はっぴぃーマニア

はっぴぃーマニア

<第七話>

ことわざ物語

第一話
袖すり合うも多生の縁
第二話
馬の耳に念仏
第三話
転ばぬ先の杖
第四話
天は自ら助くる者を助く
第五話
前車の轍を踏む
第六話
雀百まで 踊り忘れず
第七話
見て捨てる神あれば拾う神あり
第八話
知らぬが仏
第九話
グランプリ (競馬~第十話へつづく~)
ひょうたんからコマ
第十話
あの日のように (競馬~第十一話へつづく~)
人間万事塞翁が馬
第十一話
足長おじさん ~第1章~(競馬)
塵も積もれば山となる
足長おじさん ~第2章~(競馬)
足長おじさん ~第3章~(競馬)
足長おじさん ~最終章~(競馬)
足長おじさん ~あとがき~(競馬)

<第七話>金豆腐


むかしむかし、あるところに金太という男がいました。
金太は何事に対しても最初だけ頑張る性格で、興味を持った物や新しい仕事を始める時など、最初は一生懸命するのですが、慣れてくると手を抜いたり、仕事に遅刻してきたり、ほったらかしにしたりと何でも中途半端でした。

やっとで見つけた大工仕事も近頃はさぼりがち。
そして、今日も遅れてやってきた金太を見つけ親方が走って来ました。
「お前はどうしていつもこうなんだぁ!今日こそきっちりけじめつけさせてもらうぞ!」
親方は怒って金太の胸ぐらをつかみました。
「すいません、寝坊してしまってぇ・・・」 
と、適当ないいわけをする始末。
そして、大工の仕事を首になってしました。

金太は、特別に落ち込む事も無く、次の仕事を探し始めました。

次に見つけたのは植木屋でした。
最初は張り切って枝きりバサミを研いだり、切った枝の掃除を進んでしていたのに、だんだん怠けてくるようになってきました。
と思ったら、大工の時のように遅刻をするようになり、仕事場にも連れて行ってもらえなくなりました。

金太は大工仕事の前にも、違う仕事を転々としていました。
そのうち植木屋も辞めさせられ、金太はしばらく仕事もしないで遊びほうけていました。

それからしばらくたったある日の事。
『そろそろ、仕事探さないとまずいなぁ・・・このままだと金も無くなってしまう。何かいい仕事があればいいんだが・・・』
のんびりしていた金太も、毎日この調子ではまずいと思い、町に出て仕事を探すことにしました。
いつも最初だけ頑張る金太はとても張り切っていました。

ある日のこと。
仕事探しに町を歩いていると、一軒の豆腐屋がありました。
そこの豆腐屋は町でもうまいと評判の店で、いつも人が並んでいました。
金太は興味あり気に店の中を覗いて見ると、おかみさんとその娘二人が忙しく店中を動き回っていました。
金太は、
「ここにしよう。人手も足りないようだし、女の人だけで働いてるようだぁ。」

それから店が終わるのを待ってから、
「こんにちはぁ」
金太は大きく声をかけました。
「なんだい、何か用かい?」
店の奥さんでした。
「あのぅ、ここで働かせてもらえないでしょうか・・・」
店の中の三人は黙ったまま、顔を見合わせました。
「あんたぁ、仕事探してるのかい?」
奥さんはそう尋ねました。
「はい、そうです」
金太は働きたい気持ちを込めて、はっきり答えました。
「お前さんは、ここで本当に働きたいのかい?いい加減な気持ちではつとまらないよ。それに、どうしてうちになんだい?」
「おいら、前の仕事を首になって今は働く所がないんです。もうお金も無くなってきました。でもなかなか仕事が無くて、探していたらここの店がとても忙しそうで・・・もし人手が要るようなら雇ってもらえないかと思いまして。」
奥さんはしばらく考えました。
「あんたがここで働きたいのなら私はかまわないよ。その変わり体も使うし大変だよ!朝も早いけどそれでもいいなら頑張ってみなさい」
金太は、頭をさげて奥さんにお礼を言い、次の日から働き出しました。
奥さんは金太が悪い男には見えなかったのでしばらく様子を見ようと思いました。

豆腐作りは、朝早くから始まりました。
娘たちに少しずつ教わり、金太のできることからやらせてもらいました。

が、しばらくしてから、金太の悪い癖が出てきて店に遅れてくるようになって来ました。
奥さんは、一回目は何も言いませんでしたが、遅刻が度々続くようになったある時、金太を呼びました。
「あんたぁ、仕事はだいぶん覚えたようだし、豆腐の事もだいぶ分かってきたようだね。でもこのごろ店に来るのが遅いよ。それでは、うちも困るんだよ。」
奥さんは、ゆっくり話しました。
「すんません。朝、眠たくてなかなか起きれなくなってしまったみたいでぇ・・」
金太は他人事のような言い方で答えました。
「最初に、言ったでしょう。朝早いよっ!て。それにあんたはやれば出来るはずなのに、自分に甘いからいつまで経っても中途半端なんだよ。これじゃぁ、豆腐なんていつまで立っても作れないよ。時間通りにきちんと来て作り方を見てしっかり覚えないと!」
金太はいい訳するとまた怒られると思い、黙って聞いていました。
「あんたは今までに自分で目標を持って頑張った事あるの?何かをやり遂げた事がある?・・・ここで働く事は自分で決めた事でしょう?・・・・」
奥さんは、子供に話すように続けました。
「あんたさえ良かったらここで頑張って自分の豆腐を作ってみたら?本腰入れてやってごらん。その為には、自分に厳しくしないといけないよ。眠たいから寝る。めんどくさいから嫌!ではいつまでもあんたは変わらないままだよ。頑張ってやってごらんなさい!」
奥さんは、怒るよりもまるで金太を励ますように言ってくれました。

金太は初めてでした。
こんな事を言ってくれる人など、今までどこにもいませんでした。
いつもけなされ、怒られてばかりで、自分でも心のどこかで『どうせおいらなんかぁ・・』と、あきらめている所もありました。
金太はとてもうれしくて、涙が出ました。
『自分のことをちゃんと見てくれる人がいる。頑張ろう。やってみよう!』

それ以来、金太は毎日一生懸命働きました。
そして、金太の作ったおいしい豆腐『金豆腐』が評判になった店は今まで以上に大繁盛し、金太はお爺さんになるまでそこの店で働きました。

ことわざ辞典
捨てる神あれば拾う神あり「すてるかみあればひろうかみあり」
ある人に見放されても、違う人に助けられる事がある。という意味です。
金太は豆腐屋の奥さんに助けてもらって自分を大事にすることができました。


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