仙台・宮城・東北を考える おだずまジャーナル

2005.09.10
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カテゴリ: 国政・経済・法律
 住民訴訟というのは、おもしろい制度だ。初めて学んだのは、大学の行政法の講義だが、民衆訴訟の1つで、アメリカの納税者訴訟にならった制度、というくらいしか理解していなかった。注目され出して、また自分も関心を持ったのがここ10年くらいか。宮城県や仙台市は住民訴訟の1つのメッカにもなった。今だと東西線差止め訴訟とか。
 実は私もかつて仕事上いつくかの訴訟に関わったが、訴訟を通じて役所の仕事の合規性ということを大いに考える機会となった。どういうことかと言うと、何時訴訟にさらされても大丈夫なように手続面でも実体面でも法規に適うこと、その法規自体が正しく制定され、そのとおりに運用されていること(特に各種の規程や要綱はいい加減なものも多かった)、などである。そして、公開されても問題がない仕事かどうか、という点で情報公開の流れと実質的に表裏一体に関連している。現象面としても、原告側は情報公開で資料を得て、これを分析して住民監査請求や住民訴訟に進む、というパターンが確立した。
 特定の者が原告になるが、あくまで客観訴訟で、実質的には仙台市や宮城県なる地方公共団体の利益のために行うのだから、役所の側でも、原告への応戦という狭い範囲での事務処理と考えずに、住民全体の利益を考えて対応しなければならないと思う。

 ところで、この住民訴訟はなぜ地方自治体だけなのか。立法の趣旨が、住民の権利の観点と参政権の一種であり、実質的には納税者が税の使途について必要に応じ是正する権利、などと説明されるが、そうであれば、地方行政と国政と変わるところはないはず。なぜ国にはないのか。
 もっとも国に導入されれば「住民訴訟」とは別のネーミングになろうが。
 たしかに、法理論的には、個人の権利や利益の保護を目的とするものではなく法規の適正な運用と公共の利益の保護を目的とするから、憲法の保障する裁判を受ける権利に含まれるものでなく、立法政策によるものと理解されている(最高裁も同様)。しかし、「地方自治に立法上導入されているものが国にはない」現状の理論的「許容性」の説明にはなっても、国政の適正を望む国民の立場からすれば「効果のある制度を国政で採用しないこと」の納得できる説明にはならない。
 そして、無駄やあやしい会計処理は、質量ともに今や国の方が断然多いというのが一般的感覚ではないか。地方行政に携わる者としても、国の無駄で非効率な金の使い方に接していると、三位一体改革に便乗して地方交付税の無駄遣いにプロパガンダを張りながら、自ら国家予算編成と執行に根本的な解決を図らない国の姿勢は、歯がゆく映る。
 無駄で非効率な国の金の使い方を、いちいちあげつらうことが論旨ではないが、小さいレベルでは経済産業省でたびたび表面化する私的流用、大きいレベルでは外郭団体や業界の利益重視で無駄な金遣いを改めない。たまに会計検査院の検査結果や財務省の執行調査で「こんな無駄がありました」なんて出される。担当者は頑張っているのだろうけれど、そんなもんじゃないだろう、小悪を見せて根本を隠すという意識で各省と合意しているのか、とも言いたくなる。


 国にも住民訴訟類似の制度を導入すべきでないか。
 なぜか立法の動向として聞いたことがないし、地方自治関係の論壇でも話題にされたのを、あまり見たことがない。
 この点について学問的説明はどうか。
 大学時代にも行政法で名前は聞いたことのある、成田頼明氏が「会計検査研究」No.22(2000年9月号)の巻頭言「行政の制度・システムの改革と会計検査のあり方」の中で述べておられる。地方における住民訴訟など、公会計の適正処理(税金の使い道)についての国民の関心の高まりを踏まえ、国民の批判に耐えうる公正透明で民主的な会計検査・監査の制度や運用の改革が求められている、とした上で、改革の方向の1つとして、

「地方自治法で制度化されている住民監査請求・住民訴訟を国にも導入することは現段階では極めて困難であろうが、一部国民の間にはその導入を求める意見もみられるので、いずれその議論が巻き起こる可能性がある。」

と記述されている。
 なぜ、現段階で困難なのだろうか、と疑問も感じる。理論的な意味か。理論的な意味では、上記の通り、地方に導入されて国政にないという立法の現状を説明することはできても、導入困難とする積極的な理由は私はないと思う。あえて言えば、「憲法上の」機関として会計検査院が置かれていること、ぐらいか。
 しかし、いずれにしても問題はそんな理論的なことではないのだ。いかにして国の財務運営の合法性と適正を図るかが国民の大きな利益であり、現実に無駄遣いや恐らくは相当の違法処理もあると思われ、そして制度導入が国を良い方向に持って行くと思われるのに、なぜ進まないのだろうか。





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最終更新日  2005.09.11 01:27:14
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