むかしむかし、ある村に一人暮らしのお爺さんがいました。 そのお爺さんは「コロ」という名の1匹の犬を飼っていていました。 お爺さんの言う事、考えている事、全て分かる賢い犬でした。 コロはいつもお爺さんと一緒に畑に行っていました。 「コロ、今日は美味しいもんが沢山採れたぞぉ」 そう話しかけると、コロは「ワン、ワン!」と鳴きながらお爺さんの後をついて歩きました。 お爺さんの家の近所に、耕太という男の子が住んでいました。 耕太は時々コロに会いにお爺さんの家に遊びに行きました。 耕太は6歳のかわいい坊やで、コロを自分の兄弟のように可愛がっていました。 お爺さんは、耕太が遊びに来たらいつも縁側でお茶を出して、二人でいろんな話をしました。 耕太はまだまだ無邪気な子供だけあってとても素直で、家の事や、楽しかった学校の事などをお爺さんに話して聞かせてくれました。 ある日の事でした。 お爺さんがいつものように畑に行こうとして家を出たら、急にめまいがして、その場に座り込んでしまいました。 体がとてもだるく頭も痛くなりだし、今日は畑に行くのはやめてゆっくり寝る事にしました。 コロはお爺さんの事が心配なのかお爺さんの寝床の横に座り込みました。 「コロ、今日は体がしんどいんじゃ、寝かせておくれ」 お爺さんは前の晩に畑で使う桑を研いでいましたが、昨日の晩はいつもより寒く家の中にも風が入ってきていました。 それで体が冷えてしまい、風邪を引いてしまったのでした。 その日お爺さんは1日中寝ていました。 しかし、薬も無く、良くなることはありませんでした。 次の日もお爺さんは寝込んだままでした。 そこへ耕太がやって来て、いつもと違う様子に気づき家の中に入ってきました。 そして、お爺さんが寝ているのを見つけ、 「お爺さん、どうしたんじゃ?体の具合が悪いのかぁ?」 耕太は心配そうに言いました。 「どうやら、風邪を引いてしまったようじゃ、大丈夫じゃ、寝とったら治る」 お爺さんは言いました。 「でも、薬飲まないと良くならないよ。お爺さん、薬はないのかぁ?」 お爺さんは、首を横に振りました。 「そしたらおいらが今から山に行って薬草を採ってきてやる。この前父ちゃんと採りに行った事があるから薬草がどんな葉っぱか知ってるんだ」 お爺さんは、引き止めようと寝床から起き上がり言いました。 「耕太、やめとけ!山の天気は変わりやすい。霧が出てきたら帰り道が分からなくなる。それに、暗くなって道に迷ってしまったら帰って来れなくなるぞ!」 「大丈夫だ。今はまだ日も高い。夜までには帰って来る。待っててくれ」 その一部始終を聞いていたコロがスッと立ち上がり、お爺さんの下へやって来ました。 お爺さんはコロに言いました。 「コロ、そこの籠を持ってお前も耕太と一緒に行っておくれ」 コロは「ワン!」と返事をし、籠の紐をくわえて耕太の下に来ました。 「お爺さん、この籠どうするの?」 耕太が聞きました。 その籠にはまつぼっくりが沢山入っていました。 「耕太、霧が出て帰り道が分からなくなるといけない。それを行く時に1つずつ落としながら行きなさい。もし、帰り道が分からなくなってもそれを目印に山を降りたら大丈夫じゃ」 「お爺さん、おいらこんなもの持たなくても大丈夫じゃ」 「いやいや、何があるか分からん。損はない。コロの首に引っ掛けて行けばいい。コロ頼んだぞ」 耕太はお爺さんに言われた通り、籠をコロの首に掛けて出かけて行きました。 天気も良く、そんな心配はご無用!といった調子でどんどん進んで行きました。 しかし、山に入っても耕太は、まつぼっくりを落とそうとしません。 すると、コロがいきなり立ち止まり、吠え出しました。 「どうしたぁ?コロ、行くぞぉ」 耕太はそう言って進もうしましたが、コロは全く動こうとしませんでした。 耕太がお爺さんの言いつけを守らない事がコロには分かっていたのです。 「分かったよ、これを落としていったらいいんだなぁ」 そう言いながら、しぶしぶ耕太はまつぼっくりを置いて行きました。 奥深く入った山中で耕太は足を止めました。 「あった!これが薬草だ」 一生懸命摘み取り、持ってきた袋一杯に詰め込みました。 「コロ、これくらいあれば大丈夫。お爺さん元気になるぞぉ」 耕太はそう言いながら、コロを撫でました。 帰りも行きと変わりなく天気に変化はなく、「ほらぁ、大丈夫って言ったのにぃ」そう言いながら歩きました。 すると、耕太の頭に冷たいものがあたり、だんだんと体が濡れていきました。 霧雨が降ってきたのです。 さすがに耕太もびっくりしましたが、気にせずどんどん山を降りて行きました。 すると、コロが、耕太の服を引っ張りました。 「何だ?」と思って振り向くと、コロがまつぼっくりをくわえて耕太の顔を見ていました。 まつぼっくりのことなどすっかり忘れていた耕太は「はっ!」としました。 コロは耕太が違う道を歩いて行こうとしているのを教えてくれたのです。 気がつくとあたり一面真っ白に霧が覆っていました。 耕太はコロとまつぼっくりを拾いながら、山を降りて行きました。 「ワン!ワン!」 「お爺さん、ただいまぁ!」 ふたりの元気な声が聞こえました。 「おお!無事に帰って来れたか。大丈夫じゃったか?ケガはないか?」 二人が無事に帰ってきて、お爺さんはほっとしました。 耕太はさっそく採ってきた薬草を煎じてお爺さんに飲ませてあげました。 次の日、お爺さんの様子が気になり学校の帰りに家に寄ってみると、お爺さんは縁側に座ってお茶を飲んでいました。 「お爺さん、もう大丈夫?」 「耕太、本当にありがとうじゃった。お陰でこんなに元気になった。」 お爺さんはお礼を言いました。 耕太は、その後話し出しました。 「お爺さん、おいらの方こそありがとう。帰りに霧が出てきて、帰り道が分からなくなるとこじゃった。行く途中に置いていったまつぼっくりの後をたどって帰って来たんじゃ。お爺さんの言う事聞いとらんかったら帰れんとこじゃった。お爺さんとコロのお陰じゃ、ありがとう」 お爺さんはニッコリとしてコロと顔を見合わせました。 それからも仲良く、お爺さんとコロと耕太は暮らしていきましたとさ。 |
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ことわざ辞典 |
転ばぬ先の杖「ころばぬさきのつえ」 |
失敗しないよう前からそれに備えておく事。注意しておく事をいいます。 まつぼっくりとコロのお陰で、耕太は無事帰ってこれてよかったですね。 |