西洋中世学会『西洋中世研究』5
~知泉書館、 2013
年~
西洋中世学会が毎年刊行する雑誌『西洋中世研究』のバックナンバーの紹介です。
第5号の構成は次の通りです。
―――
【特集】グローバル・コンテキストの中のポスト・ローマ期
<序文>
佐藤彰一「グローバル・コンテキストの中のポスト・ローマ期」
<論文>
宮坂朋「キリスト教考古学から古代末期考古学へ―ヴィア・ラティーナ・カタコンベへの新たな視点―」
浅野和生「成立過程に見る「中世美術」の形成」
佐藤彰一「キルデリクス1世とドナウ戦士文化―フランク族のエトノス生成をめぐって―」
大月康弘「後期ローマ帝国における財政規律と法の変容―ユスティニアヌス勅法が律する寄進行為の位相から―」
シュテファン・エスダース (
村田光司訳 )
「コンスタンス2世 (641-668
年 )
、サラセン人、西欧部族国家―地中海世界大戦期の政治と軍事、および経済と財政の連関に関する試論―」
【論文】
梶原洋一「中世末期におけるドミニコ会教育と大学―アヴィニョン「嘆きの聖母」学寮の事例から―」
井口篤「「心の扉を開ける」―中世後期イングランドの俗語神学―」
【新刊紹介】
【彙報】
金沢百枝「西洋中世学会第5回シンポジウム報告「中世のなかの『ローマ』」」
図師宣忠「 2012
年度若手交流セミナー【西洋中世学の伝え方―『薔薇の名前』の世界を語る】報告記」
佐藤直子「「上智大学中世思想研究所」の歩みと使命」
―――
今回の特集は、ポスト・ローマ期の世界をグローバルな文脈の中に位置づけて読み解きます。
佐藤先生の序文はグローバルヒストリーの潮流を概観した後、本特集の各論稿を紹介します。
宮坂論文は、古代末期考古学の成果を様々な観点から紹介した後、その文脈とからめて、題材とするヴィア・ラティーナ・カタコンベの分析を行います。例外的だった土葬が3世紀初めに逆転し土葬が主流になることを示す表が興味深いです。
浅野論文は、5世紀の象牙製ディプティック(筆記用具)と6~7世紀の円形競技場を礼拝堂に採用した場のモザイクを題材に、美術の観点から「中世」という時代意識が生まれたことを論じます。
佐藤論文は 1653
年に発見されたキルデリクス1世の墳墓を出発点として、フン族の影響など、東方世界とのつながりに目配りしながら、初期メロヴィング期の基本的なクロノロジーの確定と、その歴史的意義について論じます。
大月論文は、ユスティニアヌス勅法の分析から、特に寄進行為に着目し、財政規律の規制が「個人」に向かっていったことなどを明らかにします。
エスダース論文は、7世紀後半のコンスタンス2世の時期、彼による各地での戦いの意義や、敗者による勝者への貢納といった、経済・財政との関連を論じます。
梶原論文は、托鉢修道会(特にドミニコ会)と大学については対立関係が強調されがちですが、 15
世紀末に設置された学寮に着目し、両者の結びつきを浮き彫りにする論考。
井口論文は、 1409
年のアランデルによる俗語聖書の禁止がもたらした効果をやや相対化し、俗語神学に、それまでの伝統的神学からの連続性があることを明らかにします。
新刊紹介は、 43
冊の洋書と2冊の和書の紹介。とりわけ、山口雅広先生が紹介なさっている、枢要徳の歴史をたどる、
I. P. Bejczy, The Cardinal Virtues in the Middle Ages
が気になりました。
彙報は3本。 2013
年6月開催の西洋中世学会におけるシンポジウム「中世のなかの『ローマ』」の概要、 2012
年9月開催の若手セミナーの報告(こちらは、『薔薇の名前』を授業にいかに活用するかという事例報告で、興味深いです)、そして上智大学中世思想研究所の歩みと今後の使命を記した文章です。
特集は私が不勉強な時代を中心としていること、そして重厚な議論もままあり、十分に読み込めませんでしたが、今号では梶原先生の論考が自身の関心にも近く、とりわけ興味深く読みました。
(2025.06.08 再読 )
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