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2012.07.08
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~中公新書、1978年~


 今回は、阿部謹也先生の、比較的初期の著作のひとつ、『刑吏の社会史』を紹介します。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
はじめに

第一章 中世社会の光と影
 1 「影」の世界の真実
 2 賤視された刑吏
 3 皮剥ぎの差別と特権
 4 神聖な儀式から賤民の仕事へ

 1 供儀・呪術としての処刑
 2 処刑の諸相
第三章 都市の成立
 1 平和観念の変化
 2 ブラウンシュヴァイクの刑吏
 3 医師としての刑吏
 4 ツンフトから排除された賤民
 5 キリスト教による供儀の否定
第四章 中・近世都市の処刑と刑吏
 1 糾問手続きと拷問の発展
 2 刑吏の宴席と処刑のオルギー


むすび
あとがき
参考文献
ーーー

 本書では、賤民とみなされていた刑吏の歴史が、法の概念やゲルマン的伝統、刑罰の種類や庶民生活など、多様な側面から描かれます。


 この議論をふまえた、私にとって本書のなかで最も興味深く、また重要だと思われる議論をメモしておきます。
 古代と現代の思考の決定的な違いは何か?この問いかけに、阿部先生は次のように答えます。
 つまり現代では、犯罪を犯し、刑罰により罪を償った人間は、国家との関係でみれば清算を済ませたことになりますが、犯罪者のリストには名をのこし、他の人々との関係についても、重荷を負ったままとなります。これは、社会が、行為ではなく、犯人を重視することの結果だといいます。
 他方、古代(ゲルマン的な部族法)では、行為が重視されます。ある行為に対して、明確な基準で贖罪などが必要とされ、その贖罪(一定額の支払いなど)により、秩序が再建されると考えられた、というのですね(40-41頁)。
 このあたりの記述が、もっとも面白かったです。

 第二章2「処刑の諸相」では、多様な処刑が、その手続きや状景の詳細な描写とともに紹介されます。もっと若い頃は、興味本位で楽しく読めたと思うのですが、いまはもう、この手の描写は辛いばかりですね…。
 とまれ、阿部先生の議論でいえば、近代的な意味での「刑罰」の始まりは11-12世紀の、西欧都市の勃興の時代からで、それ以前には「刑罰」はなかった、ということになります。そのためこの節で紹介されるのは、「刑罰なき時代」の処刑ということになるのですが、ここでの具体例としては11-12世紀以後の事例もあげられており、ちょっと分かりにくかったです。もちろん、明確に、何世紀以降はすべて「刑罰」に変わったという方が無茶だとは思いますが、ある程度は時系列的にその性格の変化が示されていれば、もう少し分かりやすいのかな、とも思います。
(単に私の理解不足だけかもしれませんが…)

 特に激しく軽蔑され、一方でその医師としての性格を敬われてもいた刑吏たち。彼らが置かれていた社会的・歴史的状況を丹念に描いた本書の、第四章の最後の段落で語られるエピソードには、どこか感動させられるものがありました。

 いわゆる「社会史」の分野の貴重な業績だけであるだけでなく、過去の人間たちのあり方、ひいては現代の私たちのあり方も考えさせる一冊だと思います。





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Last updated  2012.07.08 19:25:45
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