2005年12月20日
XML
カテゴリ: 人 / こころ
師走になると、
郵便物の中に、一・二通は喪中のはがきが交じって届くようになる。
灰色の線で縁取られたそれを手にする度に、
私は心が重くなってしまう。

亡くなった方が八十歳以上であれば、天寿を全うされたのだと、
些かでもほっとするが、若くして旅立たれていると、
たとえ面識はなくとも胸が痛む。

まして、子供を亡くされた場合など、
葉書を手にしたまま唯、茫然とするのみである。

子が親に先立つほど残酷なものはない。

私の兄や姉も早逝し、両親は子供達を見送った。
教員をいていた姉が逝った翌年、
法曹界にいた兄が相次いで逝去した朝、
幼い私は、母の腕の中で息が詰まりそうになりながら、
号泣する母の姿を見た。

そして、雄雄しく涙を見せぬ父に、
男というものは悲しくても泣いてはいけないのだ、と
その時初めて知った。いずれもその悲しみの大きさはいかばかりか。
父と母のその悲しみようを未だ忘れることはできない。

両親よりも、決して先に死んではならない、と

幸いにも父は85で、母は90で鬼籍に入り、
その心配はなくなったものの、
寂しがりやの子供のためばかりでなく、
私を取り巻く多くの人達のために、そして
自身の仕事への執着もあってか、


今日もダイレクトメールなど共に、
年賀欠礼の挨拶状を二通受け取った。
一通目は誰が亡くなったのか記されていない。
友人からのものであるが、自身の両親なのか、
それとも連れ合いの身内なのか、
子供は確かいなかったから・・とあれこれ心配する。

もう一方のは、見慣れぬ筆跡である。
怪訝に思い裏返してみる。差出人にも覚えがない。
本文を読み始め、私は愕然とした。
信じられない思いで何度も読み返す。
何度見ても、そこには確かに友人の名前が記されてあった。

それは友人の夫人からのものであった。
迂闊であった。新聞の死亡通知欄も見落としたらしい。
私は悪寒が走った。死亡したとある3日前、珍しく彼から電話を受けていた。
その朝、依頼された仕事のために能登へ発つことになっていた私は、
その旨を伝えて電話を切った。
あの時、どんな用件だったのか、何を言おうとしたのか、
今となっては知る由もない。

いつも多忙を極め、会合も掛け持ち、
秘書のスケジュールに合わせて正に東奔西走の日々であったように思う。
それでも、都合がつくと個展には訪来、
昔の仕事仲間の集まりでたまに顔を合わすときも、
芸術の世界はいいねえ、といつもしみじみと話していた。

何かにつけて金銭的な思考回路を要する現実的な生活に比して、
詩だの歌だのと、文学の話がその大半を占める私の仕事がいいと言った。
現実からかけ離れた、苦労知らずの夢のような世界に写ったのだろう。
その実、こちらにはこちらの苦労というものがあるのだが。

「今度ゆっくりお酒でも飲みましょう」というのが口癖だった。
アメリカのC大学の講習会や、パリのホテルでの研修旅行には、
生徒を引率して毎年出向き、一年のうち、四、五回は海外出張があったらしい。
が、今度ばかりは、二度と再び戻ることのない国に旅立ってしまった。
ゆっくりお酒でも、と誘われることも永久になくなった訳である。
もしかしたら、あの電話は、旅立ちを予期した、
彼の最期の別れの挨拶であったのかもしれない。
そういえば、いつもの言葉は聞かれなかった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2005年12月20日 22時20分04秒
コメント(3) | コメントを書く
[人 / こころ] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

raku-sa

raku-sa

お気に入りブログ

今日の天気・・・・… New! ニッチョさん

地方暮らしが変える1… かじけいこさん
古稀琉憧(元昼寝の… しっぽ2さん
とし坊の青春 としひでちゃんさん
MAYU Healing Voice… MAYULOVECOMさん
情報NOW-ファッ… 楽天情報5303さん
たか・たか・たかし _たかし_さん
KIMさんのおうち ゆなママ2003さん
あたたかな光と相思… 運命を変える力さん
ほっこりお茶でも飲… こぞう01さん

コメント新着

わだつみ判官 @ Re:人生の開拓者に  (11/10) 不景気、そして雇用不安の社会にあって、…
百太郎@ 『人間賛歌 生きているから』拝読しました。 とても感銘を受けました。 具体的な感…
百太郎@ Re[2]:「生きているから」(08/15) raku-saさん お忙しい中、コメントの書…
raku-sa @ Re[1]:「生きているから」(08/15) 百太郎様 お久しぶりです。 お訪ねく…
百太郎@ Re:「生きているから」(08/15) たいへんご無沙汰しております。 以前…
カズ姫1 @ Re:お雛さま(02/11) お久し振りです。 節分が終わると、今度…
わだつみ判官 @ 明けましておめでとうございます。 お忙しい日々をお送りの事とは存じますが…
モモタロウ@ Re:ヴァンジの大男たち・・クレマチスの丘        (12/01) 「ある時期から、人間をテーマにおいたと…

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: