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2025.09.25
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カテゴリ: 文学
夜間飛行 サン=テグジュベリ 山崎庸一郎訳


遠いそのエンジンの響きは、しだいに濃密なものになってきた。・・・
ー見えた!
機はすでに、サーチライトの光芒のなかを飛んでいた。・・・
いよいよ格納庫のまえで停止し、整備員や職工たちが郵便物をおろそうと寄り集まってきたのに、操縦士のペルランは動こうとはしなかった。
ーどうしたんです?なんでおりないんです?
・・・
彼はゆっくりとうなずきながら、まえかがみになって、なにかを操作していた。

彼はまず、彼らに悪態をついてやろうと思った。だが彼は好人物だった。
ー・・・おごってもらうぜ!
そして機からおりた。
彼は途中の話をしたかった。
ーいやはや、まったく!・・・・
たぶんそれだけいえば十分だと思ったのだろう。彼は革の飛行服を脱ぎに立ち去った。

陰気な監督と黙りこくっているリヴィエールといっしょに、車でブエノスアイレスの市内に向かう途中、彼は憂鬱な気分になった。
・・・
サイクロンのなかでの格闘、すくなくとも、それだけは現実だ。
・・・・
彼はアンデス山脈を平穏に越えつつあった。

奥行200キロにわたって、人間ひとり、生命の息吹や営みのひとつなかった。ただ、高度6000メートルでやっと越えられる切り立った尾根、まっすぐに垂れ下がる岩石のマント、怖ろしいばかりの静寂があるだけだった。
トウプンガトの山頂付近にさしかかったときだった・・・・
ツプンガト・ピーク[25826005935]の写真素材・イラスト素材|アマナイメージズ
彼の周囲の山々が、最初の乱気流とともに揺らぎはじめたのはその時だった。
強烈な行動はほとんどその痕跡を残さない。彼はもはや、自分を押し流した猛烈な乱気流の思い出をとどめていなかった。おぼえているのは、狂ったように灰色の焔のなかでもがきまわったことだけだった。
彼はつくづく思った。





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最終更新日  2025.09.25 05:50:04


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