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2009.01.25
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~山川出版社、2000年~

 本書は、4人のフランスの中世史家が、編者の渡辺節夫先生の依頼を受けて記した書き下ろし原稿の集成です。本書は、現在のフランスでの歴史研究(特に中世史研究)の現状を描いていますが、編者あとがきにもあるように、重点は歴史研究と社会との関わりに置かれています。よくある歴史学の方法論に関する本ではなかなか分からない、研究者の養成過程や地域の歴史愛好家との関わり、大学の在り方など、といった部分が本書では描かれていて、興味深い一冊となっています。執筆陣の専門が中世史なので、中世史の研究についての記述が多いですが、それはあくまでひとつの事例であり、本書の意図は中世史の研究状況を描くことには置かれていません。
 渡辺先生は青山学院大学教授で、中世フランスの政治史(政治権力関係など)を専門にしておられます。先生の著書は、私の手元には、

渡辺節夫『フランス中世政治権力構造の研究』東京大学出版会、1992年

 があります。大部の本で、通読できていませんが…。
 それはともあれ、本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
はしがき

 1 歴史研究の革新と史料
 2 史料の保存・公開と歴史研究
 3 アーキヴィストの養成と文書行政
 4 研究者養成をめぐる諸問題
 5 地域史研究の現状と課題
 6 国際交流の発展と歴史学
II章 社会と経済の歴史(ロベール・フォシエ)
 1 歴史叙述と社会・経済史
 2 中世社会史の対象と史料
 3 社会・経済史教育の現状と課題
III章 法の歴史と歴史学(アルベール・リゴディエール)

 2 法史家と法の歴史
 3 法の歴史と歴史学
IV章 政治と宗教の歴史(ミシェル・パリス)
 1 国家と宗教の一体性
 2 宗教の自立化と宗教史の成立

V章 地域と地方の歴史(ミシェル・パリス)
 1 地域史研究の現状と展望
 2 地域史研究と大学の役割
VI章 歴史史料の語るもの(オリヴィエ・ギヨジョナン)
 1 記述史料の諸類型と歴史研究
 2 記述史料に対する新たな視点
 3 歴史史料の相互補完性
 4 国立古文書学校の機能と役割
VII章 歴史研究と国際交流(ミシェル・パリス/オリヴィエ・ギヨジョナン)
 1 ドイツ・東欧との交流の現状
 2 大学レベルの国際交流
 3 ローマのフランス学校
あとがき

引用文献目録
索引
ーーー

 I章が、本書全体の概観となっています。本章は、後の章でフランスの事情が語られることもあり、日本での歴史研究の(特に制度的な)現状について語っているのが興味深いです。たとえば、大学院生の急増が、「モラトリアム学生」との関わりで論じられることがありますが、しかしこれは学部教育の矛盾にまず問題があるのではないか、という指摘などがあります。
 個人的には、1節で述べられている、19世紀からこんにちまでの歴史研究の特徴の概観と、それに関連する史料の扱い方の部分が興味深かったです。

 II章は、この章の3節が、大学教育での制度的な面について扱っているのですが、中世のいわゆる「社会史」は私の研究関心でもあるので、私は1・2節を興味深く読みました。

 III章はあまりぱっとしない、というか、なんとなく分かりにくかったです。どうも文学部系の人による歴史研究(それが法を扱っていても)と法学部の人による歴史研究を切り離して論じていて、これが私にはわかりにくかったです。第3節も、「法の歴史と歴史学」という標題になっていたり…。とにかく、法学部での歴史教育(研究)の特異性を強調しているなぁと思いながら読みました。

 IV章は、II章と同じく私が関心を持っている領域なので興味深かったですし、構成も面白いです。中世を三つの段階に分け、それぞれの時代に応じた宗教と国家の関わりを論じつつ、それを研究するための史料や方法について述べています。内容が面白いのももちろんですが、この構成が印象に残りました。

 V章は、記事の冒頭でも少しふれました、地域の歴史愛好家やその歴史研究などについて論じています。日本に置き換えると、これは日本で自分の住む地域の歴史に関心をもつ人々と、研究者の交流、あるいは、地域の歴史を日本全体の歴史研究に位置づける、ということになりますが、私はどうも日本史は苦手なので(漢字がずらっと並んだ史料よりも、ラテン語の方が―辞書を引きまくってもうまく訳せないことの方が多いですが―安心します)、実感がわきませんでした。ただ、関連して、I章で紹介されている、「香川歴史学会」による『香川県史』編纂の話は興味深く読みました。自分自身はまず読まないにしても(岡山県の歴史なら、鬼ノ城に関する部分あたりなら読んでみたいですが)、少なくとも地域の歴史がていねいに研究され、残されていくというのは重要だと思います。

 VI章は分量もなかなかあり、内容も充実しています。章の標題どおり、史料の類型や、史料に対する研究方法(アプローチ)などについて論じられています。ここには詳しくは書きませんが、自分では整理しておきたいです。
 なお、この章の冒頭では、図像研究に関してジャン=クロード・シュミットが重要な役割を果たしていることはもちろんですが、このブログでもしばしば紹介している ミシェル・パストゥロー の成果も強調されていて、興味深かったです。

 VII章では、よく目にしながら詳しく知らなかったローマのフランス学校(Ecole Francaise de Rome)について割合詳しく書いてくれていて、勉強になりました。アナール学派関連の研究機関についてちょっと整理しはじめてみたので、その記事をアップする際にはこの学校のことにもふれるつもりです(その研究整理の記事をいつアップできるかは全く未定ですが…)。

***
 5~6年前に本書を買ったものの、なかなか読めていなかったので、今回通読できて良かったです。広く歴史学に興味を持っている方を対象としているのは確かですが、それでもやはり西洋中世史に興味がある人の方がとっつきやすいとは思います。特に、VI章の史料論は勉強になります。
 良い読書体験でした。

(2009/01/23読了)





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Last updated  2009.01.25 10:17:23
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