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2013.03.02
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~刀水書房、1995年~


 この年(1995年)に還暦を迎えられた、中世イギリス史研究で有名な城戸毅先生に献呈された論文集です。編者の樺山先生を含む、17人の研究者が参加しています。
 本書の構成は次のとおりです([ ]内の章の通し番号はのぽねこ補足)。

ーーー
西洋中世像の革新―序にかえて(樺山紘一)

I 王権と貴族
 [1]フランス中世中期における貴族制と親族関係―シャンパーニュ地域の事例について(渡辺節夫)
 [2]ノルマン・シチリア王国のアミーラトゥス―ノルマン行政の頂点にたつアラブ官職(高山博)
 [3]ソールズベリのジョンの暴君論(甚野尚志)
 [4]ジェラード・オヴ・ウェイルズのウェイルズ、そしてアイルランド(有光秀行)

 [6]十四世紀ハンガリーの国王収入についての一考察―鉱山と貨幣(鈴木広和)
II 教会と修道院
 [7]十三世紀エクセンプラにおける告解の問題(藤田なち子)
 [8]鉄をつくる修道士たち―中世フランスの修道院における製鉄経営(堀越宏一)
 [9]一五四一年のレーゲンスブルク帝国議会における宗教討論について(島田勇)
 [10]十六世紀半ばのヨシフ=ヴォロコラムスキー修道院領における雇用労働力について(細川滋)
III 都市と社会
 [11]ドイツ中世都市における街並みの形成と建築条令(相澤隆)
 [12]中世都市ヘントの兄弟団と貧民救済―聖ヤコブ兄弟団の活動を中心に(河原温)
 [13]十三~十四世紀シエナの社会的結合関係(池上俊一)
 [14]中世後期イングランドの都市と宗教儀礼―ノリッジの聖ジョージ・ギルドの祝祭(市川実穂)

 [16]十五世紀のプランプトン家と結婚―イングランド北部における一ジェントリ家系の視点から(新井由紀夫)

あとがき
ーーー

 私にとって印象的だった論文について、いくつかメモをしておきます。

 第一部からは、第3章。本稿は、12世紀、ソールズベリのジョンが君主鑑として記した『ポリクラティクス』という著作にみられる暴君への態度の詳細な分析となっています。かたや、ジョンは暴君殺害を肯定するような文章を書きつつ、かたや、君主殺害には否定的だったとも指摘されています。この矛盾した態度に、『ポリクラティクス』やその他のジョンの著作を丹念に読み解いた上で説明を与え、また、その意義を論じています。



 第三部は、私の問題関心から、全体的に興味深く読みました。中でも第11、12、14章についてメモしておきます。

 最近、ドイツの都市景観について勉強したこともあり、第11章は特に興味深く読みました。中世中期までは、街路に対する建物の位置に規則性などはなく、ばらばらした景観でしたが、中世後期頃から、平均化・集約化への変化を示します。それには、防災上の理由から石づくりの建物が増えたり、貴族層が市民階層に同化していったり、という背景があります。本稿で特に面白かったのは、建築条令の中で、隣人への日照権の配慮や、プライヴァシーの保護といった配慮などがすでに見られる、という指摘でした。そしてこうした建築条令の基礎は、こんにちまで見られるといいます。こんにちのドイツ人の都市景観への配慮は、すでに中世後期から長い時間をかけて醸成されているのかと、本稿を読んで感じました。

 第12章は、兄弟団について、その慈善活動を中心に論じています。特に、救済施設であった施療院について、巡礼者のための宿所・貧民受け入れ・老人のための施設がその3つの機能であったと簡潔にまとめられていたり、兄弟団の政治的意義が指摘されたりと、参考になる部分が多かったです。兄弟団についてはいろいろ文献を読んでいながら、いまいちイメージがわかないので…。

 第14章は、都市の中で重要な役割を果たした宗教儀式の意義について論じます。従来、宗教儀式は都市住民の結束を強める役割があったという説が通説でしたが、これに反論するマクリーという研究者の説を著者は取り上げ、史料を丹念に分析しながら、マクリー説の検証・批判を行っています。とりあげられる儀式について詳述することもさることながら、その時代背景としての都市の政治状況についても論じられており、興味深い論考でした。

 ここにメモしなかった論文も、私の研究関心とは直接関係はありませんが、研究の方法論や提示方法など、どれも参考になりました。
 一点、一部の固有名詞をアルファベット表記のみとしてカナ表記をしていない章があったり、同一人物であっても章によって表記方法が異なったりといった、本書全体の中にみられる不統一が少し気になりましたが、研究者ごとのこだわりもあると思うので、やむなしといったところでしょうか。しかしこれは些末な指摘です。
 全体として、興味深い論集でした。





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Last updated  2013.03.02 21:08:53
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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