有栖川有栖『捜査線上の夕映え』
~文春文庫、 2024
年~
犯罪社会学者・火村英生先生と作家・有栖川有栖さんが活躍するシリーズの長編作品です。
マンションの1室で、男の死体が発見されます。死体は、スーツケースに詰められていました。
マンションの防犯カメラの分析と、男の交友関係から、容疑者はかなり絞り込まれます。
恋人。三角関係にあった女。被害者から借金していた友人。謎のサングラスの男……。
しかし、関係者には、それぞれアリバイがありました。
犯人は、なぜスーツケースに死体を詰めたのか。なんらかのアリバイトリックがあるのか。謎の男の正体は……。
と、大掛かりな謎はなく、佐々木敦さんの解説の言葉をお借りすれば「一見地味とも言える」事件です。
ところが、どことなく据わりが悪く、早期解決も困難に思われていました。
そんな中、火村先生はあることに気付き、事件解決のために「旅」に出ます。
「コロナ」「旅」がキーワードといえるでしょう。
たしかに、スーツケースに死体が詰められた謎は不可思議ですが、密室とか、明らかに犯人と思われる人物に鉄壁のアリバイがあるとか、そういった「ハウダニット」の謎解きの要素は薄く、それよりもある人物をめぐる、抒情的な味わいのある物語です。
自分自身の年齢もあるかもしれませんが、がちがちの謎解きも好きですが、こういった味わいのある物語も好みになってきたこともあり、好みの物語でした。解説にもありますが、ある一文の衝撃たるや。
素敵な読書体験でした。
(2025.06.06 読了 )
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