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良き統治――大統領化する民主主義
ピエール・ロザンヴァロン著
古城毅、赤羽悠、稲水佑介、永見瑞木、中村督 訳 宇野重規 解説
「真実」と「高潔さ」が支配する政治空間を
北海道大学教授 吉田 徹 評
今ほど各国指導者の意挙手一投足に視線が注がれる時代はないだろう。既存の制度や利益が大きく揺らぐ時、次なる展望を切り開くことが政治の果たす役割であり、それゆえ政治指導者への期待、そして落胆は、当然なのかもしれない。
本書は、世界で進む「大統領制化」の歴史的起源と制度的特徴を説き明かすものだ。「大統領制化」とは、一極集中のことを指す。対照的に、立法府やそしき政党阿衰退の一途を辿っており、それを推し進めるのは、著者のいう「特異性に基づく個人主義」、すなわち「社会的条件」よりも「個人史」が意味を持つようになった時代的特性である。
議会や中間組織が個人の包摂する「認証の民主主義」のもとでは、有権者は大きな改革を求めることはない。しかし 19 世紀以降の選挙権の拡大、代表制の改善、国民投票の導入といった民主化の進展は、より実効性のある「行使の民主主義」を求めるようになる。かくして、二度の世界大戦とそのもとでの総動員体制を通じて、民衆的正当性を持つ指導者が希求されるようになったという。現在世界を騒がすポピュリズム政治は、いうなれば数世紀にもわたる長い民主化の不可避の帰結でもあるのだ。
もっとも、統治する者(指導者)と統治される者(有権者)は、非対称的な関係にある。恣意的な権力を回避するのに必要となるのは「信頼の民主主義」だ。この新たな民主主義においては、執政府の応答責任などは引き出す制度的改革に加え、為政者に「真実を語ること」と「高潔さ」(一貫性や透明性と言い変えても良い)の資質が重視されるべきだという。こうして、真実と高潔が支配する政治空間作り上げられれば、人びとは民主政治がそもそも~内在させている不確定性に立ち向かうための勇気と知恵を授けられるようになる。そして、統治者と被統治者との間の相互的な信頼が生まれていくことになるのだ。
歴史と思想を縦横無尽に往来しつつ、本書に通ていしているのは実践への強い関心だ。著者は、もともとキリスト教民主主義系の労働組合に属し、フランスの社会民主主義にコミットしてきた実務家だ。民衆化を推し進める不可避的な世界史的潮流の中で、民主主義という理想をいかに手放さず、現実を理想に近づけていくかという粘り強い思索の産物でもある。
コロナ・ショックで不確実性が一層増している現下において、虚偽と言い逃れが跋扈するようになった民主主義おいかにバージョンアップさせることができるのか――そのヒントが山のように詰まっている。
◇
ピエール・ロザンヴァロン 1948 年生まれ。フランスの歴史家・政治学者。フランス民主労働総同盟の経済顧問などを経て、現在、コレージュ・ド・フランス教授。翻訳された著書に『自主管理の時代』『ユートピア的資本主義』『連帯の新たなる哲学』『カウンター・デモクラシー』。
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