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2013.12.07
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(Jacques Le Goff, Heros & Merveilles du Moyen Age , Seuil, 2005)
~原書房、2007年~


 西洋中世史研究の大家、ジャック・ル・ゴフによるやや軽めの本の邦訳です。軽めといっても、参考文献は充実していますし、(数はごく少ないですが)注もついているので、さらに研究を深めるための入門としても十分な一冊です。

 本書では、アーサーやロビン・フッドといった実在の人物をもとに想像界でふくらまされた英雄や、女教皇ヨハンナなど想像界でうみだされた英雄のほか、驚異として、大聖堂や城塞、コカーニュの国(桃源郷)など、全部で20の項目が紹介されます。
 すべてを列挙するのは大変なので、印象的だったことを簡単にメモしておきます。

 個人的に、本書の中でもっとも重要だったのは序文です。すでに上の紹介で「想像界」という言葉を使いましたが、これは原語ではimaginaire[イマジネール]です。ル・ゴフの説明からいくつかの要素を抜き出すと、それは(1)ある社会、ある文明の夢のシステムであり、(2)象徴システムとも区別され、(3)さらにはイデオロギーとも区分されます。本書では、中世の想像界の歴史を、英雄と驚異という二つの切り口から、いくつかの例を挙げながら見ていく、という試みです。

 テーマのなかでは、驚異や動物についての話題が興味深かったです。

 たとえば、大聖堂。司教座にたてられる大聖堂ですが、この建設には、国王の許可が必要とされていたとか(38頁)。俗権と教権の対立については、中世史の大きなテーマのひとつですが、カテドラルについては、国王はその権利により、カテドラル建設に力を入れるようになったといいます。そしてそのため、カテドラルは国家と結びつき、都市の記念碑としての位置づけから、国家の記念碑へと変わっていくと指摘されます。
 2年ほど前にフランスに行った際に、パリのノートルダム大聖堂やシャルトル大聖堂などをみてきましたが、とにかく圧巻です。建設当時は彩色されていたといいますし、それはまさに「驚異」だったでしょう。

 動物では、ユニコーンや狐のルナールが項目として取り上げられています。ここでは、ユニコーンについてメモを。
 ユニコーンといえば、有名なタペストリー<貴婦人と一角獣>などでもおなじみ、女性(処女)のそばにおとなしくはべっているというイメージがありますが、処女がいないと非常にどう猛で、どんな狩人でもつかまえられない、という性格付けもされていたというのが興味深いです。


 英雄のなかでは、女教皇ヨハンナについての項目が面白かったです。もちろん、想像上の人物なのですが、こんなお話です。学問を志すヨハンナは、男装して学問にうちこみます。そして頭角を現し、評判になると、教皇庁に迎え入れられ、ついに教皇にまで上りつめます。しかし、ある教皇行列のさなか、公衆の面前で子供を産んで死んでしまう―というお話です。
 面白いのは、これはいわばカトリック側の醜聞ですから、ルター派がこの話をさかんにとりあげた、というのですね。歴史的事実であると信じたふりをして(想像と認めるよりもそうした方が、カトリック側を責める口実になります)。

 本書の原題を直訳すれば、『中世の英雄と驚異』です。個人的には、「絵解き」や「図説」があたまにつく書名はあまり好きではないこともあり、ちょっと邦訳タイトルが残念ではありますが、タイトルどおりカラー図版も豊富ですし、訳も読みやすいですし、満足でした。





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Last updated  2013.12.07 21:33:30
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