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2007.08.28
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(Jean-Louis Flandrin et Massimo Montanari dir., Histoire de l'alimentation, Fayard, 1996)
~藤原書店、2006年~

 性の歴史に関する研究を進め、後に食の歴史の研究も進めたフランドランと、食の歴史の研究で有名なモンタナーリの監修のもと、総勢43名の研究者が執筆した大著『食の歴史』の邦訳第三巻です( 第一巻の紹介記事 第二巻の紹介記事 )。こちらが最終巻になります。
 本書は、第二巻にはじまる第6部(近代)の続きと、現代を扱っています。
 目次は以下の通り。

ーーー
第6部 西欧キリスト教世界から諸国家のヨーロッパへ―15世紀-18世紀(承前)

 第35章 料理を印刷する―15世紀から19世紀にかけてのフランスの料理書(フィリップ・ハイマン/メアリー・ハイマン)
 第36章 食品の選択と料理技法―16-18世紀(ジャン=ルイ・フランドラン)
 第37章 栄養学からガストロノミーへ、あるいはグルマンディーズの解放(ジャン=ルイ・フランドラン)
 第38章 近世の美術における食のイメージ(アルベルト・ヴェーガ)

第7部 現代―19世紀-20世紀
 19世紀と20世紀(ジャン=ルイ・フランドラン)
 第39章 食品消費の変化(ハンス=ユルゲン・トイテベルク/ジャン=ルイ・フランドラン)
 第40章 海外産農作物の侵入(イヴ・ペオー)
 第41章 レストランの誕生と発展(ジャン=ロベール・ピット)
 第42章 食産業と新しい保存技術(ジョルジョ・ペドロッコ)
 第43章 保存食品の味(アルベルト・カパッティ)
 第44章 食と健康(パオロ・ソルチネッリ)

 第46章 地方料理の台頭―イタリア(ピエロ・メルディーニ)
 第47章 あふれる豊かさの危険―アメリカ史における食・健康・道徳(ハーヴィ・リーヴェンスタイン)
 第48章 生活習慣の「マクドナルド化」(クロード・フィシュレル)
 結論―現在と未来(ジャン=ルイ・フランドラン/マッシモ・モンタナーリ)

訳者あとがきに代えて(宮原信)

索引
原タイトル一覧
執筆者紹介
ーーー

 興味深かった章について、所感をつらつらと書いていきます。

 まず、第34章。植民地原産の飲料(チョコレート=ココア、コーヒー、茶)がヨーロッパで流行した時期は、砂糖がブームになっていた時期と一致すると指摘されています。
 35章は、料理書についてちょっと発表(?)する機会があり、レジュメを作りながら読みました。料理書の内容はもちろんのこと、料理書の体裁、使用されている文字(ゴシック体かローマン体)とその大きさ、図版にも言及されていて、興味深かったです。
 なお、もともと料理と栄養学の間には密接な関係があり、栄養学の書物の中でも、レシピに言及していて、料理書に分類される書物もあります。が、次第に良い味など、人の嗜好を満たすための料理が求められるようになり、料理書の性格も変わっていきます。このことは、37章でも論じられます。

 第7部では、いよいよ現在の食が扱われます。
 第41章では、レストランの発展が論じられるのですが、その中で、ゆったりしたトイレを設置することも大事だったという部分があって、当然といえば当然なのですが、なるほどと思いながら読みました。
 第44章「食と健康」では、最初の方に、「人びとが雑草を口いっぱいに詰め込み、歯を泥に突っ込んで死んでいるのを路傍に見るのが珍しくはなかったほどの飢饉とはなにかを、現在、想像する」のは困難である、ということを書いてあります。まったくその通りですが、他方、飢えに苦しんでいる人々は現在も多くいて、他方、豊かな食料が保証されている国々では、それによる問題も起こっている。残飯など、多量の食物も放棄されていることを思うと、なんだかなぁと思います。
 48章を、特に面白く読みました。フランス人ジャーナリストが、ニューヨークのレストランについて書いている記事が引用されているのですが、これまた考えさせられる描写でした。「…大衆食堂では何十人もの人間が列になり[…]まるで牛小屋にいるように一列になって、それでも新鮮でうまそうな食べ物を、われわれのよりも安い値段でむさぼり食っている」。家庭でゆっくり食事する時間は減少し、外食産業が発展、しかもわずかな時間で料理が供されるようになっています。私もマクドナルドは好きですが、『食の歴史』を読み、先史時代から現在までの食生活の概観にふれた今では特に、現在の食生活は「豊か」なのかと、疑問を感じてしまう部分もあります。もちろん、一日3食、満足に食べられることは幸せだとは思うのですが、考えさせられる部分もあります。

 内容紹介とは違いますが、ちょっと面白かった表現があったので紹介します。第40章より。「多くの人びと、とくに子供たちは、むくのが面倒だったり、汁が指を汚し、服に染みをつける危険があるからと、果物を食べるのをあきらめているが、バナナはこれらの不都合をすべて回避する」。 …実は私も面倒なので果物はあまり食べないのですが、バナナも嫌いなのでした…。

『食の歴史』全体の印象と指摘を。
 邦訳第2巻の記事でも書きましたが、もともと一冊の本を3分冊にしているせいか、邦訳第2巻、第3巻は、1ページからはじまるわけではありません。第3巻の最初の章の最初のページは、838というページ番号がふられています。個人的にはあまりなじめません…。
 そして、索引は、第3巻の巻末にしかありません。第1巻のある言葉がどこにあったかと調べるのに、第3巻を開かないといけないわけですね。藤原書店から出ている『女の歴史』もその形式なのですが、作業するときにはどうしても不便だと感じます。
 章ごと(というか、著者ごと)に、註のつけかたもまちまちで、参考文献のみを掲げる章もあれば、註もなければ参考文献さえもないという章もあります。ある程度統一されていると良かったかと思うのですが、数カ国の研究者が寄稿しているということもあってか、難しい部分なのかもしれません。

 と、構成の上で多少残念な部分もありますが、それでも良い文献だと思います。特に、原著(?)は、仏語版、イタリア語版とあるのですが、章ごとに、両者のうちで、より分かりやすい方が日本語訳されているということで、日本語版は親切ですね。
 邦訳全三巻、合計1200ページ強(註なども含む)。読み応えがありました。





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Last updated  2009.02.21 09:10:09
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