私も40年以上建設業界で働いているが、建設会社や建設コンサルタント会社の 1 カ月当たりの残業時間はすさまじく、過酷な労働環境が若手技術者の将来を奪う例は少なくないという。建設現場の労働時間は全国平均で健康障害に直結する「過労死ライン」に近い水準にあって、建設業に従事する労働者が精神障害を発症し労災が認定された件数は 16 年度に過去最多を記録しているというのだ。 36 協定で定める時間外労働時間は、原則月 45 時間以内かつ年 360 時間以内とする上限規制がある。しかし、現状は建設業と運輸業は適用外となっている。業務の特性上で一定の長時間労働が避けられないと考えられてきたからだが、その中で新国立競技場の建設作業員が過労自殺した問題が起こったというのだ。
この問題は新国立競技場の建設現場の23歳の男性作業員が、過重労働が原因で自殺したとして遺族が労災を申請したものなのだが、別の作業員の男性はTVの取材に新国立競技場の設計変更の影響で工期に余裕がなく特に負担がかかっていると証言している。新国立競技場の元建設作業員の話では「どの業者の職員たちも『まれに見るひどい現場だ』と話すが、2~3時間前に決まっていたことが変わっている。元請けから突然予定にはない場所に『あそこ急いでやってもらわないと本当に困るから、ちょっと移動してすぐにやってくれ』と言われた。現場監督は前の日に作ったこと段取りが2時間後に話が変わって、また新しく作り直して。まぁ嫌になりますね」と現場で予定変更が相次ぎ作業員に負担がかかっているというのだ。
自殺した作業員は前の月の時間外労働が200時間を超えていて労働基準監督署が調査を始めているそうなのだが、男性が所属していた建設会社は管理体制に不備があったことを認めているそうで、男性が自殺する直前 1 カ月の時間外労働は 200 時間を超えていたが建設会社側は把握していなかったという。自殺したその男性は昨年度に大学を卒業し地盤改良工事などを得意とする建設会社に入社しており、新人社員研修の後におよそ 10 件の現場で経験を積み昨年の 12 月から東京五輪などに向けて建設中の新国立競技場の現場に配属となったそうなのだ。男性が担当していたのは新国立競技場の敷地内における深層混合処理工法による地盤改良工事で、大手JVの一次下請け会社として施工を担っていたという。
自殺した作業員の遺族の代理人である 川人博弁護士によると、自殺が発覚した当初会社は男性の時間外労働が 80 時間以内だったと説明していたが、遺族側が再調査を要求したところ男性が使用していたパソコンの記録などから男性の時間外労働は、今年 1 月に 116 時間となり 2 月に 193 時間まで達していたと訂正されたというのだ。この建設会社の労使間で定めた「サブロク協定」によると、 1 カ月当たりで認められた時間外労働は原則が 45 時間で特別な場合でも 80 時間だったという。自殺した男性の業務内容は現場の写真撮影や品質・安全管理のほか事務所での作業日誌作成や管理記録の記入などで、会社側の説明では「新入社員が担当できる業務の範囲内だった」としている。
新国立競技場の工事はデザインや建設費をめぐる混乱などで着工が遅れ2年後の 11 月竣工を目指して厳しい工程管理が求められているという。男性の会社は「地盤改良工事自体の工期は今年の 6 月末だったが 10 日遅れの 7 月 10 日に完工した」としている。男性が所属していた建設会社は新国立競技場の現場を計 5 人で担当しており、自殺した男性を含め中堅の社員を筆頭とするチームだったという。会社側は自殺した男性の残業時間が急増した今年 2 月に現場に導入する重機の台数が増え工事が繁忙期を迎えていたと説明しているが、自殺した作業員の遺族の代理人である川人弁護士は、建設業が時間外労働の上限規制が適用外となっている状況を「極めて危険」と指摘している。
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