のぽねこミステリ館

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2016.04.09
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 著者の金沢百枝先生は東海大学教授。中世美術史の研究を進めていらっしゃいます。
 私が読んだことのある論文として、
・金沢百枝「天使の肉体―天使イメージの変遷と天使崇敬―」『西洋中世研究』4、2012年、50-77頁
 がありますが、単著を読んだのは今回がはじめてです。
 まず、本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに―ロマネスクへの旅
図解 ロマネスク聖堂の基礎知識

第一章 かわいい謎 異様な造形

第三章 語りだす柱頭
第四章 かたちの自由を求めて
第五章 海獣たちの変貌
第六章 聖堂をいかにデザインするか
第七章 ロマネスクの作り手たち
第八章 世俗化と大量生産の時代へ
終 章 ロマネスクの美


図版出典
主要参考文献
あとがき


 とにかく、語り口が楽しく、読みやすい一冊です。たとえば、第一章の標題にある「かわいい」ですが、本書のなかでは本当にかわいらしい造形が紹介されます。特に、「はじめに」の冒頭で紹介されるウサギとイヌ。イヌの表情のかわいらしさはたまりません。

 しかし、そんな叙述の裏には、莫大な研究の裏付けがあり、内容も知的好奇心を刺激してくれます。

 特に興味深く読んだのは、第二章です。19世紀に命名された「ロマネスク」の芸術は、しかし続く「ゴシック」芸術に比べて劣ったものとみなされていました。「ロマネスク」のが積極的に評価されるようになるのは、1930年代頃からということです。なぜそのように評価がかわっていったのか、その時代背景も踏まえた説明が興味深かったです。

 また、第三章から第四章に見られる、先行研究への批判は圧巻です。ロマネスク彫刻や美術に見られる人物や動物の像は、奇妙に歪んで表現されている場合があります。これを、美術史家のアンリ・フォシヨンは「枠組みの法則」で説明しました。彫刻が彫られる柱頭など自体のかたち=枠組みにあわせるため、人物たちが奇妙に歪んでいる、という説明です。これに対して、金沢先生は反証を挙げながら、そうした歪みはむしろ、枠組みを利用して、伝えたいことをより効果的に表現しようとする手法なのではないか、と主張します。非常に説得的で、先行研究を批判的に読むことの重要性をあらためて感じました。

 第七章では、彫刻などの作り手について論じられます。興味深いのは、ときに作者自身の名前が作品に刻まれることがあるなかで、古代では「某がこれを作った」と書かれていたのが、中世では「某が我をつくった」と、モノ自身に作者名を語らせる表現になった、ということ。このあたり、作者の意識や書名方法の変化について、より掘り下げた研究がないのか気になりました。最近は以前ほど心性史が喧伝されなくなったように思いますが、これはとても興味深い心性史のテーマになりえるのでは、と感じました。






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Last updated  2016.04.09 15:33:59
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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