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2007.07.13
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カテゴリ: アメリカ映画
GASLIGHT

白黒113min
シャルル・ボワイエ/イングリッド・バーグマン

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寸評:特別古い映画としてみるのではなく、現行品として見ても十分に鑑賞に耐える作品。同じサスペンスでも、結局のところ心理描写に深みのないヒッチコックよりも、こちらの方が好みだ。イングリッド・バーグマンはスウェーデン時代のもっと若い頃の方が好きだが、ここでも実に美しい。シャルル・ボワイエの悪役ぶりも見事。

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原作はパトリック・ハミルトンの戯曲で、同じ人の戯曲『ロープ』はヒッチコックが映画化しています(1948)。この『ガス燈』も4年前の1940年にイギリスでソロルド・ディッキンソン監督で最初に映画化されているので、こちらはリメイク。読んでいないのでわかりませんが、構成・台詞などがもともとしっかりしているのだと思います。そう言えば今年アメリカで再度リメイクされるとか。時代設定はどうするのでしょうか。ガス燈を活かすには現代ではなくやはり19世紀末にする必要もありそうですが。昨今のアメリカでのリメイク、それほど見てはいませんが評判はあまり芳しくないないものが多いですね。1940年のイギリス版はまだ見ていませんが、このキューカーのアメリカ版リメイク映画『ガス燈』は立派な映画でした。

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それを支えていたのはやはりイングリッド・バーグマンの美貌と演技でしょう。もちろんシャルル・ボワイエの悪役ぶりも見事。バーグマンの魅力は、ここではやはり「目」でしょうね。恋の喜びを表現したり、精神的に追い詰められた不安を表現したり、目、目、目ですね。本人の演技か監督の演出かはわかりませんが、最初の方のコモ湖畔のホテルでのキスシーンで、キスをしながらボワイエの肩に置かれた右手を首の後ろの方へ巻き付けていく手の動かし方、こんなところも微妙に巧みな演技です。ゾクっとします。

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19世紀末のロンドン。早くに両親を失ったポーラは叔母で有名なオペラ歌手アリスに育てられていたが、ある夜物音を聞いてポーラがサロンに入っていくと、叔母アリスが首を絞められて死んでいた。捜査はされるも犯人はわからなかった。同じく声楽を学んでいたポーラはこの忌わしい事件を忘れるべくイタリアに転地していく。イタリアで声楽のレッスンを受けているポーラ。この映画は昔むかしに既に見たことがあると思っていましたが、たぶん勘違いだったようです。ここで歌われているのがドニゼッティの歌劇『ルチア』の有名な「狂乱の場」。自分はオペラ好きなので、こういう場面があれば記憶に残っているはずだからです。教師はポーラに悲劇が表現できていないと指摘する。ポーラはグレゴリーと熱烈な恋愛中で「悲しみ」の表現ができないというわけです。

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ところでドニゼッティの『(ランメルモールの)ルチア』の「狂乱の場」なんですが、家族の敵対関係などがもとで、色々策略があって別の男と結婚をさせられたり、誤解もされたりして、結局好きな人と結婚できなかったルチアが発狂して、好きな人との結婚を妄想しながら演じられるこのオペラのクライマックスです。これが後のポーラの狂気を仄めかしていると捉えるのは考え過ぎでしょうか。さらにポーラが重要な話があると教師と話をしますが、彼女とグレゴリーとの恋が話題になる瞬間からグルックの「妖精たちの踊り」がバックに流れる。この曲はグルックのオペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の中の曲だから、 (ネタバレになりますが)

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ポーラは幸せのうちにグレゴリーと結婚しますが、グレゴリーはロンドンに住むのが夢だったと語り、ポーラが死んだ叔母アリスから相続した、しかしあの忌わしい思い出のある家に住むことになります。幸せなはずのロンドンでの暮らしですが、彼女は物忘れや勘違い等を夫に指摘される。サロンの絵を外して隠し、ブローチがなくなり、夫の時計を取って隠し等々身に憶えのないことを事実として夫に指摘される。彼女は病気だからと、夫は人に会うことからも外出することからも彼女を避けさせ、結果的に家の中で不安が増幅され、段々ますますおかしくなっていく。夜に夫が外出すると部屋のガス燈が触りもしないのに暗くなったり、誰も居ないはずの屋根裏部屋から足音が聞こえてきたり。一方その頃少年のとき歌を聴いてポーラの殺害された叔母アリスのファンになった警部キャメロン(ジョゼフ・コットン)は、ロンドンに居を構えたばかりの頃のグレゴリー/ポーラ夫妻をロンドン塔で見て、迷宮入りになっていた殺人事件を調べ始め、グレゴリーを監視するようになる。またアリスがとある王侯貴族から贈られたダイヤモンドも消えていることを上司に教えられる。

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(以下ネタバレ含む)
ポーラの精神が段々に病んでいく様子をバーグマンは見事に、また美しく演じている。キャメロン警部に真相を聞かされるとき、キャメロンに聞かされることを一方では現実として受け入れなければという思いがある。キャメロンの指摘は筋が通っているし、夫が信じ込ませようとしたように精神病の母親の血を引いていて自分も頭がおかしいというのを否定してくれる、つまり自分が正常だということになる。しかし他方それは夫の自分に対する愛を否定することでもある。こんなどちらも簡単には受け入れられないアンビバランな感情、しかも半ば夢か精神衰弱の中でそれを表現すること、恐ろしいほどの名演で、アカデミー主演女優賞も頷ける。最後の夫との対決では、半分は精神病を装いつつ、また実際に半分は自分でも良く分からなくなっていて、そして愛を裏切られた現実を受け入れると同時にそんな夫に復讐するかのような行動と言動。こうした微妙と微妙をかけ合わせたような心理を、強さと弱さを共存を、惚れ惚れする美しさの中に表現している。この映画の後バーグマンは仕事も家庭も捨ててロッセリーニ監督のもとに走るわけだけれど、そうした彼女の内なる情念の深さがあってこその演技なのでしょう。

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(以下完全ネタバレ)
これはもともと戯曲、つまり舞台劇。お芝居っていうのはストーリーを知っていても何度も観にいくものですね。そういう意味でサスペンスストーリーではあるけれど、結末まで書いてしまっても良いでしょうか。謎解きを書いてしまいます。グレゴリーはプラハのピアニストで妻子もあった。プラハでアリスの伴奏をして、アリスが贈られたどこかの王室の王冠についていたというダイヤに魅せられてしまった。アリスを殺害しダイヤを奪おうとしたが、物音を聞いたポーラが来てしまい、ダイヤを奪うことなくグレゴリーは逃げた。ダイヤは彼の妄執であり、相続したアリスの家を持つポーラに近付いて結婚し、その家に住み、ポーラを狂人に仕立てて病院に入れ、屋根裏部屋に残されたアリスの遺品の中からダイヤを見つけだそうという計画だったのだ。しかしダイヤは見つけて犯行が完遂される直前にキャメロンに阻止されてしまうという物語。ガス燈が暗くなるワケとか、料理女中エリザベスの耳が遠くなければならないワケ、あるいは最後の夫婦対決の場面など、実に良く練られた本だ。物語として1つだけ突っ込みを入れると、グレゴリーはシャルル・ボワイエなわけだから美男だとしても、どうしてポーラに惚れられることが出来たのか、それがやや荒唐無稽な気がしました。ちなみに蓮っ葉な女中ナンシーを演じていたのはテレビ・ドラマ『ジェシカおばさんの事件簿』のアンジェラ・ランズベリー(当時17才)だ。

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Last updated  2007.07.15 05:08:14
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