小杉泰『イスラームとは何か―その宗教・社会・文化―』
~講談社現代新書、 1994
年~
著者の小杉泰先生は 2024
本書の構成は次のとおりです。
―――
序 「イスラーム」の発見へ
第1章 新しい宗教の誕生
第2章 啓典と教義
第3章 共同体と社会生活
第4章 第二の啓典ハディース(預言者言行録)
第5章 知識の担い手たちと国家
第6章 神を求める二つの道
第7章 スンナ派とシーア派
第8章 黄金期のイスラーム世界
第9章 現代世界とイスラーム
あとがき
―――
20
年ぶりくらいの再読ですが、はじめて読んだときから、序に記載の、教えそのものを「イスラーム」というため、「イスラーム教」というと屋上屋を架す感が強く、「イスラーム」と「教」を付けずにいうのが一般的という指摘が印象的でした。
第1章はムハンマド誕生前夜のアラビアの状況、ムハンマドの生活と啓示、マッカ(メッカ)からマディーナ(メディナ)への聖遷(ヒジュラ)などが概観されます。ここでは、啓示を受けて恐怖に震えるムハンマドを励ました妻のハディージャがいとこのキリスト教徒に相談にのってもらったというエピソード (30
頁 )
が興味深かったです。
第2章はクルアーンの教えの概要など、イスラームの教義を概観します。本章では、当初はイスラームを嫌っていたウマル(後の第2代正統カリフ)が入信するエピソードが印象的でした( 52-53
頁)。また、クルアーンの教えを4つに大別して図示した 60
頁も便利です。
第3章は礼拝や、結婚などの社会生活についての概観した上で、ムハンマドの死から正統カリフ時代までを描きます。
第4章はムハンマドの言行を伝えるハディースについて。著者による脚色もあるとのことですが、膨大なハディースを記憶していたブハーリーに関する逸話( 120-121
頁)が興味深かったです。
第5章は、知識の担い手が社会で果たした役割について。いわゆる宗教学者であるウラマーと、共同体(ウンマ)の合意が物事を決定していく点について、コーヒーをめぐる事例が興味深かったです。ウラマーは、コーヒーを許されない飲料と考えましたが、共同体はそれにかまわずコーヒー文化を発達させ、ついに合法になった( 155
頁)という指摘(タバコも同様)は、合意のあり方を示す印象的なエピソードと思われます。また、「筆の人」であるウラマーは、「剣の人」である統治者などと、「職の人」である一般信徒のあいだで天秤のようにバランスをとる存在であるという指摘( 171
頁の図も分かりやすい)からは、「祈る人、戦う人、働く人」という中世ヨーロッパの3身分論を連想し、こちらも興味深く読みました。
第6章は神学と神秘主義について、第7章はイスラーム全体としては少数派(ではあるが一つの国家に着目した場合、その国では多数派である場合も)であるシーア派と、多数派のスンナ派について論じます。 239
頁にはスンナ派とシーア派の主要な特徴を対比的に示した図があり便利です。
第8章はやや通史的にイスラーム国家の発展を概観し、第9章は現代の現状と諸課題を論じます。とりわけ、中東問題に関する議論の中で、宗教問題と民族問題が複雑にからみあっているという指摘はあらためて認識しておきたいポイントです。
久々の再読でしたが、興味深い指摘も多く、また上で何度か言及したように適宜分かりやすく整理した図表も掲載されていて、勉強になる1冊です。
(2025.04.17 再読 )
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