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2007.06.20
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カテゴリ: カテゴリ未分類
その23【ガンの霊気】

1ヵ月ほど前の日曜日、休日にもかかわらず、出勤
するため、駅に向かっていた。改札口が高架になっている
ため、エスカレーターに乗った。いつもは歩いて上がる
のだが、その日は前に無神経な家族が行く手を塞いで
いたため、その位置にとどまることになってしまった。

イライラしながら視線を上に向けると、間もなく降り口
というところに同居人のお父さんを見つけた。
歩いて上がれない私は、エスカレーターを降りるまで

急いで改札口に向かった。しかし、既にお父さんの姿は
なく、私がいつも降りる階段を降りてホームに出たが、
そこにもお父さんの姿はなかった。もう一方の階段を
降りたのだと思った。そちらへ回ろうと思ったが、
すかさず電車がホームに入ってきたため、それも
かなわなかった。

電車に乗り込んだ私は、少し寒気を感じた。お父さんが
どこまで行こうとしているのか、どこで降りるのか
わからなかったし、電車の中で書類に目を通したり、
読みたい本があったとしたら、探さない方がいいのだと
自分に言い聞かせたりしたが、訳のわからない焦燥感に


そんな経験を以前にもしたことがあった。
5年前である。正月休みに実家に帰ったときだ。
自宅に戻る日、ふとダイニングを見ると、おやじが
慌ただしく動いているのが見えた。私に、正月の食料を
持って帰らせるために、タッパーに入れたり、箱に

ない寒気がした。私は慌てて仏壇の扉を開け、ろうそくと
線香に火をつけた。りんを大きく鳴らしながら、
般若心経を唱えた。続けて先祖に、
「平穏と、健康と、安寧を侵す者を排除してください。
何も悪いことはしていません。お願いします」
などという願い事を繰り返し唱えた。すると、目から
涙がボロボロこぼれた。悲しくもないのに、泣けて
泣けて仕方なかった。驚くおやじを残して、私は自宅に
向かった。音楽を聞こうが、車のスピードを上げようが、
言いようのない焦燥感と胸騒ぎがおさまることはなかった。
果たしてその1週間後、おやじから電話があった。
「ガンみたいやわ」

そのことを思い出した。いやな感覚が蘇った。
同居人のお父さんを見かけてから4日後、電話があった。
「ガンになった」

ガンはいまや特別な病気ではないと言われている。
多くの人が罹患し、治癒し、社会復帰できる病気の一つ
と考えられている。しかし、私が感じる寒気が物語って
いるのは、ガンは、確実に人間より強い細胞である
ということと、人間の命を奪うために体に巣食うもので
あるということだ。ガンにかかった人のそばに行くと、
恐ろしいほどの寒気を感じる。それは、肌感覚ではなく、
体内、いや、命にまで及ぶ寒さである。

おやじのときもそうだったが、ガンになると、寒くなる
そうだ。ガン細胞が生きる力を、温度を容赦なく奪って
いるのだろう。

同居人のお父さんのガンが、どのくらい強いのか、
簡単に駆逐できるのかは、これからの治療にかかって
いる。肝心なのは、生命力で勝とうとする強さである。
弱気になれば、どんどん命を吸い取られる。
ガン細胞が、人間を無気力にし、寒く、暗くし、
やせ衰えさせる。

できる限り支えよう。寒さを感じたら、私の命の
温度で温めよう。それくらいしかできないが、必ず
「復活」すると信じて。

それが、厄介な感覚を持つ人間の努めだと思う。
実に厄介なことだが。





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Last updated  2007.06.20 23:32:43
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