ラッコの映画生活

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2006.12.08
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カテゴリ: ポーランド映画
PRZESLUCHANIE


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キェシロフスキの『デカローグ2』でドロタ役を演じたクリスティナ・ヤンダがカンヌ映画祭で主演女優賞を取った作品ということで見たくなりました。DVDはたぶん無く、VHSでの鑑賞です。

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劇中に1952年という年号や、スターリンの死(1953年)が語られるので、その時代5~6年間の物語。粛正の時代であり、いつ誰が身に憶えのないスパイ容疑で逮捕されるかわからない時代。

キェシロフスキの『傷跡』に妊婦の秘書役で登場した映画監督のアグニェシカ・ホランド(彼女は『トリコロール』で脚本協力もしている)が主人公と同じ監房の囚人としてなかなかいい演技してました。たしか彼女が語ったセリフだと思います。「自分は共産党員で、党の命令でアメリカ人の案内をした。そしたら後でそのアメリカ人が西側の諜報員だったことがわかった。自分は国家の重要な施設にも案内してしまった。間接的には自分は西側の諜報活動に協力したことになる。」そんなとんでもない理屈が通用した時代です。

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キャバレーで歌う歌手のアントニーナ・ジビシ(クリスティナ・ヤンダ)がある日突然逮捕・拘留され、かつて男女関係を持ったオルツカの国家反逆罪の共犯であることを自白しろと迫られる。オルツカを公正な手続き(?)の裁判で有罪とするために誰かの証言が必要なのでしょう。彼女がオルツカと関係があったので、事実関係などどうでもいい。ただ彼女の供述調書が欲しいのだ。そういうお話です。もちろん拷問なども描かれますが、政治や社会告発に託こつけて観客の好奇心やサド的欲求を満足させるような描写ではなく、意外とサラリとしているので、見ていて気分が悪くなるようなことはないと思います。

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ちなみにやはりキェシロフスキの『デカローグ4』の父親、『トリコロール/白の愛』のミコワイで登場したヤヌシュ・ガイヨス(左上写真の背広の取り調べ官)や、『偶然』第2話の神父、『終わりなし』の地下活動家<赤ひげ>を演じたアダム・フェレンツィ(右下写真の背後の軍服の男)など、見知った顔ぶれがメインロールを演じていました。

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(以下ネタバレ)
上で少し書きましたが、キャバレーの歌手アントニーナ・ジビシがスパイ容疑で突然拘束され、オルツカといいう彼女がかつて関係した男の国家反逆罪を立証する自白をし、調書にサインするよう迫られる。脅したり、賺かしたり、拷問を加えたり、死の恐怖を与えたり、あの手この手で自白・署名させようとする。最初はヤヌシュ・ガイヨス演じる大尉だか大佐だか何かが担当で、途中からアダム・フェレンツィ演じる少尉だか中尉だかに担当が変わる。しかし取り調べる側にも、恐らく彼女が諜報活動とは無関係であると、少なくとも途中からはわかっている。もちろん今の自分の役職を利用して、囚人をいじめたりする者もいる。こういう人間がいるのは、悲しいかなこれは人の醜い一面です。でも二人の取り調べ官に関しては、もちろん拷問のようなことをも命じるけれども、ある意味「人と人」との対決なんですね。取り調べ官が言います。「個人的利益や友情なども犠牲にしなければならない時もある。国家の安全というような重大問題の前にはな。」これが取り調べ官が自分を納得させている論理、きっと本人にとっても苦しい論理で、だから友人を裏切ることになっても、そうは明言しませんが嘘でも自白しろ、ってことになるわけです。自白すれば罪は軽くなるし、場合によっては釈放もされる。もともと無実の罪なわけですし、国家の決めたことに協力をする証言なわけですから。

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しかし主人公のアントニーナは最初は訳がわからずその場の苦しみを終わらせるために署名もし、途中でも心も揺らいだりしますが、結局最終的には頑なに自分の人としてのプライド、尊厳を貫こうとします。彼女は2人目の取り調べ官タデウシュに言います。「働いている店をサボって、好きな男と昼間に情事にふけっていた。みんなが働いているのに自分だけ楽しんでいることに後ろめたさも少しあったけれど。で店に戻ったら、店がない。破壊されて地面に穴があっただけ。その時から、したいように自分はしよう、って思うようになったの。」と。ちょっとキェシロフスキの描く偶然を思いおこします。そしてそんな彼女、何をされても自分の意志を貫こうとする彼女、その尊厳をもったあり方にタデウシュは魅力を感じ始める。もしかしたら彼女のように苦しみや生命を賭けても誠実であろうという姿の中に、そうありたいと感じながらそうできない自分の卑怯さを感じたのかも知れない。



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彼女は妊娠したとタデウシュに告げるが、オルツカはもう銃殺されたと彼女に教える。彼女は裏切られた思いで顔を背けると、取調室を出ていく。しかしやがて彼女は獄中で出産。それから3~4年はたったのだろうか、ある日取り調べ室に呼ばれた彼女はタデウシュから「釈放だ」と告げられる。その前にスターリンの死が語られており、1956年はフルシチョフが党大会でスターリン批判を行った年。自由化政策が推進され、スパイ容疑で収監されていた人々も釈放された時期だ。タデウシュはアントニーナに子供は××託児所に預けてあることを教える。彼女はタデウシュの執務室を去るが、その時ドアの中で銃声がする。タデウシュは自殺したのだ。自分が彼女の愛を裏切り、また彼女に犯してしまった人としての罪を感じたのだろう。そして釈放される彼女の子供の父親としての資格がないと思ったのだろう。潔い死の選択だ。

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出所して託児所を訪れるアントニーナ。どれが自分の子供かもわからないほど大きくなっている。「お父さんもときどいみえますよ。」と保母さんに言われ、彼女はタデウシュの風体を描写するが、そうではない、と彼女の夫の風体を言う。夫は、恐らく取り調べの一つの手段として呼ばれたのだろう、途中で収監中の彼女に面会に来るが、そこで夫は取り調べで彼女が自白した夫以外の男性との不倫の話を知っていて、不貞で訴訟でも離婚は成立するだろうと彼女をなじり、そのとき彼女には何も答えることができなかったのだが、その彼が彼女を許し、愛で包み、誰の子かもわからない彼女が獄中で生んだ子供を自分の子とし、彼女とやっていこうということだろうか。

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かつての家に子供を連れて戻ってきたアントニーナ。子供が先に階段を上がってドアをノックし、それを見つめている彼女がラスト。

スターリン時代のポーランドを描いた作品で、描かれるのはほとんど獄中の尋問や同房の囚人たちとの交流や裏切りや反目の様子だけれど、そのような状況にあっても自分を貫いて生きよう(死のう)としたアントニーナを演じたクリスティナ・ヤンダは、アクションとしての演技だけでなく、そんな彼女の人間としての美しさを名演していた。そしてある政治状況下での問題を告発する一方で、人の尊厳、愛、憎しみ、葛藤などを描いた、暗くはあるけれど後味の清々しい作品となっている。

ちなみに「たとえば室内に3人がいて、他人が入ると話をやめれば、それは共同謀議だ。」という取り調べ官のセリフがあって、また既に挙げた「個人的利益や友情なども犠牲にしなければならない時もある。国家の安全というような重大問題の前にはな。」というセリフを聞いていると、共謀罪が成立しようとしている状況に恐怖を感じた。


制作1982年のこの映画、自由主義化の成立する1989年までポーランドでは公開されませんでした。


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Last updated  2006.12.08 03:42:16
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