西洋中世学会『西洋中世研究』3
~知泉書館、 2011
年~
西洋中世学会が毎年刊行する雑誌です。
3年ぶりにバックナンバーの紹介です(前回、第2号の紹介は 2022
年4月 30
日でした)。
第3号の構成は次の通りです。
―――
【特集】イメージを読む中世
<序文>
松田隆美「イメージを読む中世」
<論文>
宮内ふじ乃「ベアトゥス写本におけるテクストとイメージ生成―黙示録 8
章 1-5
節の挿絵をめぐって―」
福井千春「変身する戦うヤコブ像」
木俣元一「『ホルトゥス・デリキアールム』における「神殿の垂れ幕」再考―イメージの可視性/不可視性を読む―」
甲田芳樹「美徳の装い―ドイツ中世の教育文学におけるイメージとハビトゥス―」
横山安由美「書かれざるテクスト―アンジェの黙示録タピスリーにおける無文字の「吹き流し」について―」
松田隆美「テクストを見るディヴォーション― BL MS Additional 37049
におけるイメージの機能―」
【論文】
奈良澤由美「マルセイユの古代末期から初期中世の教会遺構―祭壇、聖遺物、祭祀空間について―」
黒岩三恵「聖トマス・アクィナスと修道女―ポワシー、サン=ルイ王立女子修道院長マリー・ド・クレルモンとトマス崇敬―」
辻内宣博「 14
世紀における時間と魂の関係―オッカムとビュリダン―」
【新刊紹介】
【彙報】
山本芳久「西洋中世学会第三回シンポジウム報告「ヨーロッパとイスラーム:文化の翻訳」」
山本成生「 2010
年度若手支援セミナー報告記」
朝治啓三「西洋中世学会と環太平洋中世学会の交流協定締結について」
―――
簡潔に特集の意義を述べる序文に続く宮内論文は、黙示録注解写本における「天の沈黙」という図像表現が困難と思われるテーマがいかに描かれてきたか、その主要な描き方の分類と影響関係などを論じる論考。
福井論文は、従来敬虔な姿として表現された聖ヤコブが「戦う像」に変身し、その後新大陸に至るまでどのような変遷をたどったかを描きます。
木俣論文は既に先行研究で分析されているある写本図像の再解釈により、より深い読みを提示します。
香田論文は文学の視点から美徳の描かれたかを論じます。ここでは、主人公の失墜から宗教的徳操へ至る過程を象徴する「衣服」の機能について論じられている部分が興味深く、発表年は後になりますが、同じく文学作品における衣服の機能を論じた森下勇矢「道化服の機能―『パルチヴァール』にみる愚の象徴―」 『西洋中世研究』 16
、 2024
年
を連想しながら読みました。
横山論文はマンガの吹き出しの先駆的存在である、写本の中の人物のセリフや説明を描く「吹き流し」について、特に無文字の「吹き流し」に注目し、その機能を分析する興味深い論考。
松田論文は様々な作品を収めたあるミセラニー写本の図像分析から、図像が果たす複数の機能を分類し論じます。
奈良澤論文は 2003
年の発掘調査で発見された教会遺構に関する報告。
黒岩論文はある写本に
描かれた女子修道院長の図像とトマス・アクィナスの図像の関係の分析を中心に、同修道院の位置づけやドミニコ図像の変遷を論じます。
辻内論文は「魂が存在しない場合に時間は存在するのかしないのか」という問題に対して、アヴェロエスの説を出発点として、人間の精神に全面的に依存するという立場により近いオッカムと、時間の存在は人間の精神に全く依存しないという立場により近いビュリダンというそれぞれの思想の相違を明らかにするとともに、この相違は時間に関する見解だけでなく、両者の哲学一般に通じることを指摘しており、哲学分野の論文はなかなか理解が追い付かないことが多
いですが、本稿は具体例も挙げながら明快な議論の流れで、大変興味深く読みました。
新刊紹介では 52
の研究書が紹介されます。興味深い著作が多いですが、中でも、河原温先生から、ミシェル・モラの著名な『中世の貧民』( 1978
年。邦訳なし)から 30
年を経て、新たな中世の「慈善」の歴史をまとめたと評される J.
W. Brodman, Charity and Religion in Medieval Europe
, 2009
が特に気になりました。モラの著作も入手したものの未読なので、勉強せねば…。
彙報は3本。第3回シンポジウム報告は図版も含めて、当該シンポジウムの概要が示されます。
2010
年度若手支援セミナーは「文書館で西洋中世研究」というテーマで開催されており、山本先生による概要紹介の後、2名の感想記が掲載されています。
末尾はアメリカ合衆国の環太平洋中世学会(MAP)との交流協定の概要と締結の報告です。
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