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専修大学法学部教授 岡田 憲治
選挙によって各政党の議席数が確定し、与野党の勢力図が決まると、通常は議事日程通り粛々と審議と採決が行われ、少数派の野党が与党提出法案を覆すことは困難となります。しかし、野党がその役割を果たすために、議会政治がさまざまな慣行、ルールによって、与党に対抗する方法を保証してきました。
議席数が全てならば、選挙で過半数を得た政党や政党連合が全法案を可決でき、議会は必要ありません。首班指名と組閣が終われば、全て審議は「どうせ多数決で決まるのだから時間と費用の無駄」ということになり、内閣が全てを担うからです。
議会の勢力は常に「過度的な民意の表現」だと考えれば、野党の主張の中にも、複雑で多様な社会の訴えが含まれていますから、審議を行うだけでなく、数で劣る野党が簡単には 多数決に持ち込まれないようにするための工夫が、議会内のルールの枠の中で許されています。これがフィリバスター(合法的議事妨害)といわれるものです。審議を引き延ばし、その間に妥協を模索するのです。
米国映画『スミス都へ行く』では、政府腐敗を追及する若い上院議員が法案成立を阻止しようと長時間演説を続けついに力尽き、その姿にベテラン議員が心を打たれ世論が反応する場面が描かれています。「党議拘束」が緩やかな米国上院では、こうした行為は正当なものとされています。 2013 年には、オバマ大統領の提案した社会保障案に対し、 21 時間ものフィリバスターが行われました。
日本では、長時間演説は過半数の賛成で時間制限がかけられてしまうため、有効な技術になりませんが、審議拒否、議院運営委員会を通じた審議運営へのクレーム、委員会審議前の本会議趣旨説明の要求、野党法案の乱発や内閣不信任案などで、妥協を引き出し、同時に世論の喚起を促します。本会議での投票採決の際に牛のようにゆっくり歩いて時間をかける「牛歩戦術」なども、議案への世論の注目を集めようとする典型的な作戦です。
いずれも与党からは審議の妨害行為と受け止められがちですが、議会政治においては、与野党が逆転する可能性が常に念頭に置かねばなりません。数の力による強引な採決を防ぎ、慎重に法律を作成するために最後まで努力をすることの大切さを想像しなければなりません。
合法的議事妨害は、二院制による慎重な審議と議決とともに、「選挙結果が全て」と決めつけることなく、一度立ち止り、野党が何のために存在するのか、議会がなぜ必要なのかを考える契機を与えてくれるものだと言えましょう。
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