のぽねこミステリ館

のぽねこミステリ館

PR

Profile

のぽねこ

のぽねこ

Calendar

2013.06.01
XML


(Massimo Montanari, La fame e l'abbondanza , Laterza, Rome-Bari, 1993)
~平凡社、1999年~


 先日紹介した、ヴェルナー・レーゼナー 『農民のヨーロッパ』 と同じく、「叢書ヨーロッパ」の中の1冊です。

 著者のマッシモ・モンタナーリは、1949年イタリア生まれで、中世イタリア農村史・食生活史を専門とされています。私の手元には、本書の他に、
・J-L・フランドラン/M・モンタナーリ編(宮原信・北代美和子監訳) 『食の歴史1』 藤原書店、2006年
・J-L・フランドラン/M・モンタナーリ編(宮原信・北代美和子監訳) 『食の歴史2』 藤原書店、2006年
・J-L・フランドラン/M・モンタナーリ編(宮原信・北代美和子監訳) 『食の歴史3』 藤原書店、2006年


 それでは、本書の構成を掲げた上で、メモをしておきます。

ーーー
緒言 ジャック・ルゴフ(二宮宏之訳)
日本語版によせて ジャック・ルゴフ(二宮宏之)

第一章 ヨーロッパ食文化の共通言語の基礎
第二章 転換期
第三章 各人に相応のものを
第四章 ヨーロッパと世界
第五章 飢餓の正規
第六章 革命

訳者あとがき

文献一覧
索引
ーーー

 第一章は、ギリシア・ローマ時代を中心に、ギリシア・ローマ人の食文化とケルト・ゲルマン的な食文化の対照性や、ヨーロッパの食文化に与えたキリスト教の影響などを論じます。ものすごく単純化すると、
・ギリシア・ローマ人…農耕重視・菜食重視、中庸重視

 という、文化的な対立があります。ゲルマン人の中で、「大食らい」が高く評価されたことについて、面白いエピソードがあります。西フランクでカロリング王家が断絶したとき、王位継承者の一人だったあるスポレート公グイードという人物が、招待された場に「フランクの慣習に従い多くの食物」が準備されたにもかかわらず、わずかな量で満足したために、王位継承の候補者からはずされてしまったとか。フランク人もゲルマンの一派ですが、フランク人の王たるもの、大食らいでなければならない、ということでしょうか。
 また、キリスト教が、パン、ぶどう酒、オリーヴ油に価値をおいたこと、キリスト教の拡大のなかで、もともとの食文化(ゲルマン人がビールやエールを飲んでいた)からの抵抗があったことなどが指摘されます。

 第二章は、初期中世から13世紀頃までの時代を扱います。人口増加によって、未耕地をつぶさざるをえない、という状況が生まれ、森の開墾が進みます。また、食が階層のステータスを示すものともなっていきます。以前は量が尊重されていましたが、質が重視されるようになり、肉食は権力者のステータスとなります。
 面白いのはこの時代、ヨーロッパで香辛料が使われるようになります。使いすぎといわれるほど香辛料が使われたのは、保存状態の悪い料理の味をごまかすため、肉類の保存のため…という、よくある説が否定されます。というのは、香辛料を使うような食事に手が届くのは富裕層だけですが、富裕層はそもそも、新鮮な肉を食べていたのですね。彼らが香辛料を使った理由として、それが食事療法になるという思いこみなどがあったと指摘されます。
 特に関心のある第二章までで長くなったので、第三章以下は、ざっくりメモをしておきます。

 第三章は、14世紀から16世紀頃までを扱います。歴史的な流れとしては、ペストの時期の飢餓、その後の好転ですね。内容面では、肉絶ちのあり方、身分と食の問題、貧者が夢見た飽食の世界というイマジネール(想像界)などが扱われます。

 第四章は、大航海時代から17世紀頃までの時代を扱います。新しい食べ物(トウモロコシ、ジャガイモなど)や飲み物(茶、コーヒーなど)がどのように受け入れられていったかが論じられます。面白いのは、ヨーロッパの中で、食事の多様性もあるということ。たとえば北方の人々は大酒飲み、大食らいだったとか。そして大酒飲みの理由として、もともと北方地域はビール、つまりアルコールが低い飲み物が主流だったことも挙げられていて、興味深かったです。

 第五章は、18世紀を主に扱います。18世紀の農業革命(従来の三圃制から、マメ栽培もあわせた四輪作制への転換など)、外来食物による食の多様化などが論じられます。特に興味深いのは、アメリカ原産の食物が、ヨーロッパの食を積極的に変えたとはいえない、という指摘です。つまり、飢饉などの危機があって、アメリカ原産の食物を拒否するという態度がかわり、最後にはそれを受け入れていく、というのですね。

 第六章は、19-20世紀を扱います。食の加工技術の進展や輸送革命などにより、世界各地の食べ物を口にすることができるようになりました(「食のシステムの脱局地化」―つまり身近でとれたものを食べる社会ではなくなっていくのですね)。一方で、その食品はどこで作られたのかが分からない、ということで、「わたしたちと食物の関係は逆説的に疎遠になった」と指摘されます。

 2000年以上にわたる人間と食の関係を、コンパクトにまとめた良書だと思います。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2013.06.01 12:54:24
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Keyword Search

▼キーワード検索

Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: