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2025.09.24
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カテゴリ: 文学
夜間飛行 サン=テグジュベリ 山崎庸一郎訳
「夜間飛行/サン=テグジュペリ」を読む - 雑踏 - LISTEN
p.14
こんなふうに、パタゴニア、チリ、パラグアイからやってきた三機の郵便機は、南と西と北の三方向からブエノスアイレスめざして戻りつつあった。ブエノスアイレスでは、夜半、ヨーロッパ便を出発させようと、彼らの積み荷を待っていた。・・・

全路線網の責任者であるリヴィエールは、ブエノスアイレスの滑走路のうえを縦横に歩き回っていた。彼は黙りこくっていた。三機の郵便機が到着するまでその一日は危惧に満ちたものでありつづけるからだ。一分ごとに、電報が手元にとどくにつれて、リヴィエールは、なにものかを運命から奪回し、未知の部分を減少させ、搭乗員たちを闇のそと、岸辺まで引きあげつつあることを意識するのだった。
ひとりの整備工がリヴィエールに近づいて、無線局からの報告を伝えた。
ーチリ線の郵便機が、ブエノスアイレスの灯が見えると言ってきました。
ーそうか。
ほどなくリヴィエールは爆音を聞くだろう。潮の満ち干と神秘にも満ちた海が、ながいあいだいきつ戻りつさせていた宝物をついに浜辺に引き渡すように、夜はすでにその一機を引き渡そうとしているのだ。やがて他の二機も夜の手から受け取るはずだ。
・・・・

ーいやあ!色恋なんて、支配人さん・・・
ーわたしとおなじだ。その暇がなかったわけだ。
ーええ、あまり
リヴィエールは、その答えがにがいものであるかどうかを知ろうとして、声の響きに聞き耳を立てた。それはにがいものではなかった。この男は、過ぎ去った人生を前にして、みごとに板を削り終え、「よし、これでいい」とつぶやく指物師の静かな満足感を味わっている。
「よし」、とリヴィエールは思った。「わたしの人生もこれでいい」
彼は疲労からうまれたいっさいの悲しい想いを押し戻し、格納庫のほうに向かった。チリ線の郵便機の爆音が聞こえた。





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最終更新日  2025.09.24 09:50:04


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