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移動の新幹線の中で食べた京都の老舗のお弁当があまりのも美味だったので、時速二百数十キロで疾走する座席に座ったまま、心の中で思わず感涙にむせんだ。一つ一つの料理が、丁寧に、本当に心がこもってつくられているのがわかった。猛烈な勢いで遠ざかる土地に住む料理人さんたちに向かって、ありがとうと手を合せた。
東京駅でトイレに入ったら、新幹線の乗組員の方だろうか、鏡に向かってシャキッと立ち、帽子の位置を直しているのを目撃した。この人たちの営々たる努力で、世界に誇るべき定時運行が維持されていると思った。
駅構内の本屋さんで新刊を求めたら、テキパキとあっという間にキレイにカバーをかけてくださった。その間、数秒。目にもとまらぬ早業だった。
人のために、心をこめて仕事をする。誰も見ていなくても、自分のやるべきことをきちんとやる。そのような職業倫理をもって働いている一方で、デジタルの数字を動かしてカネを儲けることばかり考える輩もいる。
まったくふざけんじゃねえよ、と、その時だけは本気で思った。
人は、お金のためだけに生きているのではない。本当に心を込めて誠実に仕事に向き合うことが、結局は人の心を動かす。派手ではなくても仕事は仕事。別に地味でもよいではないか。
人間は、誰でも、自分の中にひそむ能力を思う存分発揮して生きたい、と願わずにはいられない。潜在能力をすべて生かすことができたら、そのような人生は悔いるところはないだろう。
もちろん、全員が天才的能力を示すことができるわけでもないし、やることのすべてがうまくいくはずもない。それでも、それぞれのユニークな資質に寄り添ってどんな小さなことでもできることができれば、そんなにウレシイことはほかにないのではないか?
才能を生かす方法は、何か? いろいろあると思うが、自分の経験に照らしても、また最近の脳科学の知見からとても大切なことだと思うのは、「熱中すること」である。
熱中しているとき、私たちの意識の中から時間が流れているという感覚は消える。そして、何よりも重要なことだが、取り組んでいる対象と自分のあいだの境界が消えてしまう。まるで、自分が仕事そのものになってしまったかのように感じられるのである。
そのようなときには、人間の脳が外界と相互作用する際に使われる感覚と運動の領野が、フル稼働している。いわゆる「引き込み」の現象が起こるのである。雑念が消え、脳の資源が「仕事をする」という目的のために総動員される。その過程で、最大のパフォーマンスが発揮されるし、また深い学びも起こる。
肝心なことは、没入して仕事をしているときには、他人にそれがどのように見えるか、マーケットの中でどれぐらい価値があるかなどということは気にならないということである。熱中することはけっして派手ではないが、それでいいのである。
大人だけではない。何でもいいから熱中することを知っている子どもは、きっと大丈夫である。多少、勉強ができなくても、社会に出たら必ずやっていける。
時代はめぐり、再び熱い思いが問われている。まずは大人たちが、熱中することのお手本を見せてあげようではないか。
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