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終業式のホームルーム、クラスの生徒の前で女性教師は語り始める。「娘はこのクラスの生徒に殺されたのです」近所の図書館で予約件数が三ケタ超えの大人気のこの作品。念願かなってやっと読むことが出来ました。最後までページをめくる手を止められなくなるという評判通り、一気読みでした。この作品はある事件について、各章違った登場人物達がそれぞれの視点で語っていくというスタイルを取っています。そのため、一つの事件が様々な角度から映し出されているので、最後まで飽きることなく読むことができます。細かくアラ探しをしてしまえば、若干腑に落ちない所や矛盾点がないとはいえません。けれど、非常に読みやすい語り聞かせや、事件の新たな側面が徐々に判明していくというスタイルが読者を離さないので、そんなことに気を取られずにあっという間に最後まで読めると思います。内容は人間の黒い部分に焦点があたっているせいか、ドロドロとしているのですが、この作品は桐野夏生ほどその黒さを追求していません。この作品は登場人物の内面よりも、どちらかと言うとストーリーの方に重きを置いているので、あまり重苦しさを感じないと思います。そこを薄いと感じる人もいるのかもしれませんが、しかしその分、万人受けしやすい作品になっているように感じました。最後までノンストップで読めてしまう素晴らしいミステリでした。是非時間のあるときに一気に読むことをおすすめします。
2010.01.28
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とことん不運で不器用な女、幸江。そんな幸江が惚れた男は無職で博打好きな男、イサオだった。上下巻完結。前々から評判は聞いていました。いやでも、ないないないない、それはありえない。四コマ漫画で感動して泣くなんてことは絶対ありえない!と、頑なに思ってました。それでも一応、この作品を読んだことのある友人にそこのところを確認してみたところ、その友人いわく「私もね、最初それはありえないことだって思ってたんだけど、でもね、なんか泣くんだよね」とのこと。これはもう自分で確認してみるしかないと、早速読んでみることにしました。で、結果なんですが…。もうね、泣きます。存分に泣かせていただきました!いや、本当に評判通りでした。この作品は、まさしく、まさかの泣ける四コマ漫画でした。といっても初めから泣ける要素がてんこ盛りというわけはありません。本を開いて数ページ読んだだけでは、本当に泣けるのだろうかと、まだ半信半疑だろうと思います。だって、まず漫画として重要な絵柄が、イマドキの絵ではないですし。そして内容も、まあ四コマなので基本ギャグなのですが、それがとことん不幸な幸江を題材にした自虐的な笑いなのです。カラッとした笑いでないことは確かで、万人向けの笑いとは言い難いわけです。しかも、上巻いっぱい感動も特にないままその自虐的な笑いだけが続きます。その笑いだけでも決して面白くないわけではないのですが、そこまで読んだ限りでは、感動もそして笑いにおいても特に評判になる程には感じないと思います。しかしそれがやがて、下巻に差しかかりしばらくした頃に物語が一転し、目が離せなくなっていきます…。人は誰しも幸せになりたいものだし、幸せを求めない人なんていないんじゃないだろうか。この作品の主人公、不運で不器用な幸江もそれは同じで、空回りしながらも精いっぱい幸せを求める。そんな、とことん不幸な幸江が終盤にかけて、その答えを見つけ出していきます。そして、最後のページをめくる頃には震えるような感動が待っています。病気で死ぬなんていう展開を用いなくとも、こんなに人に深い感動を与えられる作者の才能に脱帽です。しかもまさかの四コマ漫画で。絵や内容で読むことを避けていたらもったいない作品です。幸江と一緒に幸せや不幸せの意味を考えてみませんか?是非読んで下さい。おすすめの作品です。
2010.01.20
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季節が不規則にめぐる異世界。そこで王座を巡って繰り広げられる壮大な物語。読書の持つ素晴らしいものの一つに別の世界へ連れて行ってくれる、いわゆる現実逃避がありますが、その最たるものにファンタジーなるジャンルがあります。架空の世界で繰り広げられる壮大な物語。凛々しい騎士と美しいお姫様の恋、伝説のドラゴン、王座をめぐっての権力争い、政略結婚に秘められた出生。この作品はそんなものが全て入ったコテコテのファンタジーなわけですが、架空の物語とか夢物語など甘い気持で現実逃避させてはくれないほど、重厚で厳しくも複雑な世界が繰り広げられています。なにせ巻末に有る付録のページ数の多さからもわかるように、登場人物がハンパないくらい多い。「△△家の○○という登場人物は□□家から嫁いできて、××家の☆☆とは姉妹同士で」など、ことこまかに記載されており、幸楽や岡倉家どころじゃないくらい複雑な人間関係が繰り広げられています。さらに各章ごと複数の視点で語られていくというスタイルがとられているので視点がころころと変わり、物語に入り込むまでに若干敷居が高めです。ですが、そこに慣れてくると、この決して甘くはないが生々しいまでの死や生をも感じさせてくれる作品の世界にハマってしまいます。イギリスの薔薇戦争をモチーフに描かれたとあるだけに、登場人物や設定、展開がとても緻密なので三国志なども彷彿させられます。ファンタジー好きはもちろんのこと、歴史好きの方にもおすすめかもしれません。なんて熱く語っておきながらも、実は私は作品の登場人物が半分も頭に入っていないという体たらくでして、決してディープなファンではないのですが。けれども私みたいにスターク家とターガリエン家とラニスター家くらい覚えているだけでも作品は十分楽しめるので、あまり力を入れずに気軽に手にとってもらいたい作品です。このシリーズはどうも全七部らしいのですが、現在、「七王国の王座 上下」「王狼たちの戦旗 上下」「剣嵐の大地 上中下」「乱鴉の饗宴 上下」の第四部まで出版されており、本当にあと三部で終われるのかと思うくらい盛り上がっております。毎回良い所で終わっているので、とても続きが気になるのもこの作品の魅力の一つです。いつも読み終わって真っ先に思うのはただひとつ「次回作も必ず読む!」ハマったら決して読者を離さない作品です。重厚で壮大な世界へ現実逃避したい方など、是非おすすめです。
2010.01.13
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美しい母マコとその娘のコマコは安息の地を求めて旅を続ける。直木賞受賞後の作者渾身の書き下ろし長編なので、ずっと読みたかった作品でした。やっと読むことが出来ました。今回も期待を裏切らない出来だったと思うのですが、今までの桜庭作品とは少し違ったような印象を受けました。違うといっても雰囲気や文章などに見受けられる作者の世界観は健在です。ですが、これまでの桜庭作品に共通してきた作者の焦点が少し変わって来たような気がしました。これまではミステリ要素を含んだストーリーや少女達の焦燥感や鬱屈した思いを込めた魂の叫びのようなものを「語る」ことに重きが置かれていたような気がしたのですが、今回はそれらがあまり重要視されていないように感じました。さて、内容はというとこの作品は第二部構成になっていて、第一部は「ファミリーポートレイト」として母親と娘が逃げるように旅をする物語になっています。この第一部だけを見ると以前の桜庭作品と違った印象を強く感じることはないのですが、若干気になったことはありました。それは以前からも時々作品に登場していた設定や展開にある不条理さについてです。現実的な物語の中にふと存在する現実離れしたところ、多分これがこの作者を好きか嫌いかに分けている要因になっているのだと思いますが、個人的にはこの不条理さは好みで、これこそが桜庭一樹の物語たらしめているところだと思います。そうなのですが、今回はその作者の個性ともいえる不条理さが、かなり顕著に物語に存在しているように感じました。不条理さ好みの私でさえも少々やり過ぎなではと感じるくらいでした。こんなに多いと不条理が現実を打ち負かしてファンタジー化してしまいそうです。以前はあった現実と現実離れした不条理の絶妙なバランスがここでは失われてしまっているような気がしました。もしかして作者は意図的に物語を現実離れさせることにより夢か絵空事感をだしているのかもしれませんが、それにしてもなんとなく今までの作品にはない不安定な印象を受けてしまいました。※以下若干ネタばれ有りますので注意第二部では母を失ってからの娘の余生とも言える約十七年間を「セルフポートレイト」として描います。この第二部では特に印象に残るような展開や設定がほとんどないように感じます。作者は以前の桜庭作品にあったミステリ要素のストーリー展開や少女の魂の叫びなどを語るという作業をここではあまりしていません。ここでは作家になった娘の、物語を生みだす作家としての苦しみに焦点があたっているのです。そのせいで、第一部に比べて主人公の心情の語りが非常に多いと感じます。第一部に比べてこの第二部は圧倒的に言葉に力強さはあるのですが、文章に力が入り過ぎているような印象も受けてしまいました。なんとなく第一部の不条理さの多さといい作者がこの作品では客観性を失い気味のような気がしてしましました。主人公の境遇が作者の状況をなぞらえているようで、主人公が作者の分身のように見えてしまい感情移入しづらいのも気になりましたし。以上を踏まえると、なんとなく作者はこの作品を描くことによって慣れ親しんだフィールドから新たなフィールドへ幅を広げようとしているような気がしました。ですので、「ファミリーポートレイト」は作者のターニングポイント的な作品になるのではないでしょうか。今までの作品を点とすればこの作品は恐らく線。以前の桜庭作品と、今後進化するであろう桜庭作品をつなぐものがまさにこの作品のような気がします。次の新たな作品をつなぐ為のこの作品。作者が今後どう進化してゆくのか想像しながら読んでみてはいかがでしょうか。
2010.01.09
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