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2009.08.05
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~集英社文庫、2000年~

 多くの著作も発表されておられる、週刊こどもニュースでお父さん役をつとめておられた池上彰さんが、同番組の裏話や、番組で取り上げたニュースを分かりやすく解説してくれている1冊です。
 私は今でこそテレビを持っていませんし、基本NHKは好きではありませんが、しかしこの週刊こどもニュースはとても楽しく観ていたものです。そして本書を読んであらためて、その番組のすごさを認識しました。

 たとえば、表紙をかざるブタのスクープくん。スクープくんは、イスラームに関係するニュースでは、登場しないのだそうです。もちろん、それはイスラームがブタを不浄の動物としているから。そんなところまで考え抜かれているのかと、驚きの連続の読書体験でした。

 子供にたいしてもとても配慮されているのですが、特に印象に残ったひとつのエピソードを書いておきます。それは、1997年に行政改革の「中間報告」での、省庁の数を減らすという発表についての説明です。これは、全体の機構を「スリム」にするという考えで行われましたが、番組では「スリムにさせる」という言い方は避けたそうです。スリムなこと、ほっそりしたことが良いことだという概念を押しつけたくなかったから、というのです。こういったエピソードを読むたびに、とても勉強になるのを感じました。

 さて、具体的なニュースについての感想はこの記事では省略します(どの解説もとても分かりやすく面白く、何度も目からウロコでした)。

 本書を読んでとくに感じたのは、本書が大人の在り方を問うているということです。

 まず第一に、子供には、子供が分かってくれるように話をすること。

 関連するところで、興味深い一節がありますので、文字色を反転して引用しておきます(普段から感じていることではありますが、本書ではとても説得力が強いように思います)。
また、「むずかしく言うことは簡単だが、わかりやすく言うことはむずかしい」と言われます。むずかしいことを、そのままむずかしく表現するのは簡単なことです。それで、なんだか高尚なことを言っているような気になります。しかし、実際は誰にでもすぐにわかる表現で伝えることこそ、もっともむずかしいことなのです

 第二に、11章のタイトルにもなっていますが、子供に自分で考えさせること。
 池上さんは本書で、自分で考えることのできない子供が増えてきていることを嘆いていらっしゃいますが、その解決方法として提案しておられるのが、親子の対話、そして親が子供に自分で考えさせることです。たとえば、政治家の汚職のニュースがある。そのとき、「こいつは悪い人間だ」「政治家はこんな人間ばかりだ」なんて言葉で終わらせないで、なんでそんな問題が起こるのか、そしてどうすれば防げるのか、子供と一緒に話をしてみよう、というのですね。きっと、ここでどうすれば防げるかを話したところで、すぐにすぐそうした問題がなくなるわけではないでしょう。けれどもそこで交わす会話は、きっと子供にとっても、そして親にとっても、大切な時間になるのだろうなぁと想像します。
 もうひとつ、11章で強調されているのは、子供の質問から逃げないこと。「いま忙しい」といって子供の質問を封じるのではなく、とことん子供の質問につきあうこと。すべて、親が答えられるわけではないでしょう。そしてそんなときは、一緒に考える(調べる)こと。
 子供の好奇心をそぐことのない大人になりたいものです(仕事で疲れたりしていたら、なかなかこういった自分の理想がかなえられず、反省することもしばしばになるような不安もありますが…)。

 第三に、一般論で済ませないこと。
 本書で衝撃的だったのは、「差別はいけない」と先生から何度も聞かされていた、けれど「差別」とはなんなのかを知らなかった、という子供の言葉です。「差別」の問題の本質にふれることなく、「差別はいけない」という表面的な一般論だけを語っていてもダメなんだという、印象的な事例でした。
 この項目にあげていいかどうか、本書を読んでいて興味深かった部分で、元宮城県知事の浅野さんが、カラ出張のことを子供に説明する1節があります。最初は「公金支出の不適切な処理」と説明していたのですが、それでは子供は分かりません。ついに知事は、「要するに、ウソついちゃったんだよ」と答えた、というものです。
 ごにょごにょごまかすのではなくて、「ウソをついた」という本質を語ること。そのことで、浅野さん自身も、悪いことをしていたことがはっきりした、と感じたそうです。


 …と、本書はとても勉強になり、考えさせられ、また感動させられた1冊でした。
 これからも大切にしたい1冊となりました。

 最後に、本書の構成をかかげておきます(どんな分野のニュースが語られているかなどなど、参考までに)。

ーーー
はじめに


第2章 銀行はなぜおかしくなったのか
第3章 茶の間に入ってくる「ワルイ人」たち
第4章 おとなだって知らない政治の基本
第5章 「天気」に強いこどもになる方法
第6章 「環境」について、こどもと考えよう
第7章 世界を舞台に踊る不況の伝え方
第8章 「戦争と平和」をどう伝えるか
第9章 世界にはいろんな考え方がある
第10章 ニュースの本質をつかむために
第11章 こどもに自分で考えさせる
第12章 おとなのあり方が問われる

おわりに
番組放送年表

解説 天野祐吉
ーーー

(2009/08/01読了)





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Last updated  2009.08.05 07:23:44
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