全31件 (31件中 1-31件目)
1

源氏物語〔34帖 若菜 244〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。人生そのものが煩わしく思われてくる。他人の誰も聞かぬ夫婦の間の話の中で、口にしたにすぎなかったのにと過去を思い返すほど、愛欲の世界がいよいよ煩わしく感じられる。夫人がぜひ尼になりたいと望むので、院はその頂の髪を少し切り、五戒だけを授けられた。戒師が仏前で、戒を守る誓いを尊い言葉で述べる。院は体面も忘れ、夫人に寄り添って涙をぬぐい、ともに仏の名を念じておいでになった。その姿を見るにつけ、いかに聡明な貴人であっても、愛する妻の病を前にしては、仏にすがる心は凡人と何ら変わらぬものなのだと、誰もが思い知らされたであろう。どうすれば夫人の病を救い、少しでも命を長らえさせることができるのか。昼夜を分かたず歎き続けるうちに、院のお顔にも次第に痩せが見えるようになっていった。五月に入ると、いよいよ気候は不順で、病夫人の容体が目に見えて快方に向かうとも思われなかったが、それでも以前に比べればわずかながら持ち直しているようにも見えた。しかし苦しさはなお折々に訪れ、安らかな日々が続くわけではなかった。
2026.05.31
コメント(25)

源氏物語〔34帖 若菜 243〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。高官たちが次々と見舞いに集まっていることを院がお聞きになると、院からの挨拶が伝えられた。重い病人に急変が起きたように見えたため、女房たちが泣き騒ぎ、自分自身も心の平静を失っている折なので、改めて日をあらため、今日の厚意への礼はそのときに申し上げたい、というものであった。その言葉を院の言葉として聞いただけで、衛門督の胸は大きく波立った。こうした混乱の中でなければ自分はここへ来ることができないのだと、彼自身がよく承知していたからであり、その思いは自らの卑しさを突きつけるものでもあった。蘇生した後のことを思うと、院はなお恐ろしさを拭いきれず、夫人のためにあらゆる法力の加護を求められた。生霊として現れたときでさえ恐ろしかった物怪が、今は死霊となっているのだと思うと、宗教画に描かれた恐ろしい相貌までが脳裏に浮かび、気味悪く、また情けなくも思われた。そのため、中宮の世話をすることさえ、この時ばかりは気が進まぬように感じられたが、一人の女性に限らず、女は皆、人の深い罪の因を作る存在なのだ。
2026.05.30
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 242〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。ちょうど式部卿の宮が駆けつけたところで、衰え切ったご様子のまま内へ入って行かれた。押し寄せた見舞い客の応対はとても追いつかず、家従たちが慌ただしく立ち働く中、やがて 光源氏 が涙をぬぐいながら外へ出て来る。その姿は、愛する者を失った悲嘆を包み隠そうともせず、見る者すべてに、この死が如何に深く院の心を打ち砕いた。どのようなご様子でいるのか、不吉な噂を口にする人もいるが、とても信じることはできず、ただ長く続いた御病気を案じて参上したのだ、と衛門督は言った。それに対して左大将は、重い容体のまま長く患っておられたが、今朝の夜明けに息を引き取られたのは物怪のしわざであったと語り、いったんは呼吸が通い始めた。まだとても安心できる状態ではなく気の毒でならないと言う。その顔には、実際につい先ほどまで泣き続けていた様子がはっきりと残り、目元も少し腫れていた。衛門督はそれを見て、自身の後ろ暗い思いのせいもあり、血のつながりもなく継母の死を、これほどまでに嘆く大将の心情が、かえって不思議に感じられた。
2026.05.29
コメント(19)

源氏物語〔34帖 若菜 241〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。折しも祭りの帰りの行列を見物していた高官たちが、帰途でその噂を耳にし、あれほど生きがいに満ちた幸福な女性が世を去る日だから、天も悲しんで小雨を降らせたのだと語る者もあれば、あまりに何もかも備わった人は短命なのだ。桜が散らずにとどまるなら、何を桜と思うだろうかという歌のとおり。そうした人が長く生きれば、別の誰かが不幸を背負わねばならなくなる。これからは二品の宮が、院の御寵愛を一身に受ける時代が来るだろうと言う者もあった。引きこもっていた前日の沈鬱に耐えかね、衛門督は今日は弟である左大弁や参議らの車に同乗して見物に出ていたが、町で交わされるその噂を耳にした瞬間、胸にただならぬ騒ぎを覚えた。散るからこそ桜はいよいよめでたいのだと口ずさみながらも、その言葉は自らを慰めるようであり、同乗の人々とともに二条の院へ向かう。まだ確かな知らせではなかったため、名目は病気見舞いであったが、邸に着くと女房たちが泣き乱れている最中であり、噂は真実であったのかと、さらに強い衝撃を受ける。
2026.05.28
コメント(22)

源氏物語〔34帖 若菜 240〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。修法や読経の声は苦しみの焔となるばかりだと訴える。ここには、愛の深さがそのまま執着と化し、生者と死者、罪と救済の境を揺るがしていく姿が、静かでありながら重く描かれているのであり、院の愛も、物怪の恨みも、どちらもまた人の情の逃れがたさとして、淡々と、しかし容赦なく示されている。尊い仏の慈悲の声に触れたいと願いながら、それを聞くことも許されない身であることが悲しいと物怪は訴え、その思いを中宮にも伝えてと頼む。人を嫉む心を起こしてはならず、かつて斎宮として奉仕した間に積もった罪を、仏に許していただけるほどの善根を必ず積み、来世で苦しむことのないよう深く思い定めよと言い残す。だが、物怪に向かって言葉を交わすこと自体がはばかられる思いもあって、院は法の力によって再び現れぬよう封じ、病に伏す夫人を別の室へ移させた。やがて、紫夫人が亡くなったという噂が世間に広まり、弔意を示そうと訪ねて来る人々が出始めたことを、院は不吉な兆しのように感じていた。
2026.05.27
コメント(25)

源氏物語〔34帖 若菜 239〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。髪を顔に振り乱して泣く様子は、昔一度見たことのある物怪そのもので、その無気味さが再び胸に迫り、これは恐ろしい前触れではないかと院は思う。人目にさらさぬよう、その子の手を取り、前に座らせて庇う。院は、悪い狐が故人を傷つけるために嘘を言うこともあるから、本当にその人であるなら、自分だけが知ることを語れと問いただす。物怪は涙を流し、かつての恨みを和歌に託して泣き叫ぶ。その声には羞恥がにじみ、そこがまた嘘ではない証しのようで、かえって院は耐えがたい思いにかられ、多くを語らせぬようにする。物怪は、中宮に尽くすことはあの世からも見ているが、死後は子への愛よりも、あなたへの執着だけが強く残ってしまったのだと告げる。生きていたころ、他人より軽く扱われたこと以上に、夫婦の語らいの中で悪く言われたことが悔しく、それがこのような姿となって現れたのだと言い、奥方を深く恨んでいるわけではなく、ただ法の守りが強くて近づけず、反抗しただけで、院の声を聞けただけでもうよいから、自分の罪が軽くなるよう取り計らってほしい。
2026.05.26
コメント(19)

源氏物語〔34帖 若菜 238〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院は取り乱して泣き続けるべきではないと女房たちを制し、なおも大願を立て、名高い修験の僧を集める。たとえ定まった寿命であっても、しばしその期を延ばしてほしい、不動尊は一度は命を返すと誓われた、その約束にすがるのだと、僧たちは黒煙が立つほどの熱誠をもって祈りを続ける。院もまた、せめて最後に一目だけでも互いに見交わす時を与えてほしいと嘆き、その切実さに触れた人々は、この夫人の後を追うように院が生きられなくなるのではないかとまで思い、その先の世の歎きをも想像せずにはいられない。この深い愛が仏を動かしたのか、姿を現さなかった物怪が幼い子に憑き、大声を上げた。同時に、夫人の呼吸が戻ってくる。院は喜びと同時に、得体の知れぬ不安にも包まれる。物怪は、ここからは皆退け、院一人にだけ話したいことがあると言い、自分の霊を法力で苦しめ続けた無情さを恨み、懲らしめようと思ったが、院自身の命さえ危ういほどの悲嘆を見て、かつての恋情が残っているがゆえに姿を現したのだと叫ぶ。
2026.05.25
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 237〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。そのころ院である光源氏は、たまにしか訪ねられなかった女三の宮のもとを、せめてもの情として早々に立ち去ることを忍びなく思い、その夜は泊まっていた。しかし心は終始、重い病に伏す紫夫人のほうに引き寄せられており、そこへ急使が到着し、ついに息を引き取ったという知らせを伝える。院は、世界のすべてが一瞬にして暗転したかのような衝撃を受け、二条院へ急ぐが、その道すがらさえ車の進みが遅く感じられるほど心は焦り切っている。邸の近くに至ると、大路はすでに人々の騒ぎで満ち、内からは泣き声があふれ、夢中で邸内に入った院に、女房たちは、快方に向かっていたのに、突然に絶命されたのだと報告した。自分たちも一緒に死なせてほしいと泣き崩れる。その姿もまた痛ましい。祈祷の壇はすでに片づけられ、僧たちもごく近しい者を残しては帰り支度に追われている。人の力も仏の法力も、もはや施しようがない終わりに至ったのだと、院は比べようもない絶望を覚えたが、それでも院は、これは物怪の仕業であろうという。
2026.05.24
コメント(24)

源氏物語〔34帖 若菜 236〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。女二の宮もまた、夫の態度にどこか誠意の欠如を感じ取り、その理由を明確にはつかめないまま、自尊心を傷つけられたような物思いに沈む。女房たちが皆、祭りの見物に出払って人影の少ない昼、寂しげな表情で十三絃の琴を爪弾くその姿は、やはり高貴な方にふさわしい美しさと艶を備えている。その音色には満たされぬ運命への嘆きがにじみ、衛門督はその姿を前にして、誰かを責めるよりも先に、自分自身と彼女の人生を「あと少しの運が足りなかった」と総括するしかなく、責任と欲望の狭間で揺れ動く弱さを、ただ胸の内に抱え込んでいる。もろかづらの落ち葉を、いったい何のために拾ったのだろうか。名は「睦まじき挿頭」と言うほど親しい響きをもつのに、という歌を、衛門督は誰に見せるでもなく書き散らしていた。それは思いを外へ出すこともできず、成就の見込みもない恋を抱えたまま、言葉だけが行き場を失っている姿であり、作者自身がそれを「むだ書き」と感じているところに、この恋の空しさと罪深さがにじんでいる。
2026.05.23
コメント(19)

源氏物語〔34帖 若菜 235〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院が自分と衛門督との罪を、気配ほどにも悟っていないことをはっきりと知り、その無垢ともいえる信頼を向けられるほど、宮はいたたまれなさと罪悪感に押しつぶされ、人知れず泣きたい思いを募らせる。一方、あの一夜を境に、衛門督、柏木の恋情は静まるどころか、日ごとに激しさを増していった。後悔と欲情が入り混じった煩悶に昼夜を問わず苛まれていた。賀茂祭の日には、見物に出ようと多くの公達が誘いに訪れるが、彼は病を装って寝室に閉じこもり、世の賑わいから身を切り離す。正妻である女二の宮には礼儀と敬意は失わずに接しながらも、心を通わせる夫としての親しみや温かさは示すことができない。ただ所在なさと空虚さを抱えたまま、そばにいて時間をやり過ごすにすぎない。童女の手にした葵を目にして口ずさまれる歌は、神に許されぬ罪を負った自覚と悔恨を象徴し、その悔いがかえって恋の炎を強く燃え立たせるという逆説を示し、町々から聞こえてくる見物車の音は、彼にとっては遠い別世界の出来事のように響いた。
2026.05.22
コメント(20)

源氏物語〔34帖 若菜 234〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院が自分と衛門督との罪を、気配ほどにも悟っていないことをはっきりと知り、その無垢ともいえる信頼を向けられるほど、宮はいたたまれなさと罪悪感に押しつぶされ、人知れず泣きたい思いを募らせる。一方、あの一夜を境に、衛門督、柏木の恋情は静まるどころか、日ごとに激しさを増していった。後悔と欲情が入り混じった煩悶に昼夜を問わず苛まれていた。賀茂祭の日には、見物に出ようと多くの公達が誘いに訪れるが、彼は病を装って寝室に閉じこもり、世の賑わいから身を切り離す。正妻である女二の宮には礼儀と敬意は失わずに接しながらも、心を通わせる夫としての親しみや温かさは示すことができない。ただ所在なさと空虚さを抱えたまま、そばにいて時間をやり過ごすにすぎない。童女の手にした葵を目にして口ずさまれる歌は、神に許されぬ罪を負った自覚と悔恨を象徴し、その悔いがかえって恋の炎を強く燃え立たせるという逆説を示し、町々から聞こえてくる見物車の音は、彼にとっては遠い別世界の出来事のように響いた。
2026.05.21
コメント(23)

.源氏物語〔34帖 若菜 233〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮の様子は、どこか特定の病があるようには見えなかった。ただひどく恥じ入った様子で、心身ともに衰え、深く沈み込んでいるように見えるだけだった。院が女三の宮のもとを訪れたとき、宮がひたすら視線を避け、下を向いたままでいる様子は、院の目には、久しく足を運ばなかった自分への恨みや寂しさが表に出たようだ。それは、かえっていじらしく、胸を打つものとして受け取られる。院はその憐れさに心を動かされ、紫夫人すなわち紫の上の病状について語り、自分がどれほど誠実に最期まで寄り添おうとしているかを、ほとんど独白のように語る。少女の頃から手元に置き、育ててきた妻であるからこそ捨て置けなかった。他のすべてを後回しにして看護に明け暮れているのだと述べ、いずれ時が過ぎれば、また宮にとって好ましい存在の自分に戻れると未来への希望さえ口にする。その言葉は、院自身にとっては誠実さの表明であり、良心の確認でもあったが、それを聞く女三の宮の胸には、まったく別の重さをもって沈んでいく。
2026.05.20
コメント(22)

源氏物語〔34帖 若菜 232〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。衛門督は、はかない声で、明け方の空に自分の浮いた身が消えてしまい、すべてが夢であったと思えるならそれでよいのに、という歌を返した。その若々しく美しい声を耳に残したまま、衛門督はその場を去ったが、身体だけが歩いて行き、魂はそこに置き去りにされたような心地であった。衛門督は夫人のもとへは行かず、父である太政大臣の邸へひそかに戻った。夢と言うほかないほどはかない逢瀬が、再び起こり得るとは思えず、夢の中で聞いた猫の鳴き声までもが、妙に恋しく思い出された。自分は取り返しのつかぬ過ちを犯してしまったのだという思いが胸に満ちてきた。生きている世界そのものがまぶし過ぎるように感じられて、恐ろしくも恥ずかしくもなり、そのまま家に閉じこもって過ごした。恋する宮に対しても、自分自身に対しても、許されぬ罪を負ったという意識は消えず、もはや自由に外を歩いてよい人間ではないと感じられた。
2026.05.19
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 231〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。何か咎める言葉を言い返したいと思ったが、恐怖のために身体が震えるばかりで、声はついに出なかった。その姿はどこまでも幼く、世間のことを知らぬ少女そのものに見えた。外は刻々と明るくなり、朝の気配が濃くなっていく。衛門督は気持ちばかりが急き立てられながらも、理由のありそうな夢の話も本当は語りたかった。だが、そこまで自分を憎む気持ちが変わらないのであればそれもやめにすると言い、それでもなお、二人の間にどれほど深い因縁があるかを、いずれは悟る日が来るだろうと、言い残すようにして立ち去ろうとした。その背に、初夏の朝でありながら、どこか秋のような物悲しさがまとわりついていた。立ち去ろうとするその瞬間、宮の袖を引きながら、衛門督は夜明けの空に寄せた歌を口にした。起きて行く空の行く先も分からぬ明け方に、いったいどこの露がこの袖を濡らすのだろうか、という意味の歌であった。その言葉を聞いた宮の心は、男が帰って行きそうだという思いに少しだけ安堵した。
2026.05.18
コメント(18)

源氏物語〔34帖 若菜 230〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。一方、宮はそのまま長い間、身を起こすこともできずに、夜の出来事が夢であったならどんなによいかと思いながらも、身体に残る重さと、心に刻まれた恐怖とが、それを否定していた。やがて女房たちが起き出し、いつもの朝の支度が始まったが、宮は気分がすぐれぬとだけ言って、帳の内から出ようとはしなかった。その様子はあまりにも尋常でなく、女房たちは顔を見合わせて不安を覚えたが、深くは問いただすこともできず、誰にも知られぬままに過ぎ去った一夜は、しかし確実に、宮の身の内に大きな変わり目を残していた。その影は、ほどなくして病という形をとり、周囲の者の目にも明らかな不幸として現れていく。あまりにも冷淡にされ続けたために、衛門督は自分の中の分別や常識がすっかり崩れてしまったのだと言い、せめて自分を少しでも落ち着かせたいと思うなら、只、かわいそうだと一言だけ声をかけてくれればよいのだと、半ば脅すような口調で訴えた。その言い方はあまりにも無遠慮で、宮は強い不快を覚えた。
2026.05.17
コメント(21)

源氏物語〔34帖 若菜 229〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。そのとき、遠くで鶏の鳴く声がした。夜の終わりを告げるその声は、衛門督にとっては裁きの合図のように響いた。ここに留まっていれば、いずれ人に見つかり、宮の名も自分の名も、取り返しのつかぬ形で世にさらされるであろう。それを思えば、立ち去るほかに道はなかった。督はすぐには身を引くことができなかった。宮を見捨てて行くという思いと、ここに留まることの恐ろしさとが、胸の中でせめぎ合っていた。宮は何も答えず、ただ袖で顔を覆っていた。その姿を最後に目に焼きつけるようにして、衛門督はそっと後ずさりし、戸口のほうへ身を移した。外は、すでに白み始め、渡殿を戻る足取りは重く、夢の中を歩いているだ。昨夜ここへ入って来たときの高ぶりは影もなく、残っているのは、胸を締めつけるような悔恨と、不吉な予感ばかりで、六条院の屋敷を出たころには、朝の気配がはっきりとしていた。人々の動き出す音が、遠くから聞こえ、いつもと変わらぬ朝が、何事もなかったかのように始まろうとしているのが、かえって残酷に思われた。
2026.05.16
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 228〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。宮の心と身体には、すでに深い影が落ちており、その影は、やがて誰の目にも明らかな不幸の兆しとなる。この先は、女三の宮の病と変調、六条院の帰参、そして破局が決定的になる。ほのかな明かりが外から差し、まだ夜とも朝ともつかぬ色の中に、宮の面影が浮かび上がったが、その顔は血の気が引いたよう。幼さを残したまま、ただ深い疲れと悲しみに沈んでいるよう。その様子に触れた瞬間、衛門督の胸には、これまで抱いてきた恋の熱とは別の、取り返しのつかぬことをしてしまったという恐れが、はっきりとした形をとって立ち現れた。宮は目を伏せたまま、身動きもせず、そこに人がいるのかどうかさえ分からぬほど静かであった。呼吸だけが浅く続いき、それがかえって生々しく、衛門督の罪を責め立てるようである。何も、お言葉がないのですかと、督は言ったが、その声には先ほどまでの強さはなく、頼りなさだけが残っていた。宮はかすかに首を横に振った。その動きだけで、これ以上何も言う気力も心も残っていないことが、伝わってきた。
2026.05.15
コメント(22)

源氏物語〔34帖 若菜 227〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。衛門督は、もはや言葉だけでは満足できぬ心持ちになり、几帳の内へさらに身を進めようとした。その気配を察して、宮は身をよじるように後へ退いたが、狭い帳の内では逃げ場もなかった。そのとき、外で人の動く音が聞こえた。夜更けとはいえ、物音に気づいた衛門督は、はっとして動きを止めた。ここで事が露見すれば、宮がどれほど傷つくか、自分がどれほどの罪を負うかが、現実として迫って来た。衛門督は名残惜しげに帳の端を離れた。宮は衛門督の姿が闇に消えるのを見届けると、全身の力が抜け、その場に伏してしまった。恐怖、恥辱、理解しがたい人の心の闇、それらが一度に押し寄せ、息をすることさえ苦しく感じた。やがて、戻って来た小侍従が宮の異変に気づき、声を失い近寄ったが、宮はただ首を横に振りながら、今夜のことは、決して忘れないとだけ、かすかに仰せになる。その言葉の重みは、小侍従の胸を強く打つ。この夜の出来事は、表向きには何事もなかったかのように過ぎ去ろうとしていた。
2026.05.14
コメント(26)

源氏物語〔34帖 若菜 226〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。こうした言葉を重ねるにつれて、衛門督の声は次第に熱を帯び、理を尽くしているようでありながら、その実は自らの情に引きずられて行くさまが、はっきりと見えてきた。宮はその息づかいさえ恐ろしく、ただ身を縮めるばかりであった。これ以上はと、ようやく言葉を発しかけたが、声は涙に塞がれはっきりしなかった。それでも、そのかすかな拒みの響きは、宮の心の底からの恐怖と嫌悪とを含んでいた。しかし衛門督は、そのお声を、はかなげなためらいとばかり取り違えて、そのように震えるほどに、私を恐れになるのですか。私は害を加えようなどとは夢にも思ってなく、この思いの重さを知って頂きたいと、言い募るのであった。宮は、涙を抑えることができず、袖で顔を覆って声を殺して泣きだす。その姿はあまりにもいたいけで、あたりの闇の中に白く浮かび、かえって衛門督の心を狂わせるようで、なぜこのようなことにと、宮は胸の内で嘆いた。父の御心、六条院の思いやり、自分を包んできた世界が、一夜にして崩れ去ってしまった。
2026.05.13
コメント(24)

源氏物語〔34帖 若菜 225〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。外のほうで人の足音が聞こえ、女房たちの話し声が近づいてきた。小侍従が、事の成り行きを恐れて様子を伺いに戻って来た。衛門督は、人に見とがめられることを恐れて、物音を立てぬよう、来たときよりもさらに忍ぶ姿でその場を立ち去った。後に残された宮は、身の震えが止まらず、何が起こったのかを思い返すこともできぬ。これまで知らずに過ごしてきた世の恐ろしさが、突然身に迫って来たように感じられて、心細さと恥じらいと恐怖とが入り混じり、夜の更けるまで眠ることもできなかった。やがて小侍従が近くへ参り、そっと様子をうかがうと、宮は弱々しい声で、今のことは、誰にも申さぬようにとだけ仰せになった。その言葉の重さに、小侍従は身の罪の深さを思い知り、顔色を失って、ただうなずくばかりであった。この一件が、後々まで人々の運命を暗く影のように追うことになるとは、その夜はまだ、だれも知らなかった。ここは女三の宮の無垢さと恐怖、そして衛門督の欲望が理屈を装って暴走する瞬間が浮かび上がる。
2026.05.12
コメント(26)

源氏物語〔34帖 若菜 224〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。緊張が一段と高まり、その男は低い声で、もっともらしい理屈や、長年胸に秘めてきた思いの深さなどを、切れ目なく語り続けた。宮はただ恐ろしく、耳をふさぎたい思いで聞きながらも、身動き一つできなく、声も立てられず、どうか、驚かれませぬように。ただ一言申し上げたくて参ったまでのことです。罪深い心を起こしているわけではなく、せめて私の苦しみを聞き流し下さればされば、それでよいのですなどと、なおも弁解がましく言い募るが、宮にはその言葉の意味もはっきりとはお取りになれず、ただ胸の動悸ばかりが激しくなっていく。やがて、宮は、お下がりください。どうしてこのようなことがと仰せになる。その声はかすかで、今にも消え入りそうであり、その様子を見て、さすがに衛門督も事の重大さに気づき、これ以上はならぬと思ったのか、名残惜しそうにしながらも、帳台の縁を離れ、几帳の陰へと身を退かせたが、宮は力尽きたように、床に伏してしまい、胸は苦しく、息も乱れて、涙さえも自然にあふれてくる。
2026.05.11
コメント(24)

源氏物語〔34帖 若菜 223〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。人はみな無常の世に生きているのだから、君が宮の幸福をこうして守ろうとしていることも、やがては皆むだになるかもしれない。だからこそ、私にあまり冷酷なことを言っておかないほうがよいのだと、半ば脅すように言った。これを聞いて小侍従は、顔色を変え、人ほど大事がられていない奥様だなどという。それをあなたのお力でよくして差し上げられるというのですか。六条院様と宮様は、ただの夫婦という関係ではございません。保護する方もなく、おひとりでいらっしゃるよりは、という御思召しで、親代わりとしてお頼みになったのですし、院がお引き受けになったのも、そのお気持ちからでいらっしゃいます。つまらないことを持ち出して、結局は宮様を悪しざまにおっしゃるのですねと、ついに腹を立ててしまった。小侍従のこの険しい機嫌を前にして、衛門督は、さすがに事のまずさを悟ったのか、言葉を選びながら、あれこれと宥めにかかる。この場面、衛門督の自己中心的な理屈と、小侍従の忠義と怒りが真正面からぶつかる。
2026.05.10
コメント(25)

源氏物語〔34帖 若菜 222〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。もう昔のことは言うまい。ただ、このごろの、またとない好機に、せめて居間の近くまででも行かせてもらって、私のこの苦しんでいる心のうちを、少しだけでも話させてくれるように取り計らってはくれないか。もったいない欲念などは、もう一切起こさないことに、とうにあきらめているのだから、それくらいはよいだろうと言われる。小侍従は眉をひそめ、それ以上の欲心が、まだあるとは、なんと恐ろしい望みを持ったものだ。私はここへ来なければよかったと、きっぱり言い切り拒んだが、衛門督は、少し声を和らげながらも、そんなにひどいことを言うものではないよ。大げさに何を言うのだ。后と申しても、かつて恋愛の悩みを打ち明けた方はいた。まして宮中のこと、外から結構な身の上に見えても、内心では口惜しい思いをすることも多い。法皇様からは、どの子よりも大切に育てられ成人なさったのに、今は同じほどの身分でもない方と並んで、一人の夫人として扱われ、しかも最愛の方としては遇されていないというその詳しい事情を、私はよく知っているよ。
2026.05.09
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 221〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。第一の愛妻は他にあり、ひとりでお休みになる夜が多く、つれづれにお暮らしになっているとお聞きになって、さぞ御後悔あそばしたご様子で、結婚させるのなら、普通の人であっても忠実な良人を、宮のために選ぶべきであった。女二の宮のほうが、かえって幸福で、将来も頼もしく見えると仰せられたとも聞く。私は気の毒にも、残念にも思わずにはいられず、煩悶せずにおれない。私の宮さんも御姉妹ではある。こう歎息する衛門督に、小侍従は、これから何をどうするのですかと咎めるように言った。衛門督は微笑を浮かべて、世の中のことは、表もあれば裏もある。私が三の宮の熱心な求婚者であったことは、法皇様も陛下もよくご存じだ。陛下も当時は、十分に見込みはありそうだと仰せられた。ただ、もう少しばかり御好意が足りなかったのだと思っているなどと言う。小侍従は、それはあまりに難しいことで、運命というものもあり、そこへ六条院様が求婚者として現れた以上、どの競争者であっても、勝ち目はなかったと思われと遠慮なく言う。
2026.05.08
コメント(24)

源氏物語〔34帖 若菜 220〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院からの話を受け入れたのである。世間並み以上にすぐれた女性ではあったが、初めから心に深く染みついていた人に代わるほどの愛情は、衛門督の心には生じなかった。ただ人目に恥じぬ程度に、夫としての務めを果たしているに過ぎず、今もなお、以前の恋を引きずり、その人の消息を探る手立てとして使っている。女三の宮の小侍従という女は、宮の侍従の乳母の娘で、その乳母の姉が衛門督の乳母で、この女は少年時代から宮の噂を耳にして育った。美しさや、父帝の溺愛ぶりなどを繰り返し聞かされてきたことが、この恋の芽生えとなった。六条院が病の夫人とともに二条の院へ移って、さぞ暇であろうと考えて、衛門督は小侍従を自邸に呼び寄せた。例の話題について、熱心に語り合っていた。昔から、命にかかわるほどの恋をしてきた上に、都合のよい人を持っていて、宮様のご様子も聞き知ることができ、煩悶している思いも、少しも見るに足る効果がないのだから、残念でならない。しまいには、あなたが恨めしくなってきて法皇様でさえ、宮様が幾人もの妻の中の一人となった。
2026.05.07
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 219〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。神仏にも、夫人の善良さや罪の軽さを訴え、目に見えぬ加護を願っておられたのである。修法を行う阿闍梨や夜居の僧たちも、院のあまりの心痛を拝するにつけ、胸を打たれ、一心に祈りを捧げた。ときに五、六日ほど具合のよい日が続くこともあったが、またすぐに悪化するような容体が幾月も続いた。夫人はついに病床を離れることができなかった。院は、やはり助からぬ命なのだろうかと深く嘆かれた。物怪が人に乗り移って現れる様子もなく、どこが悪いとも定まらないまま、日に日に夫人は衰えていくばかりであったから、院は悲しみに沈み、ほかのことには一切心を向けることができなかった。あの衛門督は、すでに中納言に昇っていた。衛門督の官もそのまま兼ね、当代の天子の厚い信任を受けて、勢力はいよいよ華やかなものとなっていたが、失恋の苦しみを忘れきれず、女三の宮の姉君である二の宮と結婚した。低い更衣腹の内親王であったため、気楽に思われ、特別に敬い仕える必要もないと思う。
2026.05.06
コメント(20)

源氏物語〔34帖 若菜 218〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。ただ夫人たちだけが残っていたが、それを見るにつけ、六条院の華やかさは、ひとえに紫の女王一人によって成り立っていたのだと思われた。女御も二条の院へ赴き、父子そろって看病に当たられ、あなたは病身なので、物怪のうろつく私の病室などに来られず、早く御所へ帰りなさいと、院の身を案じた。激しい病苦の中にあっても、夫人は院の身を案じて言うが、若宮のあどけない姿をご覧になっても、夫人はひどく泣かれた。大きくなられるお姿を拝見できないのが悲しい。やがてお忘れになるでしょうなどと、そんな言葉を聞く女御も、胸が塞がる思いだった。院は、そんな縁起でもないことを思ってはいけません。人は心の持ちようで運命をも左右するものです。心の狭い者は、たとえ出世しても寛大さを失い、結局は失敗するものです。善良でおおらかな人が自然と長命を得る例は多いので、あなたに限って、そんな悲しいことが起こるはずがありませんなどと、やさしく慰められた。
2026.05.05
コメント(23)

源氏物語〔34帖 若菜 217〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。時折、意識が戻った時、夫人は、「お願いしていることを、あなたはお聞き入れにならないのですね」と、院を恨めしそうに言われた。避けようのない死別よりも、生きながらにして自分から遠ざかっていく姿を見ることのほうが、ひとときも耐えがたいと感じる院は、昔から出家への思いは私のほうが深かった。あなたを残して一人寂しく暮らさせることが耐えられず、こうして俗世にとどまっているのです。それなのに、今度はあなたが私を捨てようとするのですかと、これほどまでに訴えて、どうしても同意なさらなかった。そのためであろうか、夫人の病はますます衰え、頼りないものになっていった。今にも臨終かと思われることが幾度もあり、院はまた尼にさせるべきかと迷われた。このような事情から、女三の宮のもとへは、仮の訪れさえなさらなかった。どの御殿でも楽器はしまわれ、六条院の人々は皆、二条の院へ集まっていったため、六条院は火の消えたように静まり返っていた。
2026.05.04
コメント(27)

源氏物語〔34帖 若菜 216〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。様々な養生や呪いを試みても効き目は見えず、回復の望みは無く、この病人はただ心細く見えるばかりで、その様子を院は深く悲しんだ。もはや他のことに心を向ける余裕もなく、法皇の賀の準備も中止せざるをえなくなった。法皇の寺からも、夫人の病を気遣って、丁重な見舞いの使いが何度も訪れた。病状は相変わらずで、二月もそのまま過ぎていった。院は言い尽くせないほど心を痛めておられ、せめて環境を変えればとお考えになり、病の女王を二条の院へ移された。六条院の人々は、まるで大きな厄難が降りかかったかのように深く悲しみ、冷泉院もまた大層心を痛めておられた。この夫人に万一のことがあれば、六条院は必ず出家されるであろう――それは誰の目にも明らかであったため、大将なども真心を尽くして、夫人の病が少しでも快方に向かうよう奔走していた。院が命じられる祈祷のほかに、大将は自らの願いとしても祈祷を行わせていたのである。
2026.05.03
コメント(24)

源氏物語〔34帖 若菜 215〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。院に心配をかけぬよう、激しい苦痛をこらえながら朝を待った。やがて熱まで出て容体は明らかに悪くなったが、院が早く帰ってくるように促すこともせずにいるうち、女御のもとから夫人へ手紙を届けに来た使いに、女房が病のことを伝えてしまったため、それを聞いた女御が驚いて院に知らせた。胸を騒がせながら院が戻ってくると、夫人は苦しそうに横たわっていた。院がどんな具合かと声をかけ、夜着の下に手を入れてみると、身体はひどく熱を帯びている。昨日話題に上った厄年のことも思い出され、院は恐ろしさを覚えた。粥などを作らせて持って来たが、夫人は見ることすら嫌がった。院は一日中病床に付き添って看病を続け、菓子の一つも口にせず、起き上がらないまま数日が過ぎていった。このままどうなってしまうのかと不安になり、院は数えきれないほどの祈祷を始めさせ、僧を呼んで加持も行わせた。どこが特に悪いというわけでもないのに、夫人はひどく苦しみ、苦悶が顔に現れた。
2026.05.02
コメント(23)

「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔34帖 若菜〕 の研鑽」を公開してます。楽器を押しやらせ、そのまま宮を寝かせた。一方、対のほうでは、寝殿に泊まるこうした夜の習慣として、女王は遅くまで起きており、女房たちに物語を読ませて聞いていた。人生のありさまを写した物語の中には、情に迷いやすく、何人もの恋人を持つ男を相手にして、絶えず悩み苦しむ女が描かれていることが多い。たいていの場合、最後には二人だけの落ち着いた生活に行き着くようになっている。しかし自分はどうだろう、年を重ねてもなお、一人の妻として完全に落ち着くこともできずにいるではないか、院の言葉どおり自分は運命に恵まれているのかもしれないが、誰もが最も耐えがたいと感じる苦しみを背負っている。このように、一生背負って生きねばならない定めなのではないかと思うと、情けなくてならない、そんなことを次々と思い続けた末に、夫人は夜が更けてからようやく寝室に入った。ところが明け方近くになって急に具合が悪くなり、胸の痛みが激しく起こった。女房が心配して院に知らせようと言うのを、夫人は止めた。
2026.05.01
コメント(21)
全31件 (31件中 1-31件目)
1