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2004年09月09日
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 出発を目前に控え、資料を前にしながら、他の用事も済ませなければならなくて、一向に準備が進まない。 アー、早く始めればよかった、といつもの後悔。 年の割に、この点がちっとも賢くなっていないのは、どうしてだろう? 

 今日は、急に懐かしく思い出した、二人のアメリカの母達について、書こうと思う。 二人とも、1960年代後半、私のアメリカ時代の母替わりになってくれた人達で、一人は黒髪、黒目の彫りの深い美人で、大きな深い声で話し笑う、正直で感情的なL夫人。 もう一人は、金髪碧眼の華奢で品のいいE夫人。 知的でデリケートな人だった。 二人は対照的だったが、ともに愛情の深い女性だった。

 二人は夫と仲がよく、それぞれに個性的な、温かい家庭を築いていた。 私が二人から学んだものは、違ったものへの、理解や受容、温かいまなざし、そして、何よりも感動したのは、相手への尊重と信頼である。 私の疑問や悩みに対し、意見やアドヴァイスはしてくれるが、決して押し付けない。 
 「あなたがいいように、やってごらんなさい!」 
今でも思い出すが、私がどうしようか、決めかねていると、
 「Try it!」と言ってくれるのが、常だった。

 もっともアメリカ全体が前向き志向の国だから、諦めることより、やってみることを選ぶ風潮が強いのも確かだ。 
 「こうじゃなきゃ、いけない。」どうして?
 「前例がない。 誰もやっていない。」じゃ、あなたがやってみれば?

結局、自分で考えるしかないのだ。

 最初は戸惑った。 何しろ、こっちは自分の考えを持ったら、睨まれるような国、「我慢が美徳」の貧しい敗戦国で育ったんだから。 それに引き換え、アメリカは戦勝国だし、世界で一番豊かで強い自由な国。 しかも、恵まれた階層の人達だ。 私も青春期特有の生意気さと経験不足から、最初は反発したこともあった。 国が違うもの、ねえ・・・と、思っていたのだが、途中から考えを改めた。

 L夫人は幼い時に、南ドイツから移住して来て、母親を亡くした。 E夫人は、中西部の古い大家族の農家出身で、女に学問は必要ない、という親の反対を振り切って、奨学金で大学を卒業した。 二人とも苦労人なのに、全くそんな素振りさえ見せなかった。 

 ある時、L夫人の夫である、L氏に聞いたことがある。 L氏はユーモアたっぷりで、古きよき時代の典型的なアメリカの父親だった。 
 「なぜ、そんなに人に理解があるの?」
 「マミーがそうさせたのさ。 彼女は強いからね。」いつになく、シンミリしていた。

 E夫人の夫は研究者肌の静かな人で、時折ポソッと面白いことを言う。 E夫人より3才年下で、一人っ子育ちのせいか、コミュニケーションが今イチ苦手なのだが、そこはE夫人が上手にカバーしていた。

 私が彼女達の偉さを理解できたのは、もっとずっと後になってからで、私自身が家庭を持ってからの話だ。 子供達への愛、夫への愛だけでなく、私なんか到底足元にも及ばないくらい、人間的な強さを持った人達だった。 それは戦勝国だから、豊かだから、と言って、片付けてしまう問題ではないのだ。 

 私が自分の家庭を持った時、どこかで、彼女達の生き方を、お手本にして思い出していたような気がする。 思ったようには、いかなかったが、それでも後悔はしていない。 私には、それが精一杯だったから。

 もう二人とも、亡くなってしまったが、今の私を見て、言ってくれるだろうか? L夫人の深い声で。 E夫人の、くぐもった優しい声で。
 「That' it!  Don't worry.」    










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最終更新日  2004年09月09日 14時16分16秒
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