか「どうでもいい相手の愚痴やモテ自慢を 延々聞かされるような胸焼けがしてきた」…というのが本音だ。 空気を読み過ぎて言いたいことを言えず、他人に従い、合わせてばかりいたら、損を食って、裏切られて、傷付けられてプッツン…、仕事も男も断捨離して失業生活。…というのが出だしの大まかなストーリー。 まず、このヒロインに自分を重ねて共感する若い女性読者がやたら多そうで、そういう読者らに おもねる展開引っくるめて、私はちょっと うすら寒く感じる。 言いたいことを我慢して、余計な仕事まで引き受けてしまう女性は、現実にも少なくないだろうが、このヒロインは、さも、自分自身の性格の問題だとエクスキューズしながら、同僚女性たちのレベルの低さや底意地の悪さを、執念深い視線で一つ一つクローズアップし、なんだかんだ言って結局、 「仕事は有能、家事も一級なのに、周りに無神経なバカが多くて正当に評価されない、可哀想な私」 という被害者意識に凝り固まっている。 まるで、太宰治が『人間失格』で、「主人公はダメ人間」と最初に断った上で、周囲の人間への恨みつらみを挙げつらったのに似た手法で、「自分(ヒロイン)が一番悪いけど」と前置きすれば、他人を いくら悪し様に言っても許される …という作者の計算を感じてしまう。 そんな自分を変えたくて断捨離したまでは立派だが、多少、意見を言えるようになったからと言って、ズルズルと他人に振り回され、何でも他人のせいにしたい性格は、そう簡単には変わらない。 女性の間では存在感の薄いヒロインが、男にはやたらモテるという設定も、本来なら「少女漫画のお約束展開」として大目にみたいところだが、このヒロインのようなタイプは、現実にも さもいそうで、やはり生々しい。 ヒロインに付きまとうモラハラの元カレを批判し、「モラハラは治らない」と断じるレビュアーが複数いたが、その発言をそのまま返したくなる。 「ヒロインの性格も恐らく、根本的には治らないであろう」と。 逆に、彼女が大きく変わったら、これ以上なく嘘くさい。 ヒロインは既に「自分の浅ましさ」を自覚し、「自覚できる自分」に酔ってすらいる。 仕事も家事能力も高く、男からはモテモテ …ときて、もはや、どこが可哀想なのかもよく分からない。 そう考えると、これ以上お金払って読んでも、どうなのかな? と思ってしまうのだ(売れて、連載が無駄に長期化していそうなのも懸念材料)。 正直、何度も眺めたくなるほどの絵柄でもなし、あらすじと結末さえ分かれば良いような気もしている。 <関連日記>よしながふみ 『 大奥 』…… 閉ざされた世界の 「種馬」 の悲哀 東村アキコ 『 かくかくしかじか 』…… 確かな 「デッサン力」 があるから、雑の中に味がある 岩本ナオ 『 町でうわさの天狗の子 』…… 「普通の子」 みたいな 「天狗の子」 藤村真理 『 きょうは会社休みます。 』…… 「純情」 を維持することの希少さ 池谷理香子 『 シックス ハーフ 』…… ありきたりな設定でも展開が読めない恋愛漫画 森本梢子 『 高台家の人々 』…… テレパスできるからこそ、ままならない恋 きら 『 パティスリー MON 』…… 淡白でじれったい 「社会人の恋愛」 に好感 東村アキコ 『 東京タラレバ娘 』 …… 「絶望的にありきたり」 な設定を、ギャグやテンポでカバー 海野つなみ 『 逃げるは恥だが役に立つ 』…… 結婚制度や現代社会の問題点を考えつつ ラブストーリーも楽しめる 中原アヤ 『 ダメな私に恋してください 』…… あり得ないストーリーだからこそ、人物設定にはリアリティが欲しい 水城せとな 『 脳内ポイズンベリー 』…… 苦い記憶や加齢の不安で退行する 30女の精神世界 金田一蓮十郎 『 ライアー×ライアー 』…… 「欠陥人間による グズグズな恋愛」 と割り切って読もう 池谷理香子 『 ハコイリのムスメ 』…… 意外に常識的なメインキャラたちが 嘘くささを払拭 御手洗直子 『 31歳 BLマンガ家が婚活するとこうなる 』…… 読み手の状況によって、評価が180度変わる 志村貴子 『 こいいじ 』、 『 娘の家出 』 ・・・ 身近な恋愛模様を見せつけられているような心地悪さ 松田奈緒子 『 重版出来! 』 ・・・ いかに嘘や夢を織り交ぜるかが 職業漫画の肝 芦原妃名子 『 Bread & Butter 』 ・・・ 中年に差し掛かった男女の、恋愛や結婚の現実 ジョージ朝倉 『 溺れるナイフ 』 ・・・ 現実と幻想 入り混じる作画表現に 感心 凪のお暇 1 (秋田レディースコミックスDX) [ コナリミサト ]凪のお暇 1【電子書籍】[ コナリミサト ]
2018年07月24日
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★ 『 ゴールデンカムイ 』 野田サトル(2014年~) 電子書籍にて、既刊14巻読了。アニメ1期(2018年)も視聴済み。 明治末期、日露戦争終結後の北海道で、アイヌの遺した金塊を追い求める男たちの争奪戦を描いた作品。 当時の実在の有名人や犯罪者、軍隊が入り乱れて展開される闘争や人間ドラマなど、複雑怪奇なストーリーだけでなく、北海道の狩猟技術やアイヌの風俗をふんだんに紹介されており、かなり内容の濃い作品だ。 この作品の感想を書くにあたって、作者の野田サトル氏の経歴を調べて驚いた。 23歳で上京し10年ほどのアシスタント生活、その間の数えられる程度の読み切り作品、そして、約1年で打ち切られたという連載作品(『スピナラマダ!』2011~12)という、ハッキリ言ってパッとしない作品実績を経て、この『ゴールデンカムイ』の連載・大ヒットに至ったというのだが、そうと思えない、ベテラン臭に溢れた作風だからだ。 とにかく、まず、取材力が凄い。 特にアイヌの風俗、狩猟技術などの部分は、ちょっと文献をかじった位では、とても描ききれそうにない詳しさで、確実に、物語や登場人物にリアリティを持たせる大きな要因になっている。 性急な読み手の中には退屈に感じる人もいるかもしれないが、もしもその部分がなかったら、歴史的人物をコマに使った荒唐無稽な「冒険アクション」として、そこそこは面白かったかもしれないが、大ヒットまでしたとは到底思えない。 また、画の迫力が凄い。 正直、読み始めて暫くは、「ヘタではないし背景の描き込みも手抜きがないけど、よくある劇画調の絵」という程度の印象だったのだが、この人の作画は、特にアクションになると、人物の動作も構図も非常に工夫とセンスがあり、本当に魅せられる。 勿論、目を背けたくなるような残虐なシーンも多いが、それも含めて、作者が相当、アクションシーンを楽しんで描いているのが伝わってくる。 風俗紹介の「静」と、壮絶な殺し合いという「動」の、両極端な要素が、これほどまで拮抗した作品はなかなか見ないような気がする。 そして、ストーリーやアクションの魅力をさらに上回るのが、キャラクターとユーモアだ。 正直、極論すれば、殆どの男性キャラが、揃って「変態でサイコパス」と言っても過言ではない。 勿論、脱獄囚が相当数登場するので、その連中がおかしいのは仕方ないとしても、それ以外の主要キャラも、かなり偏執狂的で灰汁の強い人物ばかりだ。 主人公の杉元ですら、女性や子供に対しては優しく紳士的だが、敵と対峙すれば、まるで殺人鬼のように慈悲もない。 普通に描けば「胸糞が悪い」で終わってしまいそうな変質者や悪役ですら、どこかユーモラスで笑える。 そして、彼らが織りなす会話や行動は、常にちょっとしたギャグに溢れている。 本筋は かなりシリアスで、敵味方が入り乱れ、誰が本当の味方か、いつ裏切られるのか分からない緊張感がありながら、読むのが辛くならないのは、多分にギャグ描写のお陰だろう。 少なくとも私は、金塊の行方や闘争の勝敗よりも、人物の日常的なやり取りの面白さが読み続ける動機になっている。<関連日記>花沢健吾 『 アイアムアヒーロー 』…… これでもかと描かれる 人間の醜悪さ 幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ岡本健太郎 『 山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記 』…… 今どきの 「狩猟男子」 に ギャップ萌え ヒラマツ・ミノル 『 アサギロ ~浅葱狼~ 』…… 新撰組ファンでもなんでもないが、人物描写に引きつけられる 三浦建太郎 『 ベルセルク 』 ・・・ 「バトル漫画」 の一言では片付けられないメッセージ性 大須賀めぐみ 『 VANILLA FICTION 』 ・・・ 「尤もらしい設定」 など無くても良い場合もある ゴールデンカムイ(1) (ヤングジャンプコミックス) [ 野田サトル ]ゴールデンカムイ 1【電子書籍】[ 野田サトル ]
2018年07月22日
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★ 『 鈴木さん 』 ヤマダ (2015年~) レンタルコミックにて、既刊4巻読了。 高校生たちの恋愛・学校生活をコメディーテイストに描いた作品。 全編、4コマ×2列のコマ割なので、4コマ漫画なのかと思いきや、特にコマ数や起承転結にこだわったわけでもなく、(言い方は悪いが) ダラダラと短いエピソードが続いていく。 ウェブ漫画であることが理由ではあろうが、前回、書いた 『溺れるナイフ』 と比べると、コマ割の工夫が全くないのは勿論、登場人物が平凡なことも含め、かなり対照的だ。 内容的には正直、1巻を読んでる間は、「失敗したかな」 と思っていた。 ギャグ漫画の中には、全くノリが合わず、セリフを読む時間が無駄に思えてくるものとか、セリフや内容に読みごたえが無さ過ぎて、お金の無駄と感じてしまうものすらあるが、そこそこ読める内容だとしても、延々と日常を描くばかりで、あまりにもストーリーの進展が無い (または、遅い) ものが、最近、巷に溢れ過ぎていて、それが好きという人も多いようだが、私のように、未読の電子書籍が山積みの人間にとっては、ストーリー性や感動に欠ける作品にやたら時間をかけていられないのが正直なところ。 これも、1巻の段階では、その手の作品という印象が勝っていて、4巻まとめて借りてなければ、2巻以降は読んでいなかったかもしれない。 そもそもの問題点として、絵柄が、万人受けはしそうだがオリジナリティには欠け (ウェブ漫画にありがちな感じ)、髪型も全員似ている (高校生の実態としてはリアルだが) 上、「鈴木」や「高橋」など、ありふれ過ぎてて却って覚えにくい名前を多用している為、キャラの区別が付くようになるまでに時間がかかる。 オールカラーで髪色の微妙な違いがあるから、かろうじて判別できるようになったが、モノクロだったら、そのことだけで嫌になっていたかもしれない。 また、途中でメインキャラとは別の、不良4人組のエピソードが差し挟まれるのだが、これが、(4巻までのところ) 本筋とほぼ無関係な為、Amazonのレビューでも賛否が分かれているが、最初のうちはちょっとイライラした。まあ、「無関係」 とわかってきてからは、却って、それなりに面白く読めるようになったが。 そんな感じで、ちょっとネガティブな先入観で読み始めた本作品だが、「話が進まない日常系」 という評価に関しては、2巻以降、徐々に払拭された。 「4コマ漫画の延長のギャグ漫画」という意識ではなく、最初からストーリー漫画として読むべきだったかと思う。 素直になれない思春期の片想いの切なさが、淡々としたセリフやコメディー調のやり取りの中に唐突に織り込まれてくるので、意表をつかれる。 終始ドラマチックな設定と展開でありながら、イマイチ共感できなかった『溺れるナイフ』よりも、この一見「日常系」の学園ラブコメの方が、少なくとも私は、そこかしこで、キュンときた。 無論、4コマギャグ漫画から始まって徐々にストーリーが発展し、「泣ける漫画」として評価を得た『自虐の詩』(業田良家)程のドラマ性はないし、そもそも、この作品は最初から4コマ漫画ではないのだが、均一なコマ割という足かせの中では、心理描写の上手さをかなり発揮していると思う。 そう思いつつ、この作者が連載中の別の作品、 『鯛代くん、君ってやつは。』 を読んでみたら、やはりコマ割は単純ではあるものの、 『鈴木さん』 よりも1コマ1コマが大きく、絵的な情報量が多いので、かなり画力のある漫画家さんだということが改めて分かった。 『 鯛代くん、君ってやつは。 』 は (著者初の) BL作品だが、1巻の段階では、過激なエロは無いし、やはり、萌えを引き出すのが上手く、作画センス的にも見せ場が多いので、『鈴木さん』 の作風が好きで、BLに抵抗の無い人にはお薦めしたい。 <関連日記>あずまきよひこ 『 よつばと! 』…… 「虚構の世界」 だからこそ、憧れられる森繁拓真 『 となりの関くん 』…… 姉弟で同じ道を選んだら 比較されるのも仕方ないよね青桐ナツ 『 flat 』…… 書店員は ユルい漫画 がお好き? 阿部共実 『 空が灰色だから 』…… 若者たちのイタい日常 椿いづみ 『 月刊少女野崎くん 』…… アニメのキャスティングが 成功の鍵オジロマコト 『 富士山さんは思春期 』…… デカい女に突きつけられる 「好かれる条件」 ジョージ朝倉 『 溺れるナイフ 』 ・・・ 現実と幻想 入り混じる作画表現に 感心鈴木さん(1) (ガンガンコミックスONLINE) [ ヤマダ ]鈴木さん 1巻【電子書籍】[ ヤマダ ]鯛代くん、君ってやつは。(1)【電子限定おまけ付】【電子書籍】[ ヤマダ ]
2018年04月26日
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★ 『 溺れるナイフ 』 ジョージ朝倉 (2004~2013年) 電子書籍無料版およびレンタルにて、全17巻読了。 実写映画 (2016年) は未見。 雑誌モデルとして頭角を現していた美少女が、転居先の田舎で、神の子のようなオーラを放つ不良少年と運命的に出会って・・・という青春恋愛漫画。 ジョージ朝倉さんの作品は初めて読んだが、とにもかくにも、作画に相当のこだわりとセンスが溢れていて、終始、目を引き付けられた。 絵柄的には、女性キャラの瞳が大きすぎる点も含めて好き嫌いが分かれそうだが、そんなことは些末な問題に思えてくる程、コマ割、構図に工夫があり、情景描写や心象風景など、心に迫るものがある。 最近、青年誌系でもてはやされているような、実写的な細密さを売りにしたものではないし、ものすごく絵が上手いとまでも言えないが、躍動感のある人物のデッサン等も含め、 芸術性では独特のものがあり、もう少しコマ割をわかりやすくすれば、青年誌向けの (玄人受けする) 作画センスだと思う。 ただ、胸をざわつかせるような、現実と幻想・回想が交錯する描写や、心的葛藤のモノローグにページを割くことで、作品全体としての重厚感を増しているのは大いに認めるとしても、読み終えて、17巻分のストーリー、エピソード力があったかと言うと、正直、手放しでは評価しづらい。 最終17巻のAmazonのレビューに、テーマ・あらすじを、揶揄した論調でまとめている人がいたが、まさに、「ストーリーを言葉で説明してしまうと、空虚」 と言えなくはない。 勿論、ワンパターンな人物のアップばかりの作画で、陳腐な三角関係を延々と引っ張る 一部の少女漫画作品に比べれば、テーマは重く、人物の行動心理も簡単には読めない(読者に考えさせる)部分はあったが、大筋のストーリーとしては予想の範囲内で、特別な斬新さはない。 実写映画は観てないし評価も全く知らないが、その気になれば、かなり原作に忠実に、17巻分を2時間で作れてしまいそうにすら思える。 ドラマチックな出会いを果たすメインキャラの年頃が 「小学生」 というのは、導入としてはアリだとは思うが、その後、延々と繰り広げられる劇的な「愛憎ドラマ」も、実は殆ど小中学生時代のエピソードが占めていて、(いくら背伸びしたい盛りの中高生向け作品とは言っても) 思考も言動もマセ過ぎているし、暴力描写などからは、なんかもう、ヤクザの抗争に近いような人間関係の混沌を見せつけられる。 まあ、ホンモノの美少女は、ただ存在するだけで次々ドラマが降りかかってくるものなんだろう、という想像はつくので、自分とは別世界の話として感情移入はできるのだが、作画表現や心理描写に、終始、心が掻き乱される割には、キャラクターに激しく共感したり、泣けたりという場面が、私には殆ど無く、結局、「傍観者」以上にはなれなかった。 これは、自分が歳を取りすぎているだけの問題ではないような気がする。大人の読者で 「自分にもこんな時代があった」 などと共感できる人は、自身も よっぽどリア充だったか、逆に、余り現実の異性と関わらず、空想の中に生きてきた人ではないだろうか。 さらに惜しい、と思うのは、ヒロインの魅力を イマイチ感じとれなかった点。 スカウトされる人が持つオーラは特別、という理屈は分かるのだが、持って生まれた見た目の美しさ以外に、どれだけ特別な魅力があるのか、エピソードや本人の言動からは余り伝わってこない。 かろうじて、読者には 「裏表のないイイ子」 位の印象は与えられるが、 終始、ヒロイン中心に世界が廻っているにも関わらず、恋愛も仕事も、そして不幸すらも、「よそから 降って湧いてくる」 ばかりで、なんだか、とどのつまり、「美人すぎるのも 苦労だね」の一言で言い表せてしまいそうだ。 <関連日記> 「モテる女はつらいよ」 関連東村アキコ 『 主に泣いてます 』…… キャラクターに魅力がないと ギャグも冴えない いくえみ綾 『 プリンシパル 』…… 「読後うつ」 に ご注意池谷理香子 『 シックス ハーフ 』…… ありきたりな設定でも展開が読めない恋愛漫画 ぢゅん子 『 私がモテてどうすんだ 』…… 逆ハーレムを茶化しつつ、男たちの成長を描く? 藤末さくら 『 あのコと一緒 』…… 歪な関係が理由もなく収束していく 高校生の生態 やまもり三香 『 ひるなかの流星 』…… 「教師と生徒の恋愛」 以上に 気になる問題 桃森ミヨシ 『 悪魔とラブソング 』…… セリフに哲学はあるが、肝心のストーリーに説得力がない 幸田もも子 『 ヒロイン失格 』…… 恋する男女は、皆 「計算」 している? 紺野りさ 『 胸が鳴るのは君のせい 』…… 恋人には 何でもかんでも打ち明けるべき? 清水玲子 『 輝夜姫 』 ・・・ 設定もキャラも 「盛り過ぎ」 て 散漫 溺れるナイフ(1) (別冊フレンドKC) [ ジョージ朝倉 ]溺れるナイフ1巻【電子書籍】[ ジョージ朝倉 ]
2018年04月09日
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★ 『 BLUE GIANT 』 石塚真一 (2013~16年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全10巻読了。 続篇 『BLUE GIANT SUPREME』(既刊3巻) は未読。ジャズに魅せられた少年が、独学でテナーサックスを習得しプロ奏者を目指す話。 物語は、主人公の中高生時代から始まるが、巻末毎に、後年のサブキャラによる 「主人公についての当時の思い出を語る」 シーンが思わせぶりに入るので、鬱エンドになるのではないかと警戒したが、10巻(第一部)までのところ、(多少の悲劇はあれ)どちらかと言うと、割と正統な立身出世物語だ。私自身は正直言って、ジャズはよく分からない。 サックスやジャズの音色や曲調そのものは嫌いではないと思うのだが、即興で延々と演奏が続いて 「いつ終わるの?」 か分からない感じや、演奏者の自己陶酔げな表情や聴き手の玄人ぶったノリが鼻について、どちらかと言えば敬遠してきた分野だ。「理屈っぽそうなオヤジが聴く、排他的なジャンル」 という先入観で近寄らない人は、私以外にもいるのではないだろうか?この作品の良いところは、「ジャズ礼賛」 ばかりではなく、そうした、ジャズのネガティブなイメージや、廃れつつある現状をもシビアに描写しているところだ。『岳』 同様、メインキャラクターは、あくまで純粋で魅力に溢れた若者だが、くたびれて理屈っぽくなった中高年サブキャラの悲哀や自省を描き出すのが、実に上手い。音楽を漫画に描くのは限界もあり、魅力の全てを感じ取るのは難しいが、演奏の描写は迫力があり、心に響くものがある。 読み進めるうち、ちょっと、ジャズのライブに行ってみたくもなるし、仮にジャズには全く興味が持てなくても、人生ドラマとして楽しめ、感動できると思う。ただ、本気でジャズ奏者を目指して挫折した人や、ジャズに詳しい人などにとっては、所々で描かれるシビアなエピソードに、身につまされることもあるかもしれないが…。<関連日記>2013.10.17. 一色まこと 『 ピアノの森 』…… 闇があるから際立つ、天才たちの曇りのない純粋さ 2015.2.16. 小玉ユキ 『 坂道のアポロン 』……心寂しき若者たちが織りなす 友情 と 恋愛 2015.2.23. 石塚真一 『 岳 』…… 山男の行動原理から、人間の 「生き方」 を考える BLUE GIANT(1) TENOR SAXOPHONE/MIYAMOTO (ビッグコミックススペシャル) [ 石塚真一 ]価格:648円(税込、送料無料) (2017/12/26時点)BLUE GIANT(1)【電子書籍】[ 石塚真一 ]価格:540円 (2017/12/26時点)
2017年12月26日
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★ 『日に流れて橋に行く』 日高ショーコ (2017年~)電子書籍にて 既刊1巻読了。以前、「この人の “BL以外の” 作品も読んでみたい」と、ここで書いたことがあったが、念願かなって(?)、メジャー誌(『月刊 YOU』)掲載作品である(実際には4~5年前、同誌に前後編の作品を描いてるらしいので、初めてではないようだが)。舞台は明治時代後期の日本橋、時代の波に乗り遅れた老舗の呉服屋の経営を立て直そうと奮闘する青年らを中心に描かれる。相変わらず、絵柄に関しては、適度な写実性を保ちつつ、漫画的な美化の加減が絶妙で、(少なくとも男性キャラに関しては)万人に受けるデザインだと思う。 ファッションやポーズ、表情を含めて、人物の佇まいに品がある。各メインキャラの印象的な登場で読者の興味を引き付けつつ、時代的な背景や人心の動静などもテンポよく織り込まれており、物語の滑り出しとしては申し分ない。日高ショーコさんは、原作と作画担当の二人組らしいが、恐らく、非常に趣味嗜好の合うコンビなのだろう、ストーリーと作画のマッチングが絶妙だ。同じく明治期が舞台の 『憂鬱な朝』 は、絵的には時代の雰囲気を捉え、ストーリーもよく練られているものの、BL要素がかなり濃厚な為、読者層が限定されて残念、と指摘したが、この作品は、このまま「朝ドラ」のシナリオにでもなりそうな、設定も絵的にも、健全でリアルなムードに溢れている。BL漫画家では、他にウノハナさんなども二人組だが、ジャンル的に、趣味さえ合えば方向性は変わりにくいこと、元々、同人誌など仲良しの集まりから始まることが多い(世間一般からの目線も厳しいだけに絆も深かろう)こと、等々から考えると、二人組が成功し、かつ長続きするケースは多いのかもしれない。日本では、ストーリー(ネーム)も作画も両方デキる漫画家が多数存在する為、それが当たり前のように捉えられがちだが、潜在的には、絵は描けないけどアイデアはある人、或いはその逆も沢山いるだろうし、寧ろ、手分けをすることによって、より緻密な作品を産み出せるケースも当然あるだろう。まあ、藤子不二雄のように、双方がストーリーも作画も出来るが故に、実際には共同制作が長続きしなかったり、レアケースではあるが、原作者と漫画家との間で権利関係のドロドロの争いを繰り広げた挙げ句、作品そのものが絶版状態になってしまっている 『キャンディキャンディ』 の例もあるので、ノーリスクとは言い切れないが…。それにしても、実は「この作家のBL以外の作品を読みたい」と書いた時は、私がBLを読みだして間もない頃で、当時は純粋に「健全な」作品を期待していたのだが、すっかり「腐女子化?」してしまった今、心のどこかでつい、この作品に対しても、BL展開を妄想してしまいそうになる自分に恐怖している。BLがジャンルとして確立して以来、いわゆる「フツーの漫画」ファンとの間に溝が生まれ、中には、ちょっとしたBL展開や BL漫画家そのものに対して、憎悪にも近い批判感情をぶつけてくる読者もいるようなので、「BL作家の日高ショーコ」の新作として、この作品を紹介することは、足を引っ張ることにもなりかねないなと、ここまで書いておいてちょっと反省している。ともかく、才能のある作家さんなので、偏見を持たずに読んで欲しいと思う。<関連日記>2013.9.19 日高ショーコ 『 花は咲くか 』…… この人の 「普通の作品」 も読んでみたい 2015.12.30. 無駄に(?)作画のいい BL漫画家たち 2016.12.13. 日高ショーコ 『 憂鬱な朝 』 ・・・ 明治期の華族の意識を とことんまで描く 日に流れて橋に行く 1 (愛蔵版コミックス) [ 日高 ショーコ ]価格:712円(税込、送料無料) (2017/12/17時点)日に流れて橋に行く 1【電子書籍】[ 日高ショーコ ]価格:677円 (2017/12/17時点)
2017年12月17日
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★ 『 鉄腕バーディー 』 (全20巻) ゆうきまさみ (2002~08年)★ 『 鉄腕バーディー EVOLUTION 』 (全13巻) 同 (2008~12年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全33巻読了。アニメ『鉄腕バーディー DECODE』 (2008~09年)を先に視聴済み。地味で平凡な高校生少年が、地球に入り込んだ宇宙人同士の抗争に巻き込まれ、宇宙人警察官の女性(バーディー)と協力して陰謀に対峙するストーリー。瀕死の重傷を負わされた主人公が、本体の治療の間、バーディーの中に意識を取り込まれ「二心同体」の状態で生活しなければならないのがポイント。アニメを観たのがだいぶ前になるので、イマイチ記憶が朧気なのだが、原作を読んで気がついたのは、アニメは相当オリジナルストーリーが含まれるということだ。「含まれる」というか、正確に言うと、基本的な設定以外、展開はほぼオリジナルと言っても過言でなく、アニメは別物として観た方が良い。私的には、映像表現を含め、正直言って寧ろ、原作より アニメ2期(『DECODE:02』) が、バーディー自身のバックボーンや過去の詳細が描かれていて、一番面白く感じた記憶がある。原作に関しては、タイトルや絵柄、男女入れ換わりの設定などから、少年漫画の典型のような第一印象を抱かれそうだが(実際、作者が 1980年代に少年誌で発表した 未完の作品をリメイクしたもの)、読み進めると、内容は意外に難しい …というか、残虐なシーンや社会問題への風刺なども描かれていて大人向け(連載誌は 『ヤングサンデー』、『ビックコミックスピリッツ』)な作品になっている。ただ、問題やキャラを拡げ過ぎて 巻数が多い割に、事件そのものは一応解決するものの、今一つスッキリしない終わり方( “打ち切り説” も根強いようだ)で、人間関係や宇宙情勢の行方など、肝心なところが中途半端で曖昧なままだったりするので、アニメから入った読者は、ちょっと物足りなく感じるかもしれない。<関連日記>2011.10.17. アニメ 『 鉄腕バーディー DECODE : 02 』…… 慣れれば古臭さも味 2012.1.3. アニメ 『 鉄腕バーディー DECODE:02 』…… 漫画的なアクション表現が良かった 2015.12.2. ゆうきまさみ 『 じゃじゃ馬グルーミン★UP! 』…… ドラマ性に欠けるからこそ物語世界から抜けられなくなる 2015.8.11. ゆうきまさみ 『 白暮のクロニクル 』…… 「不老不死」 の少年と 大きなヒロインとの絶妙な取り合わせ 鉄腕バーディー(1)【電子書籍】[ ゆうきまさみ ]価格:540円 (2017/11/7時点)鉄腕バーディー EVOLUTION(1)【電子書籍】[ ゆうきまさみ ]価格:540円 (2017/11/7時点)
2017年11月07日
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★ 『 探偵青猫 』 本仁戻 (1999年~)レンタルコミックにて、既刊6巻まで読了。ジャンルとしてはBLで、それなりに性描写もあるので万人には薦められないが、そこに押し込めてしまうのは少々勿体ない作品ではある。最初のうちは、一話読み切り型の、軽い「コメディ探偵もの」といった様相だが、徐々に重いテーマも含んだヒューマンドラマが展開され、案外、感動できたりする。耽美的な画風や、現実とも異世界とも言い難い独特の雰囲気、軽妙な台詞のやり取りなどは、 『PALM』シリーズ(獣木野生)にも似ているが、ストーリー的には、こちらの方が かなり分かりやすいし、「重いテーマ」と言っても、暗い気分を引きずるほどの悲劇でもないので(これまでのところ、だが)、読後感は悪くない。こうした一話読み切り型の作品は、そこそこ面白くても、ひとつのエピソードの完結後、すぐに続きを読みたくなるかどうかと言われるとビミョーなものもあるが、少なくとも、キャラクターの関係性など先行きが気になる魅力があり、私は一気に読めた。ただ、多くのBL作品同様、刊行ペースが遅いので、次巻が出る頃には色々忘れてしまいそうだ(6巻以降、既に5年以上経過しているので、もう出ないのかもしれないが)。作風さえ気に入れば、購入して読み返す価値は十分あると思う(紙の書籍は絶版状態のようだが)。<関連日記>2012.7.25. 獣木野生 『 PALM(パーム) 』 シリーズ …… 独特の作風とキャラクターが 魅力的 2014.7.26. 中村明日美子 『 Jの総て 』…… 映画のように退廃的に 性同一性障害を描く 2015.12.30. 無駄に(?)作画のいい BL漫画家たち 2016.6.22. 西田東 『 天使のうた 』…… 真の愛を得れば、失うことが一層ツラい 2016.7.7. 明治カナ子 『 坂の上の魔法使い 』…… ジャンルに囚われず読んで欲しい ファンタジー佳作 探偵青猫 1巻【電子書籍】[ 本仁戻 ]価格:648円 (2017/10/25時点)
2017年10月25日
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★ 『 福家堂本舗 』 遊知やよみ (1995~2000年)電子書籍無料版およびレンタルにて、文庫版全7巻読了。実写ドラマ(2016年)は未見。京都の老舗和菓子屋に生まれた美人3姉妹の日常や恋愛を描いた作品。ちょっと年長者向けの少女誌だった『ぶ~け』(2000年に廃刊)掲載作品だけあって、恋愛要素が主でありつつも、京都商人の(メンドくさい)気質や習慣等が細かく織り込まれていて、なかなか興味深く読めた。「誰と誰がくっつくか」の単純なラブストーリーでは終わらず、男女の恋愛の駆け引き、家の事情が絡む複雑さを丁寧に描いており、大人向けな作品になっている。ただ、恋愛よりも寧ろ真に迫るリアルさで描かれていると思うのは、「姉妹や母娘の間の心的葛藤」で、日常の表面的な会話や関係性だけでは見えにくい、成育過程を含めての愛憎関係が徐々に掘り起こされていくにつれ、読み手の心境によっては、身につまされるシーンが多々あるかもしれない。老舗の後継者問題、京女の我の強さなど、特殊な背景があるとはいえ、女同士だからこその嫉妬、対抗心、無遠慮、等々から生じる心理的な軋轢が、かなり生々しく赤裸々に描かれている。とは言え、あくまで、誰でも成長過程では多かれ少なかれ抱きがちな劣等感の範囲内ではあり、そこまでドロドロと後を引きずるような悪意や怨念の応酬をテーマとしているわけではないので、読み味は悪くない。難点を挙げるなら、メロドラマ的な事件や人物設定が結構目につくので、興ざめする場面も所々あった点。 なんというか、時代的な古さ(バブル臭さの名残り)が鼻につくところもチラホラあった。また、正直言って、絵柄(キャラデザ)が、私は余り好きになれなかった。以前、「内容さえ良ければ、絵柄などは慣れるものだ」と書いたことがあるが、勿論、絵柄をもって駄作だなどと言うつもりは毛頭ないが、瞳がやたらと丸いのに、少女漫画的な可愛さは無いという「中途半端さ」に、最後までイマイチ馴染めなかった。まあ、イマイチ絵柄に馴染めなかったという点で、そこまで作品に入りこみ切れなかったとも言えるのかもしれない。<関連日記>2012.3.25. 田村由美 『 BASARA 』…… キャラクターの魅力が長編漫画の命 2017.2.17. 松田奈緒子 『 重版出来! 』 ・・・ いかに嘘や夢を織り交ぜるかが 職業漫画の肝 福家堂本舗 1【電子書籍】[ 遊知やよみ ]価格:500円 (2017/10/10時点)
2017年10月10日
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★ 『 信長協奏曲 』 石井あゆみ (2009年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊15巻中14巻まで読了。アニメ (2014年) は視聴済み。 実写ドラマ (2014年)、映画 (2016年) は未見。一時期、信長関連のアニメが多くて、どれがナンだかワケが分からなかったが、昔から、日本人の間では、最も有名で人気のある歴史的人物でありながら、どっちかっつーと「(戦国期の) 前菜」 的に語られることの多かった信長。 ポッと出てバッと散ったイメージがデカイだけに、各作品、「どれだけ変わったアレンジをするか」 に照準があるように感じる。このストーリーは、「現代の高校生がタイムスリップして信長に成り代わる」 という、漫画としてはありがちなSFファンタジー。人物設定や日常描写は現実離れしている部分が多々あるが、一応、歴史的事件を丁寧になぞり、何だかんだで、ほぼ史実通りの結果を辿っている (らしい) ところが、評価されているようだ。信長の人生をそのまま漫画にするよりも、読者の関心をひくという意味では成功していると思うし、細かいことも記憶に残りやすいのではないだろうか。私自身、受験生の頃、近世~近代史が苦手 (嫌い) だったが、『竜馬がゆく』 (司馬遼太郎) を読んでから、幕末史の辺りは頭に入りやすくなった。 勿論、歴史小説や漫画にはフィクションがかなり含まれるが、ただ教科書や年表を見るよりも、興味をもつ取っ掛かりや時系列の整理として役に立つ。実際には、信長やら竜馬やらの超有名人に関して、直接、入試で出題されることは稀だったように記憶しているが、余り出題されないからこそ、小説や漫画で整理できるなら効率的だ。ただ、まだ連載中なので、あくまでも途中までの評価だが、史実をなぞることに重きをおく余り、結局は、設定の面白さを活かしきれていないように感じる。三郎 (信長) が、「戦国史をうっすらとしか知らないお馬鹿 (全く知らないわけでもないところが重要)」 かつ 「細かいことにこだわらない強心臓 (悪く言うと鈍感)」 であってこそ成り立つストーリーであるのは分かるのだが、彼のバックボーンの説明や心理描写もあまり無いままに話が運ぶので、イマイチ説得力に欠ける。元々、根付いている 「信長=常識はずれ」 のイメージを、「何を考えてるか分からない現代っ子」 に当て嵌めたのは良いアイデアだったと思うし、人物描写もギャグが効いていて飽きないが、その初期設定に頼りすぎて、三郎が唐突に何をしても 「史実通りならOK」 みたいな安直な流れになっているように感じる。 結果、無知で計画性皆無な割に、危機的な局面では、根拠もなく、妙に適格な判断力を発揮するところなど、ご都合主義的な展開が目立つ。三郎同様タイムスリップしてきたキャラや、秀吉や光秀の人物設定の改変など、読者の興味をひく工夫を凝らしている割に、人物的に 今一つ魅力に欠け、その先行きに余り興味が持てないのも難点だ。これまでのスタンスからして、史実が大きく変わるとも思えず、こうした実在キャラのアレンジが、ストーリーを飛躍的に面白くしているようには今のところ感じられない。寧ろ、多少、物語に彩りを加えている要素と言えば、史実には存在しない全く 「架空」 のキャラクターだが、それも、あくまで歴史に影響しない範囲でしか動いていない。結局、三郎がこのまま「信長として」死ぬのか死なないのか、ってだけの話で終わってしまうのだろうか?<関連日記>2011.9.4. アニメ 『へうげもの』 に見る、歴史の真実 2012.5.19. 篠原千絵 『 天は赤い河のほとり 』…… 功罪相半ばの歴史漫画 2013.8.20. 上田倫子 『 リョウ 』…… 歴史フィクションの限界 2014.1.16. アニメ 『 ノブナガン 』 、 『 ノブナガ・ザ・フール 』…… 信長、ノブナガ、ノブナガン 2014.9.7. 細川智栄子 『 王家の紋章 』…… 「完結しないこと」 にイラつく ファンの皆様の心情をお察しします信長協奏曲(1) (少年サンデーコミックス) [ 石井あゆみ ]価格:493円(税込、送料無料) (2017/8/21時点)信長協奏曲(1)【電子書籍】[ 石井あゆみ ]価格:432円 (2017/8/21時点)
2017年08月20日
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★ 『 VANILLA FICTION 』 大須賀めぐみ (2012~16年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全8巻読了。常にネガティブ思考で、バッドエンドしか書けない作家の青年が、何者か (神?) に仕組まれた 「命懸けの双六ゲーム」 に巻き込まれる話。RPGゲームの影響か知らないが、特殊な設定のサバイバルゲームに巻き込まれる …的なストーリーは、最近の少年漫画やアニメなどにありがちで、正直、「またか」 という思いがあるが、主人公に (社会的には成功している) 三十路の大人を持ってきたところは、多少、趣向が変わっている。作家として成功はしていても、自意識ばかり強くて精神年齢の低い青年が、「子供を守らざるを得ない」 状況に追い込まれて、初めて、大人としての自覚に目覚めていく。 この辺の過程描写は案外現実的で、共感できる部分が多々あった。というのも、こうしたサバイバルゲーム系の作品は、『ソードアート・オンライン』 や 『BTOOOM!』 等のように、「ゲーム制作者」 や 「強大な権力者」 の陰謀といった、もっともらしい初期設定を敷こうとするものが多いが、引きこもって社会経験ゼロの若者が、いきなり武闘ヒーロー化し、可愛い彼女もゲット …みたいな展開になりがちで、どのみち、荒唐無稽であることに変わりはない。この作品の場合、首謀者、ゲームをしなければならない理由、世界の命運を握るという少女や、不死の人物らの正体など、 …肝心な 「真相」 は、ほぼ最後まで置き去りのまま進行する。作者が最初から これらの謎を明かすつもりが無かったのか、描ききれずに完結せざるを得なかったのか分からないが、結果的には、これはこれでアリだったんじゃないかなと思う。 どのみち荒唐無稽な話に、クドクドと尤もらしい設定をこじつけても、読む方がメンドくさいだけ、という考え方もある。それよりは、キャラクターにどれだけ共感できるかの方が、私にとっては読み続けるポイントになった (若干、腐女子向けな傾向があるのは認めるが、キャラ作りは上手いと思う)。全体としてシリアスなストーリーの中、ちょいちょい差し挟まれるギャグ描写にも結構、笑わせられた。Amazon の評価も悪くはないようだが、レビュー数からすると、それほどの話題作ではなかったように見受ける。作者にとっては、初のオリジナル長編らしいが、主人公の性格設定やエキセントリックなキャラクターの多さ、暴力表現、そして、展開そのものも、前作 『魔王 JUVENILE REMIX』 (伊坂幸太郎 原作)の影響を引きずっている感があるのは否めない。あと、些末な問題ではあるが、英語表記のタイトルをつけるのは、よほどインパクトのある用語であるか、よほど名前の売れている作家でもない限り、避けた方が良いんじゃないかと思う。チマチマしたロゴで 『VANILLA FICTION』 と書かれている表紙を見て、興味を引かれる日本人がどれだけいるだろうか?私だけかもしれないが、Amazon で検索などした際に英語表記の書籍名が出てくると、雑誌や洋書が上がってきたのかと思ってスルーしそうになることすらある。目立つ書体で 『バニラ★フィクション』 とでもした方が、幾分かマシだったのではないだろうか。<関連日記>2016.7.29. 伊坂幸太郎、大須賀めぐみ 『 魔王 JUVENILE REMIX 』…… 最後の数十ページで作品評価が上がったVANILLA FICTION(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス) [ 大須賀めぐみ ]価格:616円(税込、送料無料) (2017/7/24時点)VANILLA FICTION(1)【電子書籍】[ 大須賀めぐみ ]価格:540円 (2017/7/24時点)
2017年07月24日
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★ 『 べしゃり暮らし 』 森田まさのり (2005~15年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全19巻読了。「お笑い芸人」 を目指す若者らの葛藤や友情を描いた作品。森田まさのり作品は 『ROOKIES』 以来、私にとっては2作目だが、相変わらず (上手いし 嫌いではないけど) 古くさい絵柄、そして何より、ストーリー構成のスタンスが どこか古くさい。最初のうちは 主人公がお笑い芸人になるまでのサクセスストーリーの様相で、どちらかと言うと、「どうしたら芸人になれるか」 「どうしたら人を笑わせられるか」 のハウツー的な描写が多いのだが、徐々に主人公の家族や友人、他の芸人周辺にスポットライトが当たるようになると、「お笑いに賭ける人々の群像劇」 のようになっていく。作者のスタンスは、全編通して、基本 「浪花節」 だ。 正直、陳腐と感じるエピソードも多いが、まんまと泣かされてしまうところは、やはり 「上手い」 と思う。ただ、主人公以外のキャラの心情や葛藤を丁寧に描くのは悪くはないし、心理描写自体にも共感はできるのだが、巻を追うほどにエピソード (出来事) が過激になり、それら全てを 「綺麗に丸く収め」 ようとするので、いくら芸能界の話とは言え、ちょっと 「リアリティに欠ける」 と言わざるを得ない。『花に染む』 (くらもちふさこ) の感想で、「人間関係全てに けりをつけないのがリアルだ」 と書いたが、その意味では、対極の姿勢と言える。登場人物の悪行や失態に対しては、一つ一つ理由をつけ、甘ったるい解決に導こうとする。 女性キャラに関しても、魅力はあるが、「ダメな男にとって都合のよい」 タイプばかりで、その点も含めて、ちょっと古い少年漫画のノリを引きずっている感じがした。途中から主人公の影が薄くなり過ぎ、それを引き戻す為か、終盤、限度を超えて 「漫画的」 な展開になり、若干シラケてしまう場面もなきにしもあらずだったが、最終的には、感動的に うまくまとめたな、と感心した。また、作者自身がお笑いをよく研究しているようで (実際、吉本興業の養成所に入学し、実地で取材したらしい)、セリフや漫才のシナリオの部分も、実際に かなり笑える。ジョークのセンスを学びたい人には、案外、本格的に勉強になる作品だと思う。<関連日記>2015.9.23. 森田まさのり 『 ROOKIES 』…… 滅多に存在しないからこそ 求めてしまう 「熱血教師」 という虚像 2017.3.15. くらもちふさこ 『 花に染む 』 ・・・ 人間関係に 「けりをつけない」 のがリアル べしゃり暮らし(1) 学園の爆笑王 (ヤングジャンプコミックス) [ 森田まさのり ]価格:596円(税込、送料無料) (2017/6/28時点)べしゃり暮らし 1【電子書籍】[ 森田まさのり ]価格:500円 (2017/6/28時点)
2017年06月28日
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★ 『 予告犯 』 筒井哲也 (2011~13年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全3巻読了。実写映画、連続ドラマ (2015年) は未見。ネット動画で犯罪予告し、様々な足跡を残しながら、警察の裏をかいて遂行していく犯罪集団。 制裁の標的が、ネット上で叩かれがちな 「炎上ネタ発信者」 や 「左翼活動家」 だったりするので、ネット民を中心に、犯罪の内容以上に注目を集めるようになる。犯人の正体は、読者にも割合早いうちから明かされるので、犯行の手口や動機がストーリーの焦点になっていく。作画は、いかにも青年誌読者層に受けそうな、写実的で洗練された絵柄。ただし、このタイプの作画は、確かに読みやすいし好感は持てるが、ちょっと個性に欠けるので、私的には 「大好き」 とまでは言い難い。基本的に、好きな漫画作品の実写化は 「余り観たくない」 と思う方だが、この作品に関しては、作風的にも題材的にも、ストーリー改変が無いなら、別に漫画じゃなくても 実写で観ても良いんじゃないか? と感じてしまう (実写は観ていないので断定はできないが)。そもそも、キャラ設定、場面設定からセリフ回しまで、初めから実写を意識して描かれたような感じもする。 徹底してネット世代 (の、社会に対する不満) を意識したストーリー展開。 訴えたいテーマ (教訓) もハッキリ絞られていて、まんま、映画の脚本になりそうな印象だ。Amazon のレビューも概ね好評だが、結末に多少の不満を感じた読者もいるようだ。確かに、「あっけない」 とか 「後味が悪い」 と言えなくもないのだが、そもそも、いくらキャラクターや動機に共感出来ても、現代社会が舞台である限り、犯罪そのものを肯定するような結末は なかなか描けないという点で、商業誌作品には限界がある。吉田秋生が 『BANANA FISH』 (1985~94年) 完結後の特集本で、「さんざん人を殺しておいて、ハッピーエンドはあり得ない」 という主旨のコメントをしていたが、異世界バトルファンタジーや 戦国ものでも無い限り、やはり落としどころは、ある程度決まってきてしまうだろう。寧ろ、犯罪内容の卑劣さ (ネット民の代弁者を気取っているようで、やっていることは、無関係の人をも巻き込む 「私刑」 行為に過ぎない) を考えれば、犯人を持ち上げ過ぎず、かと言って貶め過ぎることもなく、綺麗にまとめたなと思う (まあ、「綺麗にまとめ過ぎ」 と言えなくもないが)。作者が 「映画化」 を狙っていたかどうかは別として、3巻にまとめたことは評価したい (もっと短くても良かったくらいだ)。いくら爽快感が得られるとしても、犯罪者をヒーロー化し、リンチを推奨しかねないエピソードを あれ以上続けられたら、さすがにウンザリしただろう。<関連日記>2012.6.4. 清水玲子 『 秘密-トップ・シークレット‐ 』…… 「被害者の無念」 に寄り添う サスペンス 2014.10.3. 森本梢子 『デカワンコ』…… 笑える刑事モノ ・ 男性キャラの無表情な魅力 2015.3.28. 夏原武 、黒丸 『 クロサギ 』…… 「詐欺犯罪サスペンス」 としては面白いのだが2016.7.12. 大沢在昌、もんでんあきこ 『 雪人 YUKITO 』…… 犯人追跡にとどまらず、人間の闇を描く 2016.12.27. 清水玲子 『 秘密 season0 』 ・・・ サスペンスだけでない、一粒で二度おいしい作品 予告犯(1) (ヤングジャンプコミックス) [ 筒井哲也 ]価格:648円(税込、送料無料) (2017/6/21時点)予告犯 1【電子書籍】[ 筒井哲也 ]価格:500円 (2017/6/21時点)
2017年06月21日
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★ 『 アイスフォレスト 』 さいとうちほ (2007~12年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全12巻読了 (文庫版 全6巻)。怪我でシングルフィギュアスケーター選手としての道を諦めた少女が、アイスダンスでの世界トップを目指す話。さいとうちほさんの絵柄・作風は、 『とりかえ・ばや』 のような時代物にはピッタリだと思ったが、スポーツものとなると、ストーリー展開も相まって、若干、古くささを否定できない。ただ、絵の上手さはやはり際立っている。 同じくアイスダンスを描いた 『キス & ネバークライ』(小川彌生) を読んだ時も、この題材は本当に画力のある作家でないと描けない、と思ったが、リフトの描写の美しさなど、惚れ惚れしてしまうくらいだ。内容的にも、(アイスダンスの) カップル間、コーチ、ライバルらとの葛藤だけでなく、競技アイスダンス界の実情を赤裸々に描いている (『キス&ネバークライ』 よりも さらに踏み込んでいる) ので、なかなか興味深く読めた。ただ、どうしても、競技界にまつわる、裏の政治的画策や陰謀などの描写が多くなりがちで、キャラクターの魅力が今一つ描ききれていないのが残念に感じた。特にヒロインは、スケーターとしての才能があることについては 試合の描写やセリフ等で分かるのだが、人柄的には 「可もなく不可もなく」 という印象で、余り感情移入はできなかった。恋愛描写も なかなか濃厚と言うか、ドロドロしていて先は気になるが、終始、昔ながらのメロドラマ展開の型を脱しきれない感じで、『サインはV』 やら 『エースをねらえ!!』 の時代まで遡って思い起こされてしまった。ただ、密着度がスコアに反映され、ムードや表現力が必須なカップル競技である限り、リンク外でも男女の恋愛感情、または葛藤が避けて通れないのは現実だろうと思うので、「スポ根に恋愛は余計だ」 などと批判するのも野暮だ。ひとつ、気掛かりなのは、この作品中で明かされるアイスダンス界の実態は、嘘や誇張とも言い切れないが、舞台となったバンクーバー五輪の時期からは 改善されてきていると思うし、これを見て、フィギュアスケート全体が 「裏の政治力で順位が左右される 汚い競技」 と信じ込む人が増えないと良いが… 、という点だ。特にシングルについては、バンクーバー後のルール変更によって、かなり政治力の入り込む余地が少なくなった。以前は 少しでも回転不足を取られると減点が大き過ぎて割に合わなかった 「4回転ジャンプ (女子は3回転の連続ジャンプ)」 のリスクが軽減されて挑戦し易いルールとなり、今は、どんなに芸術点でスコアを底上げされても、多種の高難度ジャンプを確実に跳べない選手は、世界では簡単には勝てなくなっている。こうなると、どうしても、体重の差がものを言うようになり、もともと小柄で太りにくいアジア人種が 寧ろ、スタートから圧倒的に有利になってきた。 ロシアの女子選手が、ジュニア時代には強化策の成功と非凡な才能で台頭しても、シニアに上がる16歳を過ぎる頃から 背が伸び体重管理も難しくなるにつれ 調子を崩し、次々新旧交代していく様も、ルール変更以降 一層目立つようになった。それに比べると、アイスダンスは、採点のポイントが素人には分かりにくい為、旧態依然としているように見えることは否定できない。 世界トップに君臨するカップルが長期にわたって固定化している事実も、「五輪競技として相応しいと言えるのか」 と疑問を感じるところがなくもない。ただし、仮に裏の政治力がものを言う競技だとしても、有力国の選手たちが、大した努力も実力もなく、見た目の美しさだけでトップに行けると思うのは大間違いだ。アイスダンスの実力の差は、テレビ画面よりも、実際に会場で観ると歴然と違いが分かる。一時期、日本国内では負け知らずだった リード姉弟ですら、世界メダル級の選手に比べると、スローモーションを観るようなスピードの遅さだった。欧米のフィギュア界では、ジュニア時代から、容姿やスケーティング技術の高い選手を選び抜いて早々にカップルを結成させ、早くから厳しく鍛練させている。 見た目が美しければ、より、ファンやスポンサーもつきやすいし、練習環境も組織的にバックアップしてくれるから、結果的に強くなる。シングル指向が強く、ジャンプなどで挫折した選手が、大人になってから やっとアイスダンスに転向するような日本が、一朝一夕に強くなれるわけがないのだ。アイスダンスに限らず 採点競技で日本人が勝てないと、短絡的に 「八百長」 だの 「人種差別」 だのと騒ぎ立て、外国人選手を個人攻撃する人がいるが、真剣に努力している選手らに罪はない。 いちいち八百長を疑っていたら、そもそも競技として成り立たない。 多少の政治的不公平があることは 選手も覚悟の上で、さらに高みを目指さなければならないのが この競技の宿命、と分かってやっているだろう。この作品を読むと、そもそも、アイスダンスにおいては 「日本人は見た目のオーラで劣っているから限界がある」 かのような印象を受けるかもしれないが、そうした諦観に支配されていること自体が、選手を育成できない大きな理由の一つになってしまっている と私は思う。男女のスキンシップの習慣に乏しく、特に、リフトに耐えられるほど体格や運動能力に恵まれた男子がフィギュアより「男らしい」スポーツをやりたがる日本では、よほど、関係者 (日本スケート連盟) が、意識してジュニア時代から選手をスカウトし、金銭面の援助含めて真剣に育成する努力をしなければ、いつまでもアイスダンスやペアの選手は育たないだろう。現状では、五輪の団体戦など、最初から捨てた方が良い。 無理に出場しても、シングル選手を無駄に消耗させるだけだ。<関連日記>2013.8.5. 小川彌生 『 キス & ネバークライ 』…… フィギュアスケート ファンも楽しめる 2014.5.27. 小川彌生 『 銀盤騎士 』…… フィギュア男子の過酷な闘争の内情を ラブコメ漫画で学ぼう 2016.10.14. アニメ 『 ユーリ !!! on ICE 』…… 設定が荒唐無稽なのが良い 2017.5.3. さいとうちほ 『 とりかえ・ばや 』 ・・・ 「性別違和」 の苦悩と孤独を浮き彫りに アイスフォレスト(1)【電子書籍】[ さいとうちほ ]価格:432円 (2017/5/31時点)アイスフォレスト(第1巻) (小学館文庫) [ さいとうちほ ]価格:842円(税込、送料無料) (2017/5/31時点)
2017年05月31日
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★ 『 鉄楽レトラ 』 佐原ミズ (2011~15年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全6巻 読了。中学時代、部活のレギュラー争いで仲間に大怪我を負わせたことから後悔と自己否定で引きこもってしまった主人公が、同じく挫折感の中にいる少女との出会いや高校進学を契機に自分を変えることを決意。 課外活動のフラメンコ舞踊に打ち込む過程で、家族の愛や友情の尊さに気付き成長していくストーリー。この方の作品、初めて読んだが、まず特筆すべきは 作画の良さだ。キャラクターデザインは万人受けしそうだし、デッサン力もあり、線が非常に綺麗。 線が綺麗な作家の絵は、ともすると静止画的になってしまうこともあるが、効果線に余り頼らずに動きやスピード感を表現出来ているのは感心した。また、挫折少年の再起物語と言うと、学校内や、せいぜい家族関係の描写に限定されがちだが、若者だけでなく、老いて希望を失いかけた人物らにもスポットライトを当てる内容なので、広い年齢層の読者の心に響きそうな作品だ。ただ、作者自身がフラメンコ経験者で、まず、それを描きたかったというのは分かるが、引きこもりの高校生が、いきなりダンスというのは、ちょっと無理があったような気がする。『BUTTER!!!』 (ヤマシタトモコ) も、オタクのいじめられっ子が社交ダンス …という設定だったが、やはり奇をてらい過ぎて、一つ一つのエピソードは悪くないのに、イマイチ感情移入しきれなかった。勿論、「取り柄のなかった少年が、才能に目覚めて大活躍」 的なストーリーは少年漫画の定番であり、あらゆるスポーツや部活動で描き尽くされている中、目新しいものにしようという意欲は買うし、フラメンコの豆知識もそれなりに興味深かったが、見世物的な舞踊は、いくら画力があっても、漫画で魅力を伝えるには限界がある上、勝ち負けや立身出世のような分かりやすい成長も見せにくく、そもそも、難しい題材だ。こうしたマイナー素材を選択した段階で、作者も最初から長期連載は望んでいなかったかもしれないし、ダラダラと長い部活漫画が必ずしも良いというわけではないが、結局、中途半端なところで尻すぼみに終わりがちな印象は否めない。この作品も、実際にフラメンコに取り組む描写が始まる前の段階 (1巻) が、私的には、一番感動的で期待感が高かったように思う。<関連日記>2014.4.3. 河合克敏 『 とめはねっ! 鈴里高校書道部 』…… 書道部・草食系男子の 恋の行方が気になる 2014.8.4. ヤマシタトモコ 『 BUTTER!!! 』…… 「友情だけが成長の糧」 という幻想を描きたがる作家たち 2014.12.8. 杉基イクラ 『 ナナマル サンバツ 』…… 部活漫画のセオリーを まともに踏襲 2015.4.17. 中田永一、モリタイシ 『 くちびるに歌を 』…… ただの部活漫画ではない、それぞれの 「幸福」 に気付くまでの物語 2015.5.9. こざき亜衣 『 あさひなぐ 』…… マイナー競技 部活漫画の限界と可能性 鉄楽レトラ 1 (ゲッサン少年サンデーコミックススペシャル) [ 佐原ミズ ]価格:596円(税込、送料無料) (2017/5/15時点)鉄楽レトラ(1)【電子書籍】[ 佐原ミズ ]価格:540円 (2017/5/15時点)
2017年05月15日
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★ 『 とりかえ・ばや 』 さいとうちほ (2012年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊11巻中、9巻まで読了。平安時代後期に成立したとされる、作者不詳の 『とりかへばや物語』 を漫画化した作品。関白左大臣家に生まれた 「男っぽい娘」 と 「女っぽい息子」 が、それぞれ性別を偽って宮中で生きる中、様々な障害や苦難に対峙する …という波瀾万丈物語。ストーリーそのもののドラマ性も去ることながら、平安期の貴族の生活や婚姻制度などを何となくも知ることができるので、かなり面白い。さいとうちほさんの作品は初めて読んだが、作画も非常に良い。 若干、古臭さを感じる絵柄ではあるものの、それも含めて作品世界によく合っている。 非常に線が綺麗で、背景や衣装など細やかに描き込みつつ、コマ割も整理されていて読みやすい。原作の 『とりかへばや物語』 は、 「性的倒錯劇」 のような扱いをされ歴史的な評価が低いようで、 『源氏物語』 などと比べると、かなりマイナーだと思う (実は、私もよく知らなかった)。男の目で見れば 「異性装」 という設定は、単なる 「倒錯」 と感じる人が多いかもしれないが、現実社会で差別されがちな女性にとっては、男装の麗人が男社会 (表舞台) で活躍する話は 「痛快」 なものであり、フィクションだからこそ感情移入しやすいのではないだろうか。原作を読んでいないので、どの程度、設定やストーリーに忠実なのか分からないが、当時の貴族男性が武道や戦闘力など求められず、女性は分厚い十二単に包まれ 余り表に出ずとも済んだ時代なだけに、 「メチャクチャ荒唐無稽な話」 という感じはしない。主人公らは、 「性別違和」 の問題以外においては 常識的で素直な性格だし、この手の話にしては、 (多少の陰謀はあれ) 極端に性悪 (性格異常) なキャラが少ないので、案外、安心して (?) 読める。主人公らの両親に理解がありすぎるように感じるのも、特殊な時代背景だから…と、納得できなくはない。人間関係がドロドロし過ぎないとは言え、主人公の男女のジェンダーの苦悩や孤独を丁寧に浮き彫りにし、男性の (罪悪感なき) 浮気性などを辛辣に描き出しているので、単なるメロドラマにとどまらず、哲学的なメッセージも含んだ内容になっていて、大人向けな作品ではないかと思う。物語自体は、7巻あたりから、徐々に、行き着く先が見えてしまうし、やはり、この時代の作品だけに、 「性同一性障害」 の本質的な救済を描くには至らなそうだが、面白さは (9巻までのところ) 失速せず、どう まとめるかの興味が尽きない。<関連日記> ※ジェンダー2013.8.20. 上田倫子 『 リョウ 』…… 歴史フィクションの限界 2014.7.19. 乃木坂太郎 『 幽麗塔 』…… ミステリーの中で描かれる アウトサイダーな人々の悲哀 2014.7.26. 中村明日美子 『 Jの総て 』…… 映画のように退廃的に 性同一性障害を描く 2016.8.6. 岡本倫 『 ノノノノ 』…… 打ち切りも仕方ない (?) 不運な作品 2017.1.3. 菅野文 『 薔薇王の葬列 』 ・・・ 設定や雰囲気の良さを活かしきれていないのが残念 とりかえ・ばや(1) (フラワーコミックスαフラワーズ) [ さいとうちほ ]価格:463円(税込、送料無料) (2017/5/3時点)とりかえ・ばや(1)【電子書籍】[ さいとうちほ ]価格:432円 (2017/5/3時点)
2017年05月03日
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★ 『崑崙の珠』 長池とも子 (1992~2003年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全17巻 読了。古い時代の中国を舞台に、妖や魁 (ばけもの) に取り憑かれた人々を救う、半妖の道士と風神の旅を描いた作品。正直なところ、「妖」 ものや 「祓い屋」 系の類の漫画には ちょっと飽きてきて、一巻無料で読んでも、続きを読む気にならないものも多い。長池とも子さんの作品は初めてだが、作画は (好き嫌いは分かれそうだが) まあまあ上手いし、時代不詳の、なんでもありのファンタジーとは言え、中国の古典や風習などはよく調査して描いている感じがして、好感は持てる。 各エピソードもありきたりな印象はなく、面白いは面白い。ただ、ペンタッチや表現方法 (余白の少ない背景など) が、若干、古くさい上に、ネーム (セリフやモノローグ) が多くて、読みやすいとは言い難い。好意的に言うと、限られたページ数の中に 情報を無駄なく詰め込んでいる感じで、事件の解決と同時に割合あっさり終幕してしまうところは 『百鬼夜行抄』 (今市子) の作風にも似ている。正直、一話完結のエピソードが多い前半は、後味の悪い話も多く、 「面白いけど、ものすごく続きを読みたいとも思わない」 という印象だったが、徐々に主人公の道士や風神自身の過去や、肉親との葛藤を描くエピソードが増えるにつれて、泣ける場面や、後を引くような感動も得られるようになってくる。本筋 (主人公自身のストーリー) が進んだかと思うと、関係ない読み切り話に戻るところは、 『名探偵コナン』 ほど極端ではないにしろ若干焦らされるが、各話の読み始めの段階では、本筋なのか脇道なのか分からないところなど、ある意味、作者の高度なセンスを感じさせられた。不老不死の道士と風神との、男同士の絆や、時系列が遡ったり戻ったりする手法を見ていると、中国風 『ポーの一族』 (萩尾望都) を意識したのかな、という感じもする。…まあ、雰囲気も感動も、本家本元には及ばないし、少々古い作品とは言え、Amazon でのレビューの少なさは寂しい限りだが、最近、描写がダラダラと冗長で、引き延ばしとも取れる長編ファンタジー漫画が増えている中、巻数分の読み応えは十分あると思う。<関連日記>2012.3.29. 萩尾望都 『 マンガのあなた・SFのわたし 』…… 天才は一日にしてならず 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?)2013.3.5. 緑川ゆき 『 夏目友人帳 』…… 妖との戯れの中に描かれる 美しき 「情」 2013.11.11. 漆原友紀 『 蟲師 』…… 「極秘プロジェクト始動」 だそうです 2013.11.15. 今市子 『 百鬼夜行抄 』…… 「演出」 に難あり 2015.4.23. 和泉かねよし 『 女王の花 』…… ラブコメ作家のイメージを払拭する 中華ファンタジー 2015.10.20. 伊藤悠 『 シュトヘル 』…… 殺戮の時代に 「文字」 が持つ 真の役割と救い 2016.1.28. 可歌まと 『 狼陛下の花嫁 』…… ヒロインがフツー過ぎて、逆に新鮮 2016.7.7. 明治カナ子 『 坂の上の魔法使い 』…… ジャンルに囚われず読んで欲しい ファンタジー佳作 2016.10.12. すもももも 『 後宮デイズ 七星国物語 』…… 今ひとつ盛り上がれない理由とは? 2017.3.4. 三浦建太郎 『 ベルセルク 』 ・・・ 「バトル漫画」 の一言では片付けられないメッセージ性 崑崙の珠 1【電子書籍】[ 長池とも子 ]価格:432円 (2017/4/26時点)
2017年04月26日
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★ 『 Bread & Butter 』 芦原妃名子 (2013年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊5巻読了。34歳にして小学校教師の仕事を退職し、目的を失った独身のヒロインが、文具店の片隅で自家製パンを売る中年男に衝動的にプロポーズすることから始まるラブストーリー。これまでの芦原作品 ( 『砂時計』 、 『Piece』 ) 同様、キャラクターの “人となり” は平凡な反面、初期設定や展開は 「実際には殆どない」 メロドラマ仕様。正直、1巻の段階では、先は気になるものの、「話がうますぎる」 印象の方が勝って、芦原作品を初めて読む人は、 『今日は会社休みます。』 や 『ダメな私に恋してください』 同様の、「夢見る乙女アラサー」 向け少女漫画と片付けてしまうかもしれない。この話がヒロインの恋愛中心に延々続くならば、いくら紆余曲折があっても、ただのメロドラマに過ぎなかったかもしれないが、意外と早々に、ヒロイン以外の人物にもスポットライトを当てる群像劇へと移行し、主に、アラフォーに差し掛かった男女の、恋愛や結婚にまつわる現実を浮き彫りにするような内容になっていく。分類するなら、 『逃げるは恥だが役に立つ』 や 『脳内ポイズンベリー』 のような、甘いだけではない、シビアな中高年の結婚事情を描く作品となっている。心理描写や引きの強さも相変わらず巧みで、少なくとも既刊5巻まで飽きずに読めた。 個人的に、今いち、キャラクターに共感できないのがネックではあるが… (結末は気になるが、誰がどうなろうと どうでもいい系)。また、私的に 絵柄そのものは嫌いではないし、やたらと白っぽいのも 作風として許されるとは思うが、相変わらず、 「作画に時間をかけてる感じがしないな」 と、正直、思った。 「雑」 とまでは言わないが。 年齢的な描き分けが出来ているとも言い難い。まあ、『逃げ恥』 同様、対象となる 「仕事に婚活に忙しい 大人女性」 読者には、下手に作画に凝ってるより、スラスラ読みやすくて、却って好まれるのかもしれないが。<関連日記>2013.4.25. 芦原妃名子 『 Piece 』…… 好奇心や自己愛が無ければ、他者とも深くは関われない 2013.5.11. 芦原妃名子 『砂時計』…… ヒロインの 「魅力の程度」 が現実的で ちょうどいい 2013.6.29. デッサン力、キャラクターに筋が通った 大人向け作品 ・・・ 小川彌生 『 きみはペット 』 2014.4.8. 「純情」 を維持することの希少さ ・・・ 藤村真理 『 きょうは会社休みます。 』 2014.10.15. 淡白でじれったい 「社会人の恋愛」 に好感 ・・・ きら 『 パティスリー MON 』 2014.10.26. 「絶望的にありきたり」 な設定を、ギャグやテンポでカバー ・・・ 東村アキコ 『 東京タラレバ娘 』 2014.10.31. 結婚制度や現代社会の問題点を考えつつ ラブストーリーも楽しめる ・・・ 海野つなみ 『 逃げるは恥だが役に立つ 』 2015.4.3. 中原アヤ 『 ダメな私に恋してください 』…… あり得ないストーリーだからこそ、人物設定にはリアリティが欲しい 2015.7.7. 苦い記憶や加齢の不安で退行する 30女の精神世界 ・・・ 水城せとな 『 脳内ポイズンベリー 』 2015.7.11. 「劣化したくない」、「幸せになりたい」、 崖っぷち 30女の選択 ・・・ 北沢バンビ 『 オンナミチ 』 2015.9.29. 読者を現実に引き戻す 冷徹な(?)手腕 ・・・ 山崎紗也夏 『 シマシマ 』 2015.11.3. トシとともに実感する 「愛されること」 の不確かさ ・・・ 朔ユキ蔵 『 ハクバノ王子サマ 』 Bread & Butter(1) [ 芦原妃名子 ]価格:452円(税込、送料無料) (2017/4/20時点)Bread&Butter 1【電子書籍】[ 芦原妃名子 ]価格:400円 (2017/4/20時点)
2017年04月20日
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★ 『 輝夜姫 』 清水玲子 (1993~2005年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全27巻 (文庫版 全14巻) 読了。「かぐや姫」 伝説の残る島で幼児期を過ごした孤児らの、数奇な運命や人間模様を描いた ファンタジー長編。前にも書いたが、清水玲子の作品は 『月の子』 (1988~92年) の途中で挫折して以来、暫く離れていた。 初期の短編作品の頃は好きだった 軽妙洒脱な作風が、長編になってからのシリアス路線にうまく噛み合っていないように感じて見切りをつけたのだったが、今、改めてこの 『輝夜姫』 を読んでみて、まさに、私が清水作品から離れていた間の 「迷走」 の極みを見た思いだ。少女漫画 (掲載誌『LaLa』) としてはテーマが壮大で、単なる 「かぐや姫伝説」 に止まらず、 「クローン医学」 や 「天文学」 など科学的な背景が盛り込まれ、キャラや舞台も、米軍や各国王室など ワールドワイドに広がる点で、意欲作であることは間違いないのだが、何しろ色々盛り込みすぎて、ストーリーそのものが散漫になってしまっている。話があちこち飛んだり 脇道に逸れ、些末な問題や脇役キャラの顛末に やたらと頁を割く割に、一番肝心な 「真相」 は、サラッと対話的なセリフで説明されてしまうという、チグハグさばかりが印象に残った。『さよならソルシエ』 の感想で、 「漫画は作画という時間の掛かる作業を経る分、設定が修正されたりキャラクターに厚みが出て、ストーリーも予想外に発展するところが長所」 と書いたが、この作品の場合、それが極端に行き過ぎて、裏目に出てしまった感じだ。とにかく、設定もキャラクターも展開も、 「後付け」 感がやたらと鼻につく。 (そうでなかったら申し訳ないが) 「かぐや姫伝説」 に 「クローン技術」 ネタを混ぜて …位の構想はあったかもしれないが、細かいところは殆ど練らないままに見切り発車で連載を開始し、後から思い付いたアイデアを行き当たりばったりで付け加えていったように感じさせられてしまう (最終巻の作者コメントによれば、一応、結末は初期のうちに決めていたらしいが)。「オカルト」 + 「SF」 + 「推理サスペンス」 (+ときどき「BL」?) …の融合を目指したのだろうが、一つ一つのアイデアは悪くないのに、繋げ方が強引でしっくりせず、非常に勿体ない。 唐突に差し挟まれるギャグ描写も上滑りして余り笑えない。一番ネックだったのは、設定を盛り込み過ぎたが為に、キャラクターも無駄に増えて主観があちこち入れ替わり、しかも、どのキャラも、性格や行動原理は似たり寄ったりで、イマイチ誰にも感情移入出来なかったこと。そもそも、私的にはヒロインに余り魅力を感じられなかった。 モノローグで、やたらと 「絶世の (美少年風の) 美少女」 と強調しているが、見た目は周りの美少年キャラたちと余り変わらないし、性格的にも 可もなく不可もない普通の女の子で、強いんだか弱いんだか、行動力にもブレが目立つ。「運命だから」 と言われれば納得せざるを得ないが、各々のキャラが抱く恋愛感情や友情も、過程描写が雑で説得力に欠けた。正直、割と早いうちから、誰がどうなろうと、誰と誰がくっつこうと、どうでも良くなってしまった。 「キャラがどうなるか」 よりも、 「一体、どうまとめるんだろう」 という興味だけで何とか最後まで読んだ感じだ。結末は賛否両論あるようだが、 「初期から考えていた」 と言うだけあって、 「キレイにまとめたな」 とは思う (多分、萩尾望都のSF世界を目指したのだろう)。ただ、拡げまくった設定やキャラを 全て回収しようという姿勢は立派なのだが、さほど興味もなかったモブキャラや、忘れていた問題まで わざわざ掘り返して役割や決着をつけようとするので、なかなか本筋が進まず、 「消えたな」 と思ってたのに 突如として出しゃばってきて話を混ぜ返す脇役らに、イラ立ちすら感じてしまった。その辺り、作者自身に反省があったかどうかは知らないが、 『秘密 -トップ・シークレット-』 では、あれでも、かなり無駄が少なくなったと思う。 作者は 『浦沢直樹の漫勉』 の中で、 『秘密…』 について、 「主人公の美しさを協調するため、他のキャラをモブ顔にしてる」 とおっしゃっていたが、ちょっと両極端ではあるが、この 美形揃いの 『輝夜姫』 よりは、主役のキャラが立ってて読み易いことは確かだ。<関連日記>2012.3.25. 田村由美 『 BASARA 』…… キャラクターの魅力が長編漫画の命 2012.6.4. 清水玲子 『 秘密-トップ・シークレット‐ 』…… 「被害者の無念」 に寄り添う サスペンス 2012.9.19. 田村由美 『 7 SEEDS 』…… 登場人物すべてが愛おしい 2015.9.2. 『 浦沢直樹の漫勉 』…… プロ漫画家 “創作の秘密” 公開 2016.12.27. 清水玲子 『 秘密 season0 』 ・・・ サスペンスだけでない、一粒で二度おいしい作品 2017.3.18. 穂積 『 さよならソルシエ 』 ・・・ 問題は 「史実と かけ離れている」 点ではない 輝夜姫(第1巻) [ 清水玲子(漫画家) ]価格:730円(税込、送料無料) (2017/4/4時点)輝夜姫1【電子書籍】[ 清水玲子 ]価格:686円 (2017/4/4時点)
2017年04月04日
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★ 『 さよならソルシエ 』 穂積 (2012~13年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全2巻読了。フィンセント・ファン・ゴッホの 画家としての成功の秘密を、弟 テオドルスの視点で描いたフィクション。生前、無名で貧しかった画家ゴッホが、画商勤めの弟テオから経済的支援を受けていたことは割合 有名な話で、ゴーギャンとの確執 (耳切り事件) などと共に、その生涯は様々な著作や映画等で紹介されてきた。私自身、ゴッホの 「人となり」 に興味があり、一時期、関連する著作を読み漁ったこともあるが、この作品がゴッホ兄弟の話だとは、読み始めるまで知らなかった。作者である穂積さんは、デビューコミックス 『式の前日』 (2012年) と、この 『さよならソルシエ』 で、相次ぎ複数の漫画賞 (「このマンガがすごい!」 など) を受賞している新進気鋭の漫画家で、その分 レビューも多いが、賛否が分かれていることからも推察できる通り、ゴッホ兄弟の 「新解釈」 と言うにしても、かなり荒唐無稽なストーリーなので、マジメな美術ファンは過剰な期待をして読まない方が身のためだ。かと言って、「ゴッホ兄弟を冒涜している」 とか 「史料をちゃんと読んだのか」 などと怒るのはお門違いで、そもそも、「史実」 と言われるものですら、全ては後世の他人による 「解釈」 に過ぎず、24時間365日、ノーカットで追った映像記録でも無い限り、真実かどうかは本人ですら断定できない (本人の記憶も絶対ではない)。歴史上の人物や出来事に関しては、「フィクション」 と断った上でなら、どう歪曲しようと基本的には許されると、私は思う (子孫や関係者は不愉快だろうが)。実際、ゴッホの兄弟関係にしても、私がチェックした範囲でも かなり解釈には幅があり、徹底した 「美談」 から、逆に、フィンセントの不遇の一因を 弟夫妻の責と見るものまで様々で、たかだか死後100年ちょいの人物でも、勝手に多様なドラマを仕立て上げられるものだ。勿論、この 『さよならソルシエ』 に関しては、人物設定からして、いくら何でも強引な解釈だと私でも分かるが、「教科書に明記された歴史ですら、疑う余地がある」 という問題提起になりうる点で、意味はある。極端な話、テオとその妻子が ゴッホの作品を全て処分してしまっていたら、ゴッホという画家は歴史上、「存在すらしなかった」 ことにもなりかねなかったのだ。そういう意味で、「読んではいけない」 などと息巻くレビュアーは、そもそも、歴史フィクションや漫画を語るには 頭が固すぎる、と私は思う。ただ、この作品が 「傑作」、「面白い」 とまで言えるかどうかについては、また別の問題だ。着想やあらすじ自体は悪くはないのだが、キャラクターの魅力や行動原理については描写不足で、私は感動や衝撃を受けるまでには至らなかった。弟テオを主人公に据えたにしても、フィンセント本人の描写が 「雑」 過ぎて、感情移入できないまま 急転直下で完結してしまい、肝心のテオの心理にも 結論の意外性にも、全く説得力がなくなってしまった。1巻の段階では、エピソードも具体的で、多少、期待が持てたが、テオの裏の顔や行動原理だけ描いて満足してしまったのか、はたまた飽きてしまったのか、「打ち切り」を疑われても仕方がないくらい、まとめ方が巧くない。実は数年前に、高評価の短編集 『式の前日』 も読んだのだが、決して悪くはなかったのだが、正直、ここで感想を書くほどの思いには至らず、すぐに内容も忘れてしまった。絵柄は青年漫画的で万人受けしそうだが、同時に、内容や作風も 「『モーニング』 あたりの青年誌に載ってそう」 な印象で、余り新しさは感じられなかったように記憶している。また、『さよならソルシエ』 後の連載作品、『うせもの宿』 の1巻も 無料になっていた際に読んでみたが、これも、基本設定は悪くないが、一つ一つのエピソードは 「どこかで読んだ」 感 満載で、2巻を読みたいとまでいかなかった。まあ、「どこかで読んだ」 と感じてしまうのは、私が漫画読み過ぎだから ということもあり、さほど漫画を読まない人には 「読みやすくてオススメ」 と言えるかもしれないが。漫画は、「作画」 という時間の掛かる作業を経る分、連載中に設定が修正されたり キャラクターに厚みが出て、ストーリーも予想外に発展するところが長所だと思うのだが (話を拡げすぎておかしくなった作品も多いので紙一重ではあるが)、この作家さんの場合、どうも、あらすじ通りに描くだけで精一杯な印象で、短編の時は良くても、長編については イマイチ、折角のセンスを出しきれてないように感じた。<関連日記> 芸術・天才2012.4.19. 羽海野チカ 『 ハチミツとクローバー 』…… 片思いのナルシシズム 2013.3.24. 二ノ宮知子 『 のだめカンタービレ 』…… 凡人には、結局、理解できない? 2013.10.17. 一色まこと 『 ピアノの森 』…… 闇があるから際立つ、天才たちの曇りのない純粋さ さよならソルシエ(1) [ 穂積 ]価格:463円(税込、送料無料) (2017/3/18時点)さよならソルシエ(1)【電子書籍】[ 穂積 ]価格:432円 (2017/3/18時点)
2017年03月18日
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★ 『 花に染む 』 くらもちふさこ (2010~16年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全8巻読了。群像劇作品 『駅から5分』 (2005年~) の、一部の登場人物にフォーカスして描かれたサブストーリー。神社の宮司の息子の過酷な生い立ちと再起の過程を、「親友」 であるヒロインとの関係を絡めて描いている。神道の儀式から学校の部活まで 「弓道」 の描写を多く取り入れながら、肉親や男女間の愛憎を浮き彫りにしていくドラマ性は、ピアノのコンクール競争を軸に描かれた初期の代表作、 『いつもポケットにショパン』 (1980~81年) を彷彿とさせる。くらもちふさこに関しては再三ここで書いたが、いつまでも感性や表現のセンスが衰えず素晴らしいと思う反面、昔に比べて絵柄が崩れてしまったこと、ストーリーよりもエピソードや心理描写重視になってしまったことに付いて行けず、余り読まなくなった時期があった。キャラデザに関しては、相変わらず美醜の差が激しく、少女に関しては、可愛い設定でも瞳を強調し過ぎて 余り可愛く感じないが、美少年設定の主人公については、少し美麗さが戻ってきたような気がする。 昔のように、男らしいカッコよさは余り感じないが、一見、雑に見えて線は非常に綺麗だし、なんか 「一周まわって良く見えてきた」 …という感じ。エピソードや心理描写が昔より丁寧になった分、若干もたつくところもあるが (昔のくらもちさんなら、数巻~長くても5巻以内にまとめていただろう)、やっぱり抜群に上手いとは思う。恐らく、読み返せば新たな発見があるだろう。 「結末が分かりにくい」 というレビューも目立つが、読み返すと色々細かい伏線がわかって、感動が増すのだろうと思う。以前、くらもちさんの描く 「親子関係がリアル」 だと書いたことがあったが、やはり、鋭い視点での人物描写は秀逸だ。リアルと言っても、必ずしも 「現実にいる(ある)」 と言うわけではない。 『重版出来』 の感想でも述べたが、フィクション作品に対して 「(現実の出版業界に) こんな人はいない」 などと言うのは、殆ど 「言い掛かり」 だと思う。「現実にいるかいないか」 と言われれば、昔から、くらもちふさこが描くような 「不言実行タイプのイケメン高校生」 など、ほぼ 「現実にはいない」 し、冷静に考えれば、常に恋愛中心の世界観も、不自然に感じるところはある。ただ、凡庸な漫画作品に比べて現実感があるのは、人間関係に 「無理にけりをつけない」 ところだ。少年少女向けの漫画では、何かとメインキャラクターの 「長所」 や 「成長」 を強調し、取り巻く人間関係を整理し、白黒の解決をつけたがる。 「性悪」 な者は改心させられるか排除されるか、いずれにせよ 主人公中心主義の世界で、何らかの矯正や報いを受ける。しかし、現実には、殆どの人間関係は、特に誰かが反省することもないままに、いつの間にか改善されていたり、何の解決もなくウヤムヤになったりすることの方が圧倒的に多いだろう。『おしゃべり階段』 の体育教師、 『いつもポケットにショパン』 の女友達、 『いろはにこんぺいと』 の想い人の母親、 『天然コケッコー』 の父娘関係…。悪人まではいかないが、いわゆる 「ヤな感じ」 なサブキャラが、くらもち作品には沢山出てくるが、かと言ってメインキャラ自身も 性格に全く欠点がないというわけではなく、淡々と些細で日常的な葛藤が描かれ、多くはすっきり解決もせずに作品は完結する。この作品については、ヒロインだけは珍しく、かなり客観的で自制的だが、他のキャラクターは (エゴイストとまでは言わないが) 我が道を往くタイプばかりで、漫画的な 「利他的ないい子」 は余り出てこない。イラつくキャラには終始イラつかされるし、作中では真相や行く末が分からないままの問題や人間関係もある。 恋愛の結末 (告白シーン) だけは、割合ハッキリと、 「オトコの見せ場」 として描く傾向のくらもちさんにしては、それすら、ちょっと分かりにくかったりする。『駅から5分』 は、無関係に見える人物やエピソードに何らかの繋がりがあった。 エピソードが無限に繋がっていくが如く、人間関係にも人生ストーリーにもハッキリとした 「終止符」 は無いということを、夢物語の恋愛漫画の中でも気付かせてくれるのが、くらもち作品の特徴だと思う。<関連日記>2012.1.26. くらもちふさこ が描く、リアルな親子関係 2012.7.11. くらもちふさこ 『 駅から5分 』…… 天性のセンスが冴える 2012.10.15. くらもちふさこ 『 海の天辺 』…… くらもちふさこ が描く 「禁断の愛」2012.12.4. くらもちふさこ 『 おしゃべり階段 』…… 「嫌われる」 のも大切な経験 2017.2.16. 松田奈緒子 『 重版出来! 』 ・・・ いかに嘘や夢を織り交ぜるかが 職業漫画の肝 花に染む(1) [ くらもちふさこ ]価格:452円(税込、送料無料) (2017/3/15時点)花に染む 1【電子書籍】[ くらもちふさこ ]価格:400円 (2017/3/15時点)
2017年03月15日
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★『 ベルセルク 』 三浦建太郎 (1989年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊38巻読了。人間と妖魔の類が混在する中世ヨーロッパ的な異世界で、 「黒い剣士」 と呼ばれる男 (ガッツ) が諸々の敵に立ち向かう姿を描くダークファンタジー。筋肉モリモリの主人公の雰囲気から判断して 「(男の成長やら友情やらの) バトル少年漫画」 を予想して読むと、残虐シーンの多さに気分が悪くなる人もいるかもしれない (少年漫画要素が無いわけではないが)。少なくとも、私は、昨年のアニメ放送に合わせて電子書籍で実施された 14巻無料 (~黄金時代編) という大盤振る舞いが無ければ読むことはなかったと思う。 また、試し読みが最初の数巻だけだったとしたら、 「何やら個人的な復讐の為にバトルする男」 の話として見切りをつけ、やはり続きを読もうとは思わなかったかもしれない。3巻あたりで主人公の過去が描かれ始めるあたりから、徐々に、かなりストーリー性のある作品だと分かってくる。「諸々の敵」 と一言で言っても、いわゆる悪徳領主とか賊や殺人鬼のような分かりやすい悪ばかりではない。 親子の確執、仲間の裏切り、宗教的対立、自らの心の弱さとの葛藤 …等々、主人公が対峙すべきものは多岐に渡り、一つ一つのエピソードがやたらと重い。絵柄の方も最初の方は拙さもあって、それほど怖くもないのだが、巻を追って画力がアップするに従い、写実や細密さにこだわる作画になってくると、妖魔の類など、造形だけ見ても気持ちが悪い。男性戦士がバトルで切り刻まれ流血する姿は少年漫画やアニメで見慣れているせいか大して感じないのだが、非力な庶民や女子供が暴行されたり虐殺されたりする様子は、ちょっとトラウマになりそうだった。私は子供の頃から少年向けアニメや特撮ものを観て育ったので、普通の女子より少年漫画のバトルや暴力シーンには耐性のある方だと思っていたが、最近になって、意外に そうでもないのかもしれないと自覚した。子供向けアニメの多くは男同士のケンカか、勧善懲悪的な暴力に限られていたが、この作品で描かれる暴力は、理不尽かつ生々しいものが かなり含まれる。 勿論、主人公の不死身さや半獣のような魔物などは非現実の極致なのだが、現実世界でも戦乱の中では、このような理不尽な暴力で溢れるのだろうと思うと、単なるホラーとして面白がるレベルには留まらない。Wikipediaによれば、作者は少年期から、かなり少女漫画を読んでいたらしいが、確かに、バトル描写のクドさを別にすると、テーマや心理描写の繊細さは少女漫画に通ずるものがある。 それも、萩尾望都や竹宮惠子、三原順ら、人間の本性や存在理由などを正面から問うた作品に影響されているように感じる。少女漫画の影響は、女性キャラを 「添え物」 や 「使い捨て」 にしない姿勢からも感じられる。女性キャラはそれぞれ重要な役割を果たしているが、必要以上に 「無敵」 だったり 「露出過多」 だったりはしない。 勿論、どぎついエロ描写も多いのだが、 「小柄で巨乳の女戦士が、下着同然のコスチュームでロングヘアーをなびかせ、屈強な男を倒しまくる」 ような非現実性や、都合のよい時だけ現れる 「癒し役」 扱いは、極力 排している。ただ、多くの読者が指摘するように、執筆ペースの遅さは、やはり捨て置けない問題。漫画好きの友人に 「30巻くらいまでは単行本を買ってたけど 疲れてやめた」 という人がいるが、休載が多く刊行ペースが遅いだけでなく、20巻を超えたあたりから話の進みも遅くなり、作画ばかりが重厚になって、正直、読むこと自体に疲労感が増す。先日放送の 『浦沢直樹の漫勉』 (第4シーズン) の清水玲子さんの回で、 「上手い漫画家ほど線が過多になり、却って読みづらくなる」 というような話をしていたが、まさに作画地獄 (もしくは、作画への逃避) に陥ってしまった典型例のようだ。バトルシーンなども、効果線などの描きこみが多すぎて、却って、何が起こっているのかよく分からず、つい読み飛ばしてしまう (私がバトルの詳細に余り興味がないということもあるが)。この半年間でまとめて読んだ私でも後半ジリジリしたので、連載開始当初 (1989年) から追いかけているファンの苛立ちは察してあまりある。<関連日記>2012.3.26. 竹宮惠子 『 イズァローン伝説 』…… もう漫画は描かないのだろうか 2012.3.29. 萩尾望都 『 マンガのあなた・SFのわたし 』…… 天才は一日にしてならず 2012.6.4. 清水玲子 『 秘密-トップ・シークレット‐ 』…… 「被害者の無念」 に寄り添う サスペンス 2012.8.17. 横山光輝 『 三国志 』…… 勧善懲悪の戦国物語に辟易 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?) 2014.8.31. 幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ2014.9.5. 萩尾望都 『 王妃マルゴ 』…… 着飾った少女の視点で描く戦争 2014.9.7. 細川智栄子 『 王家の紋章 』…… 「完結しないこと」 にイラつく ファンの皆様の心情をお察しします 2015.9.2. 『 浦沢直樹の漫勉 』…… プロ漫画家 “創作の秘密” 公開 2015.10.20. 伊藤悠 『 シュトヘル 』…… 殺戮の時代に 「文字」 が持つ 真の役割と救い 2016.10.21. 岩明均 『 ヒストリエ 』…… 遅筆に付き合うにも限界が 2016.12.27. 清水玲子 『 秘密 season0 』 ・・・ サスペンスだけでない、一粒で二度おいしい作品 2017.1.27. 古屋兎丸 『 インノサン少年十字軍 』 ・・・ 「無垢」 が生み出す 悲劇と教訓 ベルセルク(1) [ 三浦建太郎 ]価格:626円(税込、送料無料) (2017/3/4時点)ベルセルク1【電子書籍】[ 三浦建太郎 ]価格:626円 (2017/3/4時点)
2017年03月04日
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★ 『 重版出来! 』 松田奈緒子 (2012年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊8巻中、6巻まで読了。新卒入社で週刊コミック編集部に配属になったヒロインを中心に、漫画編集の仕事の実情を描く作品。描かれるのは漫画編集部内だけに留まらず、漫画家やその卵、書店、営業、印刷屋、デザイナー、校閲など多岐に渡り、漫画出版業界内外の様々な職務内容と、それに携わる人々の想いや苦楽を紹介する内容になっている。基本的には 一つのエピソード内で一つの問題提起と解決を見せる一話完結型だが、編集部員や漫画家など、メインキャラクターについては、その背景や行く末を引っ張る要素もあり、毎回、何らかの業界知識や感動を得られながらも、続きが気になる構成になっているのは上手いと思う。様々な漫画賞を受賞したり、連続ドラマ化もされたので、Amazonレビューには話題作にはありがちな低評価レビューも見られる。「絵がダメ (下手)」、 「表紙のイメージが内容に合ってない」、 「業界人の私はそれなりに面白いが、一般の人にはどうか」、 「『×××』 の二番煎じ (それに及ばない)」 …といったもの。 相変わらず、 「女性作家特有の底の浅さ」 というような、性別やジャンルで優劣を決めつける 「底の浅い」 コメントもお約束のように見られる。しかし、低評価レビューでも、 「ストーリーは良い (悪くない)」 と認めているものが多いのは、ある意味、珍しい。 私も、漫画賞審査員の好みを疑ってしまうことは ちょいちょいあるが ( 『花のズボラ飯』 、 『flat』 など)、この作品に関しては、少なくとも、漫画が好きな人、漫画家や編集の仕事に興味のある人は、一読の価値があると思う。こうした職業漫画の脚色や細部に対して、 「実態と違う」 とか 「こんな人はいない」 とか難癖をつける人がいる (「出来=しゅったい」 なんて言う業界人、聞いたことない …と水を差す人も。 まさか、業界人が本気で 「でき」 と読むのが日本語として正確だと思って使っているわけではないだろうが…) が、実話だと断っているわけではないのだから、多少は大袈裟だったり美化されていても 全く問題ないのではないだろうか。未知の職業への興味を持たせたり、読者自身の仕事へのモチベーションを刺激させる為には、嘘や夢を適度に混ぜた方が良い場合もあり、読者を明らかなデタラメだと感じさせない程度に騙せるのが、優れたストーリー漫画というものだろう。ちなみに、確かに絵柄は癖があるし線も粗いが、決して下手というわけではないと思う。中には 「どうしても、絵がダメ。 漫画やアニメは絵が一番大事。 内容は二番」 などと断じるレビューもあったが、だったら、試し読みでもして、絵の上手い (と言うか、ご自分が上手いと思う) 漫画家の作品だけ厳選して読めばいいだろう。確かに絵の上手さは漫画の大事な要素だし、私自身、偉そうに批評することもあるが、 「絵がストーリーよりも大事」 ってことはないだろうよ。少なくとも私は、 「絵は下手だが ストーリーはものすごく面白い」 作品と 「絵はものすごく上手いが ストーリーは凡庸」 な作品のどちらかを読むとしたら、前者を選ぶ (勿論、下手にもプロとしての限界はあるが、この作者の場合、それなりに味はある)。どうやら、 「嫌い」 という人は、ヒロインが不細工だったり、男性編集部員も小汚いオッサンばかりなところが そもそも気に入らないようだが、私は寧ろ、この作品の成功のポイントはそこにあるように感じる。ヒロインが見た目に可愛く (青年漫画であれば、巨乳で露出が多く)、周りも渋いイケメンだらけならば、個別のキャラへの思い入れは高まるだろうが、そうなると、どうしても職場恋愛やセクハラなどの芽がチラついてしまうし、(多くの少年漫画のように) そういう問題をスルーすること自体が、リアリティの低下に繋がりかねない。「スポ根や仕事漫画に恋愛要素はいらない」 と決めつけ、公のレビューでその持論を押し付けようとする一部の読者は身勝手だと思うが、この作品に関しては、色恋が無くても、面白い業界ネタや感動要素を次々出せているし、編集員自体に余計な色気の無いことが、却って、気を散らさずに本筋を読めるというメリットにもなっている。それに、最近の若手労働者の離職率や、うつ病発生率の多さからすると、「オリンピックを目指して柔道に打ち込んできた」 というヒロインだからこそ、男社会の青年漫画編集部で、仕事第一に頑張れることへの強い説得力になっているのではないだろうか。<関連日記>2012.4.18. 宮崎克 、吉本浩二 『 ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~ 』…… 天才漫画家、仕事場の修羅 2012.10.14. 久住昌之 、水沢悦子 『 花のズボラ飯 』…… このマンガの、何が 「スゴイ!」 のか、理解不能 2013.1.21. 佐々木倫子 『 おたんこナース 』…… 「入院」 する前に 読むと良いかも 2013.9.27. 青桐ナツ 『 flat 』…… 書店員は ユルい漫画 がお好き? 2014.4.29. 大場つぐみ、小畑健 『 バクマン。 』…… 原作者の独善的な持論を熱く語る主人公達に イラッ 2014.8.17. 島本和彦 『 アオイホノオ 』…… オタク気質の人には共感できるはず2014.11.28. オジロマコト 『 富士山さんは思春期 』…… デカい女に突きつけられる 「好かれる条件」 2015.1.2. 森本梢子 『 研修医なな子 』…… 研修医 (外科医) の実態を 飾らずに描いた佳作 2015.10.12. はらだ 『 やじるし 』…… あまりに切ない 偏執的な愛の形 2015.11.11. 暴走する読者エゴ 2016.9.1. 槇村さとる 『 Real Clothes 』…… 「センスが もう一つ」 なのは今に始まったことではない 重版出来!(1) [ 松田奈緒子 ]価格:596円(税込、送料無料) (2017/2/16時点)重版出来!(1)【電子書籍】[ 松田奈緒子 ]価格:540円 (2017/2/16時点)
2017年02月16日
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★ 『 たびしカワラん!! 』 江野スミ (2013~16年)レンタルコミックにて、全4巻読了。地獄の家畜らに喰われても喰われても死なずに再生を繰り返すという呪術師 (クレイシハラ) の生涯を、呪術を研究する大学講師のヒロインとの関係を主軸に描いた作品。同じ作者による 『美少年ネス』 の1巻巻末で、 「『たびしカワラん!!』 を描き続ける為の交換条件で描いた」 というようなことを記していたので、これを先に読んでみた次第。ちなみに、 『美少年ネス』 の方は作風自体は気に入ったのだが、ギャグ色が強過ぎて1巻の途中で飽きがきてしまい、続きは後回し。この 『たびしカワラん!!』 も、1巻の段階ではシュールギャグ漫画のような様相で、不死身で変態の主人公がヒロインに取り憑いて繰り広げる笑いや、ヒロインが講釈する文化人類学やら哲学の豆知識に共感はさせられるが、ストーリー的には 「ワケが分からない」 というのが正直なところだった。だが、作者が1巻の巻末で予告している通り、初期の段階で 時系列も脈略も無視したように描写されたシーンやセリフは、殆どが2巻以降のストーリーの伏線となっている。できれば、一読後すぐ、通して繰り返し読むと、細かい部分が理解できると思う。絵柄のグロさや強烈なギャグからは 最初のうちは予想がつかなかったが、読み進めると、愛や孤独の意味を考えさせられ、結構 感動して泣ける。テーマもキャラの境遇も結末も、客観的には 「哀れ」 の一言で言い表せそうではあるのだが、しかし、アンハッピーエンドというわけでもなく、読後感は決して悪くない。地獄の構造など、非現実的で独自の世界観についての解明も平行して描かれる為か、良くも悪くも、話が暗くなり過ぎない。若干、チャプター間や巻末の作者による解説が微に入り過ぎて、自力で読み解きたい読者には 興が削がれるかもしれないが、私は、若い頃のようには 同じ作品を何度も読み返す暇や気力がないので、正直有り難かった。ちょっと惜しいと思うのは、コマによってペンタッチや丁寧さが一貫しないところだ。作者自身の後書きによると、地獄絵図 (グロい絵) などはアナログのミリペン、通常のコマはデジタル描画らしい (つけペンは一切使えないとのこと。つくづく、時代は変わった…)。絵柄には独特の雰囲気があるし、通常 (デジタル) のコマの作画も悪いというわけではないのだが、アナログで描いたと思われる扉絵やコマの構図やタッチが余りに素晴らしく、非常に画才が感じられるので、全てを …とは言わないが、アナログで描くシーンを増やした方が、より完成度の高い作品になっていたのではないかと思う。<関連日記> 不死・地獄 ほか2012.3.26. 竹宮惠子 『 イズァローン伝説 』…… もう漫画は描かないのだろうか 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?) 2013.3.5. 緑川ゆき 『 夏目友人帳 』…… 妖との戯れの中に描かれる 美しき 「情」 2013.3.29. 鈴木ジュリエッタ 『 神様はじめました 』…… 能天気なラブコメも 行く末を思うと切ない 2013.7.3. 花沢健吾 『 アイアムアヒーロー 』…… これでもかと描かれる 人間の醜悪さ 2013.7.29. 久保保久 『 よんでますよ、アザゼルさん。 』…… 別に 「下ネタ 好き」 なわけではありません 2013.11.15. 今市子 『 百鬼夜行抄 』…… 「演出」 に難あり 2015.8.11. ゆうきまさみ 『 白暮のクロニクル 』…… 「不老不死」 の少年と 大きなヒロインとの絶妙な取り合わせ 2015.9.2. 『 浦沢直樹の漫勉 』…… プロ漫画家 “創作の秘密” 公開 2016.7.7. 明治カナ子 『 坂の上の魔法使い 』…… ジャンルに囚われず読んで欲しい ファンタジー佳作 2016.9.12. 古屋兎丸 『 帝一の國 』…… 滑稽な生徒会選挙が、まるで大人社会の縮図? たびしカワラん!! 1 [ 江野スミ ]価格:596円(税込、送料無料) (2017/2/8時点)たびしカワラん!!(1)【電子書籍】[ 江野スミ ]価格:596円 (2017/2/8時点)
2017年02月08日
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★ 『 ケンガイ 』 大瑛ユキオ (2012~14年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全3巻読了。就活に挫折し、レンタルビデオ屋でのバイトに明け暮れる落第大学生の主人公(伊賀)が、若者ばかりの職場で、 「ケンガイ (圏外)」 と陰口を言われてハブられているヒロインに想いを寄せる …的な話。ヒロインはパッと見は悪くはないが、ファッションや他人の目を全く気にせず、毎日、映画を観ることしか興味がない。 接近を試みる伊賀に対しても、疑いを露にし、必要以上にガードが固い。地味でモテないオタクに 「棲む世界が違う」 異性が何故かアプローチしてくる話は漫画では珍しくもないが、この作品の場合、 (現実にいるかいないかは別にして) 双方のキャラが 「痛」 過ぎて、健全な読者には、いわゆる少年・少女漫画的な夢は余り感じられないかもしれない。主人公の伊賀は 「圏内」 と言っても、特別にモテるわけではなさそうだし、学業も就職も挫折している。ヒロインも、ハブられて可哀想なのかと言えば、そもそも 「毎日、映画さえ観られれば幸福」 …というスタンスなので、他人から何を言われても気にする素振りもない。 ごく少数の親しいオタク仲間にすら、人間関係の悩みを打ち明けるような弱みは見せない。映画を観るのが楽しいのは分からないでもないが、ただただ観て消費するだけで、仲間と感想を言い合うことはあっても、学んだ何かを世の中にアウトプットしようという気配は見られない。そもそも、 「圏内」 「圏外」 というレッテル自体、バイト仲間という狭い世界の中での話で、頭脳レベルや生活レベル、将来性において大した差は無いことは明らかだ。そうした狭小な中でもヒエラルキーを作って他人を見下したがる連中が 客観的に見れば一番 「痛い」 のだが、他人を見下すことで自我を保つのは、この上なく人間らしい心理でもある。恐らく、陰口を主導する佐藤という男がいなければ、他のバイトもそこまでヒロインのことを気にしないのではないだろうか (仕事上で迷惑を掛けられない限り)。 「同調する者も同罪」 とは言っても、イジメや集団リンチは、積極的に主導する者が 一人いるかいないかで 状況は雲泥の差で悪化する。よく 「女のイジメは陰湿」 とか 「女は噂話好き」 とか言われるが、性別は余り関係ないと思う。 学級やらバイトやら育児仲間やら、逃げ場のない狭い世界に閉じ込められると、男女関わらず 人は派閥を作るものだ。 私の記憶では、大学時代などは、むしろ男子学生の方が、講義にもろくに出ずに 下らない噂話 (身近な女子をネタにした 聞くに耐えない冗談を含む) ばかりしていた印象だ。…ともかく、人間付き合いというのは、この上なく面倒くさいものなのだ。 気の合う人間ばかりならば良いが、必ず感性の合わない相手や必要以上に敵意をぶつけてくる者が立ちはだかる。実際、ヒロインのように、いっそ他人を無視して唯我独尊に生きる方が楽、と割り切る人は確実に増えているようで、この作品のAmazonレビューも、 「自分はヒロイン寄りの人間」 と書いている人が多いように見受ける。私自身、 「どうでもいい人間と付き合うより 漫画読んでる方が有意義」 …と最近は思うが、20代の頃はさすがに友達付き合いを優先していたし、他人からの評価もすごく気にしていた。オタクの気持ちは分かるが、二次元しか見ず、現実とフィクションを混同するような極端なオタクとは、私自身、正直なところ、余り付き合いたくはない。ヒロインは、まさにそういう 「面倒くさいオタク」 を具現化したような女で、 「イジメはイジメられる方も悪い」 と言ってはいけないが、むしろ、ヒロインの方が 「ケンナイ」 の連中を見下し、遠ざけているとも言えるのだ。それはヒロインの生い立ちや、心理学的な病気 (伊賀の親友の医学生 曰く) にも起因しているようだが、それが詳細に明かされる訳ではない。 ヒロインは作中一貫して可愛げが無いし、佐藤も自分の愚かさに気付くことは当分ないだろう。それでも、ヒロインの言動のそこここに、飢えや渇きが滲み出し、主人公だけがそれに気付いて放っておけなくなってしまう。 幾度も当たっては砕ける伊賀を見て、 「そんな面倒な女、やめとけばいいのに」 と思うより前に、 「諦めないで」 と、つい応援してしまう読者は、やはり、ちょっと寂しい者なのではないだろうか。現実には、彼のように根気よく、閉ざした扉をこじ開けてようとしてくれる者は滅多に現れない。 誰かが気付いてくれるのを待ち続けるだけでは何も変わらない …ということに気付けないオタクは、永遠に孤独だ。この作者は、かなり寡作のようで、この作品の連載終了後、2年おいて短編を発表しただけのようだ。適度に漫画的でありながら写実感もある絵柄は、派手すぎず地味すぎず 好感度が高いので、次の連載作に期待したいが…。<関連日記> 変人・オタク2012.5.9. よしながふみ 『 フラワー・オブ・ライフ 』…… 嘘くささの中のリアルと、 「オタク」 の本質と 2012.11.15. 東村アキコ 『 海月姫 』…… 全編 「漫才」 の恋愛漫画2012.12.8. 佐々木倫子 『 動物のお医者さん 』…… 「ブレない変人たち」 を描いた名作 2013.1.22. 東村アキコ 『 ひまわりっ ~健一レジェンド~ 』…… 男は徹底的にバカな方が可愛い? 2014.2.23. 紺條夏生 『 妄想少女オタク系 』…… 抜けられなくなる妄想体質 2014.8.17. 島本和彦 『 アオイホノオ 』…… オタク気質の人には共感できるはず 2014.10.20. 二ノ宮知子 『 天才ファミリー・カンパニー 』…… 少女漫画設定を 男性的なセンスで描く 2015.4.9. ぢゅん子 『 私がモテてどうすんだ 』…… 逆ハーレムを茶化しつつ、男たちの成長を描く? 2015.5.4. 佐倉準 『 湯神くんには友達がいない 』…… 揺るがぬ 「唯我独尊」2015.9.29. 山崎紗也夏 『 シマシマ 』 …… 読者を現実に引き戻す 冷徹な(?)手腕 2016.4.2. 河内遙 『 関根くんの恋 』…… 終始徹底して 「関根くん萌え」 2016.5.13. 二ノ宮知子 『 87CLOCKERS 』…… クロッカーの愛が地球を救う(かもしれない) 2017.1.17. 石田拓実 『 トライボロジー 』 ・・・ 理工学部の男女関係の現実 ケンガイ(1) [ 大瑛ユキオ ]価格:596円(税込、送料無料) (2017/1/31時点)ケンガイ(1)【電子書籍】[ 大瑛ユキオ ]価格:540円 (2017/1/31時点)
2017年01月31日
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★ 『 インノサン少年十字軍 』 古屋兔丸 (2007~11年)レンタルコミックにて、全3巻読了。『帝一の國』 がなかなか個性的で面白かったので読んだ 古屋さん2作品め。予備知識なく借りたのだが、 『帝一の國』 が、シリアスっぽい画風でありながら、かなりコミカルだったこともあり、 「少年十字軍」 と言っても、名前だけ借りた別の話だろうと勝手に思いこんでいたら、最初のチャプタータイトルが 『1212』 だったので、 「マジな十字軍の話かーっ!」 と、ちょっと怯んでしまった。高校時代、世界史が苦手だった私ですら、 「少年十字軍」 については、教師が口にした 「イチニイチニ (1212年) とやって来る」 という フザケた語呂合わせと共に、とにかく 「悲惨な結末に終わった」 らしいことだけは強烈に覚えているので、明るく楽しいストーリーでないことだけは、読む前から分かってしまったからだ。勿論、史実に基づいているとは言え、そもそも800年も昔の市民レベルの出来事であり、詳細については信憑性も含めてハッキリしていないことだらけで、キャラ設定やエピソードなど、殆どがフィクションであろうことも予想はついたが…。ただ、当時の教会やテンプル騎士団らの腐敗を複雑に絡めたエピソードの殆どは作者による脚色だろうが、 「聖都奪還」 だの 「異端排斥」 だのに燃える少年らの正義感や純粋さが、大人の思惑や社会の歪みの中で蹂躙され、自らの嫉妬心や疑心も相まって破滅していく有り様は、人間の歴史上、いまだ繰り返される悲劇の構造を端的に表している。「無知」 や 「無垢」 ほど、操りやすく、権力者に都合の良いものはない。 「信仰」 や 「正義」 の名の下に、民衆同士が憎み合っているうちは、お上は安泰で、一部の利権者が甘い汁を吸い続けられるのが世の理だ。そうしたカラクリにも気付かずに、異なる者を罵り、弱者を差別し、底辺での争いを煽る一部のネット民らに、こういう作品を読んで少しは学んで欲しいものだが…。『帝一の國』 では、昭和の男子中学生にしては端麗すぎるキャラデザが ギャグ要素の一つになってしまっていたが、中世ヨーロッパのおどろおどろしい雰囲気には嵌まっているし、背景の描き込みも丁寧で素晴らしい。ただ、その端麗さのせいで、残虐なシーンすら、絵的にはちょっと美しく見えてしまい、ショックを半減させているようにも感じた。そもそも死亡フラグだらけの陰鬱なストーリーではあるが、ある意味、 「死」 よりも残酷な 「恐怖」 や 「苦痛」 の描写が 比較的あっさりしているのは、作者の狙いか、優しさなのか。余りグロさにばかり拘るのもどうかと思うし、演劇的に美しく描かれることで逆に哀れさや詩情を強調できている面もあると思うので、その辺は読み手の評価が割れるところだろう。いずれにしても、 「インノサン (無垢な)」 と言うよりは、この上なく 「陰惨」 なストーリーであることに変わりはなく、Amazonレビューでも、 「買ったことを後悔はしないが、もう読み返すことはないだろう」 という感想があったが、正直言うと、私も同意見だ。<関連日記>2012.5.19. 篠原千絵 『 天は赤い河のほとり 』…… 功罪相半ばの歴史漫画 2012.5.21. よしながふみ 『 大奥 』…… 閉ざされた世界の 「種馬」 の悲哀 2012.8.17. 横山光輝 『 三国志 』…… 勧善懲悪の戦国物語に辟易 2012.9.5. 神坂智子 『 蒼のマハラジャ 』…… 「中途半端」 が残念な歴史フィクション 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?) 2013.8.20. 上田倫子 『 リョウ 』…… 歴史フィクションの限界 2013.9.10. 惣領冬実 『 チェーザレ 破壊の創造者 』…… いい意味で 模写名人的な漫画 2014.8.31. 幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ2014.7.9. 星野浩字 『 臏(ビン)~孫子異伝 』…… 心優しい軍師が魅力の歴史ファンタジー 2014.9.5. 萩尾望都 『 王妃マルゴ 』…… 着飾った少女の視点で描く戦争 2014.9.7. 細川智栄子 『 王家の紋章 』…… 「完結しないこと」 にイラつく ファンの皆様の心情をお察しします 2015.6.11. ヒラマツ・ミノル 『 アサギロ ~浅葱狼~ 』…… 新撰組ファンでもなんでもないが、人物描写に引きつけられる2015.10.20. 伊藤悠 『 シュトヘル 』…… 殺戮の時代に 「文字」 が持つ 真の役割と救い 2016.9.12. 古屋兎丸 『 帝一の國 』…… 滑稽な生徒会選挙が、まるで大人社会の縮図?2016.10.21. 岩明均 『 ヒストリエ 』…… 遅筆に付き合うにも限界が 2017.1.3. 菅野文 『 薔薇王の葬列 』 ・・・ 設定や雰囲気の良さを活かしきれていないのが残念 インノサン少年十字軍(上) [ 古屋兎丸 ]価格:1296円(税込、送料無料) (2017/1/27時点)インノサン少年十字軍(上)【電子書籍】[ 古屋 兎丸 ]価格:540円 (2017/1/27時点)
2017年01月27日
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★ 『 ハル×キヨ 』 オザキアキラ (2013~16年) 電子書籍無料版およびレンタルにて、全9巻中、8巻まで読了。 「高身長女子と低身長男子」 の組み合わせのラブコメ。『ラブ★コン』 、 『図書館戦争』 、 『富士山さんは思春期』 …と、さすがに、このパターンにも飽きてきたな…。 何だかんだ言ってヒロインが、顔は可愛かったり社交的な設定の作品ばかりだったことを考えれば、 「暗くてモッサい」 ヒロイン (初期設定) …というところに若干のリアリティはある。とはいえ、 「髪型など気をつかえば、案外キレイ」 …という、いつものパターンでもある。こうした 「美醜」 設定に対する読者心理というのも割と複雑で、絵的に明らかな不細工が主人公 …というのも、恋愛漫画では余り歓迎されないのだろう。 「平凡」 等とセリフでは表現していても、絵で見る限りはスラッと可愛らしいのが常道 (さらに実写ドラマ化されると、浮世離れした美人女優が演じて、モテるべき人がフツーにモテるだけの話に変貌する)。 周りの男に見る目がなくて今はたまたまモテないが、いつか、自分の可愛さに気付いてくれる王子様がきっと現れる… と根拠の無い夢を抱いている女性読者にとっては、 「よく見りゃカワイイ」 というのも、重要な要素だったりする (多分)。ただ、 『ラブ★コン』 などよりも一歩踏み込んで、かなり、主人公の男女の距離を近付けて描いている (恋愛関係的にも物理的にも) ので、なまじ、デッサン力があるだけに、絵的な滑稽さは拭いきれない (顔の大きさなども正直過ぎるほどヒロインの方がデカイので、遠近感がおかしく見える)。それでも、気にせずグイグイくる男子が男前で、少女漫画のヒーロー的であるのに対して、ヒロイン側は終始徹底してギャグキャラという対比で可笑しさを演出しているわけだが、思春期の少女が読んで、 『ラブ★コン』 のような胸キュンを感じられるかどうかと考えると、ちょっとビミョーなところだ。この作品が 『富士山さんは思春期』 と違うのは、男性側が (低身長であること以外) かなり高スペックで他の女性からもモテるところで、逆に、余り取り柄のないモサいヒロインは 「度を越して性格が良い」 という設定で、客観的に男性上位という点では従来の少女漫画と大差ない。そもそも、20センチ近い身長差のある思春期の男女が (幼馴染みだとか、他に選択肢が少ないド田舎とかならまだしも)、人目も憚らずに付き合うこと自体、現実離れしているが (『富士山さんは思春期』 は、交際を秘密にしているのがストーリーの肝になっていた)、正直、この作品の場合、キャラクター全てに (不快感はないが) リアリティが無さすぎて、(不釣り合いなカップルを揶揄する) ギャグ漫画と割りきれば、そこそこ面白いけれども、恋愛ものとしては、 『別マ』 系 少女漫画の定石どおり …としか言いようがない。 <関連日記>2013.12.9. 有川浩、弓きいろ 『 図書館戦争 』…… 男女の身長差がミソ? 2014.7.11. 中原アヤ 『 ラブ★コン 』…… 「巨女」 と 「チビ男」 の爽やかな ラブ・コメディ 2014.11.28. オジロマコト 『 富士山さんは思春期 』…… デカい女に突きつけられる 「好かれる条件」ハル×キヨ(1) [ オザキアキラ ]価格:432円(税込、送料無料) (2017/1/22時点)ハル×キヨ 1【電子書籍】[ オザキアキラ ]価格:400円 (2017/1/22時点)
2017年01月22日
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★ 『 トライボロジー 』 石田拓実 (2014~16年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全3巻読了。大学の工学部のゼミ内で繰り広げられる恋愛模様を描いた作品 (作者自身も工学部出身)。ヒロインは金属の溶解 (鋳込み作業) に興奮するという変わり者。 とりまくゼミ生も癖のあるキャラが多い。圧倒的に男子学生の多い理系学部に入れば 「逆ハーレムでモテモテ」 かと期待していたら、教養課程中はそうでもなくてガッカリ。 …だが、ゼミで人数が絞られてくるとさすがに色恋の芽が出てくる …というのは、結構リアルな話だ (昔、理工学部の先輩男子が 「オレ、自分の娘が不細工だったら、理工に入れさせるわ (女子学生が必要以上に大事にされるから)」 と言っていたのを思い出した)。ちなみに、理系に限らず、大学の 「大教室」 で恋が生まれることは (よほど眉目秀麗か 自分から動ける人でない限り) 案外少ない。文系学部では、たまに大教室で (チャラそうな) 男子が (真面目そうな) 女子に声を掛けていると思うと、大概は 「(試験前だから) ノート貸してください」 …てな図々しい交渉だったりしたものだ。非モテ系が本気で婚活したいなら、不特定多数が集まる街コンやらパーティーに参加するより、相手の素性がハッキリしている少人数での合コンやお見合いを重ねた方が、多少 ムダな時間やお金は掛かっても、出会える確率は高いと思う。人数が多ければ 「高スペック」 の異性が紛れている可能性が高まるのは確かだが、相手にも当然 選ぶ権利はあるので、結局は、一部の美男美女に人気が集中して終わってしまう。 最近は 「妥協する位なら独りでいい」 という草食系が増えているので、余計に非効率だ。外見が趣味でなくても、無理にでも対話しているうちに良さが見えてきたり、相手からも認められたりすることがある。 人見知りで 見た目に自信のない人ほど、思い切って少人数で会った方が良い。…と、話が ついつい作品の感想から逸れてしまうのは、この作品が、こうした 「恋愛あるある」 を紹介することでほぼ終わってしまってて、本筋については、なんとも評価しづらいからだ。「男同士でつるんで、自分からは女子に声も掛けられない理系男子」 に失望しているヒロイン自体、まともに男子と会話できない残念な女 …だとか、そんな恋愛初心者でも、ちょっとモテると 途端に計算し始める 「したたかさ」 等々…、多くの少女漫画で 「ヒロインの純心さ」 として美化されてしまう部分を、敢えて浮き彫りにする作者の視点は 相変わらず鋭いと思ったが、肝心の人間関係や恋愛模様 (ストーリー) が、案外、陳腐な上に 結論も曖昧だ。常々、 「引き延ばし」 恋愛漫画を批判している私なので、結末が余りすっきりしないこと自体が悪いとは言わないが、基本設定の説明や恋愛理論がクドクドしていた割に、やっと盛り上がってきたかというところで 「急に打ち切られた (もしくは、面倒になって打ち切った?)」 感が満載で、ならば、いっそ 1巻程度にスッキリまとめられなかったのかと思う。<関連日記>2014.11.14. 石田拓実 『 はしたなくてごめん 』…… ジミメンに目を向ければ リア充な高校生活も夢じゃない(かも) 2015.2.4. 石田拓実 『 パラパル 』…… 科学的なテーマも、でっかいんだか ちっちゃいんだか分からない話に 2016.6.6. 幸田もも子 『 ヒロイン失格 』…… 恋する男女は、皆 「計算」 している? トライボロジー(#1) [ 石田拓実 ]価格:452円(税込、送料無料) (2017/1/17時点)トライボロジー 1【電子書籍】[ 石田拓実 ]価格:400円 (2017/1/17時点)
2017年01月17日
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★ 『 薔薇王の葬列 』 菅野文 (2013年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊6巻まで読了。シェイクスピアの史劇、 『ヘンリー六世』、 『リチャード三世』 を原案とする歴史ファンタジー。中世 (15世紀) イングランドにて30年に及んだ内乱、「薔薇戦争」 下での王や諸侯の愛憎ドラマを描く。ぶっちゃけ、薔薇戦争の概要も覚えてないし、シェイクスピアも読んでないので、Wiki で触りを調べたところによると、シェイクスピア劇では 「醜い、せむしの極悪王」 として描かれた 『リチャード三世』 を、両性具有の女性的なキャラクターに置き換え、薄幸な生い立ちや恋愛要素を絡めて描いているので、歴史フィクションをさらに少女漫画風味にアレンジした作品といったところだろう。前の連載作品 『オトメン』 とは違って、殆どコメディ要素のないシリアスものだが、菅野さんの端麗なキャラデザにはよくハマっている。 『オトメン』 で指摘した全身像やデッサンの手抜きも (よくよく見れば気になるところはあるものの、) かなり解消されている。ただ、ここまで大胆に設定を改変するなら、薔薇戦争とかリチャード三世とかでなく、全くの異世界ファンタジーでもいいんじゃねえか? …って気がしないでもない。以前から指摘しているが、歴史上の実在の人物や事件を題材にしてしまうと、いくらフィクションと銘打っても、結末 (史実) の改変には限界があり、どうしても先が見えてしまうからだ。しかも、この作品に関しては、基本設定など着想は面白いが、 「男として生きる女(?)」 だの 「運命の出会い」 だの 「すれ違いの恋」 だの 「結ばれえぬ悲恋」 だの、メロドラマ的な要素が満載で、まだストーリーの途中ではあるが、私個人的には、今のところ 「展開が予想の範囲内」 という言葉がピッタリくる感じで、今一つ 先行きが気にならない。作者が、リチャード三世の人物像を根底から覆し、彼 (彼女?) の葛藤を主に描きたいのは分かるのだが、その部分がやたらと冗長な割に、リチャード以外の人物については、もっと面白く掘り下げられそうなところをみすみす描き逃してしまっている感があり、当時の事件や時代背景の説明も十分とは言い難いので、歴史物語としては 「惜しい」、と言わざるを得ない。こういう言い方は余りしたくないが、これまでのところは、あくまで 「少女漫画の範囲を超えていない」 印象だ。とは言え、この作品を読むと、史実としての中世イングランド史や、シェイクスピアの 『リチャード三世』 そのものに興味を持つきっかけにはなると思う。今後の展開に期待したい。<関連日記>2012.5.19. 篠原千絵 『 天は赤い河のほとり 』…… 功罪相半ばの歴史漫画 2012.5.21. よしながふみ 『 大奥 』…… 閉ざされた世界の 「種馬」 の悲哀 2012.8.17. 横山光輝 『 三国志 』…… 勧善懲悪の戦国物語に辟易 2012.9.5. 神坂智子 『 蒼のマハラジャ 』…… 「中途半端」 が残念な歴史フィクション 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?) 2013.8.20. 上田倫子 『 リョウ 』…… 歴史フィクションの限界 2013.9.10. 惣領冬実 『 チェーザレ 破壊の創造者 』…… いい意味で 模写名人的な漫画 2014.8.31. 幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ2014.7.9. 星野浩字 『 臏(ビン)~孫子異伝 』…… 心優しい軍師が魅力の歴史ファンタジー 2014.9.5. 萩尾望都 『 王妃マルゴ 』…… 着飾った少女の視点で描く戦争 2014.9.7. 細川智栄子 『 王家の紋章 』…… 「完結しないこと」 にイラつく ファンの皆様の心情をお察しします 2015.6.11. ヒラマツ・ミノル 『 アサギロ ~浅葱狼~ 』…… 新撰組ファンでもなんでもないが、人物描写に引きつけられる2015.10.20. 伊藤悠 『 シュトヘル 』…… 殺戮の時代に 「文字」 が持つ 真の役割と救い 2016.1.6. 菅野文 『 オトメン (乙男) 』…… 「キャラ設定ありき」 なのに、キャラ萌えできない 2016.10.21. 岩明均 『 ヒストリエ 』…… 遅筆に付き合うにも限界が 薔薇王の葬列(1) [ 菅野文 ]価格:463円(税込、送料無料) (2017/1/3時点)薔薇王の葬列 1【電子書籍】[ 菅野文 ]価格:432円 (2017/1/3時点)
2017年01月03日
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★『 こいいじ 』 志村貴子 (2014年~)★『 娘の家出 』 同 (2012年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、それぞれ既刊5巻中、 『こいいじ』 4巻、 『娘の家出』 5巻まで 読了。『こいいじ』 は、少女時代から何度も告白しては振られながら、年上の幼馴染みを片想いし続けるアラサーのヒロインと、取り巻く人々の恋愛模様を描く。『娘の家出』 は、仲良し女子高生らやその家族、関係者の恋愛や性を、順繰りにオムニバス形式で描いている。それぞれ、部分的には現実離れした設定もあるが、それを感じさせない淡々とした筆致で、日常の、ちょっとしたドラマが進行していく。志村さんの過去作は、 『どうにかなる日々』 と 『青い花』 を読んでいるが、基本的に群像劇がお好きなようで、様々な人物の、特に、 「恋愛」 や 「性」 を行動原理の中心に生きる人々の姿を切り取って描くスタンスが多いようだ。一見、地味な普通の少女が、思いの外、大胆な恋愛をする姿は、 『センチメントの季節』 (榎本ナリコ) に通ずるものがあるが、あれに比べれば余程現実的だし、普通に身近に存在しそうなキャラクターであり、エピソードなので、素直に受け入れられる。ただ、 「身近にありそう」 過ぎて、却ってナマナマしく、夢もへったくれもない作品 …と言えなくもない。『こいいじ』 のAmazonレビューに、 「恋愛を描いているのに、全くキュンキュンしない」 とか 「人物に魅力がない」 といった否定的な感想が見られたが、確かに、ストーリーとしては先が気になるのだが、私自身、イマイチ感情移入までには至らないタイプのキャラクターやエピソードが多い。考えてみれば、それが当然かもしれない。 少女漫画でよく描かれる三角関係や、一途な片想いは、綺麗な絵で何もかも美化して描かれるから素敵に見えるが、実際に身近でやられたら、 「目障り」 この上ない。本来、他人の恋愛なんてのは、あくまで他人事であり、こじれればこじれるほど、長引けば長引くほど、 「他所でやってくれ」 と思うし、 「地味な友人が裏ではお盛んだった」 なんて話は知りたくもない。志村作品で描かれる 「恋する男女」 は妙にリアルで、身近で現実に 「愛の嵐」 している サブい男女を見ているようで、今一つ萌えないのだ。特に、作者の 「イケメン (タレ目の優男)」 に対するキビシイ目線が、 「あるある」 過ぎて、少女漫画的ヒーローに憧れがちな読者は幻滅するだろうし、もう本当に 「その通りだよ」 としか言いようがなく、絶望的な気分にもなる。「据え膳は食う」、 「他人のもの(女)を欲しがる」、 「元カノとの性体験をベラベラ喋る」、 「女っ気のなさそうな男に限って若い娘とデキてる」 …etc.etc.今年はやたらと 「ゲス不倫」 が話題になったが、長身でちょっと顔の良い男、地位のある男は、大概やらかす。 平凡なヒロインを一途に永遠に愛し続けるイケメンなんてのは、少女漫画の中にしか存在しない。勿論、少女漫画でも、当て馬的な役目で 「ゲスいイケメン」 が登場することはあるが、いかにも真っ黒なクズとして描かれることが多い。だが、志村作品のイケメンは、そこまで根が腐っているわけではなく、余り目立たないところでゲスい。 だから余計にリアルに感じる。そして、女の方も、恋を夢見る乙女のような顔して、かなり計算しているところ、自分の想いに正直過ぎるところが、いやらしいと言えばいやらしい (まさに、 「ゲスの極み+乙女」)。志村作品に素直にキュンキュンできる読者は、相当な恋愛強者 (いつも、恋愛の中心にいる人) なのではないだろうか。いや、勿論、決して悪い作風では無いし、エピソード構築力も描写力も素晴らしいとは思うのだが、何度も読み返したくなるかと言われるとビミョーなのだ。要するに、読み手が漫画に何を求めるかによって、評価の変わる作家さんかな、と思う。<関連日記>2013.2.25. 志村貴子 『 青い花 』…… 少女たちの痛々しい恋の有り様 2015.7.25. 榎本ナリコ 『 センチメントの季節 』…… 「理由なき援交」 を美しく描く 2016.6.6. 幸田もも子 『 ヒロイン失格 』…… 恋する男女は、皆 「計算」 している? 2016.6.10. 紺野りさ 『 胸が鳴るのは君のせい 』…… 恋人には 何でもかんでも打ち明けるべき? こいいじ1巻【電子書籍】[ 志村貴子 ]価格:432円 (2016/12/31時点)娘の家出 1【電子書籍】[ 志村貴子 ]価格:500円 (2016/12/31時点)
2016年12月31日
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★ 『 秘密 season0 』 清水玲子 (2012年~)電子書籍にて、既刊4巻 読了。死者の記憶の映像化に成功した近未来、猟奇的殺人事件捜査の過程や 捜査官らの人間模様を描いた、 『秘密 -トップ・シークレット-』 (全12巻) の続編となる作品。1巻で 主人公・蒔剛の過去を、2巻以降では 前作から数年後の捜査官らの再会や活躍を描いている。今回、この作品を読むにあたって、前作をレンタルで再読したのだが、 「泣けるサスペンス」 として改めて良作だと思うと同時に、初読当時からは、良くも悪くも 「変貌してしまった 読み手としての自分」 に気づいて愕然とした。ぶっちゃけ、前作の感想 (10巻まで) を書いた時、私はまだ 「腐女子」 ではなかった。 4年半の間にすっかり腐ってしまった私は、ついつい、その立場での読み方をしてしまい、サスペンス以外の部分が 終始気になり、 (良く言えば) 妙に萌えてしまった。よくよく思い返すと、むかし愛読してた頃の初期の清水作品も、BLを匂わせるストーリーが多かったような気もするが、当時、白泉社系の少女漫画誌では、 『日出処の天子』 (山岸凉子) のような、もっとインパクトの強い作品もあったし、それらの中では、かなりライトで上品な部類だったので すっかり忘れていたが、この 『秘密』 シリーズを読んで、改めて、清水さんも本質的には腐女子なんだろうな、と思った。勿論、ずっと少女漫画畑で描いてらっしゃるので、直接的なエロは殆ど描かれないし、どちらかというと、 『トーマの心臓』 (萩尾望都) や 『BANANA FISH』 (吉田秋生) のような、友情や恋情を超えた 愛の形を描きたい方なのだろうと感じられるので、BL嫌いの方も 変に身構えて読む必要はない (寧ろ、グロ描写の方がキツイかも)。腐女子の中には、BLでも何でもない スポ根少年漫画までも妄想の対象として読む方がいるようで、それ自体は全く本人の自由だが、あまり、そういう観点ばかりで読むと、作品本来の面白さを見失う危険性がある。すっかり腐りきった私ですら、純粋な目で作品に対峙していた頃の自分に戻りたいと思うことがある。まあ、そんなわけで、私的には 捜査官らのその後の人間模様が気になって続編を購入してしまったわけだが、勿論、サスペンスとしても、前作ほどの衝撃はないものの、相変わらず良く練られているので、お薦めできる作品だ。<関連日記>2012.3.29. 萩尾望都 『 マンガのあなた・SFのわたし 』…… 天才は一日にしてならず 2012.6.4. 清水玲子 『 秘密-トップ・シークレット‐ 』…… 「被害者の無念」 に寄り添う サスペンス秘密season 0(1) [ 清水玲子(漫画家) ]価格:802円(税込、送料無料) (2016/12/27時点)秘密 season 01【電子書籍】[ 清水玲子 ]価格:754円 (2016/12/27時点)秘密 ートップ・シークレットー1【電子書籍】[ 清水玲子 ]価格:686円 (2016/12/27時点)
2016年12月27日
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★ 『 憂鬱な朝 』 日高ショーコ (2008年~)電子書籍にて 既刊7巻読了 (8巻完結予定)。明治時代の華族社会を舞台に、爵位や家の存続を巡っての複雑な人間模様や愛憎を描いた BL作品。BL作品で3巻以上続く作品は、意外に少ない。 一巻完結だったものが人気が出て続編の形で続くことは時々あるようだが、開始当初からストーリーに継続性を見据えた長編作品は、小説のコミカライズでもない限り、かなりの人気作家でないと任されない (引き受けない) 風潮に見受ける。読者自体、BLに求めるものが偏っている (恋愛とポルノ) ということもあり、この作品に関しても、Amazon のレビューで 「BLとしては早いうちに話が終わってしまっている」 という指摘をされるのも無理からぬところがある。「主人と家令の恋愛」 という主題自体は BLとしてはありがちで、展開的にも さほどの意外性はないが、BLの範疇には全く収まりきれない丁寧さで 時代背景が描かれ、様々な人物の思惑が交錯してのストーリーが構築されている。正直、細かいところの時代考証がどれだけ正確かは分からないが、明治期 (はっきりした年代の記載が見つからなかったが、爵位制度の確立が明治17年、妾制度の撤廃が明治31年なので、恐らく、明治20年代頃を想定しているのだろう) の華族らの意識について、ここまでとことん描いているメディア作品は、BL以外でも、そう無いように思う。幕藩体制崩壊後の特権貴族階級が歴史的には短命に終わったことは 今となっては常識で、この時代を描いたドラマや映画などは、それを分かった上で、儚さを強調して描いているのが、なんとなく透けて見えてしまうことが多い。勿論、この作品でも、徐々に体制崩壊の予兆は見えてくるのだが、少なくとも前半のうちは、 「華族社会が永遠に続くと信じて疑わない人々 (華族だけではなく下々の者も)」 の姿が予断なく描かれていて、作者はかなり、この時期に関する文献などを読み込んで研究しているのではないかと感心する。日高さんの他の作品と比べても エロシーンが濃い目なので、やはり BL嫌いの人には余り薦められないが、逆に、BLにしては本筋の恋愛とは無関係な人間模様まで複雑すぎて、コアなファンからも敬遠されかねず、読者が限られるという意味では非常に勿体ないとは思う (しかも、電子書籍の刊行ペースが悪すぎる。 3巻以降、4~6巻が出るまでに異常に間があった)。作画も相変わらず素晴らしい。 子供から老人まで、どの年代のキャラも上手く描けているし、もともとノーブルな雰囲気のキャラデザが、当時のファッションや雰囲気にも合っている。ストーリー上、どうしても、状況説明的なセリフのやり取りが多いが、ただの人物アップの対話シーンで済ませず、小道具や動きを織り込んでの作画姿勢にも感服する。ほんの一例だが、主人公の友人が桃を丸かじりしながら話すシーン (6巻) などは、その美味しそうなことは勿論、桃の入手先の状況や人間関係などの説明も含んでいて、上手いと思った。…話は全く逸れるが、いくえみ綾の 『太陽が見ている(かもしれないから)』 の最新5巻で、やはり、桃を丸かじりで食べるシーンが出てきて、たまたま、読んだタイミングが近かったので、ちょっと引っ掛かった。他の作家なら単なる偶然と思うが、いくえみさんの場合、 「さりげないパクリ (オマージュ?)」 の歴史が長過ぎて、つい疑ってしまう。『太陽が見ている… 』 も、そこここで、いまだに、くらもちふさこの古い作品の影響が散見される。 勿論、ストーリーの根幹ではなく、ちょっとしたセリフやシーンで垣間見える程度だが (しかも、引用元のくらもち作品も既に古すぎる)。総合的には才能のある作家さんだと思うので、目くじら立てるのは野暮かもしれないが、ひょっとしたら、いくえみさん本人も無意識なのではないかと思うと、ストーリーそのものも、ちょっと疑わしく見えてきてしまう。<関連日記>2013.9.19. 日高ショーコ 『 花は咲くか 』…… この人の 「普通の作品」 も読んでみたい 2014.2.7. いくえみ綾 『 潔く柔く 』…… 模倣も ここまで長く続ければ 尊敬 2015.6.16. 津雲むつみ 『 暁の海を征け 』…… 人生に 「ハッピーエンド」 など無い 2015.12.30. 無駄に(?)作画のいい BL漫画家たち 2016.6.22. 西田東 『 天使のうた 』…… 真の愛を得れば、失うことが一層ツラい 2016.7.7. 明治カナ子 『 坂の上の魔法使い 』…… ジャンルに囚われず読んで欲しい ファンタジー佳作 2016.8.26. 杉山小弥花 『 明治失業忍法帖 〜じゃじゃ馬主君とリストラ忍者~ 』…… 漫画の、手法としての魅力を活かしきれていない憂鬱な朝(1) [ 日高ショーコ ]価格:616円(税込、送料無料) (2016/12/13時点)憂鬱な朝(1)【電子書籍】[ 日高ショーコ ]価格:617円 (2016/12/13時点)
2016年12月13日
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★ 『 ダイヤのA 』 寺嶋裕二 (2006~15年)電子書籍無料版およびレンタルにて、第一部・全47巻読了。アニメ (2013~16年) は未見。無名の中学から、強豪校にスカウトされたピッチャーの少年を中心に、甲子園を目指す高校球児らの活躍を描く少年漫画。全47巻、しかも、第二部も連載中 (既刊5巻) となると、読む前からちょっとゲンナリしたが、知人 (女性) の薦めもあって読んでみた。高校野球に打ち込んだ経験があるという作者だけに、チームスポーツの魅力は描けているし、絵も丁寧で分かりやすい。漫画全般に 「あるある」 な設定だが、「主要キャラクターはイケメンでその他は不細工」 …という露骨な描き分けは目立つものの、絵柄自体にも魅力がある。クスッと笑わせる要素も適度に散りばめられていて、スラスラ読める。ただ、良くも悪くも、ちょっと焦点がボケているというか、主人公が誰なんだか、よく分からない散漫さは否定できない。『黒子のバスケ』 やら 『ハイキュー!!!』 やらのアニメを観ていても感じるが、主人公の突出した才能や成長を (時に、人間離れした技と共に) 見せるような古くからのスポ根ものとは一線を画し、チームの団結力や、友情の尊さを強調する内容がトレンドなのだろう。「エース争い」、「レギュラー争い」、「監督の進退問題」、「卒業後の進路」 等々、さまざまな問題が (特に複雑に絡み合うでもなく) 平行的に描かれ、しかも、甲子園以前の部内戦や練習試合含め、予選、秋大会等のほぼ全試合を、主役級だけに留まらず、脇役キャラの心理や、毎回変わる対戦相手のキャラ設定や事情までも絡ませ、詳細に描かれる。それがいい、というファンも多いのだろうが、私は正直、ちょっと冗長過ぎるように感じた。勿論、先の展開や勝敗は気になるのだが、試合描写にかなりの頁数やコマ数を費やす中、その瞬間のプレーに直接関係のない選手や監督、観客らの表情やモノローグ等を必要以上に挟み入れ過ぎていて、「無駄ゴマ」 とまでは言いたくないが、ちょっとクドく感じる。また、その割に、あくまでやはり、ピッチャー対バッターの対決描写が中心で、監督の指示や野手の守備体系の細かい部分については、そこまで巧く描き切れていない。 そういう意味では 『ラストイニング』 などの方が、選手は没個性でも、野球そのものの奥深さはよく描けている。勿論、少年誌なんだから素人向けで構わないのだが、それにしては、小さい子供に夢を与えるような分かりやすいヒーロー性には欠けるし、結果が見えるまでが長過ぎる。少なくとも主人公は、この第1シリーズ中においては、ほぼギャグ要員のような扱いだ。 『スラムダンク』 以来、主人公を 「素人の三枚目」 設定にするのもトレンドのようだが、今のところ、主人公としてはちょっと、存在感 (“唯一無二” 的な魅力) が薄すぎる。少年誌のスポ根ものが 「腐女子向け」 と揶揄されるようになって久しいが、「精神的にはかなりオッサンくさいイケメン高校生たちが、やたらと熱く語り合い仲良くする」 …という構図は、この作品にも色濃い。47巻 (連載期間10年) 費やして、作中ではまだ1年しか経過していない。 アニメ化でファンも多いから長期的な連載継続が決まっていたのだろうが、40巻超えてからも、本筋に関係のない新キャラが次々出てきて、終わりも全く見えない様相だ。 丸々一巻 (47巻) 使っての第一部エピローグも、正直、まだるっこしかった。…まあ、そこまではいいとしても、一つだけ本気で疑問に感じるのは、女子キャラの扱いだ。少年向けスポ根漫画における女子マネージャーが、「添え物」 扱いである傾向については もう諦めているが、この作品は特にひどい。 時々思わせ振りに現れる女子マネや幼なじみが、ことごとく、ストーリー上でも、主要キャラとの関係上でも、今のところ大した役割を果たしていない。いつか使おうと考えて温存しているのかもしれないが、それにしても、興味を引かれるような個性も見出だせない。 いっそ、男子校設定にして、最初から女子マネなどいなきゃよかったのに …とすら思う。それも含めて、完結していないので最終評価はできないが、第一部に関しては、「悪くもないが傑作とは言い難い」 という感じだ。<関連日記>2012.6.21. 井上雄彦 『 SLAM DUNK 』…… 今さら、読んでみた 2014.6.9. 河合克敏 『 帯をギュッとね! 』…… 「柔道は強いけど 普通」 な主人公が創り出す 作品世界の魅力 2015.5.9. こざき亜衣 『 あさひなぐ 』…… マイナー競技 部活漫画の限界と可能性 2015.8.2. 神尾龍、中原裕 『 ラストイニング 』…… 「忘れられる高校球児たち」 の闘いをじっくりと 2015.9.23. 森田まさのり 『 ROOKIES 』…… 滅多に存在しないからこそ 求めてしまう 「熱血教師」 という虚像 ダイヤのA(1) [ 寺嶋裕二 ]価格:463円(税込、送料無料) (2016/12/2時点)ダイヤのA1巻【電子書籍】[ 寺嶋裕二 ]価格:432円 (2016/12/2時点)ダイヤのA 公式ガイドブック表【電子書籍】[ 寺嶋裕二 ]価格:648円 (2016/12/2時点)
2016年12月02日
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★ 『 ヒストリエ 』 岩明均 (2003年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊9巻読了。紀元前4世紀の古代ギリシア、マケドニア王国内外を舞台に、アレクサンドロス大王に仕えた書記官エウメネスの生涯を描く歴史漫画。再三言うが、私は西洋史については疎いので、相変わらず まっさらな知識から読ませていただいた。さすがに紀元前の話だし、ある程度、作者の作ったフィクションが含まれるんだろうなと思いながら読んだが、後でWikiってみたら、出自も前半生も殆ど分かってない人らしい。つまりは、マケドニア王の書記官になる以前の、エウメネスに直接関わるエピソードは、ほぼ作者の創作ということだろう。そう言われてみると、いくらなんでも波乱万丈過ぎる少年時代なのだが、そもそも古代の人物の伝記などは真実かどうか怪しい話が多い (どころか、当該人物が実在したかどうかすら確かではない) のだし、信憑性云々をハナから気にせずに読めば、ストーリーにも人物像にも引き込まれることは請け合いだ。エピソードやキャラ設定などが嘘八百でも、その時代の思想や社会の空気を少しでも読者に感じさせられれば歴史漫画としては成功だろう。ただ、9巻現在、ようやく、エウメネスが書記官として認められ、ボチボチ史実に基づいた紛争などが描かれ始めたばかり。連載開始から13年掛かっていることを考えると、 「執筆ペースが遅すぎる」 と批判する一部の読者の気持ちも分からないではない。もちろん、ネーム (ストーリーやシナリオ) にこだわって時間をかけているのだろうとは思うし、歴史ものである以上、時代考証にも時間がかかるのかもしれないが、これまでのストーリーが、面白いのは確かだが、そこまで練りに練った内容か? と改めて考えると、どう評価して良いのか、よく分からなくなる。どちらかと言うと心理描写にこだわる作風で、それにコマを費やしている感もあるので、ストーリーそのものに 巻数ほどの読み応えがあるかどうかはビミョーなところだ。同じく遅筆の歴史漫画で言えば、 『チェーザレ 破壊の創造者』 や 『ヴィンランド・サガ』 ならば、作画の大変さを言い訳の1つにできなくもなさそうだが、岩明さんの場合、お世辞にもそこまで細密な作画とは言い難い。岩明氏の絵柄は、それなりに味はあるし悪くはないのだが、内容に合ってるかどうかと言われると、これもまたビミョーだ。『寄生獣』 (1988~95年) の時も感じたが、かなり丁寧に描いていることは認めるのだが、奥行きや動きに欠ける画風なので、残虐な戦闘シーンも なんかちょっと迫力がない。 あんまり絵的なグロテスクにばかりこだわるのもどうかとは思うが、現代的な言葉遣いで 小ぎれいなキャラデザの主人公を見ていると、そこらの日本人少年を描いてるのかと錯覚しそうにもなる。まあ、血なまぐさい事件の多い時代の中で、常に冷静沈着な主人公を 対比的に描いていると捉えれば、結果的には成功しているかもしれないが、正直、作者がそれを全て計算ずくで描いているようにも思えない。エウメネスの生涯は歴史的には 「始まったばかり」 で、全てを描ききるつもりであれば、あと何年で完結するのか分からないペースだし、今後を先細りに終わらせるとすれば、一からキャラクター形成してきた意味が分からなくなる。日本人にとって有名な人物 (せめて “アレクサンドロス大王” 本人とか) なら、少年期だけ描いて終わり、というのもアリだろうが、エウメネスのような、教科書的にはマイナーな人物をわざわざ引っ張り出しておいて、その活躍本番を省略するってわけにはいかないように思う。ともかく、いくら内容が良くても、いや、良ければ尚更、 「なかなか完結しない」 作品というのも読者にとっては悩ましい存在だ。<関連日記>2012.5.19. 篠原千絵 『 天は赤い河のほとり 』…… 功罪相半ばの歴史漫画 2012.5.21. よしながふみ 『 大奥 』…… 閉ざされた世界の 「種馬」 の悲哀 2012.8.17. 横山光輝 『 三国志 』…… 勧善懲悪の戦国物語に辟易 2012.9.5. 神坂智子 『 蒼のマハラジャ 』…… 「中途半端」 が残念な歴史フィクション 2013.2.28. 竹宮惠子 『 天馬の血族 』…… 大作家 最後の大長編 (?) 2013.8.20. 上田倫子 『 リョウ 』…… 歴史フィクションの限界 2013.9.10. 惣領冬実 『 チェーザレ 破壊の創造者 』…… いい意味で 模写名人的な漫画 2014.8.31. 幸村誠 『 ヴィンランド・サガ 』…… 「単純無垢」 が招く 戦争の残酷さ2014.7.9. 星野浩字 『 臏(ビン)~孫子異伝 』…… 心優しい軍師が魅力の歴史ファンタジー 2014.9.5. 萩尾望都 『 王妃マルゴ 』…… 着飾った少女の視点で描く戦争 2014.9.7. 細川智栄子 『 王家の紋章 』…… 「完結しないこと」 にイラつく ファンの皆様の心情をお察しします 2015.6.11. ヒラマツ・ミノル 『 アサギロ ~浅葱狼~ 』…… 新撰組ファンでもなんでもないが、人物描写に引きつけられる2015.10.20. 伊藤悠 『 シュトヘル 』…… 殺戮の時代に 「文字」 が持つ 真の役割と救い ヒストリエ(1) [ 岩明均 ]価格:606円(税込、送料無料) (2016/10/21時点)ヒストリエ1巻【電子書籍】[ 岩明均 ]価格:540円 (2016/10/21時点)
2016年10月21日
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★ 『 ユーリ !!! on ICE 』 (テレビ朝日系)http://yurionice.com/#topテレビ朝日 (水曜深夜) にて、第2回まで視聴。久保ミツロウ ( 『モテキ』 ほか)、山本沙代 (アニメ監督) 原案の、フィギュアスケート男子シングルの世界トップ選手らを描く オリジナルアニメ。予備知識なく録画予約した当初は、正直言って、深夜アニメには滅多に手を出さないテレ朝 ( 『新世界』 以来?) が、グランプリシリーズの話題作りにと、とち狂って製作決定してしまった 「腐女子向け」 大爆死物件になるんだろうな、というイヤな予感しかなく、だがしかし、スケオタでもある私が観ないわけにもいかず (?)、恐る恐る見始めたわけだが、ぶっちゃけ、2話までのところ、ヒジョーに面白い。正確に言うと、まず、1話のスケート滑走シーンから、アニメーションのクオリティーの高さに目が釘付けになった。良くて3DCGか、下手すれば静止画ばかりでごまかすのだろうと思っていたが、フィギュアスケートの細かいステップや上半身の動きまで、線画で、かなりよく再現できている。 男性スケーターの筋肉の美しさも実際に近い感じに描かれているので、アニメなのに臨場感がある。例えば、ルッツジャンプ (一般的に、後ろ向きから左足のアウトエッジで踏み切り、右足のトゥを突いて跳ぶジャンプ) など、ジャンプの種類別の踏み切りの姿勢や力の入り方などが、きちんと描き分けられているので、素直に感心した。ストーリーは、スランプに陥った日本選手 (勇利) の里帰り先の温泉宿に、ロシアのトップ選手が 「押し掛けコーチ」 としてやって来て、さらに若手ロシア選手 (ユーリ) までが彼を追って来るという、全くあり得ない状況から始まるが、まずは、その荒唐無稽な世界設定こそが 「賢い選択」 だと思う。と言うのも、ヘタに日本選手の国内での代表争いやら、実在の日本選手を連想させるキャラ設定などでリアルに近い話を描くと、いくらフィクションだと断っても、一部のスケオタが黙っていないかもしれないからだ。以前紹介した 『銀盤騎士』 のAmazonでの評価が、ある出来事を契機に急落した。詳しくは知らないが、どうやら、作者の小川彌生さんがSNSで、フィギュアの採点に絡めて、羽生選手のコーチ (ブライアン・オーサー) への中傷と取られるコメントをしたらしい。作品が 「 “棚橋伝輔” の引退後の日本男子代表争い」 という設定だったことや、作者が 「高橋大輔ファンらしい」 という話も相まって、一部の羽生選手ファンが激昂。 作品への攻撃という行動に出たようだ。私自身は、フィギュアスケートの八百長疑惑といった類の噂話は ハッキリ言ってウンザリで、その昔、伊藤みどりが当時の採点システムのせいでなかなか勝てなかった時代からずっと不条理を感じてきたものの、今はもう 「採点競技である以上、それを疑いだしたらキリがないし、競技自体が成り立たない」 という結論に達しているので、小川さんが、公にその手の発言をしたとすれば迂闊だったと言わざるを得ないが、それでも、そのことと彼女のフィクション作品への評価を一緒くたにするべきではないと思う。作家が気に入らない発言をしたからと言って、ろくに読んでもいない著作物まで貶める一部のスケオタたちのメンタリティがよく分からない。 「作家の発言に傷付けられた」 と言いたいようだが、だからと言って、悪意に満ちた書き込みで、純粋にその作品のファンである無関係の読者を不愉快にさせる権利も無いだろう。最近の一部のスケートファンの粘着性や被害妄想は、ちょっと度を越している。 ブライアン・オーサーがキム・ヨナのコーチだった頃は、日本 (浅田真央) ファンの多くが 彼を目の敵にして叩いていたと記憶しているが、羽生選手のコーチになった途端に 掌返して全面擁護。さらに、自分の贔屓の選手以外は、同胞の日本選手でもクソミソに批判し、ちょっとした発言を槍玉に叩きまくる。とどのつまり、フィギュアスケートは 今や、ヘタに触れると大やけどしかねない潜在的炎上物件。 …まあ、炎上しても視聴率が稼げるならテレ朝的には御の字かもしれないが…。ともかく、その辺を意識したかしないか知らないが、主人公を現役選手とは余りダブらないキャラ設定にし、ライバルもロシア等の外国人中心に展開する (らしい) ところは、炎上回避策の一つにはなっていると思う。まあ、そんなフィギュア界事情を抜きにしても、キャラクターの魅力や、ギャグのテンポなど、今のところ、かなりの期待が持てる。このところ、深夜アニメにも飽きてきて、特にオリジナルアニメには落胆させられることの方が多かったので、ストーリーや作画を含めて、このままのクオリティーを維持してくれればと願う。地上波での放送は2回まで終わってしまったが、第1回は 「テレ朝動画」 で無料配信中、第2回は16日 (日曜深夜25:00~) にBS朝日で再放送の予定。***********以下、作品とは無関係な、フィギュア男子に関する個人的な雑感。一応付け加えておくと、私は、高橋大輔も羽生結弦もそれぞれ大好きだし、基本的には日本代表選手は全員、応援している。特に選手としての成長過程を見るのが好きなので、挫折やケガから何度も立ち上がり、シーズン毎に踊りの進歩が見られた高橋選手はずっと飽きずに応援できたし、羽生選手はソチ五輪優勝の2年前くらい(オーサーコーチにつく前)が、伸びしろへの期待値MAXで、観ていて本当にワクワクした。そういう意味で、私的に現在の筆頭注目株は 宇野昌磨。一昨年位からの宇野選手の成長速度は、同時期の羽生選手を凌いでいるかもしれないと思う。シニアに上がる前の1年余りで、苦手だった 「3アクセル」 と 「3ルッツ」 を完全に克服、同時に 「4トゥーループ」 もモノにし、昨シーズンは世界選手権後のわずか1ヶ月ほどの間に、 「4フリップ」 と 「3アクセル+1ループ+3フリップ」 (世界選手権までは2アクセルだった) を実戦で使えるまでにしたド根性 (?) には、心底ビックリさせられた。まあ、宇野選手があそこまでやれるのも、羽生選手が男子シングルの限界を身をもって打ち破って見せたからこそではあると思うが。<関連日記>2012.6.11. 久保ミツロウ 『 モテキ 』…… オトナになることを猶予されている世代の恋愛事情 2012.11.3. アニメ 『 新世界より 』 (第 5 回)…… 「老害」 か、 「センスの相違」 か 2013.8.5. 小川彌生 『 キス & ネバークライ 』…… フィギュアスケート ファンも楽しめる 2014.5.27. 小川彌生 『 銀盤騎士 』…… フィギュア男子の過酷な闘争の内情を ラブコメ漫画で学ぼう ユーリ!!! on ICE 1【Blu-ray】 [ 平松禎史 ]価格:5821円(税込、送料無料) (2016/10/14時点)
2016年10月14日
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★ 『 後宮デイズ 七星国物語 』 すもももも (2011~15年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全10巻読了。 中華風の架空世界で、皇帝の妃らが集まる後宮に仕えることになった芸人の娘が、次々巻き起こる陰謀や皇国の危機に立ち向かい皇帝との絆を深めていく …的な話。設定は割としっかりしているし、ストーリーも予め ある程度練られているようなのでテンポが良く、そこそこ読み応えがある。同じく中華風王宮ものである 『狼陛下の花嫁』 よりはレベルが高い …と言いたいところだが、うーん、なんだろう? 悪くはないんだが、今ひとつ感情を掻き立てられなかった。一言で言うと、 『黎明のアルカナ』 で感じたのと同じく、舞台が壮大なだけに 「何か物足りない」 ということなのだが、設定がきちんしていることの功罪なのか、 「遊びが無い」 というか、 「シナリオどおり過ぎる(?)」 というか。私は、少女漫画を 「くだらない恋愛もの」 と決めつける勢力が大嫌いだし、恋愛を中心に置きながらもストーリー性や哲学性に優れた少女漫画作品を 沢山知っているつもりだし、冒険ファンタジーにしろ スポ根にしろ、寧ろ恋愛を絡めてこそ奥が深くなると考えているので、国家的な謀略やトップシークレットを扱うと見せかけて 「結局は愛だの恋だのばっかり」 に終わっても、それはそれで構わないのだが、その肝心の恋愛描写に、今ひとつトキメキがない。絵柄が嫌いなわけではないし、ストーリーも悪くはない。 もっと陳腐な作品でも、告白シーンだけは多少はドキドキできるものなのだが、この作品では、もう少しのところで盛り上がれなかった。 しかも、理由をハッキリと断定できないところが、余計にイライラする。単なる趣味の相違と言ってしまえばそれまでなのだが、恋愛以外も含めて思い当たる 「ワクワクできない」 理由を列記してみる。○ 主要キャラにイマイチ魅力がない。ヒロインは男装の舞の名手で行動力もあり、一見、 『狼陛下の花嫁』 のヒロインよりは 「使える」 っぽいが、色々と首を突っ込む割にはオロオロすることが多く、結局は (男に助けられ愛されるのを待つ) 定型的なヒロインと大差ない。 陛下や他の恋愛候補者も正統派過ぎて、 「もっと知りたい」 「ずっと見ていたい」 と思わせるような深みがない。○ 後宮という舞台で描かれがちな女同士のドロドロやイジメが少ないのは意外性もあって良いが、いくらなんでも 「なあなあ」 過ぎて現実味に欠ける。○ 一つ一つの事件の展開がご都合主義的で、決着が安易。 特に、肝心なところで三枚目キャラ (幼児や動物、隠密など) の活躍に頼るのでシラケる。…結局のところ、キャラの心理描写が雑な為に 行動原理に説得力がない上、作品通してシリアスなんだかコメディなんだか、どっちつかずで中途半端。 トキメキもなければ、クスッと笑えるところもない。 こうなると、多少、ストーリー性があっても、そのストーリーすら陳腐に見えてきてしまう。なんだか、必要以上にディスってしまったのは、 「色々惜しい」 からであって、折角、 『狼陛下の花嫁』 よりストーリー性は高いのに、結果的に評価はさほど高くはできないのが残念な作品であり、 「子供向け」 として推せる分、寧ろ 『狼陛下』 の方が需要は高めかもしれない。ともかく 「きれいに完結」 させたのは良かったが、この後、後宮の設定や脇役キャラを使い回しての続編 (『後宮デイズ~花の行方~』) を連載中だとか。正直、キャラクターに殆ど思い入れが持てなかったので、続編 …と言われても、すごく読みたいとまでは言い難い。<関連日記>2013.5.10. 藤間麗 『 黎明のアルカナ 』…… 色んな面で何かが足りない 2015.4.23. 和泉かねよし 『 女王の花 』…… ラブコメ作家のイメージを払拭する 中華ファンタジー 2016.1.28. 可歌まと 『 狼陛下の花嫁 』…… ヒロインがフツー過ぎて、逆に新鮮 後宮デイズ〜七星国物語〜(1) [ すもももも ]価格:452円(税込、送料無料) (2016/10/12時点)後宮デイズ〜七星国物語〜 1【電子書籍】[ すもももも ]価格:432円 (2016/10/12時点)
2016年10月12日
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★ 『 31歳 BLマンガ家が婚活するとこうなる 』 御手洗直子 (2012年)電子書籍にて、全1巻読了。タイトル通り、31歳のBL漫画家が、ネットの婚活サイトで結婚相手を捜す過程を描いたエッセイ漫画。Amazon の Kindle Unlimited (定額読み放題サービス) の30日お試し中に、コミックス上位にあったので読んでみた。個人的な体験を綴るエッセイ漫画は、余りクドクドしてると読むのがイヤになってしまう私だが、これは、さらっと読みやすかった。つうか、私自身がネット婚活にはかなり抵抗感を持つ旧人類で、ぶっちゃけ、未知の世界だったので、実体験談としてかなり興味深く読ませてもらった。婚活サイトに登録し、どういう流れで婚活を進めるべきかのハウツー (あくまでも女性側目線の) が、ある程度分かる上、サイトを選び、本人に一定レベル以上の分別 (人を見定める力) があれば、そこまで危険なこともなく、案外、ネット婚活も有用であることが分かる。環境的に異性と出会うチャンス自体が少ない人は、やってみる価値はあるのかな、と思った。 合コンなどに時間やお金を費やすよりも、お互いの条件がハッキリしている分、効率的かもしれない。特別、絵柄に魅力があるわけでもないし、何度も読み返したくなる内容ではないが、 「そこそこ笑えて、面白かった」 と思いつつ Amazonのレビューを見たら、概ね好評ながら、低評価の人も少なからずいた。どうやら、読み手の状況によって、評価が180度変わるようだ。多分、ネット婚活で挫折し傷付いてる人や、異性との付き合いに自信がない人にとっては、この作者の物言いは全て、 「上から目線」 とか 「モテ自慢」 としか受け取れないのかもしれない。私はもうトシがトシなんで、傍観者の立場で、婚活サイトの実態を知られて面白かったが、確かに言われてみれば、捌ききれないほどのオファーをもらい、あくまで 「選ぶ立場」 としての苦労やお笑い体験しか描かれていないので、モテ自慢と取る人の気持ちも分からなくはない。「31歳 BLマンガ家」 は偽りではないだろうが、そのタイトルから 「モテない喪女の婚活成功談」 を期待して読むと、肩透かしだろう。大体、作者はやたらと自虐的に、 「引きこもり」 とか 「オシャレに無頓着」 とか 「腐女子」 とか、一般的に残念と思われそうな部分を強調しているが、そもそも、婚活を始めたのは、2年間交際した恋人を 「振った」 のがきっかけ。 プロフ写真を加工したと言っても、顔色が悪いのを明るく補正した程度で、ことさら 「容姿に自信がない」 とは書いてない。BL漫画はポルノの側面もあるので、格式や体裁にこだわる相手には不利な条件かもしれないが、そもそも、この方のBL作品 (御手洗直行 名義)、Amazonなどで検索しても同人誌レベルのものしか出てこない。 いずれにしろ、婚活に悪影響なほどBL漫画家として売れてるわけでもないようだ。つまり、 「31歳の、引きこもりがちではあるが、フツー以上の容姿と良識、社交性を備えた女性」 によるネット婚活体験記と考えて読んだ方が良いと思う。ただ、 「上から目線」 というのは、ちょっと言い過ぎかなと思う。この作者は、非常識な登録者を批判はしているが、それ自体は もっともな見解ばかりだし、貰ったメールに対しては、断るにしても一々返信するなど、誠意がある。 多数の候補者に次々会うのも、短期間で本気で相手を見つけようと思えば当然で、顔合わせで NGと思えば、さっさと断るのが相手のためでもある。 実際、断るのも、かなりのストレスだろう。ハッキリ言って、この程度の 「モテ自慢」 に、いちいちカッカするような人は、その性格が、異性とうまくいかない要因なんじゃないかな、と思う。 いや、私も人のことをとやかく言えるほどモテた経験は無いが。少なくとも、出会いの少ない女が 31歳になって本気で結婚したければ、このくらい必死にならないとダメだ ということ、また、高望みしていると良い出会いを逃すかもしれない …といった教訓が含まれているので、婚活している人やしようとしている人は、読む価値があるんじゃないかな。私の若い頃は、そもそもネット婚活自体が存在しなかったし、雇用や性差別など社会状況が何もかも違うので比べるのは無意味だが、最近の若い世代と明らかに違うのは、 「出世 (男) や 子育て (女) のためには、遅くとも 20代のうちに結婚するべき」 という意識が、まだ広く残っていたことだ。その為には、 「妥協」 と言うよりは 「分相応」 な相手を見つけることをよしとし、周囲もそれを認める価値観が強かったように思う。平成になって以降、人生の幸せを結婚や出産だけに求める人はガラッと減り、それはそれで良いことだと思うが、20代を勝手気ままに生きておいて、30過ぎてから 「高年収じゃなきゃイヤ」、 「デブやババアはお断り」、 「子供も一人くらいは欲しい」 などと贅沢言ってる人たちは (男女関わらず) 何なんだろうなと、ちょっと思う。<アラサー結婚・関連日記>2013.6.29. デッサン力、キャラクターに筋が通った 大人向け作品 ・・・ 小川彌生 『 きみはペット 』 2014.4.8. 「純情」 を維持することの希少さ ・・・ 藤村真理 『 きょうは会社休みます。 』 2014.10.15. 淡白でじれったい 「社会人の恋愛」 に好感 ・・・ きら 『 パティスリー MON 』 2014.10.26. 「絶望的にありきたり」 な設定を、ギャグやテンポでカバー ・・・ 東村アキコ 『 東京タラレバ娘 』 2014.10.31. 結婚制度や現代社会の問題点を考えつつ ラブストーリーも楽しめる ・・・ 海野つなみ 『 逃げるは恥だが役に立つ 』 2015.7.7. 苦い記憶や加齢の不安で退行する 30女の精神世界 ・・・ 水城せとな 『 脳内ポイズンベリー 』 2015.7.11. 「劣化したくない」、「幸せになりたい」、 崖っぷち 30女の選択 ・・・ 北沢バンビ 『 オンナミチ 』 2015.9.29. 読者を現実に引き戻す 冷徹な(?)手腕 ・・・ 山崎紗也夏 『 シマシマ 』 2015.11.3. トシとともに実感する 「愛されること」 の不確かさ ・・・ 朔ユキ蔵 『 ハクバノ王子サマ 』 31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる [ 御手洗直子 ]価格:918円(税込、送料無料) (2016/9/24時点)31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる【電子書籍】[ 御手洗直子 ]価格:756円 (2016/9/24時点)
2016年09月24日
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★ 『 ラストゲーム 』 天乃忍 (2012年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊10巻読了。「眉目秀麗、成績優秀、スポーツ万能、家は金持ちで人気者」 …の男子が、 「地味で貧乏で友達もいないが、成績・運動は常に1位」 …のヒロインを一方的にライバル視し、10年間、何かとつきまとい 振り向かせようとする …というラブコメ少女漫画。モテモテのイケメンが地味女に執着し続ける …なんてことは、 (何度も言うけど) 現実社会では殆ど無いと断言できるが、ファンタジーと割り切った上で、どれだけ夢を見させ、楽しませてくれるかがポイントになる。主人公の男女が実は両想いだということは、当の本人ら以外の脇役、読者全員が知っている中で、その状況を引っ張り続けるのは、案外高度な力量が必要ではないだろうか (引っ張り過ぎて評価を下げてしまう作品がどれだけ多いことか)。この作品の場合、もともと3話 (1巻未満) で完結した話を、曖昧な結末だったのをいいことに、後付けで連載再開した …という経緯から推測できようが、そもそもの設定が単純な上、その後の展開もありきたり、かつ、絵柄も可愛らし過ぎて (下手というわけではないのだが、幼いキャラデザのせいで稚拙っぽく見える)、パッと見たところ、低学年向けの定番少女漫画、と言い棄ててしまえなくもないのだが、じっくり読むと、ギャグセンスが悪くなく、バカバカしく凡庸なエピソードの中にも セリフやモノローグの端々でついつい笑わせられることが多かったので、私は結構楽しめた。ハッキリ言って、イケメンはストーカーもどき、ヒロインも、いくらなんでも他者の気持ちに鈍感過ぎて、現実社会だったら二人とも発達障害レベルだが、なんかもう、ここまで徹底してすれ違うと、かえって清々しいと言うか。ヒロインに対しては素直になれない ヘタレなイケメンが、たまに見せる男らしさに 「ギャップ萌え」 してしまう読者心理も、よく掴めていると思う。『君に届け』 みたいに、 「性格のよすぎるヒロイン」 と 「謙虚すぎるイケメン」 の恋愛模様を大真面目に描かれると、世界のどこかに全く存在しないとは言い切れないだけに、 「でも、自分には結局、無縁な話」 とシラケてしまうが、この作品の場合、ここまでツッコミどころ満載な人物設定だと、ギャグ・ファンタジーとして笑って読める。ジャンルとしては、 『ラブ★コン』 や 『恋だの愛だの』 や 『俺物語』 と同様、劇的な展開よりも、細かいコメディ要素に比重を置いたラブコメで、落ちこんでいる時などの気分転換には最適だ。まあ、そうは言っても、10巻超え (11巻完結予定) は、さすがに 「引き延ばし過ぎ」 と言わざるを得ないが、キャラや世界設定を大きく壊さず、1つのテーマだけで、ギリギリ飽きさせずに 描き通したのは、ある意味、立派な才能だと思う。少なくとも、この作者の場合、 「何かの焼き直し臭をぷんぷんさせた王道ストーリー」 という事実を 謙虚に自覚し、冷静に 「その中でも面白いものを」 提供しようとする姿勢とセンスが感じとれる。流行の絵柄で ちょっと人気を得たからと言って、オリジナリティ皆無のラブストーリーに、描いてる本人が酔っちゃってるような 一部の少女漫画家とは一味、違うような気がする。<関連日記>2012.10.24. とんとん拍子で 「高校デビュー」 を果たしていく女の子 の お伽噺 ・・・ 椎名軽穂 『 君に届け 』 2013.4.30. ムダに挿絵の多い ラノベみたいな (?) 漫画 ・・・ 最富キョウスケ 『 電撃デイジー 』 2013.6.10. 少女漫画 と 少年漫画 と ハーレムアニメ の悪いとこどり ・・・ 神尾葉子 『 花より男子 』 2014.7.11. 「巨女」 と 「チビ男」 の爽やかな ラブ・コメディ ・・・ 中原アヤ 『 ラブ★コン 』 2014.9.19. 凡人すぎるヒロインを狙う、無駄に熱いイケメンたち ・・・ 相原実貴 『 ホットギミック 』 2014.12.2. ブサメンに突きつけられる 「モテる条件」? ・・・ 河原和音、アルコ 『 俺物語! 』 2015.8.17. ヒロインが 「恋だの愛だの」 に目覚めたら面白さ激減? ・・・ 辻田りり子 『 恋だの愛だの 』 2015.9.5. 「教師と生徒の恋愛」 以上に 気になる問題 ・・・ やまもり三香 『 ひるなかの流星 』 2016.4.15. 久しぶりに 「ド少女漫画」 で泣けた ・・・ 藤原よしこ 『 キス、絶交、キス ―ボクらの場合- 』 2016.6.10. 恋人には 何でもかんでも打ち明けるべき? ・・・ 紺野りさ 『 胸が鳴るのは君のせい 』 2016.9.7. 「笑いと萌え」 ~ 少女漫画の良さを再認識させてくれる作品 ・・・ 草川為 『 八潮と三雲 』 ラストゲーム 1 [ 天乃忍 ]価格:463円(税込、送料無料) (2016/9/22時点)ラストゲーム1【電子書籍】[ 天乃忍 ]価格:406円 (2016/9/22時点)
2016年09月22日
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★ 『 帝ーの國 』 古屋兎丸 (2010~16年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全14巻読了。時は昭和…、政財界の子弟の集まる名門男子校で、将来の地位をも左右すると言われる熾烈な生徒会長選挙の闘争を描いた作品。古屋兎丸さんの作品は初めて読んだが、 『浦沢直樹の漫勉』 で、手を抜かない作画姿勢が紹介されていて、興味を持っていた。端麗なキャラクターデザインが特徴的だが、ご本人は寧ろ、風景など、背景を描くのがお好きらしく、余りアシスタント任せにせずに手描きで描きこむ様子には感心した。『漫勉』 観ていて、意外と地道に 「紙に手描き」 されている作家さんが多くて、なんかちょっと安心 (?) したが、古屋さんらの作画の様子を観てて、つくづく自分の常識が時代遅れなんだな、と実感したのは、コマによって、鉛筆や油性ボールペンを使い分けるなど、画材はナンでもあり …らしい、昨今の漫画界事情だ。昭和の時代、 『漫画の描き方』 的な本を読むと、一様に、ケント紙系の紙に、つけペン (Gペン、丸ペンなど) と墨汁で描く …としか説明されてなくて、当然、カラーページ以外では薄墨の使用なども許されない感じだった。 例えば絵をぼやかしたい場合などは、地道な点描や、白抜きのスクリーントーンを被せるなど、手法も限られていたように思う。薄墨や鉛筆がNGだったのは 印刷技術が遅れていたせいかもしれないが、つけペン (墨汁) 以外、許されないムードだったのは、未だに理由がよく分からない。肝心のストーリーだが、基本的に 「生徒会長選挙」 の類の話は、正直なところ 「どうでもいいよな」 …と思ってしまうところはあるのだが、一見、シリアスに見える作画の端麗さに反して、かなりギャグ色が強く、終始 笑えるので、退屈はしない。ギャグ色が強いと言っても、最近よくあるアニメのように、単なるドタバタやハーレムの舞台や背景として生徒会を用いているわけではなく、社会の縮図として選挙戦そのものを徹底的に描いていて、キャラたちの滑稽な闘争の姿の中に、人心掌握術を見出せる内容にもなっている。若い読者には、あくまでもフィクションとして面白いかもしれないが、世の中を動かす政治家たちに近い年齢になるに従い、この作品で繰り広げられるバカバカしい選挙戦は、現実社会の政財界での勢力争いと、本質的には大して変わらないな …と、心から思う。先日の都知事選が象徴的だが、政策よりも結局は人気 (良く言えば、人柄) やイメージ戦略の方が大事で、私的なスキャンダルや後援者の失言などで、簡単に票が右から左に動いたりするのが実情なのだ。ただ、 「清廉潔白」 な人は国を動かせない (そもそも、動かせるような地位に上り詰められない) という現実を知っておくのは悪くはないのだが、こうして改めて少年向けの漫画にされてしまうと、何とも虚しい気分にもなる。<関連日記>2015.8.17. ヒロインが 「恋だの愛だの」 に目覚めたら面白さ激減? ・・・ 辻田りり子 『 恋だの愛だの 』 2015.9.2. プロ漫画家 “創作の秘密” 公開 ・・・ 『 浦沢直樹の漫勉 』 帝一の國(1) [ 古屋兎丸 ]価格:473円(税込、送料無料) (2016/9/12時点)帝一の國 1【電子書籍】[ 古屋兎丸 ]価格:400円 (2016/9/12時点)
2016年09月12日
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★ 『 八潮と三雲 』 草川為 (2009~14年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全7巻 読了。人間社会の隣に存在するという、 「九生 (9つの命) を持つ猫」 の社会で、命を1つ 終える毎に義務付けられている更新手続きを怠る者のもとに、それを催促しに行く 「取り立て屋」 たちの仕事や恋愛模様を描いたファンタジー。大島弓子の名作 『綿の国星』 (1978~87年) 以来、猫の擬人化は、漫画やアニメ界では 「萌え要素の代名詞」 の様相を呈しているが、この作中の 「九生猫社会」 でも、見た目こそ人間と同等の姿 (猫耳ではなく) に描かれながら、猫としての習性描写が ギャグ要素の根本になっているので、猫好きの人ほど引き込まれるのではないだろうか。特に、主人公の八潮の外見を、敢えて無愛想でクールな 「人間そのもの」 にすることにより、猫としての習性や言動がつい出てしまう度に、可笑しさを倍増させている。 「猫耳」 などで 見た目の可愛らしさを演出するよりも、結果的に成功していると思う。本来、作風もテーマも比較する対象にはならないのだが、たまたま前回、 槇村さとる に欠けていると指摘した、 「笑いのセンス」 や 「萌え」 に満ちた作品だ。 寧ろ、ストーリーは二の次で、 「笑いと萌えのみ」 の作品、と言っても過言ではない。ストーリーが軽薄でも、 「設定の面白さ」 と 「萌え」 さえあれば名作にもなりうるのが、良くも悪くも漫画やアニメの特色で、同じ白泉社系で 『夏目友人帖』 や 『神様はじめました』 のようなファンタジーがアニメで好評価を得ていることを考え合わせると、この作品もアニメ化したら、もっと人気が出ていたのではないかと思う。ただ、世界設定も基本キャラクターも魅力的で、話を拡げようと思えば、いくらでも出来たのではないかと思うのだが、作者が意図してなのか限界を感じたからなのか分からないが、最近の少女漫画には珍しく、横道や引き延ばしが少なく、割と 「描きたいことだけ描いて、さっさと収束」 した感がある (掲載誌が隔月刊の 『LaLa DX』 で、読み切り型が原則なのが足枷になったのかもしれない)。寧ろ、メインストーリー的には5巻位でほぼ終わっていて、残りの2巻は読者サービスの為の引き延ばしと言えなくもない。結末があっさりし過ぎていているところも含めて、 「物足りない」 と見るか、 「潔い」 と見るか…。 これまで散々、引き延ばし漫画を批判してきた私だが、ちょっと、評価が難しい。笑いのセンスだけでも もう少し見ていたかったような気もするが、最終7巻の引き延ばし方が若干、退屈だったのを見ると、作者自身の意欲も肝心の読者人気もイマイチだった可能性もあり、早めに切り上げて賢明だったのかもしれない。ただ、私的には、久しぶりに 「ラブコメ少女漫画」 分野で、そこそこ趣味に合う作家さんに出会えた気がしている。強烈なギャグというわけではないが、やりとりの端々でクスッと笑え、程よく泣けて、要所要所でトキメキがある (しかも、無理な引き延ばしをしない)。すっかりひねくれ、別マ系の正統派恋愛漫画では なかなかトキメかなくなってしまい、とうとうBLに それを求めてしまう 昨今の私だが、たまにこういう作品に出会えると 「やっぱり、少女漫画っていいものだなー」 と素直に思う。<関連日記>2013.3.5. 妖との戯れの中に描かれる 美しき 「情」 ・・・ 緑川ゆき 『 夏目友人帳 』 2013.3.29. 能天気なラブコメも 行く末を思うと切ない ・・・ 鈴木ジュリエッタ 『 神様はじめました 』 2016.9.1. 「センスが もう一つ」 なのは今に始まったことではない ・・・ 槇村さとる 『 Real Clothes 』 八潮と三雲(第1巻) [ 草川為 ]価格:432円(税込、送料無料) (2016/9/7時点)八潮と三雲1【電子書籍】[ 草川為 ]価格:432円 (2016/9/7時点)
2016年09月07日
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★ 『 Real Clothes 』 槇村さとる (2007~13年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全13巻読了。実写ドラマ(2009年)は未見。布団売場から突然、花形の婦人服売場に引き抜かれたアラサーのデパート販売員が、仕事に恋愛に悩みながらも、成長・出世していく姿を描く。多くの働く女性がぶつかる 「仕事か結婚か」 の選択といった、普遍的な問題を押さえつつ、ファッションの流通業界をかなり専門的に紹介する内容なので、なかなか興味深く読める。Amazonレビューには 「実態と違う」 などという批判も散見されるし、ファッションにさほど こだわりの無かった人間が トントン拍子に上司に気に入られ、実力をつけていく様は 余りにも出来すぎだとは思うが、 「仕事がデキる人は、どの分野でもある程度は成功する」 …という理屈は、案外ウソではないと思う。 特に販売や営業などは 人の心を掴む才能や誠実さが第一で、ヒロインの姿勢に見倣うべきところが多いことは確かだ。「(肝心の) ファッションがダサい」 とか、 「昔に比べて絵が雑」 とか、 「(作者は) 社会人として外に出てないから偏狭」 と言うような 辛辣なレビューも目立つが、私が久しぶりに読んだ槇村作品の印象は、良くも悪くも 「相変わらずのセンスだなあ」 ということ。よく考えると、槇村作品で全巻きちんと読んでいるのは 『ダンシング・ゼネレーション』 と 『N★Yバード』 の2連作 (1981~83年) くらいだが、あの時代は、くらもちふさこ、亜月裕 等と並んで 別マを支える中心的な作家さんでいらして、しかも、ただの恋愛ものでなく、デッサン力を活かして、フィギュアスケートやダンスといったプロフェッショナルな踊りの世界を描いて、一部から相応の人気を得ていたが、私的には、ストーリーはともかく、なんというか、イマイチ作風が面白味に欠けて、夢中にはなれなかった。まず、日常描写の中にコメディ要素がなさすぎた。 …というか、笑いのセンスがそもそも弱い。 普通の女の子を強調し、特別シリアスを意識しているわけでもなさそうなのに、クスッと笑えるところがまるでない。25年後の作品となる、この 『Real Clothes』 に至っては、かなり作者も 意識してコメディ要素を入れようとする努力が見てとれるが、絵柄をギャグ漫画風に崩すという、安易な手法ばかりが悪目立ちし、セリフそのものには、やはり殆ど笑えない。それから、これは単に私の好みの問題かもしれないが、昔からイマイチ男性キャラに魅力がない。 日本人離れした 「長髪・美青年」 設定が多いが、内面がよく分からないままに、威圧的な面や 女々しい部分ばかり強調されて、余り夢中にはなれなかった。 今風に言えば「萌え」がないと言うべきか…。まあ、当時から、他の別マ作家の描く男性は やたらと男前過ぎたので、ある意味、唯一 「リアル」 だったと言えなくもないが。このトシになってみれば、この作品の田淵などは、後半になって可愛いげも見えてきて、悪くないとは思ったが、ファッション業界とは言え、メインキャラの髪型が 揃ってゲイっぽいのは、ホント、古臭いセンスだなと思う。古臭い …と言えば、作中ヒロインが、当たり前のように 「ハッピーアイスクリーム」 という言葉を遣っていて ギョッとした。 いくらナンでも、1979年生まれ設定のヒロインは知らないのでは? 私ですら、すっかり忘れてて検索しちゃったよ。確かに大昔に一瞬流行ったけど、余りにも意味が無い上、子供心にもダサすぎて、あっという間に廃れた記憶が…。要するに、何が言いたいかというと、 「槇村さとるのセンスがちょっと野暮ったい」 のは今に始まったことではないので、これをみて年配の作家全般を 「遺物」 扱いしたり、ましてや、どんだけ社会を知ってるのか知らないが、漫画家を一律に 「世間知らず」 とバカにすべきではないと思う (現実を知りすぎない方が、夢を描けるという利点もある)。ただ、当時、ダンスの類に興味がなく、なんとなく読み流していた 『ダンシング・ゼネレーション』 が、続編の 『N★Yバード』 に至ってから、恋愛面で予想外の展開を見せ、まだ少女だった私が度肝を抜かれたように、この作品も、恋愛描写については、さすがに上手いと感心させられるシーンが多々あった。<関連日記>2012.7.11. 天性のセンスが冴える ・・・ くらもちふさこ 『 駅から5分 』 2012.10.15. くらもちふさこ が描く 「禁断の愛」 ・・・ 『 海の天辺 』 2012.12.4. 「嫌われる」 のも大切な経験 ・・・ くらもちふさこ 『 おしゃべり階段 』 2015.3.10. 元祖 「引き延ばし系」 少女漫画 ・・・ 多田かおる 『 イタズラな Kiss 』 2015.9.5. 「教師と生徒の恋愛」 以上に 気になる問題 ・・・ やまもり三香 『 ひるなかの流星 』 Real Clothes(1) [ 槇村さとる ]価格:853円(税込、送料無料) (2016/9/1時点)Real Clothes 1【電子書籍】[ 槇村さとる ]価格:400円 (2016/9/1時点)
2016年09月01日
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★ 『 明治失業忍法帖 〜じゃじゃ馬主君とリストラ忍者~ 』 杉山小弥花 (2010年~)電子書籍無料版およびレンタルにて、既刊8巻まで読了。明治初期を舞台に、自立した女性を目指す商家の娘と、契約上の婚約者となった忍者出身の男との恋の駆け引きや、次々と巻き起こる陰謀や事件を描いた作品。陰謀や事件と言っても、読み切り型の他愛ないフィクションなので、直接的な歴史の知識にはならないだろうが、作者は当時の世相や風俗についてかなり勉強しているようで、そこここに豆知識的なものが散りばめられ、この時代に興味を持つきっかけにはなり得そうだ。ただ、漫画作品としては、好みが分かれそう …というか、正直、余り高い評価をつけられないというのが、私の正直な感想。人物設定には魅力があるし、毎回のエピソードも恋愛哲学も悪くはないのだが、何しろ、モノローグやセリフによる 「説明」 が多すぎる。基本的には主役男女の恋愛模様を主軸としながらも、豆知識的なものを詰め込み過ぎて、しかも殆どネーム (文章) によるものなのでメリハリがなく、本当に大切なセリフが埋もれてしまって、かなり読みづらい。しかも、作画も、最初の方は丁寧で少女漫画にしては建物などの背景も描きこんでいて好感が持てたが、巻を追うほどに目に見えて雑になっていく。特に人物のアップが雑で、「対話的なセリフが多いにもかかわらず、アップ顔が雑」…となると、極論ではあるが、「漫画である必要があるのか」とすら思ってしまう(かといって、小説で読みたいと思うほどの内容でもないが)。人物アップの可愛さやムードばかりこだわり、大ゴマや無駄ゴマが多い 『ひるなかの流星』 のような作品にもイライラさせられるが、セリフばかりで作画に工夫が無さすぎるのも、よほどの内容でないと、読むモチベーションが続かない。ストーリーにオリジナリティや含蓄があるだけ、この作品はマシではあるが、メインストーリーがなかなか進まないことは、共通している。まあ、オリンピックの時期に借りたことも、タイミング的に良くなかった。 四年前もこの時期に 『三国志』 を借りて後悔したが、他に魅力的なエンターテインメントに溢れている時に、クドクドと教訓めいたストーリーは、そもそも読み続けるのがキツイ。ついでに言わせてもらうと、コミックスの掲載方法も余り感心しない。 殆どの巻末に無関係なシリーズ作品や読み切り作品が掲載されていて、まあ、普通のコミックスより分厚いので、買う人にはお得感があるかもしれないが、私的には連載作品は、なるべく、それだけでまとめる努力をして欲しいと思う。<関連日記>2012.8.17. 勧善懲悪の戦国物語に辟易 ・・・ 横山光輝 『 三国志 』 2015.9.5. 「教師と生徒の恋愛」 以上に 気になる問題 ・・・ やまもり三香 『 ひるなかの流星 』 2015.9.15. 真に 「読みやすい」 漫画とは ・・・ 小玉ユキ 『 月影ベイベ 』 明治失業忍法帖(巻ノ1) [ 杉山小弥花 ]価格:555円(税込、送料無料) (2016/8/26時点)明治失業忍法帖 じゃじゃ馬主君とリストラ忍者 1【電子書籍】[ 杉山小弥花 ]価格:540円 (2016/8/26時点)
2016年08月26日
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★ 『 ノノノノ 』 岡本倫 (2007~10年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全13巻読了。スキージャンプでのオリンピックメダルを切望するヒロインを中心に、日本代表を争う高校生らを描いた作品。前作 『エルフェンリート』 で指摘されていた絵の下手さはだいぶ解消され、無駄な描写も減って、かなり読みやすくなっている。内容的にもキャラクター的にも、 「前作よりは」 現実的で、先が気になる面白さがあった。ただ…。これから書籍を買って読もうかと考えている人に忠告するとしたら、ラスト (13巻) は、誰が読んでも分かるであろうほど、 「打ち切り感」 満載の終わり方だ。スポーツ漫画としての結末は、ある程度は示されて終わっているが、人間関係や恋愛問題に関しては、消化不良を通り越して、とっ散らかしたまま、殆ど何も回収していない。最初の方は、割と品よく、どちらかと言うと、少女漫画的なメロドラマに近い (ある意味、逆ハーレム漫画) かと思って読んでいたのだが、徐々に作者の趣味が出てきたか、読者からの要求か、無駄に下品なエロ描写が増えてしまい、スタンス的にもブレが目立つ。作者は読者サービスのつもりだったのかもしれないが、話に詰まると、エロや新キャラ登場に頼って時間を稼いでいるように取れてしまい、この作者の最大の欠点だと思う。ただ、私的には、 『エルフェンリート』 では余り笑えなかったコメディ的な部分がツボにはまって、案外、楽しませてもらった。意図してなのか、画力の低さが 「期せずして」 効果になっているのか、断定できないが、バラエティーに欠けるキャラの表情が、逆に 「シリアスな顔で冗談を言う」 可笑しさに繋がっていて、なんとも独特な世界になっている。例えば、ひどく間抜けなやり取りをしているコメディシーンでも、セリフやモノローグを隠して絵だけ見てると、シリアスどころか、ホラーにしか見えなかったりするのだ。私は、スポーツ対決以外の、こうしたキャラの掛け合いが結構面白かったので、中途半端な完結は少し残念だったが、ちょいちょい笑えたことを考慮すると、 「読んで損した」 というほどでは無かった (まあ、レンタルだから許せた部分もあるが)。打ち切りの原因はよく分からないが、単に作品の人気低迷ということだけではなく、高校生のインハイの段階で、スポーツ競技としての技術や面白さを殆ど見せ尽くしてしまったこと ( 『スラムダンク』 の末路に似ている) や、女子のスキージャンプがオリンピックの正式種目になる可能性が見えてきたことなど、複合的な要因により、描き続けるモチベーションが作者自身も失せてしまったのかもしれないな、 …と想像している。 <関連日記>2012.6.21. 今さら、 『 SLAM DUNK 』 を読んでみた 2016.4.6. 「絵はヘタだけど名作」 という評価は妥当か? ・・・ 岡本倫 『 エルフェンリート 』 ノノノノ 1【電子書籍】[ 岡本倫 ]価格:500円 (2016/8/6時点)
2016年08月06日
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★『 魔王 JUVENILE REMIX 』 原作;伊坂幸太郎、画;大須賀めぐみ (2007~09年)電子書籍無料版およびレンタルにて、全10巻読了。伊坂幸太郎の小説 『魔王』 (2005年) に、同 『グラスホッパー』 (2004年) を混ぜてコミカライズした作品。民衆を扇動しようとする謎の男や組織と対峙する、超能力少年らを描く。私は原作未読だが、Wikipedia等によれば、コミカライズにあたり、メインキャラを若年齢化するなど、細かいところで色々と改変されているようだ。前回、 『雪人 YUKITO』 は、「いかにも青年漫画らしい作画」 と評したが、こちらは、同じく劇画調ながら、少年漫画向けの可愛らしさもあり、なかなか魅力的だ。やはり、小説原作っぽい、説明くささは見られるものの、キャラクターのデザインや振舞いが、若者に好まれそうなエンターテイメント性に溢れていて (良くも悪くも少年漫画的)、 読みやすい。ただ、先が気になる話ではあるものの、今いち、キャラクターの掘り下げに乏しく、カリスマ指導者的に描かれる美青年の犬飼などは、最初から最後まで謎に包まれたところが魅力と言えなくもないが、基本的には殆どのキャラクターが原作ストーリーの主旨の範囲内で駒のように動かされている印象が拭えず、私は、どのキャラにも感情移入しづらかった。勿論、脇役キャラまで掘り下げ過ぎて冗長な漫画が多すぎる昨今、 「潔い」 と言えなくもないが、一方で、 「ゴスロリ少女」 や 「チャラ男」 風な殺し屋といった、アニメ的キャラが次々出てくることには、若い読者層を惹き付ける効果はあるにしても、安っぽさは否定できない。どのキャラも役割を演じるだけで内面が余り明かされないのであれば (一部のキャラについてはスピンオフ作品 『Waltz』 で詳しく描いているらしいが)、いっそキャラや余計なアクションシーンを間引いて、5巻位にまとめられれば、もっと引き締まった作品になったのではないかとさえ思える。正直なところ、 「ストーリーをどうまとめるのか」 は気になるが、 「各キャラクターの行く末」 はどうでもいい作品、…というのが完結間近までの印象だった。ただ、巻数が分かっている中で、 「これ、絶対にすっきりした結末にはならないだろうな」 という終盤の予想どおり、唐突で曖昧な終わり方ではあったが、最終40ページほどの展開には意外性があり、感情を掻き立てられるシーンやセリフもあり、最終的には私の中で、作品の評価はかなり上がった。まあ、根本的な解決は何もないが、読者に考えさせる 「問題提起」 力は十分あったと言え、終わってみれば、まさに 「小説」 的な作品だったなと思う。それにしても、主人公が引き合いに出してヒーロー視していたマクガイバー(1985~92年制作の米ドラマ 『冒険野郎マクガイバー』) とか、いくらなんでも古くないか? 最近の若い人、分かるの?「その場にある材料と科学的知識を駆使して危機を切り抜ける 頭脳派ヒーロー」 が特徴のアクションドラマだったが、私も最初の方しか観てないが、一度も観たことない人だと、どこがスゴいのか余りピンとこないと思うのだが…。<関連日記>2016.7.12. 犯人追跡にとどまらず、人間の闇を描く ・・・ 大沢在昌、もんでんあきこ 『 雪人 YUKITO 』 魔王(1) [ 大須賀めぐみ ]価格:421円(税込、送料無料) (2016/7/29時点)魔王 JUVENILE REMIX(1)【電子書籍】[ 大須賀めぐみ ]価格:432円 (2016/7/29時点)
2016年07月29日
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