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2013年05月20日
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カテゴリ: オペラ
 昨日の続きです。今日は本格的にネタバレ。

 で、新国立劇場は、プログラムで演出家のコメントを載せているのですが、今回は観終わるまで読まないことにしていました。もうみるからに突っ込み所ありそうだったので、これはまず読まずに観てから考えようと思ったので。

 で、プログラムを読まずに観終わった感想は、一言で言えば私の最も嫌いなタイプの現代演出、即ち「落とし前が付いてない」。

 ナブッコの粗筋は、簡単に言うと、古代バビロニアの王ネブカドネザル=ナブッコがユダヤの地に攻め入って支配するが、神の逆鱗に触れて打ちのめされ、その空隙を娘ながら奴隷の子であるアビガイッレに襲われるものの、最後にはエホバ神に帰依して統治権を取り戻し、アビガイッレは仆れ、ユダヤの民も自由を回復し、ナブッコの本当の娘フェネーナとユダヤの若者イズマエーレの幸せを寿ぐんだかなんだかの内に幕。まぁこんなところ。
 「史実」的にはバビロン捕囚の故事にちなんだ話で、時期的にはまぁ前6世紀だか7世紀だかの話。従って、時代考証に則って前6世紀だか7世紀だかのパレスティナの衣装風俗を再現するのが本筋な訳です.....出来ないってーの。
 まぁ要は普通はそれっぽい格好して出て来る訳ですね。

 で、今回の舞台は、ショッピングモール。現代風の小洒落た衣装に身を包む老若男女は、皆某かのもの、というか商品に執着している。あるはスマホ、あるはMac Book Pro、あるは何処かの店の上等そうなショッピングバック(これが一番多い)に見るからに執着しているといった風情。そこを一人憂鬱そうに歩く祭司ザッカーリアは、擦り切れたジーンズの上下に身を包み、「世の終末は近い」と書いたプラカードを提げている。この「人々」(ユダヤ人ではなく、この言葉を字幕では最後まで貫き通しました)の安寧を破るのは、カラフルでカジュアルな衣装に身を包み、仮面(仮装用の、といった方がいいでしょうね)で顔を隠したナブッコ率いるテロリスト集団の一味。
 で、この関係性は最後まで変わりません。強いて言えばザッカーリアの立ち位置が物凄く曖昧で、「行け、我が想いよ」の合唱の後、「人々」を煽動する場面ではヤクを一発キメてアジるし、最後の場では最初に処刑されるフェネーナに引導を渡した後、アビガイッレ配下と一緒になって喉を割く段取りを付ける始末。
 最後、アビガイッレを倒したナブッコは、フェネーナとイズマエーレに、ショッピングセンターの床の穴から「大地」に植林させて幕。

 なんじゃこれは?

 個人的に一番気になったのは、テロ集団と「人々」との立ち位置。つまり、オペラが終わったのはいいけれど、これって話としては何も解決していない訳ですよ。
 そんなとこ気にしてもしょうがない、と言われるかも知れないけれど、やっぱりこれはおかしい。物質文明に侵された「人々」に対立し、支配するのはテロ集団なのですが、彼等がまた結局は着ている服の違いだけで、その服がまた見事に金の掛かりそうなカジュアルなもので、物質文明最先端みたいなもの。詰まる所は同じ穴の狢。それに対し、雷に打たれて改心した?テロリストの親玉ナブッコが娘と「人々」の若者を結びつけて植林したら、どうなるっていうの?しかも、ショッピングモールはまだまだしっかりしてて使えそう。
 とてもこれで物質文明から逃れられるとは思えないし、テロ集団と「人々」が手に手を取って暮らして行く?それはないだろう!なんとなく最後ちょっといい感じになって大団円ですね、なんてそんな甘っちょろい話じゃないだろうな!

 この手の現代的読み替え演出を手っ取り早く評価する方法があります。それは、「この後どうなったかについて30字以内で説明してみること」。ちょっと考えればすぐ分かります。勿論書けるか書けないかの問題ではなくて、そこに納得間があるかどうか。
 そして、もう一つが、「その時の演出家の気持ちを30字以内で説明してみること」。これも、原理は一緒です。納得感があるなら、それはともかく伝わったと言っていいと思うのだけどね。

 正直、この演出は、原作から「何か」を引き出しているとは言えないし、「自分が言いたい何か」を言おうとしたのなら、何言いたいのかさっぱりわからない。この舞台が面白いか、と言われると、大して面白くもない。
 つまり、わざわざ原作を逸脱してまでこの舞台を作る理由が無い。

 故に、私の評価は全否定、です。
 別にこれを面白いと思った人がいるなら、いいんじゃないですか?とは思う。でも、この程度の舞台にメッセージ性なんて御大層なものありはしないし、極めて中途半端で意味がない。そういう意味ではきっちり批評させてもらうよ、といったところで、私はブーイング掛けました。

 さてそれで。
 終演後、おもむろにプログラムを読みました。

 ........................................................

 いやー、やっぱブーイングしといて良かった〜(笑)

 あのですね。プログラムでの演出家のコメントを要約すると、こういうことになります。
  ・ナブッコは「唯一絶対神」の存在を前提としたオペラだ。
  ・日本でやる場合、「唯一神」の観念をどう捉えるかという問題がある。
  ・そこで、「全員が共有出来る絶大な力」として「自然」を据えることにした。
  ・「人々」=神に背きし人々は、即ち自然に背きし人々であり、現代人に
   あっては物欲に塗れた状態であろう。そこで「人々」は富裕層となり、
   一方彼等を罰するべく送り込まれるのはアナーキストな活動家である。

 まぁ、その他色々あるのですが.....

 演出家自身が気付いているのか、アナーキストの活動家自身が、若干形が違う程度の、実はまるで同じ物質文明に毒されている、というのが実際に舞台上に現れた事態に過ぎないし、ちょっと木を植えただけでは「自然も大切に」程度のメッセージにしかならない。
 何より、彼自身も言及している、彼がペーザロで演出した時のような、「これを言うんだ」という強い意志、もっと言えば欲望、のようなものが、この舞台からはまるで感じられない。まるで、演出しなきゃいけないから、こんな感じだったらどーかなー?くらいの仕事にしか見えない。

 それって、そういうつもりじゃないのかも知れないけど、表現者としてどうなの?

 この劇場に来ている大半のお客は、日本人で、あの震災も見ているし、日本人なら何処かで「自然って怖いなぁ」という思いをしているのが普通。確かに、日本人にとって「唯一神」よりも「自然」の方が、畏怖を抱く対象として馴染みはあるかも知れない。けれども、今の日本人にとっての「自然」は、そんなに一直線なものではないだろう。それに、この演出家が分かっていないのは、今自然に対置するなら、日本人は恐らくは科学文明そのものを対置するだろうということ。
 もし、度胸と力量がある演出家が、今、日本人に向けて「自然」への畏怖というものをテーマに演出するなら、例えば私だったら(って私は演出家じゃないけど)、ショッピングモールなどではなく、分かりやすく原発を舞台に載せると思います。それは問題山積だけれど、でも、元々人間というものは自然と折り合いを付けたり、コントロールしようとしてきたものだから、自然に背く人間であれば、それは「物質文明」「消費文化」などというオブラートに包んだものでなく、もっとストレートに自然を制御しようとするものとしての「科学技術」を置くと思うのです。
 いや、そこまで時事に即して言わずとも、既に宮崎駿が「もののけ姫」でそれくらいのことはやっている訳です。日本でオペラなんぞ観に来る人のリテラシーはそのくらいあると思うのですけどね。(違うの?)
 仮にそれが分からなかったとして、やはり私にはこの演出は「演出家が自分の言いたいことを言おうとしたんだけど何が言いたいのか分からなくなってしまった」状態だと思うのです。

 ペーザロの「モーゼ」は面白かったし、相応の説得力はあったんですけどね。
 そう、元々それを連想はしていたのだけれど、うっかりな私は、プログラムのコメントで「イタリアで"エジプトのモーゼ"を演出した」云々というのを読むまで、同一人物とは気付いていませんでした。
 であればこそ、尚のこと、勿体無いと思うんですけどね。






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最終更新日  2013年05月21日 00時06分14秒
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