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2007.09.29
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ピーター・バーク(大津真作訳)『フランス歴史学革命―アナール学派1929-89年―』
The French Historical Revolution. The Annales School 1929-89 , Polity Press, 1990)
~岩波書店、1992年~

 20世紀の歴史学の中で重要な役割を果たしたアナール学派に関する、簡潔・明瞭なガイダンスにして、 1990年時点でのアナール学派の成果を評価する一冊です。本文200頁強ほどのお手軽なサイズなので、もちろん、アナール学派の研究を網羅的に整理しているわけではありませんが、主要なところは外さず、第三世代の「知的細分化」以降は、論点をしぼって、明快な議論を展開しています。

『アナール』(Annales)は、1929年、リュシアン・フェーヴルとマルク・ブロックの協力によって生まれた雑誌です。人文諸科学の協力、政治史偏重の歴史よりも、いわゆる心性史や社会経済史に重点を置くことが特徴です。 …政治史について、見直しもされてきているわけですが。

 本書の構成は以下の通り。

ーーー
謝辞


第一章 歴史学の旧制度とその批判者
第二章 創始者―リュシアン・フェーヴルとマルク・ブロック
 1.初期
 2.ストラスブール
 3.『アナール』の創刊
 4.『アナール』の制度化
第三章 ブローデルの時代
 1.『地中海』
 2.後期のブローデル
 3.数量史の勃興
第四章 第三世代

 2.時系列史の「第三水準」
 3.反動―歴史学、政治、物語
第五章 世界的視野での『アナール』
 1.『アナール』の受容
 2.決算


訳者あとがき
参考文献
人名索引
ーーー

 ここでは、以前ゼミのために作成した、アナール学派の運動の歴史を簡単に示した上で、本書で指摘されているいくつかの興味深かった点にふれたいと思います。

(1)アナール学派概略

1.雑誌名の変遷
『社会経済史年報』(Annales d'Histoire Economique et Sociale)…1929-1938年
『社会史年報』(Annales d'histoire Sociale)…1939年~
『社会史論叢』(Melanges d'Histoire Sociale)…1942-1944年
『社会史年報』(Annales d'histoire Sociale)…1945年
『年報-経済、社会、文明』(Annales. Economies, Societe, Civilisations)…1946年~
『年報-歴史、社会科学』(Annales. Histoire, Sciences Sociales)…1994年~
(*もちろん、バークの書が出版された時点では、まだ『年報―経済、社会、文明』という誌名でした)

2.中心的研究院
1947年、高等研究実習学院第六部門(経済学・社会科学部門)の設立(フェーヴルの尽力)
↓ (1956年~ブローデル、1972年~ル・ゴフが主催)
1975年、社会科学高等研究院(Ecole des Hautes Etudes en Sciences Sociales)となる
           (ブローデルのイニシアティブ、ル・ゴフが院長に)

3.アナール学派、各世代の整理
○第一世代…地理学、社会学、文化史への関心(伝統的政治史への反発)
 →『アナール』創刊(1929)
 ・リュシアン・フェーヴル…1946年より『アナール』主催者
  主著『ラブレーの宗教―16世紀における不信仰の問題』
 ・マルク・ブロック
  主著『王の奇跡』『封建社会』
 *『アナール』に重大な影響を与えた三つの雑誌
  ・ヴィダル・ド・ラ・ブラーシュ『地理学年報』
  ・エミール・デュルケム『社会学年報』
  ・アンリ・ベール『歴史総合雑誌』

○第二世代…数量史勃興の時期;フェルナン・ブローデルの時代
 ・フェルナン・ブローデル…1957年より『アナール』編集長(~1967)
  主著『地中海』『日常性の構造』など
  →長期持続、中期持続、短期持続(構造、景況、事件)を区分、長期持続を重視
  →全体史(histoire totale)の重視
 ・エルネスト・ラブルース…数量的手法を洗練

○第三世代…人類学的歴史学の重要性、知的細分化
 ・ジャック・ル・ゴフ
  主著『煉獄の誕生』
 ・ジョルジュ・デュビー
  主著『三身分』
 ・エマニュエル・ル・ロワ・ラデュリ
  主著『モンタイユー』『ラングドックの農民』
 ・(フィリップ・アリエス)…日曜歴史家
  主著『<子供>の誕生』『死を前にした人間』

(2)バーク『フランス歴史学革命』所感

 上の目次からもうかがえるように、フェルナン・ブローデルの成果を非常に強調しているように感じました。ブローデル自身は、第一世代の二人が強調したような、いわゆる「心性」の歴史について踏み込んだ研究をしておらず、それは第二世代の特徴であるように思います。第二世代で数量的手法、統計などの研究が洗練されていき、この手法はまず価格史、経済史の研究に適用されます。それがやがて、出生率や莫大な遺言書の統計などの研究に応用され、第三世代での心性史研究を特徴付けるように思います。
 さて、私はブローデル『地中海』邦訳五巻本のうち、『地中海I 環境の役割』のみ読んだことがあります。これは、山、島など、歴史の中でほとんど変化しない要素(標題に見られる「環境」であり、長期持続の歴史でもあります)を論じた巻なのですが、ゆるやかに変化する「長期持続」の歴史を標榜し、またそれを重要視する割には、あまり変化について語っていないのではないかという印象を受けたのですが、バークもそのことを指摘していて(75頁)、安心しました(笑)

 第三世代は、「知的細分化」の時期と位置づけられます。非常に多様な研究が行われているのですが、そのために本書第四章が「細分化」しないよう、的をしぼって議論が展開されます。私自身は、第三世代に位置づけられる歴史家の研究を多く読んできているので、多少物足りない感じもありますが、本書が限られた紙面の中でアナール学派の概観を示すことを考えると、やむをえないですね。
 本書を読んでいていまさらのように気付いたのですが、女性研究者がアナール学派に参加するようになったのは、第三世代のことなのですね。

 アナール学派の流れについては、あらためて自分なりに整理したいと思っているのですが、なかなか…。理想的には、制度面、方法論の流れを簡単に示し、具体的な人物の業績と評価については、一人一人について整理していければよいのですけれど…。

 なお、私は本書の1992年版を持っていますが、2005年に、岩波モダンクラシックスのシリーズとして、あらためて出版されているようです。その画像とアフィリエイトリンクはこちら。


ーーー

 アナール学派については、以下の文献が参考になります(手元にある文献のみですが)。

・竹岡敬温『「アナール」学派と社会史-「新しい歴史」へ向かって』同文館、1990年
・二宮宏之『マルク・ブロックを読む』岩波書店、2005年(→記事は こちら )
・A・Я・グレーヴィチ「フランスにおける「新しい歴史学」―その成果と問題点(一中世史家の批判的覚え書き)」同『歴史学の革新―「アナール」学派との対話』平凡社、1990年、99-135頁
・L・フェーブル/G・デュビィ/A・コルバン(小倉孝誠編・大久保康明他訳)『感性の歴史』藤原書店、1997年(→記事は こちら )
・イザベル・フランドロワ編(小河直哉訳)『「アナール」とは何か-進化しつづける「アナール」の百年』藤原書店、2003年(→記事は こちら )
・ジャック・ルゴフほか(二宮宏之編訳)『歴史・文化・表象―アナール派と歴史人類学―』岩波書店、1999年(→記事は こちら )





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Last updated  2008.10.10 18:35:56
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