** 長島便り **
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本来なら今生きている事自体が奇跡な母。その母が、5月10日に日本からやってきました。放射線治療の副作用で頭はツルツル。脳の膨張を抑えるステロイド薬の副作用で目から下がブクブクに浮腫んでおり、すっかり別人です。今回の渡米は医者からなかなか良い返事をもらえずかなり無理矢理だったのですが万が一のためにと、主治医が英文の診断書を持たせてくれ、出発直前に航空券を手に入れ、車椅子に乗っての渡米。 既に歩行すら困難になっているというのに、こちらにくる数日前に孫達にお土産を買おうと張り切って外出してしまい、外出先でまたしても転倒。今回は幸い骨折はしなかったものの顔から落下してしまったらしく、顔面に傷とアザ。眼鏡が壊れて、足にも腕にも肩にも怪我。 そんな傷だらけ&浮腫んだ顔、ツルツル頭の「別人28号」な母は、はたして入国審査を通過できるのかと懸念されていましたが、無事、孫達の元へやってきました。口が達者になった双子が「ばーちゃん、ここ、わって(座って)」「ばーちゃん、本、おんで(読んで)」「ばーちゃん、おはん(ご飯)、どーじょ」としきりに甘え、お構いなしに突進し、よじ登ってゆくので体力も無く、足元のおぼつかないばーちゃんがコテッと死んでしまうのではないかと見ているワタシはヒヤヒヤです、が、ばーちゃん、かろうじてまだ生きています。母が来てもうすぐ2週間が経ちようやくワタシも母の今の状況を受け入れられてきましたが、初めの4-5日程は、軽~くショック状態でした。 ワタシが日本に帰省していた4ヶ月前は「日中も横になっている事が多い」程度で骨折のギプスが取れた後は、孫達のオムツ替えや、着替えなど「ちょっとお願い」と頼める状態だったのですが今はそうそう気軽に頼める容態ではありません。食事もバナナや豆腐などの柔らかく喉越しの良いものしか食べらず、よくこの状態で飛行機乗ってアメリカまで来たものです。よほど、主治医の先生にわがままを言ったに違い無い。 こんな状態なので、人生最後のアメリカだからどこどこへ行こう!何々を食べよう!などと外へ連れ出す事も出来ず。かといって家に一人にしておくことも出来ず。今、ワタシに出来る最後の最大の母孝行は?と考えて思いついたのが「ワタシが幼かった頃の思い出話でも一緒に」だったのですが。。 なんと、母は記憶が無い!脳に癌が転移(5センチ大の腫瘍が確認できるだけでも5つ)して以来軽い認知症状が始まっており、本人曰く「アタマがちょっと可愛くなっている」そうです。 子供のオムツを外すトレーニングをいつ頃どんな方法で始めたかや、ワタシの指しゃぶりをピタッと止めさせた技など、ワタシの双子に応用するため聞き出そうとしても母の記憶は驚くほどあやふやになっており以前は「2歳でオムツが取れたけど、あの時代では遅い方だった」とか「歯科検診で歯並びの悪い写真見せたら指しゃぶりが終わった」など話してくれていたのが、今聞くと「全く覚えていない」やら「指しゃぶりしてたのはアナタの妹じゃなかったっけ?」やらで話になりません。 そして「活字中毒」「本の虫」の異名を持っていた母が活字も本も読めなくなっていました。「3行目を読む頃には1行目をもう忘れている」そう。文字を追っているだけで内容が頭に入ってこない状態だそうです。この状況は、実はワタシも留学生時代に経験しており教科書の1章20ページ程を読むのに、文字を追っているだけで内容が入らずものすごく苦しい思いをしたことがあります。ワタシの場合は英語の読解力が無かったのですが母の場合は母国語が頭に入らず苦しんでいます。以前の母は、急ぎの用で外出直前でも、食卓の上にチラシを一枚でも見つけるとその活字を読まずにはいられない、と言ういわゆる中毒症状があったのですが今は「混乱するので何も読まないようにしているし、読みたいとも思わない」そう。 そして、会話が成り立たない。「食欲はあるの?」の問いに「イエス」か「ノー」で答えれば良いものを、「家(日本の)に居ても、昼間は一人だけん朝起きてお茶一杯飲んで、横になってお昼もお茶漬けとか食べるけど、またずっと横になってるから結局アタシはもう寝たきりも同然たいね」という回答になります。頭の中にある情報を文章にしきれなくて結局質問の答えにもならず、といった所でしょうか。 又、語彙が著しく幼稚化しています。言いたい単語がなかなか出てこなかったりおかしな言い回しになってしまうようです。 以下、ワタシの笑いをとった「ばーちゃん語録」です。皆さんも、どうぞ一緒に笑って下さい。 「GW中は、アメリカの椅子、無いんじゃない?」アメリカの椅子とは。。。?真意→「GW中、アメリカ行きの飛行機の座席は空いて無い」 車をバックさせるワタシに「あ、左から女のお婆さんが来てるよ」真意→不明。。。男のお婆さんってのも居るのかも) 「動物売り場の前に。。。車を停めた所」動物売り場。。。??真意→「ペットショップの前の駐車場」 「ご主人が、旦那さんだから英語が上手いね」ご主人が旦那さんって。。。ご主人が奥さんな家庭もあるのでしょうか。。。?真意→「ご主人がアメリカ人だから(子供も)英語が上手」 などなど。アタマのちょっと可愛くなった61歳の母、最後のアメリカ訪問を満喫して欲しいものです。
2008/05/22