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2009.09.14
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ジャック・ル・ゴフ(前田耕作監訳/川崎万里訳)『子どもたちに語るヨーロッパ史』
~ちくま学芸文庫、2009年~
(Jacques Le Goff, L'Europe explique aux jeunes , Editions du Seuil, 1996 et 2007)
(Jacques Le Goff, Le moyen age axplique aux enfants , Editions du Seuil, 2006)


 ジャック・ル・ゴフの最新の邦訳書です。子ども向けに書いたヨーロッパ史入門書『子どもたちに語るヨーロッパ』と同じく子ども向けの中世史入門書『子どもたちに語る中世』の2冊が、邦訳では1冊で楽しめます。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
監訳者まえがき

子どもたちに語るヨーロッパ
(小見出しは煩雑になるので省略します)

子どもたちに語る中世

 第一章 中世
 第二章 騎士、貴婦人、聖母

 第四章 中世の人びと
 第五章 権力者たち
 第六章 宗教とひとつのヨーロッパ
 第七章 中世の宗教的想像界
 第八章 文化
 まとめ ヨーロッパの誕生

略年表

訳者あとがき
ーーー

 ヨーロッパの中学生、あるいは小学生高学年以上を読者層と想定しているようで(もちろん、大人でも楽しめます)、難しい言葉も使わず、分かりやすく簡単な文章でつづられています。

 内容について詳しく書くことはしませんが、「子どもたちに語るヨーロッパ」については小見出しを省略したこともあり、簡単に概要を書いておきます。

 その後は、ギリシア、ローマ、中世、ルネサンス……と、時代を追ってヨーロッパの歴史を見ていきます。
 そして21世紀、ヨーロッパはEUとして統合されようとしています。2005年にフランスとオランダが欧州憲法条約の批准に反対したことにもふれて、ル・ゴフなりのヨーロッパ観が描かれていて、興味深かったです。

 さて、全体的な印象ですが、ヨーロッパ人が過去に犯した過ちを決して忘れてはならない、という強いメッセージが目をひきます。ナチスの独裁政権、その時代に行われたユダヤ人やロマの虐殺、植民地の展開、「新大陸」の征服など、過去の過ちを見つめ、そしてそれらを忘れず、未来を考えていこう、と主張されています。ル・ゴフは十字軍さえも汚点と考えています。十字軍について習うときは、たいていそのプラスの面も指摘されますが、ル・ゴフはそのマイナス面を強調しているのです。
 このメッセージについて、特に印象的だった部分を引用しておきます。

歴史の知識はヨーロッパの人びとにも、ヨーロッパの建設のためにも、非常に重要なものです。いかに未来を準備すべきかを知るためには、過去を知り、ヨーロッパのよき伝統を発展させ、ヨーロッパの人びとのおかした過ちと罪をくり返さないようにしなければなりません。また、愛国主義的な神話をでっちあげて歴史を操作することも避けねばなりません。歴史は担うべき重荷でも、暴力を正当化する危険な助言者でもありません。歴史は時代に真理をもたらし、進歩に役立つものであるべきなのです

 この部分の、ヨーロッパという言葉を日本という言葉に置き換えれば、そのまま日本にも通用する言葉ですよね。日本が抱える歴史的問題については、どうしても感情的な議論になってしまいがちだと思います。曲がりなりにも歴史を勉強している身としては、うかつなことは言えませんが、徹底的に資料(史料)を吟味し、それに基づいた発言(価値判断)をしていくことが最低条件だと思います(ですから感情論だけでなにかを主張するのはとても危険だと考えます)。そしてその発言(価値判断)は、資料(史料)に基づいたものだからこそ、その発言のもととなった資料(史料)の再解釈、あるいはその他の資料(史料)による補強によって、批判されることを前提としているともいえます(もちろん最初の発言を支持する解釈が、別の史料から導かれることもあるでしょう)。
 ル・ゴフのおっしゃるとおり、感情的・イデオロギー的な歴史の操作はあまりにも危険です。20世紀までの数々の反省を踏まえた(踏まえるべき)21世紀に、まさかそのような歴史の操作が行われるとは思いたくありませんが、結局は歴史を知り、そして自分で考えていくことが必要なのですね(当たり前の結論になってしまいましたが…)。

 あまり深入りしたくないテーマについて書いてしまいましたが、あらためて本書について興味深かった点をもうひとつ挙げておきます。それは、日本では「ゲルマン人の大移動」と習うあの事件についての、フランス人とドイツ人の評価の違いです。 ゲルマン人はドイツ人の祖先ですので、ドイツ人はその事件を「民族大移動」といいます。一方、ゲルマン人に侵入された側のガリア人が、フランス人の祖先です(ここでは、ものすごく単純な図式で言っていますけれど)。そのため、フランス人は、その事件を「大侵入」と呼ぶ、というのですね。
 ああ、そういえばそうか、と、普段気にしていませんでしたが、新鮮な発見でした。

 なお、「子どもたちに語る中世」は、子どもからの質問にル・ゴフが答えていく体裁で、楽しく読めました。

 一日で一気に読んでしまいましたが、楽しく興味深い読書体験でした。

(2009/09/12読了)





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Last updated  2009.09.14 06:47:35
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