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2012.07.16
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 キリスト教の歴史のなかで、ユーモアがいかに用いられてきたか、を論じた、興味深い一冊です。
 著者の宮田光雄先生は、政治学、ヨーロッパ思想史がご専門で、東北大学名誉教授です。
 私は、本書の他に、『きみたちと現代―生きる意味をもとめて―』(岩波ジュニア文庫、1980年)を所有しています。
 さて、本書の構成は次のとおりです。

ーーー
I 笑いとユーモア
 1 笑いの信仰問答書
 2 武器としての笑い=ジョーク
 3 解放としての笑い=ユーモア

 1 タルシシュへの船旅
 2 ニネベの都門の傍で
 3 大魚の腹の中の出来事―文化人類学的考察
 4 大魚の腹の中の出来事―精神分析学的考察
III イエスのユーモア
 1 イエスは笑ったか
 2 福音=喜びのおとずれ
 3 ユーモア=解放の言葉
 4 誇張法と逆説法
IV キリスト教史の中の笑い
 1 使徒パウロのユーモア

 3 宗教改革者ルターの笑い
 4 宗教改革以後の笑い
V 神の愉快なパルティザン
 1 カール・バルトのユーモア
 2 教会闘争の中の笑い

あとがき
ーーー

 数年ぶりの再読。興味深く読みました。
 著者は第1章で、笑いを三つの類型に分けます。
1)人を楽しませる笑い=滑稽、コミック
2)人を刺す笑い=破壊的なジョーク、ウィット
3)人を救う笑い=ユーモア=「解放としての笑い」
 実際にはこれらは、人が何かを見聞きして笑う状態の類型ではなくて、笑いを引き起こす言説の類型といえるでしょう。
 本書では特に、ユーモアに焦点をあてています。

 第2章は、上に掲げた構成のとおり、旧約聖書からヨナの物語、新約聖書からイエスをクローズアップし、第4章でキリスト教史を笑いという観点から短く描いた後、第5章ではカール・バルトの笑いを取り上げます。

 個人的な関心は、第4章第2節「古代・中世教会の笑い」にあるのですが、中世について論じた部分は短く、むしろその他の章で、一人の人物についてじっくり論じている部分の方が興味深かったです。

 そして本書を読んで強く思ったのは、ユーモアをもつ人々の強さです。
 哲学者の土屋賢二先生は、『幸・不幸の分かれ道』(本ブログに記事未掲載)などの著作で、ユーモアのもつ、自身の生き方を軽くする力について論じていると思います。自分自身のことも相対的にみて、笑って、気を楽に持とうよ、と。

 他方、本書では、ユーモアをもつ人々自身の強さ(本書のテーマからいえば、信仰の強さともいえるでしょうか)を感じたのでした。
 たとえば、140-141頁で紹介されているラウレンティウスという人は、キリスト教の信仰を捨て、偶像崇拝をするよう強要されるのですが、それを拒絶します。そして死刑に処されるわけですが、焼き網に乗せられた彼は、「わたしの身体を引っくり返すがよい。片側は十分に焼けている」と言い、ひっくり返された後には、「料理はできあがった。食べるが良い」といって、殉教の死を遂げたといいます。
 また、カール・バルトは、ナチスに対する教会闘争の場であった告白教会をつくったのは誰だったかと問われた際、それはアドルフ・ヒトラーだと答えたそうです。

 最後に、イエスのユーモアの中から、自分自身の反省を促されるような、印象に残ったものをメモしておきます。
 それは、ヨハネによる福音書に出てくる、姦淫を犯した女性に対する石投げのエピソードです(8章1-11節)。
 イエスに敵対するパリサイ派の人々が、姦淫を犯した罪でとらえられた女性をイエスのもとに連れてきて、モーセの律法では、石で殺してしまうようにあるが、どう考えるか、と問います。なお、当時、そのような民衆裁判をローマは禁じていました。殺して良いと答えればローマに背き、殺すなと答えれば、モーセの律法に背くようになるわけですね。
 これに対して、イエスは答えます。「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」
 罪を犯したことのない者などいないので、誰も女に石を投げられなかったのでした。
 ユーモアという観点からこのエピソードが語られるのも面白いですし、また、ユーモアでもって、女性も救い、また民衆に自身の罪を反省させるということで、エピソード自体もとても興味深かったです。

 面白い1冊です。





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Last updated  2012.07.16 16:32:02
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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