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油断なく身構え、そろりと部屋の中に足を踏み入れた、そのとき、奥の闇のどこかで、かすかな空気の乱れが生じた。
すばやくそちらに視線を走らせる。
――― 何もいない。
ただ、刺すような視線だけが、全身に針をつきたてられたようにちくちくと痛い。
数知れない、邪悪な存在が放つ真っ黒な視線だ。
やはり、敵は一体だけではなかったようだ。
邪気と悪意をはらんだ空気を極力吸い込まないように注意しながら、ミケは呼吸を整え、精神を統一すると、底なしの闇に向かって、地をもゆるがす大音声を張り上げた。
「性悪猫の霊ども! 珠子お嬢さまを猫の姿に変えたのは、お前たちの仕業か?! このミケ婆が、珠子お嬢さまに替わって、おまえたちの言い分をとっくり聞いてやろうじゃないか。 言いたいことがあるなら言ってごらん。 ええ? ねずみみたいにこそこそ隠れていないで堂々と姿を見せたらどうなんだい! それとも、それもできないほど、私がこわいか?!」
猫が相手なら、どのような剛の者であろうと瞬時にその場で屈服させずにはおかない、これだけで立派な武器に匹敵する、ミケの怒声だ。
それに応えるように、闇の奥のかすかな空気の乱れが、ゆらり、と大きく揺れた。
と見る間に、ぼうっ、と、暗い青緑色に発光する霧のようなものが渦を巻いて湧き起こり、不気味な実像を結び始める。
同時に、地の底から滲み出すような、低い忍び笑い ―――
「威勢のいい三毛猫め、人間のかわりにわれらの言い分を聞くとは片腹痛い。 猫として生まれながら、人間どもの肩を持つ裏切り者よ、人間という生き物がどんなに残酷か、われら猫族の真情を踏みにじってどんな残忍非道な仕打ちに及んだか、それでは、望みどおりその身にしっかりたたきこんでやろうぞ!」
その言葉が終わらないうちに、暗い青緑色の霧がみるみるうちに凝縮してその光を増し、一瞬の間に、赫々とした光点に変化した。
ついで、はぜるように爆裂した光点が、目の眩むような無数のビームをあたりに放つ。
闇を切り裂いて走る幾筋ものビームが、縦横無尽に空間を駆け巡る。
まるで、獲物を探し回る獰猛な小動物のようだ。