Over The Moon.

Over The Moon.

2012年03月25日
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カテゴリ: *能関係の日記*
能の曲目の中でも、見応えのある演目として
また能楽師の方々にとって、節目の大曲として知られる
「道成寺」。

今度、ついに師匠が「道成寺」をされる。


主人「差し入れはやっぱりお酒かな」

本来ならば、喜び勇んで観に行くところだけれど
生後2ヶ月の息子がいるため、私はお留守番で
主人(鴨くん・仮名)に観てきてもらうことに。

主人「いいのが買えた」

そして、あまり京都では買えない北陸のお酒を入手。
あとはのし紙と、桜色と淡い緑の和紙、
白く透ける桜模様の和紙が一枚ずつ。

主人「紙屋さんで買ってきた。
  せっかくだから、これで包んでお贈りしよう」

私「いいね!きれいきれい~~」

春色の、綺麗な和紙にお包みするなんて素敵!
師匠もお喜びになるだろう。


そこでネットで、包み方を調べて
見よう見まねで包装していく。


が。


私「・・・」

主人「・・・」


わたし、基本
不器用ですから。


主人「・・・これ、どう思う」

私「・・・」


おかしいな。なんとか包んだけど
こう、角とか、辺とかが不格好で
面はもさっと、もわもわしてて
なんせ箱が直立しないんですけど これどうなんでしょう。


主人「明後日持ってくよ。どうするの」

私「・・・明日、紙屋さんにもっかい行って
  紙買い直して、そこで包み直してもらう・・・」

撃沈・・・。



次の日は雨模様。

主人「ムリに行かなくていいから。じゃ、行ってきます」

私「いってらっしゃい」

外出するには、息子も連れて行かねばならないし
朝、主人に念を押される。


不格好なお酒を前に
すやすや寝ている息子を前に
外を眺めつ、師匠を思いつ、考えて

私「・・・よし、
  お散歩行こか」

行くことに。


だって、せっかく「道成寺」の差し入れだもの!
たかが包装とはいえ、綺麗な形でお贈りしたいじゃないか。


そして、お酒を手に、息子を抱っこし
バスに揺られて老舗の紙屋へ。


「いらっしゃいませ」

広い店内に、美しい和紙が並ぶ紙屋さんには
若い店員さんが3人と、60代ぐらいの女性が1人。

「どうされました」

たまたま、60代ぐらいの女性が見てくださる。


私「・・・あの、先日ここで紙を買いまして
  自分で包もうとしたんですけれど
  全然うまく包めなかったので、包み直していただきたくて・・・」

見せるのも恥ずかしいが、包みを解いていく。

女性「もう、この紙は使えませんけれど」

私「はい。買い直します。
  せっかくの贈り物なので、不格好なまま贈りたくないのです。
  あと良ければ、今後の勉強のために
  包むところを見させていただきたいのですが」

女性「・・・そうですか。分かりました」

にこりと笑い
広い台の上に、お酒の箱を置く。



女性「まず、不格好になりますのは
  中に紙を2枚、お使いになっていることですね」

私「はい」

確かに、緑の和紙と桜模様の和紙を2枚使っている。
それが綺麗かと思って。

女性「中の紙は薄い物を1枚。外に少ししっかりした紙を1枚。
  今回でしたら、この桜模様のもの1枚で十分美しいです」

成る程。確かに。

女性「それから外の紙は、この紙がよろしいんでしょうか」

私「それがいいかと思ったのですが、
  オススメは何かありますか」

女性「そうですね。私だったら・・・」


女性は奥に引っ込む。
しばらくしてから持ってこられたのは
春色の和紙が3枚。

手染め、手絞りの和紙だ。
美しい。


女性「お贈りされる方は、どんな方ですか」

私「爽やかで明るい感じの方です」

女性「では、こちらかしら。こういうイメージの」

私「はい! これがいいです」

3枚の中では、もっとも淡い色味の
春風を思わせるような流れる和紙。これがぴったりだと思う。


女性「では、お包みしましょう」

そして箱の大きさに合わせ、紙をカットし
桜模様の紙から包んでいただく。


見るとその包み方が、ネットで見た包み方とは違う。

女性「この包み方は、日本に昔から伝わる
   “折形”という折り方で包んでいます」

丁寧に、丁寧に
角と辺、面を合わせ
やわらかな和紙を美しくくるんでいく。

女性「ここでひとつ、とめましょう」

取り出したのは、糊。

女性「和紙には糊なんです」

糊をつけて、ぴっちりとめる。

女性「そしてここに」

桜のシール。
緑だ。

女性「淡い緑のイメージですよね」

使わなかった、あの緑の和紙。
それがシール一枚で、緑のイメージが広がる。

美しく、綺麗に仕上がった紙を
春風の和紙でさらに包む。

包んでいくその手さばきも、優雅で見事だ。


女性「・・・本当はね
   私がお包みすることはあまりないんです」

私「そうなんですか」

女性「ええ。仕事でしておりますからね。
  こういう包みも、本来であればそうですね
  1万ぐらいいただくかしら」

いっ・・・・

女性「今はいただきませんよ勿論(笑)
   ただ普通のお客様からの仕事も、基本的にはお断りします。
   長くおつきあいしている方、老舗の方、あとは
   宮内庁」

くなっ・・・

女性「ふふ」


そうしている間に
見事なまでに包まれたお酒。

女性「そして最後に」

濃い、緑の紙。

女性「これはかつて、桜の緑とされた色の紙です」

私「随分濃いんですね」

女性「ええ。これが昔の人にとっては桜の緑だったのです。
  これを最後に巻きます」

細く、紐のように切った紙を
ベルトのようにして、真ん中で一周。
たった一枚で、全体が締まる。


女性「さあ。できました」


これだけで
ひとつの芸術品。


私「・・・ありがとうございます」

・・・見違えるようだ。


その頃には気づいていた。
この方、ここの、奥様だ。


しかし、そんな方が何故
何の変哲もない、私のラッピングを・・・


奥様「貴方はきっと
   ご自分のお包みで、そのままお贈りすることもできたでしょう。
   それでも不格好なまま贈りたくないと
   諦めずに、この雨の中
   赤ちゃん連れてわざわざお越しくださった。
   その気持ちです」

にこり。

奥様「たかが包装。されどそれも
   贈る方、贈られる方への気持ちなのです」


そして出来上がった包装を
さらに「仮の巻をしておきますね」と
雨にぬれないように包装してくださる。


奥様「では、お気を付けて。
   もう次お会いすることはないでしょうけど」

私「ええっ、そうですか」

奥様「だって私めったにいませんもの(笑)ねえ」

店員「はい、ほとんどいらっしゃいません」
店員「いても上にいることがほとんどです。店にいても常連さんがいるときで」

奥様「今日は本当に偶然。
  きっと、この赤ちゃんが引き合わせてくれたんでしょう」


胸の上で終止、すやすや眠る息子。

私「そうかー。ありがとうねぇ」

ありがとう。本当に。


奥様「本日はありがとうございました」

私「いえこちらこそ!ありがとうございました」



春の日の素敵な巡り合わせ。
来て良かった、本当に。




肝心の舞台は観に行けないけれど
師匠、このたびは「道成寺」の舞台
心よりお祝い申し上げます





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Last updated  2012年03月25日 09時52分14秒
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桜。  
赤倉紅葉 さん
心がたくさんこもった素敵な贈り物ですね。
贈りたい気持ちを包むのは、一種の芸術的仕事だと思うのでした。
心を忘れずに、綺麗に包めるようになりたい。 (2012年03月28日 11時48分28秒)

コメントありがとう~  
五月渡理  さん
★紅葉サン
 沢山学ばせていただきました。ありがたいことです。
 気持ちをそのまま、形にあらわせるような技術を身に付けたいですな。
 と共に、相手の気持ちを汲み、活かすことができる人になりたい。そう思います。
(2012年03月28日 19時05分45秒)

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