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懐かしい鈴の音に誘われるように、たまこの脳裏にもまた、クロと昇一お兄ちゃんとの楽しい思い出が、次から次へとよみがえっていた。
昇一お兄ちゃんが家からこっそり持ち出してきた、温めたミルクの入った哺乳瓶を、正樹と奪い合ってクロに飲ませたこと。
たまには思い切り日光浴をさせなきゃねと三人で話し合い、昇一お兄ちゃんの自転車のかごに古いタオルを何枚も敷きこみ、クロを乗せて出かけたこと。
クロを抱いて正樹と道を歩いていたら、大きな犬につきまとわれて死ぬほど怖い思いをしたこと。
そして、昇一お兄ちゃんが、クロが死んじゃった、と、泣きながら、店の裏の藪の中にお墓を掘っている、胸の痛くなるような悲しい光景。
あれこれ思い出したら、クロが愛しくて、思い出が哀しすぎて、それを今まで忘れていたことが悔やまれて、たまこはぼろぼろ涙をこぼしながら、もう一度あのころに戻ってクロを呼んだ。
「おいで、クロ。 珠子と遊ぼ。 一緒に、昇一お兄ちゃんを迎えに行こ」
その瞬間、龍の体がぐらりと大きく揺れて、それから、うろこの一枚一枚が、龍の体を離れてぼろぼろとはがれ落ち始めた。
鎧のようなうろこがみるみるうちにはがれ、龍の体全体が、ガラガラと大きな音を立てて崩れていく。
「クロちゃん!」
驚いて駆け出そうとしたたまこを、マサキがあわてて抱きとめた。
「行っちゃだめだ、珠子! クロはもうこの世のものではないんだ! おまえまであっちの世界に行っちまう気か?! そんなことはさせないぞ!」
トラオも、それに加勢して叫んだ。
「そうだよ、たまこちゃん、かわいそうなようだけど、俺たちにできるのはここまでだ。 クロは自分で行き先を見つけて、一人で行かなきゃいけないんだ」