( 承前 )<1月11日(6)>
水城跡を後にして県道31号沿いにある歴史スポーツ公園へと辿った道は説明するのがややこしいので省略。さして迷うことも無く着きました。
此処にはグラウンドの他に大きな池があって、それを巡るようにジョギングのコースがある。そのジョギングコースや「万葉の散歩道」と名付けられた遊歩道の随所に万葉歌碑が建てられている。順番はもう記憶の外なので、順不同でそれらを紹介します。既出の歌については、歌のみ記し、説明は省略。副碑の写真も添えましたので、歌の意味などをご参照下さい。
(山上憶良歌碑・既出1月13日記事参照)
妹が見し あふちの花は 散りぬべし
吾が泣く涙 いまだ乾なくに (巻5-798)
玉くしげ 葦城の川を 今日みては 萬代までに 忘らえめやも (巻8-1531)
葦城の川というのは吉木小学校の東側を流れている宝満川である。下流で筑後川に合流し有明海へと注ぐ。吉木小学校にあった歌碑 (1月15日記事参照) の歌と同様に、大宰府の東南にあった蘆城 (あしき) の駅家 (うまや) での、新任官人の歓迎会で、詠われた歌か。両歌ともに作者が同じなのか、別人作なのかも不明。別人作であれば、前歌が新任官人の着任の挨拶の歌であるから、それを受けて「そりゃ、今日のことは忘れることなどできようか。(忘れてはいかんよ。)」と迎える側の先輩官人の歌とも考えられますかな。或は副碑の解説のように、別の送別会の時の歌とも考えられる。
いちしろく しぐれの雨は 降らなくに 大城山は 色づきにけり (巻10-2197)
大城山
(おほきのやま)
は既に記したように大野山の別名。大宰府政庁背後の四王寺山(その主峰)のことである。水城の築造と同じく唐・新羅の侵攻に備えて山頂に山城(大城)を築いたのである。そんなことから大城山とも呼ばれるようになった。
「いちしろく」は「いちじるしい」「はっきり目立って」というような意味であるから、「はっきりと時雨が降ったというのでもないのに大城の山は色づいたことだなあ。」という歌である。万葉人は時雨が木の葉を色づかせると考えていた。まあ、今でも一雨ごとに紅葉が深くなるなんぞと言いますが。
橘の 花散る里の ほととぎす 片恋しつつ 鳴く日しぞ多き (巻8-1473)
湯原に 鳴く芦鶴は 吾がごとく 妹に恋ふれや 時わかず鳴く (巻6-961)
古
(いにしへ)
の 七の賢しき 人たちも
欲りせしものは 酒にあるらし (巻3-340)
大伴旅人の讃酒歌13首の内の1首である。いつ作られた歌かは万葉集に記載はないが、歌の配列から天平2年(730年)頃の作か。であれば、妻を亡くした寂しさや無聊の慰みとして酒に逃避した旅人の姿がここにあることとなる。
神への呪的な言葉として出発した歌も、儀式の儀礼歌から宴会での挨拶歌・座興歌・遊戯歌へと変化して行く。万葉も後期になると興により求められた「お題」や「言葉」を折り込んだ歌を作り、その出来ばえや滑稽さを楽しむようになるが、旅人のこの一連の讃酒歌なども、その「はしり」であろうか。諧謔、俳諧ここに始まる、である。
まあ、「酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む(巻3-344)」と下戸を猿扱いする歌は、ヤカモチとしては些か承服致しかねる処ではある。で、反撃の
1首。
あな醜
(みにく)
酔
(ゑ)
ひ泣きすなる 繰り言の
人をよく見ば 猿にかも似む (下戸家持)
まあ、呑んでも、呑まなくても、人は猿に似てはいますがね。
春の野に 霧立ちわたり 降る雪と 人の見るまで 梅の花散る (巻5-839)
例の観梅の宴での歌である。作者名の「田氏真上」は「田辺史真上 (たなべのふひとまかみ) 」だと見られる。今日、花吹雪と言えば「桜」であるが、万葉の花吹雪は「梅」になる。まあ、これは吹雪のような激しいものでなく、ハラハラそこはかとなく散る梅の花、雪といった風情でしょうか。
梅の花 散らくはいづく しかすがに
この城の山に 雪は降りつつ (巻5-823)
筑紫なる にほふ子ゆゑに 奥陸
(みちのく)
の
香取娘子
(かとりをとめ)
の 結
(ゆ)
ひし紐とく (巻14-3427)
作者は陸奥国から筑紫へとやって来た防人かも知れない。国の妻(恋人)が結んでくれた衣の紐だけれど筑紫の美人とあってはその紐も解く、と詠っている。「筑紫なる」を他の地名に置き換えれば何処に行っても使えるから、この御仁は行く先々で「〇〇なる」と詠っているのかも知れない(笑)。
今日は万葉歌碑オンパレードになりました。この後、ホテルに帰るというのが予定の行程。しかし、帰るには少し早い時刻。県道31号の途中で左折、大宰府天満宮の方向に戻ることとしましたが、それは明日に。( つづく )
飛鳥川銀輪散歩(下) 2024.11.11 コメント(4)
飛鳥川銀輪散歩(上) 2024.11.10 コメント(2)
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